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三人の令嬢

三人の令嬢〜断罪劇の裏側で〜モブ令嬢たちの暗躍

作者: 猫本屋

三人の令嬢〜賢姫?いいえただのモブです〜のモブ令嬢たち目線の話です。

そちらも読んでいただくと、よりわかりやすいと思いますので、よろしくお願いします。

とある屋敷の一室でお茶を飲む三人の令嬢。


「疲れましたわ〜」

「あのクソ王太子、情報のとおりだったね」

「クー、口調が令嬢じゃなくなっていてよ」

「三人しかいないんだからいいでしょ」

「私ちょっとお腹が空きましたわ〜」

「マー、こんな時間に食べたら体に悪いわよ」

「「はーい、ティーママ」」


先程夜会で王太子の断罪劇を逆に断罪してきた三人は、実は転生者である。

三人の出会いは子供の頃、冤罪で断罪されそうになっていた公爵令嬢のお友達選びのためのお茶会だった。

三人とも伯爵令嬢だったため同じ席に着いていたのだ。

その席で一番年上のパール伯爵令嬢が突然辺りを見回したと思うと


「平安が良かった…」


とボソリと呟いた。


その言葉を受けて、ジュゴン伯爵令嬢が


「ああ、知ってますわ。『時を超えて君を思う』でしたっけ〜。知っているのはタイトルだけだけど、かなり続いてましたよね〜」


ね?とオウル伯爵令嬢に同意を求める。


「え?」

「え、まさか二人も転生者ですの?」

「ですよね〜?オウル伯爵令嬢はテニスがどうとか仰ってましたもんね」

「ど、どうして」


うふふ、と微笑みながらテーブルのお菓子に手を付けるジュゴン伯爵令嬢。

そこへ公爵令嬢が近寄ってきたので、三人は瞬時に令嬢の皮を被った。


「ご機嫌よう」

「「「ご機嫌よう、カモミール公爵令嬢」」」

「随分と楽しそうですわね。私もよろしいかしら」

「もちろんですわ」

「お茶もお菓子もとても美味しくて、話が弾んでしまいましたわ」

「私カモミールティーの香りが大好きですの〜」

「ふふ、気に入っていただけて良かったですわ。良かったら帰りに少しお持ちになって」

「わぁ、宜しいんですの〜?カモミール領のカモミールティーは高品質って聞きましたわ〜」


ジュゴン伯爵令嬢はおっとりとしているが10歳かそこらの令嬢とは思えないほどしっかりしている。

ませているのかと思っていたが転生者ならなるほど、と二人は心の中で頷いた。

公爵令嬢は特に疑問に思わず、自領の特産品を褒められ気を良くしたようだった。


「そうなんですの?」

「頑張ったご褒美にいただけますの〜。だから私、苦手なダンスもいつも頑張れますの」


にこにこと話すジュゴン伯爵令嬢に、釣られて笑顔になる公爵令嬢。


「そうなんですのね。頑張っていて偉いですわね…私も実は刺繍が苦手なんですのよ」

「わかりますわ〜、私もたまに指をちょっと刺したりしますの〜」

「意匠を考えるのは楽しいのですけど…」

「そういえば以前カモミール公爵様が百合をあしらったハンカチを見せてくださいましたわ〜。『娘からもらった』と仰ってましたわ」

「まあ、お父様が?」

「宝物だと笑っていらっしゃいましたわ〜」


とても和やかに会話しているが、聞いている他の二人は気が気でない。

なぜならこの短時間で『公爵令嬢は刺繍が苦手』という情報を引き出し、さらには『公爵は娘からもらったハンカチを大切にしている』という情報まで知ってしまった。

公爵の話はおそらく聞かれれば誰にでも答えるだろうが、どうやらこの令嬢は直接公爵と話したことがあるような口ぶりだ。

10歳の伯爵令嬢が、どうやって公爵と話をしたのだろう。

そんな疑問を他所に他の二人に気がついた公爵令嬢が


「あらあら、ごめんなさい?お二人は普段は何をされていますの?」


と話を振ってきたので、それぞれ


「私は最近乗馬が好きで遠乗りをしています」

「私はそろそろ学園に入学なので予め授業内容を確認しておりますわ」


など当たり障りのない話をした。


後日、選ばれるのは確実だろうと思っていたジュゴン伯爵令嬢だけでなく、自分たちもお友達に選ばれたと知って驚くことになった。


ともあれ、その場で互いの立場を知った三人は何かと理由をつけて集まるようになった。

次第に互いの家に行き来するのが面倒になり、それぞれの親に一緒に住みたいと直談判し、了承されたのだった。

現代で言うルームシェアなのだがこの世界ではそのような概念はない。

真似をしようとする者もいたが、ぎくしゃくしたり仲違いして上手く行かない者が多く出たため、以降もルームシェアは流行らなかった。


―数年後―


「あのクソ王太子、今日もいちゃついてたよ」

「私も見ましたわ〜、いちゃいちゃベタベタ…うんざりですわ〜」

「これは…異世界転生物の定番かしらね?」


三人で転生前の事やこの世界の事は散々話し合ってきた。


前世はほぼ同じ時代に生きていた事。

それぞれ推しジャンルが違うが、ハマっていたアプリが同じだった事。

そしてなにより、SNSの相互だった事。


「え、○○ちゃんなの?」

「うっそ、○○さんと○○さん?」

「ええ〜?!」

「「「そんな事ってある???」」」


そこからさらにこの世界についての考察もした。


もしや乙女ゲームではないか。

王太子と公爵令嬢が婚約しているから、公爵令嬢が悪役令嬢ではないか。


だが三人の知識をすり合わせても、該当する乙女ゲームが思い当たらない。


「もし乙女ゲームだとしても私たちはモブだよね。私はモブその一ってとこかな」

「じゃあ私はモブその二〜」

「なら私はモブその三ね」


そう言って笑いあったが、まさか本当に悪役令嬢婚約破棄展開になろうとは。

しかも当事者ではないので、結局はモブ令嬢なのだった。


「あの自称男爵令嬢、何者なんだろうね?」

「あ〜…」

「マー、何か知ってるの?」

「何者かは知らないけど、精霊?を無理やり縛って隷属させてる〜」

「マジで?」

「すっごい疲れた顔してたから『うち来る?』って聞いたら泣きながら『うん』って言ってた〜」

「え、じゃあ今うちにいるの?」


あたりをキョロキョロ見回すが二人には精霊は見えない。


「あとすっごい臭い」

「香水?」

「それも臭いけどそうじゃなくて…生ゴミが腐ったような?」

「魂が腐ってんのかな」

「多分…クーの術が効くと思いますわ〜」


オウル伯爵令嬢は光の術式を組む事ができる稀有な存在である。

と言っても治癒魔法が使えるわけではない。

それでも王家に知られれば王太子の婚約者にされていたかもしれない。

教会に知られれば聖女として祀り上げられるかもしれない。

だからこの事を知るのは自分以外ではこの二人だけである。


「術使ったらバレない?」

「だったら、灰でも投げつけて誤魔化したら〜?」

「逆花咲かじいさん」


ツボに入ったらしく笑い出すパール伯爵令嬢。

普段は淑女然としているが、時折とぼけたことを言い出す天然な所が愛らしい。

そんな二人の生暖かい視線に気が付き、笑いを引っ込め咳払いをすると


「マー、情報は?」


露骨な話題逸らしだが乗ることにしたらしいジュゴン伯爵令嬢は、どこからか仕入れた情報を話し始める。


「断罪で婚約破棄しようとしてるっぽい〜。証拠集めしてる〜」

「証拠?」

「あの自称男爵令嬢を虐めたとかってやつ〜」

「テンプレじゃん!でも冤罪だよね?」


彼女たちは公爵令嬢の人となりを知っている。

そして王太子のことを何とも思ってないことも知っている。

だから嫉妬から自称男爵令嬢を虐めることなどあり得ない、そう信じている。


「もちろんですわ〜」

「具体的にどんな事件を上げてくると思います?」


そう聞かれ、いくつか自称男爵令嬢が虐めだと騒いだ事例を上げる。


「ふむ…その中だと『教科書を捨てられた件』と『制服が汚された件』と『階段突き落とし事件』を持ってきそうね」


どれも自称男爵令嬢が公爵令嬢を名指しで騒いだ件である。


「教科書が捨てられた日って、公爵令嬢いなかったと思うけど」

「その日は隣国の使節団が来国してたんだっけ〜」

「本来なら王太子が応対しないといけないのに…あのバカ王子が」

「「ティー??」」

「んん…ごめんあそばせ、つい本音が」


ほほ…と笑っているが目が笑ってなかった。

彼女は王太子と同級生だから、きっといろいろやらかされているのだろう。


「制服泥汚れは自分で転んでたよ〜」

「「え??」」

「前の日が雨でね〜、歩道がドロドロだったの〜」

「そうなの?」

「マー、歩きだったの?」

「うん。馬車が一台調子悪いって言うから、お兄様に譲ったの〜」

「言ってよー、一緒に学園行ったのに」

「だってクーもティーも朝早いんだもん」


そう言って笑いながら肩を竦める。


「マーは朝苦手だもんね」

「でも遅刻しなかったんでしょう?偉い偉い」


えへへ、と笑うジュゴン伯爵令嬢の頭を撫でる。


「階段突き落としはいつだったかしら…わりと最近よね?」

「それなんだけどね〜、なんとびっくり例のお茶会の日なの〜」

「ええ…確かにその騒ぎは後から知ったけど。間違いないの?」

「保健室の利用もその日だから間違いないですわ〜」

「「……馬鹿じゃん(ですわ)」」


例のお茶会とは、王妃の主導でこの国の貴族令嬢全員が招待されたお茶会という名の行儀作法の試験のことである。


「あれ?でも呼ばれてないってことはやっぱりこの国の貴族じゃないんじゃ…」

「確かエポック男爵とかって言ってましたわね…調べてみましょうか」

「あ、急いだ方が良いかも〜。断罪の可能性があるのは早くて今度の夜会の日らしいですわ〜」

「「明後日じゃない!」」


次の日、自国の貴族名鑑と隣国の貴族名鑑、そして新聞などを調べて自称男爵令嬢の正体を探り当てた三人は、万全の体制で夜会に臨んだのだった。


―夜会後―


「もっと偽証するかと思って色々考えてたのに全然使わなかった…」

「まあまあ、また次に使えば良いですわ〜」

「そうそうあっても困りますわ」


お疲れ様と反省会と称して三人でお茶を飲む。

その後は三人で同じベッドに横になるのだ。

それぞれちゃんと自室もあるが、こうやって三人で一緒にいられる時間は長くない。

そう思うと、離れ難い。

大きなベッドに、真ん中にパール伯爵令嬢を挟んで横になるジュゴン伯爵令嬢とオウル伯爵令嬢。


「ティー、今日もお話聞かせて?」

「あらあら、マーってばいつまでも子供なのね」

「良いじゃない、私も聞きたい」

「クーまで…わかったわ、じゃあ今日は自警団の剣士の話ね…」


二人に自分の創作話を聞かせていると、いつの間にか寝息が聞こえてくる。

そのあどけない寝顔にくすりと笑いながら、部屋の明かりを落として自分もまた眠りにつくのだった。




クー(クロウ)オウル伯爵令嬢…モブその一。この世界では稀有な光の属性持ち。頭の回転が早い。常に頭の中で何パターンも策を考えている。…今回は相手がお馬鹿だったため、最初の策以外使わなかった事が少し不満。


マー(マーニャ)ジュゴン伯爵令嬢…モブその二。ぽや〜っとした喋りで相手の懐に入り込んで情報を引き出すのが上手い。(本人は普通にお喋りしているだけのつもり)その気になれば隷属している使い魔も奪える。(本人はお友達になってるつもり)


ティー(ファティナ)パール伯爵令嬢…モブその三。情報分析が得意。他の二人が集めてきた情報を精査して真実を見つけ出す。三人の中では一番歳上なのでよく姉ムーヴをするが、たまに(冗談で)ママと呼ばれるほど懐が深い。

前作の登場人物


王太子…わかりやすくおバカさん。学園長の忖度で生徒会に入れられたため、仕事を同級生たちに割り振っていた。事件後休学させられたが、おそらく戻ってこないだろう。


腰巾着…王太子の側近候補たち。騎士団長の三男ランドラゴンと宰相の次男カイ。本編では名前すら出てこないままそれぞれの父親に処分された。


元少女…隣国の王子(先代の王兄)を惑わせて婚約破棄させたが失敗。王妃になれなかったので、十数年潜伏の後この国で同じことをしようとした。正体は魔女。


公爵令嬢…隣国の使節団に対応した際、同行していた王弟に見初められた。今回の婚約破棄を受けてすぐに婚姻を申し込まれ、了承した。

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