②ベト。
青色に輝く小さな光の粒を夜の『魔の森』の空へと昇らせる『記憶の泉』。
私のスタート地点であるこの場所は、冒険者の個性によって、仮想遊戯の『アレフ』にランダムに決められるから、この『世界』の『何処』が、冒険者の最初のスタート地点になるかは、分からない。
けれど──。
この仮想世界の夜空に浮かぶ満月とともに、私の姿──登録認識名称『エミるん』の姿が、『記憶の泉』の湖面に浮かび上がっている。
「我ながらの美少女なのらー。にっしっしっし!」
ラメの効いた黄緑色の胸の空いた魔法使いのコスチューム。やたら、肩の見える露出度高めだけど、現世よりかは私の胸は小さめだし安心する。それに、私の黒の長い髪の毛は、セミロング風な同じ黒の色のオカッパ頭だけど瞳の色がより魔女っぽくて良い。長い睫毛と大きな宝石のように紅く輝く両の瞳。
「これぞ、魔性!! 縫いぐるみ黒魔法使いのエミィちゃんと同じ!! これで、たくさんの人を魅了……」
そこまで言いかけて、ふと気が付いて止めた。
この10日間は、初めての仮想体験もあってか、気持ちも高揚してて全然気づかなかったけど。
「なんか……。母親と、同じ──」
──『記憶の泉』の湖面に映る今の自分の風貌に、なんだか俯いて、せっかくの高揚した気分が暗くなる。
夜の『魔の森』が、私の後ろで嘶くようにして時折、人のものではない魔物らしきものの鳴き声が響き渡り、背中に冷たいものを感じてゾッとする。
……けど。
別に、母親みたく誰かから、チヤホヤされたかったワケじゃないし。
現に、この10日間は、この仮想世界で肌触りや手触りの感触を楽しんでただけで特に何もしなかったし。
あ。でも、『炎の指環』の使い方が分かんなくて、大火球ぶっ放したんだっけ。
それから、右手に持ってた『魔法の杖』かざして、おおかた炎を消し止めてから『記憶の泉』で冒険者記録を刻印して、現世に逃げ帰ったんだ──。
──冒険者は、『刻印』のために『記憶の泉』へと手のひらをかざす事で、これまでの冒険者記録が保存され、アレフの創るこの仮想世界へと往来することが出来る。
そんなことを俯きながらトボトボと、この鬱蒼と木々の生い茂る──その影を照らす、月の明かりの美しい深いこの『魔の森』を彷徨いながら想う。
夜の『魔の森』も、現世さながらにフクロウの鳴く声なんかも聴こえて来て、風がざわめく。よくこんなにも、再現出来たものだと肌身に感じていた。その時。
「うっうっ……」
「誰──!?」
──誰かが泣く声が聴こえる。
(!? ここに来て、初のゲームイベントなのっ!?)
そんな風にアワアワと慌てふためいて、私が想っていると──、明らかに課金して入手したであろう大袈裟な伝説黄金装甲を纏った男の子が一人。
『記憶の泉』からほどなく『魔の森』へと踏み込んだ暗闇の先──、月影のうす暗く生い茂る大樹の枝の下で、太い根っこにしゃがみ込んで泣いている姿を見つけた。
私は、少年の纏う金の鎧が、誇らしくも悲しげに月明かりを映しているのが忘れられなかった。




