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はなやぎ館の箱庭  作者: 日三十 皐月
第1章 「箱庭の日常」
9/39

第7話 ー前編ー







かのあるふぁ

〔ストレスでしんじゃいそうなんだけどさ〕

〔誰かリフレッシュ旅行ついてきてー!一切の出費をさせないことを此処に誓います!!〕



〔おー 珍しいね〕


おその

〔タダで旅行万歳って気持ちと、かのあと旅行かぁ…って気持ちをほぼ同タイミングで感じさせるよね〕


かのあるふぁ

〔えー!!一切出費なしでもその天秤が傾かないのやばくない?!ただでさえストレス溜まってるのにオーバーキルやめてよ!〕


おその

〔正直でごめんな〕



〔まぁとりあえず場所だけ聞こうかな どのくらい旅費がタダになるかで決めるわ〕


〔露骨ぅ…逆にこんな奴らと旅行してリフレッシュになるんか君は〕


かのあるふぁ

〔ぐすん…友達いないの…〕


〔つら〕


かのあるふぁ

〔ちなみに県とかは決めてないけど滝とか見に行きたい…自然浴したい…〕


おその

〔ガチのマジでリフレッシュしようとしてて草〕


〔おお 滝いいね〕


〔食い付いてるやん〕


〔自分じゃあんまり選ばないようなところ選ばれると行きたくなるよね〕



かのあるふぁ

〔じゃぁ潮は釣れたってことで!!他に行きたい人いる??〕


〔いや、まだいいねしかしてないけど〕


かのあるふぁ

〔いやもう釣り上げたから!拒否権なし!やったー!!潮が釣れたのはでかい!相談事も人形のように聞いてくれるし!!〕


〔いや多分相談した内の9割強聞いてないと思うけどお前はそれでもええんか…〕


かのあるふぁ

〔いいの…かのあ、側で聞いてる振りしてくれるだけで嬉ちいの…〕


おその

〔人形連れてけよ…〕


かのあるふぁ

〔ううん…美味しいパフェとかシェアして食べたいの… 潮は意外と甘いものたくさん食べられるから…かのあの話に全く興味なくても適任なの…〕


〔つら〕


おその

〔リフレッシュ旅行(笑)は草も生えんよ〕



あまねん

〔行きたかったけど、ちょっと課題とか忙しいから旅行は無理かも〕

〔相談事とかまた今度聞かせてね、潮との旅行話も聞きたいな〜!〕


セリー

〔私もちょっと制作遅れてるから旅行は厳しいかな 萌も連れて行けないし〕

〔楽しんでおいで〕



〔ちな私も締切近いからキツいんだよねぇ 旅行は魅力的だけど〕


おその

〔わても実は単位やばい系女子なんですよねー〕



かのあるふぁ

〔え、待って〕

〔てことは潮と二人でデートってこと…!?かのあが一人で喋ってる旅行の風景しか想像できないんだけど!〕


〔じゃ、人集まらなかったみたいだし 今回はキャンセルってことでいいかな?〕


かのあるふぁ

〔いや…!いや逃さないから!!もう絶対旅行するから!!こうなったら喋り倒してやるから!〕


〔いやぁ、それじゃリフレッシュにならないでしょう ね?いやぁ大丈夫大丈夫、また日が空けば誰か暇になるって〕


かのあるふぁ

〔待てない!強行突破!二人旅決行!〕


〔あれ?いいねした段階で選択肢【旅行に行く】以外全部消えちゃった?〕

〔【断る】ないの?〕


かのあるふぁ

〔じゃ、潮!後で部屋に行くから待っててねー!〕


〔じゃぁ、ちょっと出かけてくるわー 2週間くらい経ってみんなが暇になった頃に戻ってくるね〕


かのあるふぁ

〔絶対逃さん!!〕



〔ここまで誰もかのあのストレスの理由について聞いてないのマジで草なんよなぁ〕


おその

〔大丈夫?とかもないんよな〕


セリー

〔まぁ、後は潮に任せようか〕










ーーー晴れた日の午前10時過ぎ。


指定の待ち合わせ時刻、待ち合わせ場所にいたのはただ一人。

お洒落な格好をした潮は自分の車に背中を預け、既に30分ほど遅刻しているかのあを待っていた。


それから程なくして、スニーカーでアスファルトを蹴る音が近づいてくる。

足音の主は勿論かのあだ。



「ごめーーーーーん!!!」


「いや、優秀優秀。1時間待つかなと思ってたから30分浮いたわ」


「仏現る!!拝むわ!!」


「はいはい拝まなくていいからさっさと助手席乗ってねー」


「有難き幸せ!!」



ごろごろ転がしてきていたキャリーケースと大きなリュックサックを車のトランクに乗せ、ご機嫌で助手席に乗り込むかのあ。

潮も運転席に座り、早速出発する。



「じゃ、行くよー」


「運転ありがとう潮!レッツゴー!」





ーーー車が発進し、街中を抜け、しばらくして高速に乗ると。

それまでかかっていた曲にノリノリで合いの手を打っていたかのあが、突然しゅんとして話し始めた。



「なんかねぇ…かのあって、やっぱり変なのかなぁって思うことが最近多くってさぁ」


「と、唐突ぅ…相談始めるにしてもあまりに唐突すぎやしませんかね?びっくりするわ」


「かのあはさ、恋愛における好きとか嫌いとかってあんまり良く分かんないの。これって変なこと?」


「続けるのね…いいけどさ」


「えー宿泊先の寝る前とかに話したほうがいい?」


「いや、まぁ、いいんじゃない?多少スッキリしてから旅楽しんだ方が合理的だと思うし」


「しゅごい…潮って寛容だよね…」


「かなり強引に話し始めたけどね君」



途中のコンビニで購入していたコーヒーを口にした後、それで?と続きを促す潮。

かのあは上唇をやや尖らせながらそれに応える。



「なんかね、恋愛以外のものには好きとか嫌いとかってあるの。それは自分で良く分かるよ。食べ物の好き嫌いはちゃんとあるし、人も好き嫌いある。でもその、人の好き嫌いって、恋愛的なことかって言われるとそうじゃないの」


「なるほどね」


「分かる?例えば男の人に対して別に好きって思ってもそれは…お付き合いしたいとか結婚したいとかそう言うのじゃないからさ。うーん。そもそも、お付き合いしたいとかがない。興味ない」


「うん」


「推しはいるよ!二次元なら好きってはっきり分かる。二次元ならやばい格好良い!とかドキドキする!とかはあるの」


「うんうん」


「でもなんか、リアルに生きてて…好きとかって良く分かんないんだよね。でもさ、やっぱり言われるじゃんか。この前はばあちゃんから電話がかかってきてさぁ…」


「ばあちゃんかぁ」


「かのちゃん、ばあちゃんは、かのちゃんの子供見るまでずっと健康でおるからねーって。それは嬉しいの、嬉しいんだけど、叶えてあげなきゃ!って気持ちとさ…」


「妹と弟に任せたからそれまで頑張ってって伝えたら」


「それも前言ったんだけどねー。かわせないよね中々。いや、ワンチャン結婚はできるかもしれないよ?でもさ、その、自分が子供を産むってなるとね」


「分かる分かる」


「セリーを見てるとさ、本当に尊敬するの。萌ちゃん産んだ時の話とかも聞かせてもらったし、赤ちゃん育てる大変さとかも…聞いてるとさ、私には無理だーってなっちゃう」


「は?芹がすごいのは昔からだけど?」


「あ…そういえばセリーガチ勢だったこの人…こわ…」


「まぁ冗談抜きでさ。芹も言ってたけど、もう一人誰かがいないと休みがないことじゃん。やってることは忙しいし大変だけど、自分の子だから。いくら大変大変って言っても、誰も休みなんてくれないことなんだなって見てたら思う」


「そう!それだよ!そこなんだよね!かのあは今とてつもなく自分優先だから、赤ちゃんできた時にセリーみたいにやれるの?って」


「うんうん」


「自分の時間なんてほとんどなくて、朝から晩までご飯作って食べさせてうんちおしっこ替えて遊んで着替えさせて散歩させて風呂入れて洗濯して掃除して寝かせて抱っこしておんぶしてまた明日のエンドレス…」


「そうね」


「それを今ほぼ全てゲームの時間と自分が楽しいことに充てているかのあに、そんなハードな自己犠牲的奉仕ができると思う?!」


「私には無理かなー」


「しかも調べてたら旦那次第っていうじゃん!休みどころか赤ちゃんだけじゃなく旦那の世話もしなきゃいけないパターンもあるとか言うじゃん!無理よかのあには!大の男の世話まで無理!」


「まぁ今は…奥さんが働いて旦那さんが子供をってパターンも多いから」


「どうやってその旦那探すの?!てかそれを探してまで赤ちゃんを産むのってどうなの?!ってとこまで考えちゃう」


「まぁ…結婚してみたらやっぱ嫌だ働きたいわーって言われることもあるかもね」


「無理!リスキー!」


「利害不一致はリスキーだねぇ」



相談内容に会話は弾み、沈黙などないまま目的地へと車はどんどん進んでいく。

幸い天気にも恵まれ、心地の良い青空を眼前に迎えたドライブは旅行において最高の幸先となった。



「てかそういう旦那さんがいたとしてもさ。かのあは子供を愛してあげられるのかなって。ただ欲しいからって産んで、もしも愛してあげられなかったらって思うの」


「うんうん」


「産むのも怖いし、自分の子っていう責任感も怖い。これって変なことかな?ばあちゃんは簡単に言うけど、かのあは怖いよ」


「その気持ちはすごい大切なことだと思うよ」


「セリーの子育て横で見てたら、本当にたくさんのことを教えてあげなきゃいけないんだなって思うから…かのあは教えてあげられるような人間かなって」


「かのあちゃんは、図太いように見えて意外と気持ちの線が細いよねぇ…」


「シャーペンの芯だよ、かのあの精神力なんて…」


「てか、ばあちゃんの時代は当たり前だったんだろうけど、まだ20歳のかのあちゃんに子供の話はやっぱ早いよなぁ。しかもかのあちゃんだよ?まだ赤ちゃんみたいなもんなのにね」


「あ!2つしか違わないのに赤ちゃん扱いして!キレそう!!」


「あらあらご機嫌ななめでちゅかー?背中とんとんしてあげまちゅよー」


「それは……!ちょっとお願いしたい!!」


「赤ちゃんおるやん」



やがて高速を下り、国道をしばらく車を走らせた後、のどかな風景に囲まれながら山道へと入っていった。

出迎えた木々は青々しく、少し開けた窓からは自然の香りを帯びた気持ちの良い風が鼻を擽る。



「で?変かなって思うことが多かったって言ってたけど。ばあちゃんの件以外にも何かあったんじゃないの」


「うん…最近結婚した友達なんだけどね。子供が産まれるらしいのね」


「あー、大体把握したわ。その話する?」


「まぁさっきした話とほとんど一緒になっちゃうよねー。それプラスマウントって感じかな」


「マウントかぁ」


「かのあは好きなこと出来ていいよねー系。でもうちの旦那さんは家事もすっごいやってくれるから何もしなくていいの♪いいでしょ?系」


「んー」


「かのあはね、幸せならそれで良かったね!って思うんだけど、その幸せと、かのあの生活とを比べる必要はないよねって思うの。

だって全然違うじゃん!一人で楽しいことと二人で楽しいことは全然違うから」


「そうだね。全くその通りだと思うよ」


「かのあと比べて、ここは羨ましくてこれは私の方が良い、は違うでしょ?かのあが結婚したい!って言ってるなら、一人の時と比べて良い悪いを提示してくれるのは分かるけど」


「うん」


「一人っていいよねーって言った上で、彼氏作んないの?とか結婚しないの?ってさ。普通はどう返すのかな?

かのあが恋愛に興味ないからしんどく感じるだけなのかなって」


「マウントされてしんどくない人なんていないでしょ。面倒だし、勝手にのし掛かってきてただただ邪魔なんだから」


「そっか…そうだよね。でも、かのあが彼氏ほしい!とか思える人だったら、もっと簡単に返せたのかなぁとは考えちゃうんだよね」



観光地への入り口を示す看板を確認し、開けた駐車場へと車を停める。

貴重品を入れた鞄を持って降りると、2人は早速滝を目指して歩き始めた。



「料理上手くて子育て頑張ってるセリーとは全然違う感じ。その友達はなんか、結婚する前から料理とかの家事も適当にやってるけど全然怒んないの♪むしろやってくれる♪って感じ」


「あのさーかのちゃんさ、それ本当に友達なの?」


「あ…一応、県外で事務員してるって伝えてる…」


「あぁ、そう…それは良かった」


「いいねーって言うと早く結婚したら?で草生やされるし、そうなんだーって言うと、でもかのあは一人の時間楽しめていいよねーって言われるんだよね」


「だるいわ。ブロックできないの?」


「出産祝い頂戴ねって言われてるから、それ渡したらフェードアウトしようかなとは思ってる」


「ま、赤ちゃん産んだらかのちゃんに構う暇もなくなるんじゃない?良かったね」


「うぅん…でも、普通の人より妊娠の症状が軽かったらしくて、この前つわり酷くて苦しんでた友達にめっちゃマウント取ってたよ…嘘でしょ?みたいな。全然大変じゃなかったけど本当?大袈裟じゃない?みたいな」


「うーん…」


「まぁ…どんな状況になるか分かんないけど、上手く離れられるといいなぁ。もちろん、赤ちゃんが産まれるのは喜ばしいことだけどね。だからお祝いだけは渡すつもり」


「そうね。かのあのそういうところが好きよ、私は」


「ええっ?!潮まさか…私のこと…?!」


「今ちょっと嫌いになったわ」



軽口を叩いていると、滝の音がどんどんと近づいてくる。

案内板を頼りに進んでいくとーー、



「おわー!!!滝すごーー!!!」


「おおーー!」



太陽を背にした立派な滝が2人を迎えた。

しばし口を開けたまま、圧巻の景色に釘付けになる。



「なんか、洗われる気がする…」


「滝行する?」


「しない…」



隅の腰掛けへ座り、ただじっとその風景を目に焼き付けた。

激しい水音、風が動かす水気を帯びた空気、木漏れ日が生む光のコントラスト。

完璧を体現するかのようにこの空間だけが切り取られてしまったようで、自分達が今その風景の一部にいるのか、はたまた額縁の外から眺めているのか一瞬よく分からなくなる。



「なんか…人に対してあれが嫌だったこれが嫌だったって思うと、悪いことしたように思っちゃうからさ。こういう地球の呼吸を感じるような自然に触れるとそういうの全部綺麗にしてもらった気がしてスッキリするね…」


「うん…。まぁ、生きてる限り嫌な思いはするし、むかつくわーって思うものじゃない?それを悪いことだって思ってたらやっていけないよ」


「潮はいつもストレートに言ってくれるから助かるよー」


「それは良くも悪くも必ず成長させてくれるものだし、あの時は泥中の蓮だったんだなって後から思うんだから」


「でーちゅーのはすかぁ…」


「かのあはさ、たまーに突然難しいこと言うなぁって思うんだけどさぁ。それを後悔するくらいやっぱり突然アホになるよねぇ」


「ひどい…」



潮が立ち上がって、透き通った水に触れる。

ひんやりと身体中に澄み渡るようなそれを両手で掬い上げると、この世のどんなもので手を洗うよりもずっと綺麗になった気がした。

かのあもそれに倣って水を掬い上げ、気持ち良さそうに眉尻を下げる。



「なんか…ありがとね潮。私もっと、一人で喋り続けてるものだと思ってたから。こんなに真面目に話してくれるとは」


「いや、ほとんど一人で喋ってたよ?」


「でもちゃんと返答があったからさ。嬉しくて…」


「かのあちゃん…まじで精神的に参ってたんだね…しおらしいどころの話じゃないけど」


「定期的にやってくるよね、落ち込んじゃう時期ってさ…」



それから写真をたくさん撮り、満足した2人はまた車へと戻る。

シートベルトをしっかり閉め、来る前よりも僅かにすっきりした表情をしたかのあは、コーヒーを飲み干した潮へと早速元気よく言い放った。



「さっ!ちょっとスッキリしたから旅館いこー!!」


「ちょっとか…」


「まだ話し足りないのだよ!!」







*  *  * epilogue







(はい着いたよー〕


(ひゃっほーー!!旅館だーー!!!)


(まじの高級旅館で草)



(めっちゃご飯美味しいらしいから楽しみ!!待ち切れない!!)


(予定的にどんな感じ?)


(ご飯と温泉とお酒楽しんで寝て、明日はお店回ってみんなにお土産たくさん買って、お昼に海鮮丼食べて、甘いもの食べて帰ろうと思います!!)


(いやぁ、中々素晴らしい旅行ですなぁ)






第七話 ー前編ー 了






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