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はなやぎ館の箱庭  作者: 日三十 皐月
第1章 「箱庭の日常」
8/39

第6話






〔前回の焼肉パーティで余った炭と薪を有効活用したいんだけど〕

〔次回、屋台グルメパーティを企画してます〕

〔いかがでしょう〕



おその

〔もう次のパーティの話してんの?はぁ…絶対参加するわー〕


〔前回ちらっと話したやつか。やろう〕


あまねん

〔いいね!何の店が出る予定なの?〕


〔もろこしあれば焼きもろこし、あとは焼きそばとか焼き鳥、りんご飴が今んとこ候補かなぁ〕


おその

〔セリー肉巻きおにぎりしてよぉ〕


セリー

〔いいよー面白そう〕


〔ご飯系キター!〕


セリー

〔あと、とうもろこしならすごい美味しいの作ってる知り合いがいるから、貰えないか頼んでみようか?〕


〔焼きもろこし屋確定演出来たわ〕


セリー

〔兄ちゃんの友達なんだけど、譲ってもらったって土地で色々作ってる人でね。お米も作ってて、毎年美味しいの送ってくれるんだ〕

〔てか君たちがいつもしこたま食べてるお米はその人がくれたものだよ〕


〔衝撃の事実〕


おその

〔もろこし兄やんの米だったとは…〕


〔20代が作ってた米だったとは…〕


〔70位のめちゃくちゃ元気なおじいちゃん思い浮かべて感謝してたわ〕


セリー

〔はなやぎ館でみんなでお米食べてるって話したらすごい喜んでたよ〕



〔肉巻きおにぎりと焼きもろこし屋がほぼ確したってことで…あとは何がいいかな?案求む)


〔デザート系もちょっとほしいところだね〕


あまねん

〔かき氷はどうかな?私一回おしゃれな感じのかき氷作ってみたかったんだよね〜〕


〔いいね採用〕


おその

〔あのおしゃれすぎてビビって買えないやつ?まじで作ってくれんの?食べます〕


あまねん

〔氷がふわふわになる機械探しとく!味は蛍のおじいちゃんが送ってくれる果物使って決めようかな?あとは、和菓子っぽいの?宇治抹茶とか黒蜜きなことかそのあたり〕


おその

〔和菓子系なら私も手伝えそう。白玉美味しいの持ってくわ〕


〔楽しみすぎるんだが〕




〔てか一番パーティごとに目敏い人が静かだけど大丈夫そ?〕


おその

〔あれじゃん?今日天気悪いから〕


〔あーー…そっか、もう梅雨時期かぁ〕


あまねん

〔スマホも見れない感じかな。一応書いとくけど、何かいるものあったら買ってくるから言ってね〜16時には帰れるよ!〕


〔とりあえずこっちで様子見てくるわー〕








「ゔぅ゛ーーーーーーん゛ん゛ん………」



ーー布団に包まって、微動だにせず呻く人影が一つ。



「ゔゔーーーぅぅん゛ん゛……」



アイマスクを付け、眉間に皺を寄せる。

痛みを逃す為に呻き続けるかのあの部屋は暗い。


そこへ、とんとんとノックの音が響き、潮が控えめに入ってきた。



「かのあちゃーん、大丈夫かい?」


「うゔぅーーん゛……」


「お水持ってきたから薬飲みなー」



ぬるま湯と鎮痛剤を乗せたトレイを、ベッド横のテーブルに置く。

苦しそうな眉間の皺を見つめながら、潮は側にあった椅子に腰掛けた。



「天気頭痛、どんどん酷くなってるね。前回薬飲んでからちゃんと時間空いてる?」


「ゔんんーー…」


「オッケー。その体制はあれだよね。少しでも動いたら頭爆発しちゃう時だったか」


「あう゛んーーー」


「薬飲める?いやその状態のまま水飲むのは無理か…口移しであげようか?」


「ゔぅん…笑わせないでよ潮…!!あ゛ゔーーーん!!」



笑いを我慢しようとすることで余計に体が揺れ、ひどい頭痛の波がこれまで以上にかのあを襲う。



「いや、結構真面目だったんだけどなぁ。じゃぁスポイト持ってこようか?それとも薬飲むゼリーのやつ買ってこようか?」


「う゛ぐぅぅぅん…!!!潮ちゃんチェンジで…!!あまねん求む…!!ぐぉぉ…!」


「残念、あまねんは外出中です。16時に戻るけど何かいるかって言ってたよ」


「…ゔぅ…ポテチ…」


「またジャンクなものばっかり食べて。うどんとかゼリーとかは?」


「チョコ……」


「そりゃ頭も痛くなるわけだ。果物でもお願いしとこうかな。私も食べたいし」



周にメッセージを送って、ため息をつく。

痛みに呻く気力すら無くなったのか静かになってしまったかのあを、潮は優しく見つめた。



「梅雨時期はかのあの生放送減るからつまんないわ。はぁ…早く梅雨明けないかな。梅雨明けたら屋台飯パーティするよ」


「…りんご飴…」


「やるやる」


「…唐揚げ…」


「あー、唐揚げかぁ。いいね。今んとこね、肉巻きおにぎりと焼きそばと焼き鳥と焼きもろこしと…あとかき氷とりんご飴。確かに揚げ物なかったわ」


「…冷やしパイン…」


「あれ、もしかして食べ物呟きbot?」


「…わ…笑かすんじゃねぇ…!!潮ぉ…!」


「ごめんごめん」



直立不動でぶるぶる震えながら、笑いを我慢するかのあ。

潮は枕と首の隙間に腕を入れると、首から上を軽く起こしてあげた。



「ちょっと我慢してねー」



それから、空いた手で薬を口に放り、ゆっくりぬるま湯を含ませる。

飲んだのを確認してからそっと離れると、かのあは蚊の鳴くような声で言った。



「…ありがとう…潮…」


「うん。次は16時くらいにあまねんが果物持ってきてくれると思うよ、お大事にね」


「…人間…頭とお腹が痛すぎたら…何もできないんだなって…」


「かのあちゃん生理痛もやばいもんねぇ」


「…仲間に…感謝…」


「もう喋るな、傷に響くぞ」



かのあのド派手な自室なはずなのだが、まるで治療室のような雰囲気だった。




静かに部屋を出て、中央ホールにて周の帰宅を待つ。

すると程なくして、大きめの箱を持った周が帰ってきた。



「ただいま〜、かのあ大丈夫そう?」


「お帰り。駄目そう」


「あらら。かのあメロン好きだからメロンにしたよ〜。あと蛍のおじいちゃんからさくらんぼ贈ってもらってるから、それも持って行こうかな」


「んぇ?!私がお願いした枇杷は?」


「う、うん…買ってきたけど、かのあちゃんは枇杷食べないからね…。冷蔵庫に入れておくから冷えたら一緒に食べよ〜」


「あまねんマジ天使ー」


「6月って結構色んな果物が出るよね。きらきらしてたから、たくさん買って行こうか迷っちゃった」



中央ホールにある小さなキッチンで、さくらんぼを洗ったりメロンを切ったり。

それを手際良く可愛いお皿に盛り付けてフルーツピックを刺すと、周は早速かのあの部屋へと向かった。


潮もその後ろをついて歩き、部屋へ入ると周と自分用の椅子を二つ用意して腰掛けた。



「かのあ、大丈夫?」


「…あまねん…ありがとう…薬効いてきたからさっきより良い…」


「メロンとさくらんぼ持ってきたけど、体起こせる?あーんしてあげようか」


「あーんちてほちい…」


「はいはい」


「おぉ…あまねんは優しいなぁ。そんな言い方されてたら口に果物全部突っ込んで退室してたわ」


「こわ…潮には絶対頼まん…」 



確かに薬は効いているようで、先ほどより幾分か調子は良いようだった。



「とりあえず話せるくらいに落ち着いて良かったよ」


「ありがと…ちょうど前回飲んでから効き目が切れてきた頃だったからさ、でも動けないから薬飲めない…って悶絶してたの。ほんとに助かったよ潮ー…」


「はい、あーん」


「あーん」


「うわー絵面うざすぎるわー。あーんじゃねぇ。あまねん私にもあーんして」


「え〜?元気な人は自分で食べてください」


「枇杷の皮剥いてぇ。あーんしてぇ」


「潮の甘えん坊キッツぅ…」


「いやお前も大概だから」


「えー!そんなことないよね、あまねん!そんなことないって言ってお願い。潮よりは可愛いって言ってお願い」


「二人とも可愛い可愛い」


「あまねん天使すぎる」


「でもかのあちゃん?何かちょっと思ったより元気じゃない?はい、自分で食べなさい」


「あ゛ー!違うの!痛み止め効いてるから元気なだけなの!今だけなの!」


「こいつ…!動けるにも関わらず3点リーダを巧妙に活用して同情を誘い、周にあーんをねだっていただと…!?」


「何か二人顔見てたらどんどん体調良くなってきちゃったんだもん…もういいよ!お腹すいてきたから自分で食べるもん!自分でできるもん!」


「20歳の自分でできるもんはちょっと…」



言いながら皿を受け取り、果物を頬張るかのあ。

潮と周はそれを見てひとまず安堵のため息をついた。



「ま、元気そうで良かったよ。効き目ってどれくらい持つんだっけ?3、4時間くらい?」


「んー。それくらいかも!」


「1時間前に飲んだんだっけか。まぁ、そろそろかなーってくらいにまた来るよ。元気な今を楽しんで」


「雨が止んでくれたらなー!配信するのにぃ。暇じゃないけど暇なんだよね、もう何ーーーーにもできないから」


「分かる分かる。分かるけど梅雨時期はもう仕方ないねぇ。とりあえず安静にしてなよ」


「うん…二人とも本当にありがとうね。今日だけじゃないと思うからまたお世話になるかもしれないけどね!」


「困ったときはお互い様よ」





二人でかのあの部屋を後にし、中央ホールへ戻る。


周がいくつかお皿を用意して残りのメロンを切り分けていると、出かけていたそのが戻ってきた。



「お疲れー」


「ただいまー。何か甘い匂いすんだけど」


「メロンとさくらんぼあるよ〜。すぐ食べる?」


「ありがと、食べる。蛍ももうすぐ帰ってくると思うよ、カッパ着てチャリ乗ってんのとすれ違ったから」


「じゃぁ蛍のも置いておこうかな。芹は明日来るんだっけ?フルーツあるから萌ちゃんも連れてきてって言っておかなきゃ」



言っている内に蛍が帰ってきて、みんなでソファに腰掛けてフルーツを楽しむ。



「メロンもさくらんぼも美味いわー」


「あまーい。なんで果物ってこんなに幸せ感じるんだろう?」


「いやー、夕飯前のフルーツ最高」


「てか、今日夜食べる?」


「んー何も考えてなかったなぁ。久々にピザとかおっきいの頼んじゃう?」


「いいね!ジャンキーで」


「かのあは食べれんの?体調どうだったん?」


「あ、そっか。かのあの体調が良くないんかー」


「目の前で見せつけてやろうぜ」


「ゴミすぎ」


「多分体調悪くても食べるよあの子は」


「じゃぁピザは却下かな。何か作る?」


「あ、この前おうどん美味しいところに住んでる友達から麺送られてきたんだった!」


「いいね!お腹に優しくて」


「んじゃうどんか。天ぷらはどっかで頼もうよ。油すんの大変だし」


「そうだね。かのあが食べるなら卵あんかけうどんとか、ずるずるいけるやつが良いんじゃない?」


「うんうん!簡単だし助かる。そうしよっか〜」


「よっしゃ次は天ぷら選ぼー」



大きめのタブレットをテーブルに置き、和気藹々と天ぷらを選ぶ4人。



「海老天いる人」


「はーい」


「海老天2つね」


「かぼちゃと椎茸の天ぷら食べたいですー」


「かき揚げと、とり天かな〜」


「今日はなす天とイカ天の気分」


「うわ悩むなぁ。ちくわ天…と、私もかき揚げにしようかな」


「かのあちゃんは何にする?」


「アイスの天ぷらとかチーズの天ぷらとかないの?」


「喜びそうで草」


「アイスの天ぷらを持ち帰るのは厳しいんじゃない?ちなみにどっちも無いわ」


「さつまいも天ととり天で良さそうだけどどう?」


「おーけーそれで行こう」


「何時に取りに行く?」


「19時とかでいいんじゃないかな」



予め電話で頼んでおき、外着だった蛍とおそのが天ぷらテイクアウト組、家にいた潮と周がうどん組に振り分けられる。


雑談しながら19時になるのを待っていると、いつの間にか雨が止んでいた。

それに気が付いたのとほぼ同時のタイミングで、かのあが自室から出て中央ホールへと降りてくる。



「やほーー!みんな!!嘘みたいに頭痛くなくなったぞーー!!!」


「おっ、急に賑やかになったな」


「元気で何よりだわぁ」


「蛍おそのお帰りー!!」


「すっかり元気になったね〜、良かった良かった」


「19時になったら様子見に行こうと思ってたんだよね。元気になって良かった」


「あまねんも潮もありがとね!もう元気いっぱいだよ!ふぅぅー!!」


「元気になったらなったで騒がしいな」


「今さっきトーク履歴見たんだけど!ねー!屋台飯パーティの話する?!」


「いや…まぁ、うん。大体決まったからもういいかな」


「じゃぁ次の次のパーティの話しよ!夏に屋台飯パーティだからー、次はー、んーと、食欲の秋最高ですパーティする?!」


「長いなぁ」



賑やかさを取り戻したはなやぎ館の夜が、今日も更けていく。






* * * epilogue





(うどんウマー)


(天ぷらも美味しいよ〜。取りに行ってくれてありがとね)


(めっちゃお腹に優しくて助かる)


(ねーもしかして、かのあが体調悪かったからおうどんにしてくれたの?)


(そだよ)


(全然気にせずジャンキーなものにするところだったけどね)


(具合悪いかのあの前で見せつけるようにして食べようとか言ってたやつおったけどね)


(誰それ!けしからん!絶対潮でしょー!)


(何で分かるの?こわ)


(ムカつくー!お薬飲ませてくれたの帳消しになるくらいムカつく!)


(それでも貸し1なのは帳消しにならないんだよねぇ。梅雨時期に何回貸し作れるかなー楽しみだなー)


(めちゃくちゃ見返り求めてて草)


(毎日筋トレ!のスーパーハードモードを5時間配信してもらおっかなー)


(いや無理ぃ!!絶対無理ぃ!それをやることのどこが借りを返したことになるの!)


(私が5時間にっこにこで過ごせる)


(それは…!!それは素晴らしいことだね)


(うん)


(でも5時間は無理!てか多分30分も無理ぃ!!かのあが普段どんだけエコモードで動いてるか知ってるでしょ!)


(梅雨明けて頭痛無くなったと思ったら次は筋肉痛かぁ…お疲れ様です)


(やらないからね、絶対やらないからね!)


(うどん伸びちゃうよー君たち)






第六話 了




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