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はなやぎ館の箱庭  作者: 日三十 皐月
第2章 「箱庭の夢語」

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第23話








おその

〔和菓子携えて紅葉見に行きたいんですが、行く人ー〕



〔はーい〕


〔はーい〕


かのあるふぁ

〔何その超絶和イベント!!行っきまーーーす!!〕


あまねん

〔いいね!参加します~〕

〔桜は皆で見に行ったけど、紅葉は初めてじゃない?〕

〔また相良家の和菓子と一緒に楽しめるなんて最高だよ!〕


セリー

〔私も参加しまーす〕

〔今聞いたら実家で萌見てくれるってことだったんで、平日でも休日でも大丈夫〕


おその

〔おや 萌りんは行かないのかい?〕


セリー

〔萌はこの前園で紅葉遠足があったし、たまには6人だけで〕


おその

〔マジか 連続紅葉はちとあれか…〕

〔じゃぁせめて、行く前に三鼓家に和菓子差し入れさせてくれい〕


セリー

〔え ありがとう〕

〔差し入れなんて、って言いたいところだけど、おそのの和菓子って聞いたら母さんたちめちゃくちゃ喜ぶと思うから〕

〔厚かましく受け取らせてもらうね〕


おその

〔毎月再々買って頂いててガチで感謝感激なんすわ〕

〔これくらいさせてくださいな〕



〔話がまとまったところで日程ですが〕

〔土日は多いと思うんで、平日がゆったり座れていいかなと思うやで どう?〕


〔平日なら火、木、金が終日空いてますよっと〕


かのあるふぁ

〔かのあは丁度案件終わったとこなんで!〕

〔何曜日でも行っけまーす!!和菓子!和菓子!おそのの和菓子!〕


セリー

〔私も今週はゆったりなのでいつでも〕


あまねん

〔私は木曜日、金曜日がフリーだよ~〕


おその

〔お〕

〔木曜定休なんでありがたいっす〕


〔ほな木曜日ということで〕

〔はなやぎ出発で良いのかな?〕

〔てか場所とか決まってる?〕


おその

〔場所はねぇ、何と候補が有ります〕

〔商店街の裏山にめちゃくちゃ綺麗な紅葉スポットがあるんだけど、お寺の人が座るところとか用意してくださってね。ゆっくりご飯食べられるようになったから〕

〔そこでどうかなと思っておりやす〕


〔ええやん〕


かのあるふぁ

〔裏山とかいう響きすこすこのすこ!!〕

〔うきうきしてきたぁッ!〕

〔今年はお昼ご飯とかどうする?!〕


おその

〔あ それもなんですが〕

〔紅葉行きたいって話したら、前に春祭りの時に主力で頑張ってた料亭の息子が「必要なら仕出し弁当出すよ」って言ってくれて〕

〔1つ500円の弁当作ってくれるらしい〕

〔味は私が保証します どないでしょうか〕


〔本格料亭の仕出し弁当が500円マ?〕

〔買います〕


〔完璧な紅葉鑑賞じゃないっすか お願いしまっす〕


セリー

〔おそのの紹介で食べに行ったことあるんだけど〕

〔あの味が500円で…?破格すぎる…〕


かのあるふぁ

〔やったー!!お弁当持って紅葉♪最高♪〕


あまねん

〔やった~!私仕出し弁当って好きなんだよね でも特別なことがないと買いに行きづらい感じがあったから、ありがたい!〕


おその

〔あざすあざす じゃぁ木曜日に6個注文しとくね〕

〔まさにあまねんの言った通りで、敷居が高い感じがどうしても有るからってことで〕

〔時代もあって特別な時だけ高いご飯を…ってだけじゃなくて、普段から親しんでもらえるように色々試していきたいらしい〕


〔いいね〕

〔気軽に料亭のご飯持って色んなところ行けるの最高じゃん〕


おその

〔そうそう〕

〔だからがっつり仕出し弁当!って感じじゃなくて、本当に親しみやすいお弁当みたいな感じで、でも料亭っぽさは残して…って感じでやりたいそうな〕

〔はなやぎの皆に好評だったら、「はなやぎ弁当」って名前で店頭に出すって言ってたよ〕


〔何てこったい 光栄すぎるじゃん?〕

〔好評確定だからもうそれで出してもろて〕


おその

〔伝えとくわ〕

〔あ ちなみに、かのあの分は野菜少なめで、子供向けな感じでお願いしてるんで安心してね〕


かのあるふぁ

〔うおおおおおありがたやーーーーー!!〕

〔仕出し弁当かぁ…食べられるものなかったらどうしよう…^^って一人で焦ってましたわぁ!感謝ぁ!〕


おその

〔むしろお子様弁当として試作できて有難いって言ってたよ〕

〔まぁ楽しみにしといて〕


セリー

〔えー はなやぎ弁当なんて名前で出たら更に鬼リピしちゃうよ〕

〔しかもお子様弁当まで出るなんて、三鼓家で何かある度にお願いしちゃう〕

〔当日楽しみすぎる〕


あまねん

〔ほんとだよ~!はなやぎ弁当楽しみすぎる!〕


〔引きこもり作業中に大助かりな弁当すぎるな〕

〔既に鬼リピ確だからマジで命名はなやぎ弁当で頼む〕


おその

〔伝えとく伝えとく〕

〔じゃぁ まぁそんな感じで〕


〔はーいこちらこそよろしく〕

〔色々考えてくれてありがとね〕


おその

〔いえいえこちらこそ〕

〔じゃぁまた当日にー〕


〔へーい〕

〔よろしく〕












「「「わーーー…!」」」



ーーー紅葉日和、秋晴れの木曜日。

集合して商店街の駐車場に停め、早速裏山に向かった一行は、出迎えた壮大な景色に揃って感嘆の声をあげた。


お寺の人によって整備された紅葉スポット。

渓流の音が良く響き、理路整然と並べられた石畳の上には休憩用の六角東屋が幾つも設置されている。


それを囲むようにして生えた辺り一面の紅葉が豊かに景色を彩る姿は、得も言われぬほど美しかった。



「待って、日本美しすぎんか…」


「此処が桃源郷です、か…!!」


「マジで神様仏様がこの国を守ってるんだなぁって思わされるわ…」


「いやいや。神事仏事他人事でなく、我々もその一員なのですぞ」


「蛍の言う通り!私もそう思う。私たちもこの景色を守り続けなくちゃだね」


「守りたい、この景色」


「本当…この世界って、美しいね…」



美しさに圧倒されながら、和の世界に浸る。


そうして暫し癒しの時間を取った後、振り返ると。

東屋に座っていた男性が立ち上がり、ゆっくりと頭を下げた。



「ーーー景色をお楽しみのところを、突然申し訳有りません。皆さん、初めまして。この度仕出し弁当の予約を賜りました、料亭 三毛で御座います」


「えっええぇぇ?!」


三毛みけ 涼太郎りょうたろうです。此度のご注文感謝申し上げます。ささやかですが茶碗蒸しもつけさせて頂いておりますので、合わせて是非お召し上がりください」


「おお、三毛。景色に圧倒されて忘れてたわ。場所取り感謝ー」


「場所取り…!?お、お前…!料亭の跡取りさんに我々の紅葉の場所取りなんてさせるんじゃないよ…!」


「いえいえ。私の方からそのへ提案したことですから。お力になれて何よりで御座います。さぁ、どうぞ」


「恐縮すぎるだろ…」


「ありがとうございます、すみません」



突然の登場に驚きつつ、頭を下げながら東屋に入る面々。

黒縁眼鏡をかけた男性、料亭の息子ーー三毛は、ごほんと一つ咳払いをして続けた。



「兼ねてより、はなやぎ館の話はおそのから聞いていたのですが…皆さんお美しい方ばかりで。名前の通りとても花々しくていらっしゃいますね」


「いやいや…何を仰います…」


「我々の平均をブチ上げてくれてるのがね、有難いことに2人もおりますもんで…」


「いやホントすごいよな。200点がいるから50点の我々が並んでても平均が100点になるこの仕様えぐい」


「はぁ?!ちょっと待って!!勝手に50点にするのやめてね゛?!かのあは100点有るから!!」


「おい、思い上がるな。お前が100点だったら我々も100点だろうが」


「何で?!計算おかしくない!?吊り上げ方式?!」


「良い言い方するな。数珠繋ぎ方式や」


「ちなみにセリー達とはN極同士でセリー達が絶対的に上だから、我々が100点と言って近付けば同じだけ離れていくぞ」


「うおおおおん!!同じラインに一生立てなくて草ぁぁぁ!!」



いつも通りなはなやぎの面々に、三毛の顔が自ずと綻んでいく。



「おそのが楽しそうなところで過ごしているんだと感じて、すごく朗らかな気持ちになりました。良い方々に恵まれているのですね」


「い、今のどこに朗らかな気持ちになる要素が…?!」


「めちゃくちゃ貶し合ってたのに…」


「ま、いつもめっちゃ楽しいよね。これがはなやぎよ」


「おそのからもう聞いているかもしれませんが、皆さんにご好評でしたら本日のお弁当の名前を『はなやぎ弁当』にしたいと思っておりまして。差し支えないでしょうか」


「いやもう、是非に」


「はなやぎ弁当だなんて素敵すぎる!ホントにめちゃくちゃ買いに伺います~!」


「有難う御座います。イメージ通り、皆さん活気に満ち花の咲くような笑顔で溢れていますね。改善点等有れば遠慮なく仰ってください」


「お弁当、ありがとうございます。ありがたく頂きます」


「いえいえ。もし宜しかったら、紅葉とお弁当と一緒にお写真頂いても良いでしょうか」


「勿論です!」


「いえーい」



六角東屋に座り、お弁当を持って写真を撮る。

三毛は満足げに一つ頷くと、6人へ深々と頭を下げた。



「改めてになりますが、本日はご注文誠に有難う御座います。皆さんの紅葉鑑賞のひとときを良く彩ることができましたら幸いです。今後とも是非ご贔屓に」


「こちらこそありがとうございます!」


「マジでめちゃくちゃ通うと思うんで、よろしくお願いしまっす」


「感謝致します。では、私はこれにて。素敵な時間をお過ごしください。失礼致します」


「じゃぁねー。ありがとねー」



おそのに軽く手を挙げた後、もう一度頭を下げて三毛は紅葉スポットから離れて行った。

突然の登場に呆気に取られていた面々は、尚も穏やかなおそのに向かって苦言を呈す。



「あのね。予め言わんかい。驚きすぎてありがとうございます連呼の民と化してたわ」


「ごめんごめん。今日はもう自分が和菓子忘れずに持ってくることしか頭に無くてさー。そういえば、良かったら東屋の場所取りしておこうか?って聞かれて、ありがとーって言っといたんだった」


「破格でお弁当作らせた上、おまけで茶碗蒸し貰った挙句に場所取りまでさせてて草も生えません」


「あいつ絶対前世紳士だったと思うんだよね。いやー、紅葉行きたいって言っただけなのに、場所取りとかめっちゃ細かいとこまで良く気が付いてくれるよねー」


「もう、はなやぎ弁当絶対たくさん買いに行こう」


「てか写真撮る時に見えちゃったけど、お弁当すごすぎん?」


「分かる~!これワンコインで食べていいの…?!」


「うん。今後店に出すってなった時も調整して500円で提供できるようにするって言ってたよ」


「マジかよ!!ありがとう!!!」


「週7はなやぎ弁当になっちゃうよ!!」



優しい秋風が吹いて、楽しそうな一行の横を落ち葉が踊るように舞っていく。

不意に現れたつむじ風が東屋の近くで渦を巻き紅葉を舞い上げると、その場にいた人々のテンションも同じく舞い上がった。



「うおおおおおつむじ風ぇぇぇぇ」


「これが魔法か…!」


「おい、きっとこの観光客の中に魔法使いがいるんだぜ…!」


「こらこら。動画撮ってる方たくさんいらっしゃるんだから大声出すんじゃないよ君たち」



興奮する3人を抑えつつ、潮もその光景を目に焼き付ける。



「…何かさ。君たちといると、1分1秒が尊い気持ちになるよ」


「分かる。誘われなかったら紅葉見に行くこともなくずっと家にいるような人間だから。世界がこんなにも美しいって教えてくれてありがとね」


「せっかくこの美しい日本で出会えたんだし。もっと美しいところ見て、楽しい笑顔いっぱいで、美味しいもんたくさん食べて、思い出たくさん作ろう」


「いいね。さ、じゃぁまずは早速…素敵なお弁当を頂きますか」


「そうだね」



不思議な景色の余韻に浸り、6人は改めてお弁当へ視線を向けた。


花の飾り切りが施された人参、蓮根、ラディッシュ。

孔雀の飾り切りが施されたかまぼこ、蝶々の飾り切りが施された大根。


山菜の炊き込みご飯を詰められた稲荷寿司には、南天の葉が添えられている。

その周りを、いかと海老の天ぷら、桜海老と小葱のだし巻き卵、高野豆腐と椎茸の煮物、ほうれん草の胡麻和えが囲む。


淡い桃色の容器に美しく並べられた数々。

芸術品のようなお弁当を、それぞれうっとりとして見つめた。



「待ってくれよ…500円マ…?」


「数を作るとしたら飾り切りの個数は減るかもしれないとは言ってたけど、大体このメニューで出すつもりだと思うよ」


「じゃぁ、ほぼこのクオリティで出すってこと…?めっちゃ大変やん…?」


「食べるの勿体ないわぁ…って言いながら食べちゃうんですけどね」


「見て美味しい、食べたらもっと美味しい」


「お腹空いたー食べよー」



それぞれしっかり手を合わせ、「いただきます」と静かに口にする。


橙や黄色、茶色や黄土色。暖かい色が景色を彩り、反対に冷たい風が吹き抜けて行く秋。

風が運ぶ紅葉を目で追いつつ頂く食事は、とても有意義な時間を与えてくれるようだった。



「うまーーーーー」


「何かさぁ。セリーのクソ美味い家庭料理も食べれてさぁ。バンビさんの超絶イタリアンも食べれてさぁ。かと思えばこうして本格料亭の和食も食べれてさぁ。最高じゃんかよ」


「何かで見たんだよね。俺たちの味覚は何の為についてるんだ?美味い料理を食って幸せな気持ちになる為だろうが!!みたいなやつ」


「だからこそ、ただ食べるだけじゃなくて食への感謝が大切だよね」


「そうね。食べるって、ただお腹を満たすだけの作業じゃないんだって分からせてくれるのが五感だと思ってる」


「ほぇー。生きるって、学び続けることなんだなー」


「綺麗な景色の中で食べるご飯は美味しいし!好きな人たちに囲まれて食べるご飯も美味しいし!愛情込めて作られたご飯も美味しいし!あれっ?もしかして今最強の状況にいる?!」


「プラスに考えられる人は、どんな状況でもプラスになるけど。まぁ逆も然りだよね」


「こんな最高の状況でも真逆に考えちゃう人もいる。今この目の中で見えてる情報を、どう捉えるか……学びって難しいなぁ」


「そう思ったらかのあの思考は最強だよ」


「お前が最強だ」


「ふふん!かのあは君たちがいればいつだって最強の状態になれるってコト!!あー!お弁当うまーーー!!!」


「あ、そういえばかのあの弁当ってどんな感じなん?」



ふと気が付いてかのあのお弁当に目を向けると、

花の形の鮭おにぎりと、ふりかけおにぎり、卵焼き。

それから唐揚げと和風ミニハンバーグ、枝豆とコーンのかき揚げ。

そしてかぼちゃサラダが入っていた。



「かぼちゃサラダがさぁ!なんか、かぼちゃ以外にも色々入ってるんだけど、味が美味すぎて全然気にならないんだよね!あと枝豆とコーンのかき揚げうますんぎ!!」


「声でかい声でかい」


「分かったから落ち着け」


「お子様弁当の方もちゃんとはなやぎ弁当っぽくしてあってカワイイ」


「本当は人参を花の形に飾り切りとかしたかったんだけど、かのあが野菜食べられないって聞いてやめたって言ってたよ」


「うーん!それあったら多分残してたから完璧な采配ですわ!!」


「野菜を食え野菜を」


「そういえば私最近、お腹の中が重たくなるから本当にお魚とお野菜ばっかり食べてるかも。お肉は月に数回かな。だから今日みたいな仕出し弁当ホントに最高」


「セリーさん…どんどん女神に近付いていってない…?」


「お腹空いたらお芋ふかして食べたり、茄子のお浸し食べたりするだけで満足なんだよね。腸が健康になる感じ」


「うーん…我々がセリーみたいになるには、精神も肉体も整えなければならないということか…」


「お腹空いたらお菓子食べちゃう我々には果てしない旅路ではないか」


「近くにお手本がいるんだから、目指すだけは目指してみようぜ」


「まずは週7はなやぎ弁当から始めてみますか」


「セリー!セリー!このかぼちゃサラダ作ってー!」


「オッケー。今度試しに作ってみる」



かぼちゃサラダを一口食べて、何度か頷いてみせた芹。

心地よい秋風に吹かれながら、面々は幸せな今に意識を向けて食事を続ける。



「あぁ…良いわぁ…」


「人間はこうして緩急を味わいながら生かされておるのじゃな…」


「ねぇねぇ!!不思議なんだけど、生かされてるんだとしたら、何の為に生かされてるのかな?!」


「そりゃーーーーー…何の為なんでしょうね?潮さん」


「そりゃぁ、やるべきことがあるからじゃないの?」


「ええ?!やるべきことって何なのさ」


「ーーー継続、支え合い、調和、理解。その大切さと難しさを知る。その先に愛があることを知る。それを全員が知らなければいけない旅」


「超ソウルフルな旅だね」


「えーー!!じゃぁ、知ることが出来なかった人は?どうなっちゃうの??」


「知ることのできる道に導かれる。諦めたら旅はそこで終わり。どうしたら良かったのか、分かるまで何度も復習、応用、勉強!」


「ぎぇぇぇぇぇぇ…!!!」


「……。潮、それ…」


「そ。頼人の受け売り」


「頼人…って、セリーの…」



驚いた芹の大きな瞳が、潤んでいく。

空気が涙の水分を含んだのを感じて、周と蛍が芹の背中を優しく撫ぜた。



「復習、応用、勉強。やってたら苦に思うかもしれない。このループはただ苦しいだけかもしれない。でも心の奥底ではきっと、そうじゃない。そうでしょ、芹」


「……そう。だって、自分で、その道を選んで旅を始めたんだから」



言いながらおそのの差し出したハンカチを受け取って、静かに拭く芹。

空気を変えようと無理やり笑ってみせた芹の肩を、かのあが優しく抱いた。



「ごめん、潮から頼人の言葉を聞くなんて…思わなかったの…。私が話題に出した時くらいしか、頼人の話なんてしなかったから…うれしくて…」


「……確かに、久々に話題に出したかもなぁ。まさか芹が泣くとは思わなかったけど」


「……いつか、3人で一緒に紅葉を見に行ったよね。あの日のこと思い出しちゃった…」


「あぁ…そんなこともあったね」



ぶわ、と大きく吹いた風が、紅葉を纏ってしばらく芹の周りを踊るように舞った。

それを見た潮の顔が優しく綻ぶ。



「何だ、この中に魔法使いがいるのかと思ってたけど……未練がましい阿呆のお出ましだっただけか」



風が運んできた木の枝が、そう言って笑った潮の頭に直撃した。

次いで芹の顔に浮かんだ、泣き笑い。



「頼人、潮をいじめないの……」



美しい涙が机に零れ落ちた、秋の午後。

嗚咽を堪える芹の泣き声を、渓流の心地良い水音が優しく包み込んでいた。









*   *   *   *   *   prologue








(さー皆さんお待ちかね、私特製の芋きんつば、栗蒸しようかん、あと色々でーす)


(ほわーーーーー紅葉の上生菓子うつくしーーーー!!!)


(ふぉおおおおよもぎときなことずんだのだんごおぉぉぉぉぉぉぉぉ)


(えー待って、塩豆大福もある。私おそのの塩豆大福が一番好きなんだよね、嬉しい)


(きんつば最高かよ!)


(栗蒸しようかん大好き!おそのありがと~)


(腕によりをかけて作らせて頂きやした、どうぞ召し上がれー)



(うまー)


(うまうまですわぁ)


(うんうん、我ながら美味いわ)


(あー、幸せ…おそのの和菓子食べたら幸せ感じちゃう…)


(おいし~!今日もあんこの塩梅最高です!)


(きなこのだんごうめぇぇぇぇぇぇぇ)


(あんた本当きなこ好きだねー。今度きなこ餅作ったら持って行ってあげるわ)


(はぁ!?ありがたすぎる!!頼んだ!)



(はぁ…旬のもの食べられるってサイコーだわ…)


(栗うんまー芋うんまー)


(今日も美味しい和菓子をご馳走様でした)


((((ご馳走様でした!))))


(いえいえ、こちらこそ。いつも美味しく食べて頂いて感謝っすわ)


(そういえば、この前おじいちゃんちょっと辛そうにしてたけど…大丈夫そう?)


(うん。まぁ、年齢もあるからね。向き合いたくない現実もあるけど、今与えてもらえる技術は全部耳の穴かっぽじって聞いておくつもり)


(その話題は、秋の風がさらにしんみりした気持ちにさせますな)


(長生きしてくれよ、じいちゃん…)


(じいちゃんは幸せだよ。長生きしてくれって願ってもらえるなんてさ)


(和菓子、おそのが引き継いでくれて本当に良かった。何度でも思うけど、英断だ。我が友よ)


(しみじみ思うよ。君らがいてくれなかったら、じいちゃんの味を次世代の人間は食べられなかったってことだもんな)


(食べられる我々は特別だね。おじいちゃんとおそのの和菓子を味わえるんだから)


(本当にそう思う)


(バイトが必要な時は言ってよ。うちのかのあちゃんを差し出すからさ)


(確かに。たまにじいちゃんがしなくていい仕事は他の人に任せられたらなーって思うことがあるから、ちょっと考えとく)


(おかしいな?!本人が何も言ってないのに勝手に話が進んでない!?)


(意外と効率良く色々作業したりするから、多分お手伝い向いてるんだよかのあは)


(私もそう思う。かのあにできそうな仕事が有ったらまた連絡するわ、よろしくー)


(えぇぇぇぇ…?!まぁいっか!!)


(潔くて好き)


(おそのたちの和菓子屋を見てると、時代の移り変わりを身近に想うよ)



(さぁ、そろそろこの美しい非日常から戻りますか)


(うちらの幸せなところは、この非日常から戻っても、楽しい日常が待ってるってとこだよね)


(マジそれな)


(時代が巡っても、大切な人と繋がっていられる幸せは忘れずにいたいね)


(愛おしい毎日ですわ)


(まだ先だけど、年が明けて春になったら…今度はあまねんの卒業式ですなぁ)


(そうなんだよね~!季節が過ぎる度に実感しちゃう)


(これからどうしていくかとかって、聞いていいの?)


(うーん……一応、色々思ってることはある。でも、まだ確定じゃなくて…決まったらまた教えるね!)


(了解。お祝い考えなきゃなー)



(あー、今日も良い1日だった)


(素敵な紅葉日和でしたわ)


(おその、ありがとね)


(何の何の。また行こうぜい)







第二十三話 了







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