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はなやぎ館の箱庭  作者: 日三十 皐月
第2章 「箱庭の夢語」

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第22話(2)








〔ハロウィンの季節がやって参りました〕



〔やったー〕

〔今年はどうしますか、諸先生方!!〕


セリー

〔来たね ハロウィン〕

〔今年は何の料理作ろうかなって、実はこの半年くらいずっと献立練ってた〕


〔クッソ分かりみ深くて鼻水出た〕

〔わいも去年のハロウィンから既に来年のハロウィンの為に動いてましたわ〕


あまねん

〔分かる~!去年とはちょっと違う感じにしようと思ってずっと考えてた!〕


〔もうね、先生方の思うがままに!!自由に!必要な物が有れば何なりとこの潮めにお申し付けくだされ!!〕


〔何なのそのテンション?〕


〔楽しみで…〕


〔分かるけど…〕


あまねん

〔ちなみに、小梅さんからたくさん栗を頂いたので!〕

〔今年はしっかり栗のモンブランを作ろうと思ってます~!お楽しみに!〕


〔モンブランキターーーーー!!〕


おその

〔うおおおおおモンブランキターーーー!〕

〔そういえば、今年は栗拾いのお手伝い要らなかったん?〕


あまねん

〔うん!息子さんと娘さんがお孫さん連れてお手伝いに来てくれたみたい!〕

〔それでたくさん採れたからって、お裾分けしてくださったの〕


〔なんてこったい〕

〔御礼しなきゃですな〕


おその

〔ありがたやー〕

〔モンブラン!モンブラン!モンブラン!〕


セリー

〔今萌に伝えたら飛び跳ねて喜んでたよ〕

〔改めてになるけど いつも美味しいお菓子をありがとうね、周〕


あまねん

〔えへへ、こちらこそだよ 喜んでもらえて嬉しいな~!〕

〔あ、そうだ 栄さんからお野菜たくさん頂いたから、ハロウィンのお料理作る時に良かったら!〕


セリー

〔ありがとう、助かります〕

〔それ見て献立もまた色々増やしたりしようかな〕



かのあるふぁ

〔うおおおおおおおお!!!あまねんのお菓子もセリーの料理も最強の神イベキターーー!!!〕

〔うきうき!で?!蛍ちゃんは!?蛍ちゃん今年のお衣装はどんな感じなの?!〕



〔えっとね〕

〔今年は全員同じ衣装にしようと思って〕

〔前回のハロウィン終わってから着々と全員分一年かけてお揃い衣装作りました〕


〔おお〕

〔マジですごいなお前…〕


〔いやぁ お揃いっていいよね〕

〔この前那由多くんが遊びに来た時にくれたお揃いTシャツあるじゃん?〕

〔あれ見てね 改めて「良かった…やっぱお揃いって…いいよなぁ…」って思ったわ〕


かのあるふぁ

〔う゛えぇぇぇぇお揃いマジ?!?!やったー!!〕

〔ん…?いやちょっと待って!喜んでみたけど、一体何のお揃いなの…??っぱそれ次第でしょ!〕


おその

〔まぁ落ち着けって〕

〔お揃いってことはつまり、前回みたいに好感度割り振りがないわけだからさー〕

〔萌りんがいるってことは、心配しなくてもそんな変な衣装じゃないでしょ〕

〔むしろ萌りんバフで超かわいい可能性まであるぞ〕


かのあるふぁ

〔おいおいマジかよ!!平等万歳ってコト?!〕

〔かのあ結構差がついてる方が好きなんだケド!!〕


おその

〔こいつ…そんな堂々と…〕


〔怖いものないんかお前は〕


おその

〔お前が最強だよ〕


〔まぁまぁ、皆々様そうかっかしなさんな お揃いといえど、個人差はあるように作ってますから〕

〔というわけでね 先に何のお揃いかって説明しときますと〕

〔なんと、コンセプトは魔法使いです〕


かのあるふぁ

〔ま…魔法…使い…!?〕


〔魔法学校に入学体験というコンセプトでね、君たちは一日だけ魔法学校に通う少女たちになります〕

〔個々人でちょっと違う感じにはしといて、大体はお揃いにしてるってワケ〕

〔一応そんな感じなんで よろしくっす〕


おその

〔フーン?まぁ、蛍が作る服なら全部かわいいと思うからさ?〕

〔あ、でもきちんと寝てよね?体とか普通に心配になっちゃうから〕

〔蛍の器用なところって…最高に魅力的だよね〕


セリー

〔今になって気が付いたんだね、好感度の必要性に〕


〔あまりにも取って付けたような誉め言葉で草なんよ〕


〔うーん〕

〔全部今思いつきましたって感じで0点ですわ〕


おその

〔まぁ…正直ちょっと雑巾絞ったら出て来たみたいな感じで出たよね〕


〔雑巾はさすがにマイナス50点〕


〔下げていくねぇ〕

〔チーム戦だったら終わってたな〕


おその

〔おかしいなぁ…本心ではあるんだけどなぁ…全部…〕

〔クソォ!!一体どんな服になるってんだよ!!〕


かのあるふぁ

〔蛍!蛍!蛍ちゃん!〕

〔かのあのことが一番大好きな蛍ちゃんは、かのあにとびきりきゃわたそな服を用意してくれてるって思っても良いんだよねぇ?!そうだよねぇ?!〕


〔まぁお楽しみということで〕


〔どこをどう過大評価したらお前が好感度1位に躍り出てる世界線にいると思えるんだよこの甘ちゃんがよぉ〕

〔1位は私に決まってるだろ なぁ蛍ちゃん〕


〔一つ言えるとしたら、両者下から数えた方が早いよね〕


〔うーんこの〕


かのあるふぁ

〔うーーーーんこの!!〕


おその

〔やばい 絶対下から数えた場合の優勝者が私だって分かってるのに、やっぱり楽しみになってる自分がいる〕

〔魔法学校かぁ うきうきしちゃうなー〕


〔今年も良いメンタルですねぇ〕


〔いやいや 冗談ですやん 順位なく全員大好きですよ〕


かのあるふぁ

〔言ったな?!言ったな蛍!?信じてるからね?!!〕


〔大丈夫大丈夫〕

〔一旦全部かわいいから大丈夫大丈夫〕


セリー

〔個々人でどんな違いが施されてるかはさておいて、やっぱり楽しみだなぁ〕

〔魔法学校って聞くとうきうきしちゃうね〕


〔夢があるよねぇ〕


〔楽しみにしておいてくださいよ〕

〔てなわけで日にち決めて、写真館でまた写真撮ってもらいますか〕


おその

〔おっけーい おじさんには私から話しておきますー〕


セリー

〔献立もぼちぼち決めとくね〕


あまねん

〔私も~!お菓子楽しみにしておいてね!〕


〔ありがたや 皆々様よろしくお願いしまっす〕


かのあるふぁ

〔よろしくーーー!!ファーーーー楽しみーーー!!!!〕











「なんでなん?」



ーーー10月末日、待ちに待ったハロウィンパーティ当日。

今年もいの一番に不満げな声を上げたのは、しまうまの着ぐるみを着たおそのだった。



「なんでこうなってしまうん?」


「それはな。わいが昔、着ぐるみを作ってみたい欲に駆られた時に作り出した渾身のしまうまさんです」


「いやそれ去年聞いた。なんで?なんで再びしまうま?いいじゃん別に、普通にお揃いで良かったじゃん」


「まぁまぁそんな遠慮しないで」


「くっ…私のどこが『一日だけ魔法学校に通う少女』だってんだよ…!魔法学校に通うしまうまさんじゃねぇか…!」


「実際着ぐるみに服合わせる方が楽だったんだよねぇ」



和洋折衷を蛍なりに取り入れた、魔法学校をテーマに作られた制服。

おそのの衣装は着ぐるみに合わせて可愛く見えるように少々大き目に象られている。

かわいいけど…かわいいけど…と着用したしまうまが項垂れる中、次に声を上げたのはやはりフラミンゴの着ぐるみを着たかのあだった。



「ねぇ!!おその見てそうだろうと思ってたけどやっぱりそうじゃん!!!」



着ぐるみと共に華麗に着こなしたかのあの衣装が、悔しさに床をだんだんと叩く度にふりふりと揺れる。

和柄とレースが美しく融合され、フラミンゴのお尻に沿ってふんわり造形されたスカートがとても愛らしい。

蛍はそんな様子を見つめながら、満足の出来栄えにうんうんと頷いてみせた。



「それはな、私が昔着ぐるみを作ってみたい欲に駆られた時に作った渾身の…」


「それ去年も聞いた!!も゛ーー!!超かわいい魔法使い期待してたのにー!!」


「いや、充分かわいいけどね」


「いやホントめっちゃかわいいけどさーー!!違うよーー!人間として着たかったんだよ゛ぉーーー!!!」



「向こうで悲痛なフラミンゴの声が聞こえるわ…」



そんな2人を見つめて言ったのは、高いクオリティの衣装を着こなした芹。

魔法学校さながらの杖と帽子を持った芹は、和モダンなミニスカートのプリーツを気にしながら変なところがないかセルフチェックをして溜息をついてみせた。



「てゆうかこれちょっと…短すぎない?一応20歳超えてるんだけど、これセーフなの?」


「セーフなんだけど色んな意味でアウトだわ…おい蛍。ありがとうな」


「まぁこれに関してはどういたしましてと言わざるを得ないよね」



すらりとした足に薄いレース生地の黒タイツを着用したセリーを見て、しみじみと蛍に御礼を言う潮。

芹は姿見で自分の衣装を確認した後、恥ずかし気に一つ笑みを溢した。



「うーん、短いのはやっぱり気になるけど…だめだ。衣装が可愛すぎる…蛍、あんたやっぱり天才だよ。センス良すぎ。ありがとう」


「こちらこそありがとねセリー。やっぱり私史上最高のモデルだよ。毎回私の想像を上回ってくるの女神すぎんよ」


「この羽織めちゃくちゃ好きなんだけど。どうやったらこんな衣装作れるの?」


「そりゃぁセリー。愛ですよ愛。セリーにどんな服が似合うかなって考えて作ってたらこうなったってワケ」


「ホントに天才じゃん…」



感動しきりのセリーが姿見の前でくるくる回るのを、潮が無言で動画に収める。

その潮をにやにやしながら動画に収めるかのあ。その全体の様子を頷きながら動画に収める蛍。


平和な空間の中、たったったと軽い足音が駆けてやってきた。

そこに現れたのは、芹とお揃いの和柄の羽織とシャツを身に纏い、愛らしいバルーンミニスカートを履いた萌だった。



「じゃーん!見てみてー!」


「「「ぎぇぇぇぇぇぇかわいいいぃぃぃぃぃ!!!!」」」



蛍、おその、かのあが、あまりの可愛さに一言一句違わず驚愕して叫ぶ。

衣装に合わせてかわいくヘアセットした萌が、へへへと恥ずかしそうに笑ってくるりと回った。



「周ちゃんがね、髪かわいくしてくれたの。かわいいでしょー」


「やっっっば…!可愛さがカンスト天元突破…!」


「同じ生物とは思えん…かわいすぎる…!」


「不思議なんですが、この子が視界にいてくれるだけで幸せになれます」


「絶対何か出てるよね。健康と幸せになれる光の粒みたいなやつ」


「ご利益ありがたし。拝むか…」


「えへへー。じゃぁ、よしよししてあげるね!」


「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」」


「やめてやめて、頼むから変な声出すのやめて」



萌に撫でられて悶絶する蛍とおそのを、慌てて宥める芹。

そこへ、自分のヘアセットを終えた周が合流してきた。


白い繊細なレースをあしらった和柄の羽織と、細かくプリーツの入った二層のロングスカート。

腰元の大き目リボンが特徴的なその衣装は、周の雰囲気と良く合致していた。



「お待たせ~!どうかな?勝手に萌ちゃんとお揃いな感じで巻いてみちゃった~!」


「周、萌のヘアセットしてくれてありがとう。2人ともめちゃくちゃかわいい」


「やった~!これかわいいよね、練習しててよかった!」


「周ちゃんありがとー!」


「どういたしまして~!」



きゃっきゃと楽しそうな萌、芹、周の3人。

それを見つめていたしまうまとフラミンゴが同時に床に崩れ落ちる。



「お…お…おかしいだろ!!お揃いって言ったのに!この差はおかしいだろ!!」


「え?でも隣にいるフラミンゴが言ってたじゃん…結構差がついてる方が好きって…」


「うわーーーーーん!!身から出たサビィィィ」



そんな2人を横目に、周と萌が蛍お手製の杖をにこにこと振って見せた。



「ねぇ見て~!この杖、ほんとに魔法使えそう!えいっ」


「萌もやる!えいっ」



「う…うおーーーん!!羽だから杖も持てないよーー!!」


「人間になりたい……」



蹄を嘆いて杖を見つめるおそのと、着ぐるみの造形に邪魔されながら大の字で横たわるかのあ。

そこへ、杖とテープを持った萌が心配そうに駆け寄って声を掛ける。



「しまうまさん…フラミンゴさん…泣かないで、杖を持ちたいのね。大丈夫、萌がテープでくっつけてあげる!」


「ありがとう…ありがとう親切な魔法使いのお嬢さん…」



しかしテープでは上手く固定できず、床に何度も転がってしまう。

貼っては剥がれて落ちていく様子を見かねた蛍が、余った布を使ってささっと杖が持てるように縫い合わせてあげた。

おそのは感激して涙を流すと、萌と蛍にひざまずいてみせる。



「お慈悲に感謝します…!!来世人間になれたら、必ずやお二人のお役に立ってみせます…!!!」


「しまうまさん、良かったね!」


「精進したまえ」


「蛍さまぁぁぁぁ!!このフラミンゴにも杖を!!杖をーーー!!」



着ぐるみ組2人が杖を持てるようになったところで、早速魔法使い一行は写真館へと向かうことに。

蛍とフラミンゴが潮の車に乗り、萌と周としまうまが芹の車に乗り込む。

「ちょ、後部座席でごそごそするなフラミンゴ。後ろ見えんわ。蛍、フラミンゴの頭下げといてくんない?」「ラジャ」「いだだだだだだだだだ」

「ごめんねおその、頭下げててもらっちゃって。後ろ見えなくてさ」「いやいやご褒美ですよ…チャイルドシートのこの高さが丁度いい…萌さまの膝枕最高でやんす…」「2人ともこっち向いて~」

という両極な会話を繰り広げながら、程なくして商店街へ到着。



「いったー…!腰も首も足も痛い!去年もだけど着ぐるみで車はやっぱ無理ゲーだよ!」


「いやー…快適でしたわぁ。萌さまの膝枕マジで神」


「はぁ?!ひっ膝枕!?おかしいなぁ!首長デカ着ぐるみ後部座席詰め込みの条件は一緒のはずなのに!お゛かしいな゛ぁ!!」


「見て見て、膝枕の写真撮っちゃったの~かわいくない?」


「幸せそうな顔しやがって…」


「萌、しまうまさんの頭ずっとよしよししてたの!ふわふわだった!」


「えー。この写真めっちゃかわいい。周、あとで私にも送っておいて」


「了解だよ~グループメッセの方にも送っとくね!」


「ありがてぇ」



今年も目立ちながら通りを歩き、写真館へ足を踏み入れる。

扉を開けると、予約時間を待ち望んでいた店主が飛び上がって喜んだ。




「来たかい!!おやおやおやおやおやおやおや!!」



「どうもどうも、よろしくお願いしますー」


「こちらこそだよ!こりゃまた今年も美人が勢揃いで!今回は魔法学校がテーマなんだってねぇ!よく似合ってるねぇ!」


「はい、今年も蛍に仕立ててもらって、しまうまとフラミンゴも連れてきました」


「蛍ちゃん…君は本当にすごいねぇ…。着ぐるみに合わせて服を仕立てることもできるなんて!おじさんその才能には脱帽だよ。素晴らしい!」


「あ、ありがとうございます…へへ…」


「お揃いのようでいて、一人一人個性を見ながら特徴を持って仕立ててあるし。本当に特別なことだよ?やろうと思って簡単にこなせるものじゃぁないからね。誇りを持ってね」



それぞれの衣装をじっくりと眺めて一つ一つ頷きながら鑑賞する店主。

最後に恥ずかしそうな蛍の両肩をぽんぽんと優しく叩く。



「さ!じゃぁ早速!スタジオへ入ってもらおうか!!」



予め聞いておいたテーマに沿って整えられたスタジオに入った面々は、各々感嘆の声を上げた。

ファンタジー世界の図書室のようなセット、魔法薬の小瓶が並べられた教室のようなセット、中世をイメージした食事を並べた食堂のようなセット。

3つのセットを見比べて、7人のテンションは最高潮に上がる。



「待って、おじさんすごすぎない?」


「これ全部揃えたんすか?待って、気合いが…いくらかかったんですこれ?」


「実はねぇ。おじさんは手先がとっても器用でねぇ。商店街の文具店とか厨房用品店とか家具屋で揃えたものをちょちょっとそれっぽく改良してみたんだよ!」


「ちょちょっとそれっぽくのレベルじゃないっすよ」


「ちなみに料理はね!マイスウィートハニーの美代ちゃんが作ってくれたんだよ!料理上手だろう?30年食べてるけどいつまでも美味しいんだ」


「すごい…!アニメの世界から飛び出してきたみたいな食事…!クオリティ高!しかも美味そうすぎる」


「マイスウィートハニー呼び、特殊すぎて解釈一致すぎるなぁ」


「美代さんいつもお世話になってるけど、いつも朗らかで優しいよ。あれはマイスウィートハニーよホントに」


「ああそうだ、おそのちゃん。美代ちゃんがね、今度親戚の集まりで和菓子を頼みたいって言ってたよ。近々予約するからまたよろしくね!」


「はーい、待ってます」


「商店街あったかいなぁ」



着ぐるみ組がセットの小物類にぶつからないように慎重にスタジオに入り、潮たちもその後に続く。

腕まくりをした店主がカメラを持つと、写真館の雰囲気が一気に変わった。



「さぁ!思う存分撮らせておくれ!」


「「「「「「「よろしくおねがいしまーす!」」」」」」」








ーーー小一時間後。



「あーーーーーーー今年も楽しかった…!!おじさんに歓びを与えてくれて、本っっっっっっ当にありがとう…!!!」


「おじさん、逆になってる。お客こっちだからね、深々お辞儀やめてね」



並んで魔法書を眺める潮と蛍。

魔法瓶を手に実験をする芹と周。

フラミンゴとしまうまと萌のお茶会。


魔法書を棚に戻す周と、椅子に座って魔法書を読む萌。

魔法薬の調合に失敗して煙を浴びるフラミンゴとしまうまと蛍。

食堂で仲良く食事を楽しむ潮と芹。


他にも並んで撮ったり、好きなようにポージングしたり、色んなパターンで写真を撮り終えた一行は、店主に頭を深々下げられて困惑していた。



「むしろ御礼を言いたいのはこっちなんですよ。こんな細かいセットまで用意してもらって…本当にありがとうございます」


「何を言うんだい。そもそもね、いいかい?君たちね、各々この写真館の宣伝をしてくれてるだろう?だから本当に、細々やっていた頃に比べて10倍くらいの予約を貰ってるんだよ。商店街が盛り上がってた時以上のだよ?これがどれだけ幸せなことなのか。君たちが写真家としての生きがいを与えてくれてるんだ」


「それはおじさんの人柄と腕が良いからですよ」


「そうそう。我々は良いものを広めてただけで。その後のリピートや広がりはおじさんのそもそも持ってる能力がでかいからっすよ。良いものは愛されて続いていくんですって」



潮や蛍の言葉に、店主は涙ぐみながら答えた。



「漫画家の蛍先生がコスプレ撮るなら絶対此処って言ってたので気合入れて来ました!ってアニメの服着てきてくれる若いお嬢さん。小説家の潮先生が作品に出した写真館のモデルって此処であってますか?聖地巡礼も兼ねて推しキャラのぬいぐるみと一緒に写真お願いしたいんですがって予約してくれる熱烈ファンの子たち。和菓子屋さんの写真見てたら、此処で写真撮ってもらったって聞いたんだが、うちのお店の前でも家族写真をお願いできないかって出張写真をお願いしてくれたお爺さん…」


「……おじさん…」


「芹ちゃんと萌ちゃんが映った写真を見せてくれてね、うちも絶対此処で撮るって決めてたんですって七五三や入園入学祝いを撮りに来てくれるたくさんのママさんたち。セットを自分で自由にできるって聞いて来ました!って好きなアイドルのグッズを持ってきて、楽しそうにスタジオセッティングして推しカラーに包まれて写真を撮りに来てくれるお嬢さん方。かのあちゃんが自分のゲーミングルームを撮って貰ったって聞いて撮ってもらいたくて!と予約を受けて色んな子のゲーム部屋にお邪魔して写真を撮りに行く機会も増えた」


「うおー、それいいなぁ」


「ゲーミングルームの写真かー」


「こだわってる人多いからね!かのあも実際撮ってもらって、部屋に飾ってるけどマジで一生もんだよ!」


「煌びやかだったり、落ち着いたシックな色合いだったり。どの子も自慢のゲーミングルームなんだと一目で分かる。それぞれのお部屋に合った額縁に入れてプレゼントさせてもらったよ」



こんな機会には、君たちに出会ってなかったら間違いなく巡り合えなかった。

そうしみじみと溢した店主がハンカチで涙を拭う背中を、周たちが優しく撫でる。



「残したいものも飾りたいものも人それぞれ違う。世界は色んな需要で溢れてる。人類はもう、どこにどうお金を掛けるかじゃなくて、何をどう愛すか、その為に何が必要かを考える時代に来てるんだ。そう気付かせてくれる道へ導いてくれた君たちのことを、おじさんは世界一愛してる」



魔法使いやフラミンゴに抱きしめられて、店内ごとしんみりと優しい雰囲気に包まれる。



「おじさん。我々の1分1秒を愛情込めて記録に残してくれてありがとう」


「意識しないと通り過ぎちゃう今っていう時間を、おじさんのお陰でいつでも愛せるよ」


「素敵な写真を、いつもありがとうございます」



「こちらこそだよ…!」













「じゃぁまた新年には来年度のカレンダーを送るからね!期待して待っててね!」


「はーい!ありがとうございました」


「ありがとうございました~!楽しみにしてます!」


「また来まーす」


「またいつでも来てね!素敵な時間をありがとうー!!」



今年も「おまけさせて!」「いや代金払います」のやり取りを終えて、無事会計を終えた面々。

写真館を出て、車に戻りながら楽しかった時間の余韻に浸る。



「カレンダーまじでいいんよなぁ。同じ月の一年前の自分たちが見れる仕様正直クッソエモくね?」


「エモい。エモすぎて無駄に見てにやにやしちゃうもん」


「去年の今頃こんな感じだったよなぁ…ってなるの切なくて最高」


「いやー、しかし楽しかったなー。やっぱカメラに撮られるって思うと最初緊張するんだけど、撮り続けてるとエンジンフルスロットルになるよね」


「セットがさぁ。ガチすぎて段々現実との境がわけ分かんなくなってくんだよね」


「分かる。あとおじさんが撮るの上手すぎる件について」


「プロよなぁ」


「萌もね、すっごく楽しかった!またしまうまさんとフラミンゴさんとお茶会できて、ハッピーだった!」


「萌りんが喜んでくれて嬉しいんだけど、もしかして来年もこの着ぐるみじゃないよね…?」


「ま。また好感度上げ頑張ってよ」


「うおおおおおん!!現時点で既に着ぐるみ確定でホゲェェェェ」


「分からんよ。パワーアップしてるかもしれん。ちょっとずつ人間に近付いていくパターンかもしれんぞ」


「有りやなぁ」


「いや何が有り!?ちょっとずつ人間に近付いていくパターンって何?!どういうパターン?!」


「首がちょっとずつ短くなっていくとか」


「着ぐるみの面積が少しずつ減っていくとか」


「正直杖縫い付ける作業面倒臭かったから、もしかしたら来年は手は出る仕様に変更してるかもしれませんな」


「人間になるまでに何年かかるのさ!!」


「地道にね。やっていこうよ。千里の道も一歩からよ」


「人間になるのって大変なんだなー」


「そうね。人間楽しんで行きましょうよ」



楽しげな魔法使いの一行は今日もまた、はなやぎの帰路を行く。

7人の声が、商店街の通りに心地よく響き渡っていた。








*   *   *   *   *   epilogue








(じゃーん!ハロウィンモンブランだよ~!)


(((モンブランキターーーーーー!!!)))


(かぼちゃのクッキーでハロウィンっぽくしてみました!他にもハロウィンのお菓子また今年もたくさん作ったから、好きに食べてね~)


(あー ロングスカートにして良かったぁ…今年もお菓子を持ってくる姿最高っすあまねん)


(ありがとう!私もこの格好気に入りすぎてやばい!ありがとう蛍!)


(わーい、モンブランだー!あまねちゃん、ありがとう!)


(いいえ~!その笑顔が見たくて作ってるんだよね…!)



(じゃぁ早速…ハッピーハロウィーン!あまねんありがとー)


((((((ハッピーハロウィーン!))))))


(ぅおおおおおうまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)


(あまねんの作るモンブランうますぎだろ…?!)


(えへへ、ありがとう!中にクランチチョコも入れてみたんだ。どうかな?)


(最高。文句なしの☆5。リピ確)


(アーモンドクラッシュも入ってる?美味しい)


(そう!今年は滑らかなだけじゃなくて、食感も楽しんでほしくて入れてみちゃった!)


(合いますわー美味いっすわー)


(飽きさせない女、あまねん)


(マジ天使やなー)


(嬉しいな~!今年も喜んでもらえて私も最高!ハッピーハロウィン!)




(と、いうわけで今日の晩御飯ですが。ハロウィン海鮮丼にしよう思ってます。意義のある人ー?)


(どええええええええ?!?!ハ、ハロウィン海鮮丼?!)


(やったー海鮮丼だー)


(前に潮が海鮮丼やってくれるって言ってたんだけど、ずっと保留になってたんだよね。せっかくだからこの機会にハロウィンっぽい海鮮丼にしたら面白そうだなと思って)


(前に海鮮丼をしたいと思ってカートに入れたままだった海鮮類をね。頼み忘れてたことに気が付いて。セリーが今年はハロウィン海鮮丼にしたいってことだったんで、この前頼んで解凍しておきやした)


(大量のうにをカートに入れてるって聞いてからずっとそのままだったもんね)


(そうそう。まさに大量のうに。セリーに言われなかったら一生カートに入ったままだったよ)


(魔法使いの格好で食うもんじゃないような?と思ったけど、まぁ和装でもあるし万事オッケーか)


(魔法使いが海鮮丼食って何が悪いって?)


(うにたっぷりで頼む)


(ふぉあああハロウィン海鮮丼ってどんな!?楽しみすぎるーーー!!!)


(海鮮使ってハロウィンっぽくあしらったやつとか追加で乗せてもらうだけだけどね。基本は好きな海鮮乗せてもらう感じで。後はスープとか他の料理をハロウィンっぽくしてるくらいかな)


(いや充分すぎますよセリーさん)


(和食ハロウィンなんでね。ハロウィンかぼちゃの煮つけ、おばけスパイダーのいかすみパスタ、がいこつくんのツナポテトサラダとか。あと九尾の大好きな油揚げ入り味噌汁とか)


(お腹すいてきた…)


(あ。萌の為に甘海老といくらもたっぷり買っておいたからね。たらふくお食べ)


(わーい!萌、甘海老もいくらも大好き!潮ちゃんありがとう!)


(セリーの料理今年も楽しみすぎる!和食だったら日本酒とかも用意しちゃおっかな~)


(いいね。そしたら栄さんがくれたお野菜の中に茄子とか色々あったから、おつまみも適当に作っちゃおうかな)


(最高!!最高ですセリーさん!!)


(じゃぁそんな感じで)


(今年も最高のハロウィンだわ…)


(来年はどうしようかなぁ)


(いや早いですセリーさん まだ終わってない終わってない)










第二十二話(二) 了









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