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はなやぎ館の箱庭  作者: 日三十 皐月
第2章 「箱庭の夢語」
33/39

第19話 (1)





ー招待状を送信しましたー

対象者:バンビ

プラン作成者:潮


〜癒しの旅へお連れしませう。徒然じょしたび部〜


*1日目

9:30〜 着物着付け体験&人力車で下町巡り

12:00〜 スイーツ&ランチビュッフェご招待

〜観光バス乗り放題チケット有り〜

ー温泉入り放題チケット有りー

17:00〜 リラクゼーションコースご招待

19:00〜 宿泊施設にて「地産地消の郷土料理御膳」(地酒満喫メニュー付き)


*2日目

8:00〜 宿泊施設にて「里の採れたて朝ごはん御膳」(季節の果物満喫メニュー付き)

9:30〜 波打ち際で乗馬体験

12:00〜 海の家にて「浜焼き食べ放題」ご招待

〜観光バス乗り放題チケット有り〜

⭐︎15:00以降のお受け取り

[期間限定ジェラート2種お持ち帰り券]

抹茶ジェラート、マンゴージェラート



〔バンビー〕

〔朝早いけど起きてる?〕

〔こんな感じのプランなんで、よろしくお願いしますねー〕


バンビ

〔やだ!起きてるわよ失礼ね あんたじゃないんだから〕

〔了解だけど、何よ?このプラン名〕


〔プラン名のこと言うのやめてねー〕

〔じゃ、もうすぐ出発らしいんで、2人のこと頼みました〕


バンビ

〔言われなくたって、もう準備して駅で待ってるわよ〕

〔ゴリゴリにパンプアップしてきたから任せて頂戴〕

〔今あたしはゴリゴリのゴリバンビよ〕


〔いやぁ ゴリバンビ先輩マジ頼りになりますわぁ〕


バンビ

〔あ!!でもあんた!ちょっと待ちなさい!〕

〔報酬忘れてないでしょうね!〕


〔大丈夫っす 本人からもお嫁さんからも許可もらってるんで〕

〔協力してもらって 既にとびきりのポスター5枚用意してありまっす〕


バンビ

〔ふーん?やるじゃない…5枚もくれるの?部屋埋まっちゃうわよ〕

〔どれか剥がして挿げ替えなくっちゃ♪るんるん♪〕


〔さらにですね、喜んでもらえると思って〕

〔鞄にいつでも入れておけるよう専用ケース付きのポストカードもご用意しました〕

〔5枚分全部ありますので日替わりでお使いください〕


バンビ

〔えーーー???ちょっともうやだーーーーーーー!!!!仕事できる女気取っちゃってもーーーー!!!〕

〔あたしとの約束寝坊して3時間遅刻した挙句に悪びれもせず喉乾いたからコーヒー買ってくんない?ってねだってきたくせにやだもーーー!!!潮ったらやだもーーーーー!!!〕

〔いくらでも護衛するわ〕


〔あざす〕

〔じゃ 2人出発したみたいなんでよろしくお願いしますねゴリバンビ〕


バンビ

〔ゴリバンビ 出動します!!〕









「本日はご予約頂きまして、誠にありがとうございます。早速着付けの方に入らせて頂きますね。どうぞこちらへ」



ーーー新幹線での移動を終えてすぐ、駅前の呉服店「すずや花」にて。


潮の作ったプラン〜癒しの旅へお連れしませう。徒然じょしたび部〜

1日目は、まず着物の着付けから始まった。


荷物を置いて、芹と周が持参した着物をそれぞれ差し出すと、早速手際良く説明と準備が為されていく。



「あちらにてお洋服を脱がれました後、お着物用の肌着をご着用くださいね。終わりましたらお声がけくださいませ。足袋をご用意して、その後から着付けをさせて頂きます」


「分かりました」


「素敵なお嬢様方2人、本当に見目麗しくていらっしゃいますこと。お持ちになったお着物も、着てもらえてさぞかし嬉しいことでしょうね」



それぞれ脱衣室に入り、着物の肌着に着替え終えた後、早速足袋を履かせてもらう。

それから衣装敷きの上に広げられた桃色と碧色の着物を見て、2人の心は期待に弾んだ。



「かわいい。お母さんが若い時に着てたやつ譲ってくれて、ちらっと柄だけ見せてもらってたんだけど、広げてみたら印象少し違うね。今からこれ着て歩くんだ。なんか嬉しい」


「分かる!私もお母さんが着てた写真見せてもらっただけだったから、実際に見てテンションあがっちゃった〜!」


「お母様方は本当にセンスの良いお着物を選ばれましたね。お二方にも良くお似合いになると思いますよ」


「ありがとうございます。楽しみです」



ほのぼのとした会話をしながら、てきぱきと着物が着付けられていく。

目の前に置かれた大きな鏡に映る、長襦袢を着た2人が美しく彩られていくのを、担当した店員の人たちがきらきらとした瞳で見守っていた。



「とってもお綺麗でいらっしゃいます。お顔立ちも華やかで、非の打ち所がないとはまさにこのことですね」


「す、すごい褒めてもらえる…!嬉しい…!」


「おべっかではございませんよ」



周に桃色の着物を、芹に碧色の着物を。

着付けが終わると、担当した店員たちから思わず感嘆の声が漏れた。



「いやぁ…本当にお美しい…。これにて着付けは終わりですので、次は髪のセットやメイク直しをさせて頂きますね」


「よろしくお願いします」


「あの…全ての工程が終わりましたら、SNSの方にお写真あげさせて頂いてもよろしいでしょうか」


「あ、はい。大丈夫ですよ」


「ご協力感謝いたします。もし宜しければ、次回いらっしゃる際はお代頂きませんので是非我が社の着物をご着用頂けませんか」


「ええぇ…?!良いんですか…!」



髪をセットして、メイクを直した後。

完璧な着物姿でSNS用の写真を撮ってもらい、次回来店時の特別券を貰った2人。



「あの、今回招待してくれた友人たちに送りたいので、スマホの方からも写真を撮って頂けませんか」


「もちろんでございます」



おすましをしたSNS用よりもラフな様子で撮ってもらって、潮たちへ送る。


すぐに〔かわいいいいいいい〕〔どこのお姫様?〕〔やっっっばい!!!保存した!!!この2人が私の友人だってことを今すぐ誰かに自慢したい!!!〕〔ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとう〕と返信があったのを確認して、2人は吹き出して笑った。



「以上で、全ての着付け作業は終わりでございます。ご利用頂きまして、ありがとうございました。また是非当店にお越しくださいませ」


「こちらこそありがとうございました。またお願いします」


「ありがとうございました!」








ーー呉服店を出て、続いて人力車の方へと向かう2人。


多くの人の視線を釘付けにして歩いていると、予約していた人力車の前で元気一杯に手を振る女性の姿が見えた。



「あ、あの人かな」


「すごい、女性なんだね!やばい…最近ちょっと太ったんだけど…大丈夫かな…!」


「鍛えていらっしゃるだろうから、周が少し太ったくらいで気にもされないよ。そもそも全然太ってないから大丈夫」


「そ、そっか!えへへ」



着物の上から二の腕を気にして恥ずかしそうにする周に、優しく微笑む芹。

そんなほわほわとした空気の中、人力車の前に辿り着くと。

女性は2人へ、はきはきと一つお辞儀をしてみせた。



「こんにちは!本日はご予約頂きまして誠にありがとうございます!夏下なつした 日和ひよりと申します。楽しんで頂けるよう誠心誠意走りますので、何卒よろしくお願い致します!」


「こちらこそ、よろしくお願いします〜」


「楽しみです」


「お着物を着ていらっしゃる美人2人、とご予約者の方から聞いておりましたので、遠くからでもすぐに分かりましたよ!

では早速、お足元気をつけて、ゆっくりとお乗りください!」



2人もお辞儀を返して、早速人力車へと乗り込んでいく。

丁寧な指示の元で座席に座って辺りを見回すと、非日常感に胸が躍るようだった。



「招待状っていう新しいシステムでのご予約に社員一同こんなものがあるんだ!と今朝から驚いていたのですが、すごい機能ですね!」


「そうなんですよ。トークの新システムらしくて。友人たちがプランを練って招待してくれたんです」


「とっても素敵なご友人様方でいらっしゃいますね。私も母にプレゼントしてみようかなー!」



はつらつとした笑顔が素敵な車夫 日和は、話しながらも細かに気遣いをして2人を和ませる。

そして、「では、出発いたします!」の声掛けに返事をすると、人力車はゆっくりと進み始めた。



「ほわ〜!すごーい!」


「すごーい!」


「ありがとうございます!もっと早くなりますよー!」


「わーー!」


「きゃ〜〜!」



悠然と駆け抜けていく風景に、自然と2人揃って黄色い声が上がった。

やがて信号待ちで止まると、海外の観光客の人々が人力車に向かって嬉しそうに手を振ったりスマホを向ける。



「しかしお二方、お着物本当に良くお似合いでいらっしゃいますね!お姫様を運ばせて頂いてる気分になります!昔に御者をしてた方ってこんな気分だったんだろうなぁ」


「ありがとうございます。お上手ですね」


「いやいやホントにですよ!外見も当然ながら立ち居振る舞いもお二方とっても美しいですし、絶対前世で有名なお姫様でしたよね?」


「褒めが過ぎませんかそれは」


「嬉しいね、セリー!」


「あまりにもお二方が素敵すぎるので、今みたいに観光にいらした方や海外の方が写真を撮っていかれることもあるかもしれないのですが、もしお嫌でしたら私の方からお声掛けに行きますので!遠慮せず仰ってくださいね!」



細かな配慮を受けつつ、再び人力車が走り始める。

速度を落として街中へと入っていくと、日和は2人へ質問をした。



「お姫様方!お昼ご飯先は決まっていらっしゃるんですか?」


「はい。友人が招待してくれたスイーツとランチのビュッフェに」


「おーー!良いですね!そういうのも丸1日通して予約して招待ができるんですね!」


「そうなんですよ」


「あ。でも、ランチビュッフェが終わったら少し街を歩くんですけど、小腹が空いた時に何を食べようかな〜とは思ってます!」


「おすすめとか聞いても良いですか?」


「はい!もちろん!でしたら、私がこよなく愛しているひとくち天ぷら屋さんがあるんですけど…」


「ひとくち天ぷら?何それすっごく良い」



そう言った芹の声にニコッと微笑んだ後、日和は右手を前へ向けて一つのお店を示す。



「あちらのお店なのですが、食べ歩き感覚でテイクアウトができて、好きな具材を串に刺して提供してもらえるんです!えび、いか、ほたて、鯵、鱚、さつまいも、椎茸、とうもろこし…全部美味しくておすすめです!」


「どうしよう!お腹空いてきた…!」


「あと、おにぎりもテイクアウトできるんですけど、ここの明太子おにぎりがほんっとに美味しいので!お腹に余裕があったら是非食べて見てください!」


「え!絶対食べようセリー!」


「明太子好きだから嬉しい」


「こうやって体一生懸命動かしてるとどうしても変な時間にお腹が空いちゃうんで、おやつ感覚で鬼リピしちゃってます!何回食べても飽きないですよ」



お店の前を通ると、店主や店員から「日和ちゃーん」「頑張ってるねー!」と声を掛けられた日和が「楽しいでーす!」と答える。

ほのぼのとした光景に笑みを溢す2人に、日和は続けた。



「あ!その時、お土産屋さんとかも一緒に回られますか?」


「その予定です!」


「でしたら、店員さんがコスプレしてるお土産屋さんがあるんですけど、ユニークで楽しいのでお勧めしておきますね!

お着物で接客されてて、ノリもすっごく良いって評判なんです。今日お買い物されても全国配送可能なので旅行から帰ったタイミングで受け取れます!」


「何それ楽しそう」


「今お着物お召しになられてますし、世界観バッチリだなと思って!そこのお土産屋さんだったら、食洗機対応の和柄タンブラーが人気です!色んな色があるので、推しの方とかいらしたらメンバーカラーで買われたりもするみたいですね!」


「え〜!普通にお土産じゃなくて自分に欲しいかも…!」


「でも、かのあは結構欲しがるかもね。部屋にいる時間長いから、保冷保温系は喜びそう」


「確かに!じゃぁかのあはタンブラーにしよっか。おすすめしてくださってありがとうございます〜!助かります」


「いえいえ!お力になれたなら嬉しいです!」



ーーそれから、街の歴史を辿りながら日和の語り口を楽しんだり、オススメのお店を教えてもらったり、景色のいいスポットで写真を撮ってもらったり。


人力車というものを存分に満喫した2人は、コースを全て回った後も降りられずにいた。



「めっっっちゃくちゃ楽しかった〜!降りたくないです私…!」


「えーーっ!ありがとうございますーー!!最っっ高の褒め言葉です!!」


「人力車初めてだったけど、こんなに楽しいんだ…本当にお姫様になった気分でした。お気遣いも本当に細やかで、心から快適の一言に尽きます」


「うわーーーん!!車夫やってて良かった…!ありがとうございます…!」



周と芹の言葉に目を潤ませる日和。

他の車夫の人たちが何事かと声を掛ける中、日和は持っていた手拭いで涙を拭き取ると、精一杯の笑顔を2人へ向けた。



「お2人にお楽しみ頂けて、私も心から幸せです!!叶うなら旅行の間ずっと人力車でご案内したいくらいなのですが…!

私、いつでも此処で待ってますので!!お客さんとしてでなくとも、またいつでもお気軽にお声がけくださいー!」


「ありがとうございます」


「旅行中に何か聞きたいことなどありましたら、その時も是非!いつでも待ってます!」


「嬉しい、ありがとうございます〜!」



そうして、日和は同僚から袋を二つ受け取って、それを満面の笑みで2人へと差し出した。



「こちら、人力車ご利用頂いた方にプレゼントしてます、ペットボトルカバーなんですが!

ジッパーでサイズ変更できますので、小さいサイズにも対応していて。カラビナと肩紐両方ついてますので、鞄に引っ掛けて頂いたり、ベルトにつけて頂いたり、肩に掛けていただくことも可能です!」


「えー!すごい、かわいい!」


「ご旅行の間にお役立て頂けましたら幸いです!」


「めっちゃ助かるね。お昼から歩く時にペットボトル下げて歩けるよ周」


「本当だよ〜!ありがたすぎる!」



和柄の模様と可愛らしい猫のマークがあしらわれたお洒落なペットボトルカバーを受け取って、2人は改めて日和へ頭を下げた。



「今日はありがとうございました。とっても楽しかったです」


「ありがとうございました〜!楽しい旅行の幕開けにぴったりでした!」


「こちらこそです!!本日は貴重なお時間頂き、ありがとうございました!またのお越しを、此処でずっとお待ちしてます!」



ーー日和との別れの挨拶を終えて、駅の前を後にする。

日和は2人が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。





* * * * *





「楽しかったね、人力車」


「すごかったね〜!」



午後0時。

人力車を楽しんだ後、2人は次のプランで予約されていたスイーツ&ランチビュッフェのお店に到着した。


綺麗なエントランスを抜けて、会場に入ると。

既に多くの人たちがビュッフェを楽しんでいた。


たくさんの料理が並ぶビュッフェ台。

案内を受けて席につき、芹と周も倣って早速1巡目の食事を選んでいく。



「おいしそ〜…!何から食べようかな?」


「まずは海鮮行こうかな。あっちにステーキもあるみたい」


「いっぱい料理が並んでるの見てるだけで、何でこんなに楽しい気分になるんだろう。お店も綺麗だし、お皿もお鍋も全部可愛いし…潮たち、ありがと〜!」


「あとで写真撮って送ろう。てか、私さっき雲丹クリームパスタ見つけちゃったんだよね。2巡目で食べなきゃ」



丁寧に料理の並べられたビュッフェ台の前で、器やお皿に食べたいものをのせて回る。


それらを運んだ広いテーブルの上が、色鮮やかに変わっていく様子を、芹と周は満足気に写真におさめた。



「いくらでも食べられそう…!」


「色んな国の料理があったね。かわいい小皿がたくさん用意されてたから、少しずつ楽しもうかな」


「スイーツもたくさんあったよ〜。レパートリーが豊富で嬉しい!」


「お腹の余裕残せるかな?」



ほわほわ楽しそうな2人の空気が、テーブルを包む。

それから手を合わせて「いただきます」と小さく声に出した後、各々が最初のひとくちを口に運んだ。



「おいしい…!」


「美味しいね。好みの味付けで最高」



舌鼓を打ちながら食べ進めていき、お皿の上がみるみる内にまっさらになっていく。

食べ終えたお皿を片付けて、2人は2巡目の食事を選ぶ為に立ち上がった。



「やばい、本当にいくらでも食べられそう」


「わかる!あ…そうだ、セリーがさっき食べてたやつ美味しそうだな〜って思ってたんだよね!ポタージュみたいなやつ」


「ああ、確か…枝豆の冷製ポタージュだったかな。美味しかった。右奥の方にあったよ」


「ありがとう!取ってくる〜」


「私もステーキと雲丹クリームパスタ取って来よう」



周はローストビーフ丼と、枝豆の冷製ポタージュ、アラビアータ、瑞々しいサラダを。

芹はステーキと、雲丹クリームパスタ、シーザーサラダを。


各々好きなものを再びテーブルに並べて、ビュッフェを楽しんでいく。



「あー…前に一緒にビュッフェに行った時も思ったけど、こんなに美味しくて幸せな時間を過ごしてるってだけで最高なのに、それを大好きなセリーと一緒に楽しんでるなんてやっぱりもう…言葉にならないよ〜」


「私も周と楽しめてすごく嬉しい。3回目も楽しみにしてるね」


「きゅ、きゅん…」



食べ終わった後の3巡目は、小皿や小鉢に少しずつ食べたいものを載せていく。

各国の料理がたくさん並んでいる様子に、2人の気持ちも綻んだ。



「日本国内でも場所によって味付けって全然違うから、世界色んなところで食べるご飯が全然違うのは当然なんだけど…改めて並べて食べてみると、本当に色んな味付けがあるんだな〜って」


「不思議だよね。それを全部丁寧に作り分けて提供できるのってすごい。私も勉強しなきゃ」


「あ、セリー!鶏と蕪の薬膳スープ食べた?あれすっごく美味しかったから…!今度作って欲しい…!」


「え、どこにあった?美味しそう」


「左のテーブルにあったよ〜」


「味覚えて今度作ってみるね」


「ありがと〜!」



ーーそれから、存分に食事を満喫した2人は。


お皿を綺麗に片付けて、スイーツが並べられたビュッフェ台の前へと立っていた。

ドーナツ型の見た目も可愛らしいケーキ、苺がたっぷりあしらわれたパイケーキ、瑞々しいメロンやグレープフルーツの乗ったフルーツタルト、つやつやのショコラムース。


他にも様々なスイーツが宝石にように並べられており、すでにお腹いっぱいのはずなのにそれらが次々とお皿に載っていく。



「やばい、手が止まらない」


「これは全部食べないと…!一口大だからお皿の空いてるところにどんどん乗せていけちゃう」


「待って、このロールケーキちっちゃくて可愛い」


「本当だ可愛い!このサイズいいね、萌ちゃんに作ったら喜んでくれそう」


「めちゃくちゃ喜ぶと思うし、私も喜ぶよ」



紅茶やコーヒーを持って席に戻ると、テーブルの上に優雅なティータイムメニューが完成した。

写真撮ろう、と芹がスマホを取り出すと、近くの席に座っていた男性がすっと近づいて声をかけてきた。



「あの、すみません。素敵なお召し物ですね。良かったら、デザートと一緒にお2人の写真撮りましょうか」


「えっ…いいんですか?」


「勿論です」


「ありがとうございます!」



にっこりと爽やかな笑みを浮かべて芹からスマホを受け取った男性は、様々な角度から写真を撮り始めた。


やがて撮影は終わり「はいどうぞ」と言われてスマホを受け取った芹が確認すると、プロ並みの写真がずらっと収められていた。



「え!すごい…お上手ですね」


「いやいや、とんでもない。被写体が良いのです」


「本当にありがとうございました。助かりました」


「お役に立てて良かったわ。あ、いや、良かったです」



そう言って、再びスマートに食事を始めた男性。

再度お礼を言って芹と周もそれに倣う。



「ありがたいね。早速潮たちに送ろう」


「保存しなきゃ!セリーとのツーショット嬉しい〜!」


「私も嬉しい。現像して飾ろっと」



撮ってくれた男性が次の食事を取るために席を立ったのを見計らって、周が「すごく綺麗な男の人だったね!」と小さな声で溢す。

芹も頷いて「ハーフかな?」と答え、周が「すらっとしてるのに筋肉があってすごくモテそう!」と男性を見ると、タイミング良くくるりと振り返った。


視線に気づいてにっこり微笑んだ彼に、2人もにっこり微笑み返す。



「なんていうか、スマートで余裕があるね」


「えっ!ちょっと待って、なんか分かんないけど、隣にかのあがいる幻覚が見えちゃった…!なんで…?!」


「なんで…?でも、言われてみれば…ちょっと分かるかも…」



そんな話をしながら、スイーツを食べ進めていく。

美味しい食事で満たされたお腹に、別腹で入っていくスイーツ。


甘い幸せに頬を緩ませながら、1日目のお昼はのんびりと過ぎていった。




「ねぇ、このテリーヌショコラめちゃくちゃ美味しい…」


「分かる!おいしいね!今度はなやぎで作ってみるね〜」









*   *   *   *   *   epilogue








(はー…美味しかったね!ここは絶対また来よう!)


(そうしよう。良いところ知れて良かった)


(えと、次のプランは…自由時間だね!観光バス乗り放題チケットと、温泉入り放題チケットがあるみたいだから、日和さんに教えてもらったお店とお土産屋さん回ったりしたら、温泉入りに行っちゃおっか)


(オッケー)



(え!お姉さんたち、旅行っすか?)


(着物めっちゃ可愛いすね!2人とも美人ー)



(あー…ありがとうございます)


(2人だけっすか?連れとかいるんすか?この辺の出身じゃないなら全然案内しますよ!楽しいとこもいっぱい知ってるっす)


(SNSとかやってます?フォローして良いすか?)


(すみません、急いでるので)


(あ、そしたら車出しますよ俺。次の行き先とか教えてもらったら)


(いえ。自分たちで行けるので、大丈夫です。行こう)


(う、うん…)


(でも着物で歩くのしんどくないすか?足も痛そー。あ!観光スポットとかもう回りました?車で近くまで送れるっすよ!一緒に見て回りましょうよー)


(てかめっちゃ2人とも美人っすよねー。彼氏いるんすか?狙っちゃって良いすか?)



(ああ、お待たせ2人とも)



(え…)


(会計に手間取っちゃってね。次の時間も迫ってるし、そろそろ行こうか。あれ?お知り合いかな?)


(あー…。連れがいたんすねー)


(こんな美人だったらそうっすよねー…すんませーん…いきますわー)


(ハーフイケメンマッチョやべー)



(あの、すみません。写真を撮って下さった方ですよね…助けて頂いてありがとうございました)


(いえいえ。女性2人旅、安全に楽しく過ごしてもらいたいもの…あ、過ごして…えーと)


(?)


(ああ!もー!面倒臭いわもう!ごめんなさいね、堅苦しい喋り方って苦手なのー!無事で良かったわ。ああいう男たちって超押し強いじゃなーい?個人的には嫌いじゃないんだけど、女子旅行の邪魔するなんて無粋だわよねーー!)


(は…えーと…はい…その通りだと思います…)


(お兄さん…お姉さんだったんですね…!)


(そうよ。バンビって呼んで頂戴)


(バンビ姉さん…)


(あたしはね、ある人に雇われて此処にいるの。だからあんたたちが困ったらすぐに駆けつけるわよ。レンジャーピンクなの。今日のパンツもピンクよ)


(あっ…はい…)


(本当はふりふりのスカート履いてくる予定だったのにさーー!!マッチョの圧がなくなるから男装していけって言うのよー?!せっかくかわいいピンクおぱんちゅなのに…ってやだもーー!見たい?)


(あ、えっと…)


(…でもちょっと見たいかも…)


(ちょっとーーー!!ダメに決まってるじゃなーーーい!!すっけべーーーー!!可愛い顔してすけべじゃないアンタ。あたし好きよ。ギャップだわね。良いじゃない、やるじゃないお嬢ちゃんのくせに。良いわ。ちょっとだけ見せてあげる)


(いやバンビさん、往来でまずいです)


(それもそうね。あんた冷静で良いじゃない。涼しげな目元がセクシーよねアンタ。好きだわ。さすが妹ね)


(え?)


(とりあえず、今日はあたしのことは気にせずに過ごして頂戴ね。後ろついてきてても気にしないこと。何かあったら声掛けてくること。いいわね)


(えっと…)


(じゃ!!)





(すごい…半径5メートル以内でずっと着いてきてくれるね…!何者なんだろう、バンビさん…。雇われたって言ってたけど、潮のお知り合いかな…?)


(多分ね。癖の強い人だったね…でも、見守ってくれてると思ったら気兼ねなく楽しめそう。プランの中のどこまで一緒なのかな?帰りそうだったら声掛けて御礼しない?)


(賛成!そうしよう!私、バンビさんのお土産も買っちゃおうかな〜)


(手渡せるもの買って持っとこうか)



(セリー!旅行楽しいね!)


(楽しいね、周)







第十九話(一) 了





ーーーーーーーーーーーーーーーーー

物語内のイベントにて、

下記のリンクと動画を参考にさせて頂きました


⭐︎着付けの仕方

株式会社 さが美 様

https://sgm.co.jp/useful/kitsuke_kimono/


⭐︎楽しい着物女子旅の楽しみ方

kabutabi 様

https://youtu.be/zxC51uTE01E?si=RJFILvvw1QfbUUGz


⭐︎人力車の手順や雰囲気

おもてなし HR 様

https://youtu.be/t-cIiV50tCE?si=LbpTai7fk9ud5zYu


⭐︎ビュッフェの流れや雰囲気

東京フーディwithエミリ 様

https://youtu.be/9K9qfY0OsOw?si=M751vbjc0nH0AK2A


⭐︎テリーヌショコラ

Chocolate Cacao チョコレートカカオ 様

https://youtube.com/shorts/k_V8rFAxOD4?si=Ue4lODanUTDSHaQt






2024.7.14 日三十ひさと 皐月さつき







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