第17話 (4)
ー三毛が動画を送信しましたー
「はい、こちらはですね。現在春祭りの会場にやってきております!伝統の春祭りを盛り上げようと、若い世代が中心となって企画が練られたそうです」
[Q. どちらから来ましたか?]
「市外から来ましたー。お祭りの前からSNSでめっちゃ盛り上がってたんで、楽しみにしてて」(20代女性)
[Q. どんなことを楽しみに来ましたか?]
「SNSで子供向けのイベント情報が載ってたんですけど、スタンプラリーを子供がやりがたって、景品もすごく可愛かったので、私もほしいし行こうって感じで」(30代女性)
「毎回焼きそばと塩焼きとり食ってるんすけど、今回の春祭りは飲食店総出で面白い企画するってネットで見ていいじゃんって思って。食べに来ました」(30代男性)
[Q. 春祭り 楽しんでいますか?]
「SNSで見て来たんですけど、めっちゃ楽しいです。なんか、入れ物とかもかわいいし、映えとか分かんないけど…マジでかわいいっすね」(10代男性)
「このように、SNSを見て来たという方が非常に多い今回の春祭り。
商店街のホームページはデザインが一新され、マップ、当日のイベント情報、各SNSのURLなどが分かりやすく掲示。
さらに各世代向けのページも作られ、耳寄りな情報が幾つも掲示されています」
「子育て世代向けのページ見てきたんですけど、おむつ換えとか授乳の場所が分かりやすかったり、子供が食べやすいメニューとかも載ってて嬉しいですね」(20代女性)
「ハッシュタグが用意されてて、それつけた人の声とかも写真付でこのページから見れるんで、分かりやすくてすごく良いなって」(10代女性)
「車椅子でも参加しやすいってシニア世代用のページで読んで、80歳になる母と来たんですけど、すごく楽しめてます」(50代女性)
「車椅子の父と来たんですが、ボランティアの人が度々気にかけてくださったり、車椅子用のトイレの場所が書いてあるのがすごく助かりますね」(40代男性)
「こんなおばあさんでも楽しめるなんて素敵なお祭りよね。みんな親切でね。素敵よねあなた」(70代女性)
「ああ、活気が溢れて良い。膝が悪いもんで、ゆっくり歩いて楽しめるのが非常に良かった。飯も美味かった」(70代男性)
「このように盛り上がりを見せている春祭りですが、これからメインの晩ごはんプレート企画というイベントが始まります!」
『今回のイベントは商店街の飲食店全てで企画し、協力して行っています。プレートには好きなおかずを選んで召し上がって頂けます』
「おすすめはありますか?」
『全ておすすめなのですが、今回お店同士で相談し合って提供しているオリジナルメニューが多いので、その特別さも味わって頂けたらと思っています』
「どのメニューも美味しそうですね!私も特別にイベント前に並べさせて頂いたのですが、どうでしょう!この豪華なプレート!」
『少食の方には肉屋と豆腐屋が共同で出している肉豆腐もおすすめです。
勿論テイクアウトプレートも用意しておりますので、家庭に合わせて楽しんで頂けますと幸いです』
「三毛さん、まだまだ賑わいを見せます春祭りですが、来場した方々へ最後に一言お願いします!」
『商店街の次世代を担う僕たちが関わることで、様々な世代の方により楽しんで頂けるお祭りにできたらと思っています。
20時まで開催しておりますので、ご興味のある方は是非ご参加ください』
三毛
〔というわけで、代表してテレビのインタビューを受けた〕
〔受け答えは上々だったように思う。しかし一つだけ謝りたいことがある〕
〔俺はあの時〕
〔休憩に食べた洋食屋のオムライスの上にかかっていたパセリが歯にくっついていた〕
〔テレビを見ていた全ての人に不快な思いをさせてしまったことを、無意味だとしても此処で謝らせてほしい〕
〔広報担当にあるまじき行為だったと思う。本当にすまなかった〕
おその
〔何やらかしたのかと思ったらクソしょうもないことで草〕
〔逆に気になるわ〕
RisukE
〔え?動画見返したけどガチで全然うつってなかったぞ〕
三毛
〔8:18のところと8:22、8:57、9:09、9:17にばっちり映ってしまっている〕
おその
〔いやタイムスタンプやめて?〕
〔三毛の歯についたパセリとかどうでもいいのに気になって見ちゃったじゃん〕
RisukE
〔そうだよ〕
〔こちとら曲のことでインタビュー受けた時がっつり鼻くそ見えてたらしいけど、正直全く気にしてないんだぞ〕
〔しかも昼時の生中継〕
おその
〔うわぁ…こいつまじか…〕
RisukE
〔俺が出るって聞いて楽しみに見てた親戚一同さすがにげんなりしたらしい〕
〔ワロタ〕
おその
〔え?笑うとこあった?〕
RisukE
〔よくよく考えたらメイクさんみたいな人が言ってたんだよなー〕
〔「あ、すみません、あの、鼻から…あの、鼻が、その…鼻だけ、あの…」みたいな〕
〔あまりに言いにくそうだから、あれっ俺もしかして何かモテてる?って勘違いしてさ〕
おその
〔何でだよ〕
RisukE
〔すみません、俺、心に決めた人がいるんで!ありがとうございます!って言ったら、クッソ冷めた顔して立ち去って行ったんだよなー〕
〔あれは鼻クソついてることを教えてくれようとしてたんだなー へへ〕
おその
〔こっそり教えてあげようと思った優しい人の心を一瞬でひっくり返す男〕
三毛
〔そうか…俺とお前は同じだったんだな、理助〕
〔俺もインタビュー前、女性から何か言い寄られていると思って断った記憶がある〕
〔だがよくよく考えてみたら………ハニパセリという単語を聞いたかもしれない…〕
おその
〔単語じゃなくて草〕
〔揃いも揃って何をやってるの君たちは…〕
RisukE
〔いやー。爪だけは不快に思われないようにちゃんと切ってきたんだけどなー。ほら、爪の長い男はダサいっていうじゃん?〕
〔でも鼻くそは盲点だったなー〕
おその
〔鼻くそ出てんの地上波で晒して平気な男が何で爪の長さ心掛けられるん?〕
さつまいも
〔今来た〕
〔トーク見返してたんだけど全体的に酷いわ〕
〔なんかハニパセリマンと勘違い鼻くそマンいない?〕
おその
〔あ、薩摩〕
〔おつー 勘違い鼻くそマンはさすがに草〕
RisukE
〔あ、小学生みたいな悪口やめてねー〕
〔爪は短いよーん〕
さつまいも
〔そのおつー〕
〔爪短いのだけが誇りなのやめてねー〕
三毛
〔お疲れ、薩摩〕
〔肉豆腐、かなり売れていると聞いている〕
〔商店街の豆腐屋が注目されるのは喜ばしいことだ、引き続き尽力してほしい〕
さつまいも
〔お そうそうお陰様で〕
〔お豆腐美味しかったから買って帰りたいーって言ってくださる方が多くって〕
〔予約までもらっちゃってますどうも〕
RisukE
〔ホント薩摩んとこの豆腐まじうめーよなー〕
〔このへんのお客さんとかはもう分かってるからあれだけど、新規のお客さんとか来たらこの豆腐美味いけどこれどこの?ってめっちゃ聞かれるもん〕
〔これきっかけにバズったら嬉しいわ普通に〕
さつまいも
〔うまいよねー〕
〔自分のとこのやつなのにうまいって言っちゃうくらいうまいんだよねー〕
おその
〔あ 忘れないうちに言っとかなきゃ〕
〔友達がおからクッキー作りたいって言ってたから余裕あったらちょうだいね〕
さつまいも
〔最優先で取っとくよー〕
おその
〔さんきゅー〕
三毛
〔さて ここまで話してほとんど既読がつかないということは、皆忙しいのだろうな〕
〔最後まで頑張って乗り切ってほしい〕
〔終わった後は疲れているだろうから、今日は休息を取って、後日改めて慰労会を行う予定だ〕
〔詳細が決まったら此処に書くので、また細かくチェックしてほしい〕
おその
〔ま スマホチェックちまちましてるくらいにはのんびり楽しんでやってるからね〕
〔慰労会了解〕
RisukE
〔そうそう 俺なんて休憩5回目だぞ〕
〔皆まじめだよなー〕
おその
〔ちょっと待って、理助とは一緒にしないでくれる?休憩しすぎでしょこいつ〕
〔ちなみにおじさんめっちゃ困ってたよ むしろ理助はどこだー!ってキレてたよ〕
さつまいも
〔お前、跡継ぐ!とか言ってたけど後継ぐ気あんの?〕
〔もしかしてバイトくん?〕
RisukE
〔あ゛!耳痛ッ!!でも実際バイト以下ではあるかもなー〕
〔しゃーない、戻ってやるかぁ〕
おその
〔さて、プレート企画本格的に始まるし、気合い入れて乗り切りまっしょい〕
さつまいも
〔ほーいがんばりまっしょーい〕
RisukE
〔うぃーりょーかーい〕
三毛
〔最後まで頑張ろう よろしく頼む〕
「あ!見て見て!おその発見ーー!!!」
ーー春祭り会場 大広場にて。
大広場会場は晩御飯プレート企画用にセットがし直され、たくさんの会計台が設けられていた。
それぞれに長蛇の列が並ぶ中、手前には大きなメニュー看板が目立つところに5つ、吊り下げられたメニュー看板が2つ、A5サイズにまとめられたチラシとスマホでメニューが読めるQRコードが配布されている。
列に並んでいる間は、手渡されたプレートの絵が描かれた紙に欲しいメニューを書き込んで待つ。
テイクアウト用の注文表もそれぞれ手渡され、会計がスムーズに行われた後プレートを持つ人と袋を下げる人、両方持つ人と様々な利用が見受けられた。
そこへ、潮たちが陽気に到着した。
会計台の向こう側に目を凝らしたかのあが大声で叫ぶのを、潮がやんわりと制する。
「あのね、子供じゃないんだから往来で大声出さないの君は」
「あ゛!ごめん…外に出ずに部屋に篭ってると外のルール全く分かんなくなるんだよねー!反省!」
「てかそもそも身バレ怖くないんか…」
反省しながらも声量のネジがバグっているかのあに、潮が恐ろしいものを見るような瞳を向ける。
そんな中、隣でかのあの言った方角に目を凝らしていた蛍が、眉根を寄せながら小首を傾げた。
「えぇ…?おそのいる?どこ?かのあ目良すぎん?」
「へへーん!かのあ裸眼だけどめっちゃ目良いよーん!」
「まじか…コンタクトしてるけど全然見えんぞ…」
「奥の方だよ!デザートこちらって看板のとこ!めっちゃ一生懸命働いてて可愛いよおそのー。普段とのギャップにきゅんっ」
「ご機嫌だねぇ」
そんな話をした後、列の最後へ三鼓家、蛍周ペア、潮かのあペアにそれぞれ分かれて並ぶ。
スマホでメニューを確認していると、【商店街メンバー】[気軽にお声がけください♪]と書かれた名札を下げたスタッフさんから注文表を差し出された。
「ありがとうございます。よっしゃー、じっくり悩むかー」
「実はかのあ、楽しみすぎて予習してきたから大体決まってるんだよねーん」
「まぁ実は私もなんだよねーん」
「かのあはー、洋食屋さんのオムライスとハンバーグ両方もらってー、八百屋さんのポテサラと、青果店さんのフルーツジュースとー、おそののところの桜餅!」
注文表に勢いよく走り書いたかのあが「潮は?!」と聞くと、潮は書き終えた注文表を差し出し、かのあのものと見比べながら答えた。
「私は鉄板焼き屋さんのミニステーキと、韓国料理屋さんのスンドゥブチゲ、八百屋さんのいろどりサラダ、おそののところの最中やね」
「えー!?何かかのあのと全然違うじゃん!」
「いや…オムライスとハンバーグ両方頼んでる時点で一緒になるわけないよね?」
「飲み物は頼まないの?」
「水用意してあるらしいからそれもらう」
「あ!ほんとだ。え、待って。レモンとかミントとか入ってるやつじゃん!」
「おしゃれなやつじゃん」
後ろに次々並んでいく中で、手際の良い対応によって列もどんどん前へ進んでいった。
隣の会計済みレーンを歩く、プレートを手に楽しそうな家族連れ、テイクアウトの袋を下げるカップルなど、様々な人たち。
すれ違うその人たちの奥、列の中央レーンには食器やプレートの回収場所が設けられ、「美味しかったねー」と満足そうな感想がよく聞こえた。
「すいすい列が進んで行くから気持ち良いねー!てか皆プレート持ってってどこで食べるんだろ?」
「昼間の芝生広場と、交流センターと…あとプレート企画に参加してる各店舗がフードコートとして店内開け放ってるんだってさ。スタッフさんが逐一誘導してた」
「ほぇー…あれ、芝生広場に机が置かれてる!!」
「あ。そうそう、ホームページで見てからあの机気になってたんだよね。ボランティアで提供されたやつらしいんだけど…机とベンチが一対になってて、ベンチ使わない場合は机側に折り畳めるみたい」
「マジだ!車椅子の人が片側のベンチ折り畳んで使ってる!ベビーカー置いてる人もいるね!」
「あれのさ、1人用と2人用もあるんだよ。ほら、ずらっと並んでるやつ」
「え。サイズ感かわい。めっちゃいいじゃんあれ!」
「普通に1人で朝ごはん食べる時にめっちゃ良いと思って。ダイニングに置きたいから狙ってるんだよね。春祭り後に受注開始らしい」
「えー注文できるって気付いてる人どれくらいいるのかな?ページ落ちるかな?とりまかのあもスタンバイしといてあげる!」
「まかせたぞ」
「あいあいキャプテン!」
と、話している間に潮が列の一番前へ。
注文票を渡し、それを確認した商店街メンバーが阿吽の呼吸で次々とテイクアウト用の容器を食材で満たしていくその様子を、感嘆しつつ眺める。
あっという間に注文したものが詰められた紙袋が目の前に置かれ、手際よく会計まで済まされると、会計係の女性がにこにこしながら言った。
「デザートの受け渡し場所はあちらとなっております、このまま奥へお進みください!」
「あ、分かりました」
「毎度ありがとうございました!また是非商店街をご利用ください!お待ちしております!」
「ありがとうございます」
案内に従って奥へ進み、デザートコーナーへ。
接客をしていたおそのが気が付いて手を振り、潮が手を振り返す。
プレート企画のデザートとしてではなく、和菓子だけを買いに来たのであろうお客さんも多い。
その為に受け渡し場所が分けられているのだと悟った後、接客を終えたおそのがとことこ近付いてきた。
「おっすー。楽しんだ?注文票ちょうだい」
「お疲れ、めっちゃ満喫しました。最中でおなしゃす」
「それは良かった。最中ね。あとこれ、春祭り来場のプレゼントも」
「おー、あざす。こんなのも用意してるんだ…すごいなー」
「桜のミニカステラですぅ。お気持ちですが…ちなみに洋菓子屋は苺のマドレーヌだったよ」
「いいね。ミニショートも買うかぁ」
「またはなやぎ帰って来たらゆっくり話そう」
「了解、待ってるよ。残りも頑張って。あと、桜のピンバッジめっちゃ可愛い」
「ふふ。ありがとね」
軽く話してすぐ、新たにやってきたお客さんに笑顔で対応するおその。
「デザートで食べたら美味しかったから、友達にお裾分けしたくって。桜餅5つほど頂けるかしら」と上品なマダムが言って、おそのが嬉しそうに御礼を言う。
その奥でもおそのの祖父が和菓子屋の主人として接客をしている様子を見て、何だかほっこりとした気持ちになる潮。
頑張って、と最後に小さく手を振った後、ミニショートケーキを買って来場プレゼントのマドレーヌもゲット。
そうして美味しいものでいっぱいになったテイクアウトの紙袋を下げ、予め決めていた集合場所に向かう途中。
見慣れた美しい後ろ姿を見つけて、潮は思わず小走りで近づいた。
「芹」
「わ、びっくりした」
「無事買えた?おそのと話せた?」
「ううん。忙しそうだったし、桜餅明日買いに行くからと思ってシュークリームにしてたんだよね」
「うわ、ちょっと待って美味そ。それ和食処の鯛めしでしょ、迷ったんだよなー…」
「そうそう。和食処の鯛めしと、お魚屋さんのあら汁、定食屋さんのサラダ、喫茶店の紅茶、洋菓子屋さんのシュークリームにした。潮は何にしたの?」
「牛肉行っとくかと思ってミニステーキにした。けど、美味そうだからもう一回並んで買って来ようかなー。鯛めし」
「あ。でもこれきっかけで今度、此処のお魚屋さんで鯛買って鯛めししてみようかなと思ってるけど」
「並ぶのやめるわ」
「食べてみて、近い感じに作るつもり。楽しみにしてて」
「あざす!あざす芹さん!!」
そんな話をしていると、芹の隣に立っていた萌が嬉しそうにプレートを見せてくれた。
「潮ちゃん、見て見て。萌はね、ちらし寿司と唐揚げにしたの!」
「最高の組み合わせじゃん…。ちらし寿司いくら乗ってんじゃん、よかったね
。萌、いくら好きだもんなぁ」
「うん!だいすき!」
「今度超贅沢海鮮丼作る予定だから、それやる時いくら大量に買うわ。泊まる日また教えて。その日に合わせて解凍する」
「わーい!潮ちゃんだいすき!」
「いいの?うに好きなんだけど追加でお願いしていい?」
「それ見越して既に大量のうにカートに入れてます。たらふく食ってください」
「よし、ささっと泊まる日決めちゃうね」
そこへ春一家も合流すると、豪華なプレートが目の前にずらりと並んだ。
「おっす潮ちゃん。テイクアウトもいい感じだね、全部こだわってて感心しちゃうなぁ本当に」
「まじでそれなって感じです。プレートの方もめっちゃ美味そうっすね」
「この企画まじで良いよこれ。すれ違う人たち皆メニュー違うのも面白いよね。俺は韓国料理のサムギョプサルと大根ナムルと、ラーメン屋の餃子と、青果店の苺にした」
「おれはカツ丼!とメロン!」
「ぼくはお好み焼きとポテトにしたよ!」
「私は肉豆腐と、定食屋さんの切干大根と、和食処の茶碗蒸し、青果店の甘夏にしたよー」
「うおー。なんか、性格出てていいな」
「潮ちゃんはねぇ…私分かったよ。ステーキにしたでしょ」
「え゛!何で分かるんすか詩津さん…」
「私美味しいご飯の匂いに飢えてたから、嗅いだだけで何の料理か分かるんだよね。特殊能力」
「マジの特殊能力じゃないっすか。正解です」
そうしてわいわい話した後、名残惜しいもののずっとプレートを持たせて立ち話をしているわけにもいかない為、潮は会話を切り上げ三鼓家に手を振ってみせた。
「ーー今日は本当、一日お疲れさまでした。一緒に回れて楽しかったです。また皆さんではなやぎにも遊びにきてください。
そして詩津さん、母子共に健康でありますよう出産のご無事を祈ってます」
「ありがとう…!子供たち見ててもらったりも本当にありがとう…。産んだら遊びに行かせて頂くね!楽しみにがんばります」
「潮ちゃん、本当ありがとうね。またお腹の子産まれたら改めて挨拶に行くわ」
「待ってます。春祭りも、最後まで楽しんで、帰りもお気をつけて。芹たちもね」
「潮ありがとう。また連絡するね」
「潮ちゃんまたねー!」
「「またねー!」」
別れの挨拶を終えて、プレートを手に芝生広場へ向かう家族の背中を見送る。
ーーそこへ、周がひょっこりと現れて合流した。
「潮いたいた、集合場所一緒行こ〜…ってええっ?何その顔!」
「……ごめん……芹たち家族の背中があまりにも尊くて…心の中で拝んでた」
「だよね?!尊いもの見てる時の自分の顔みたいだったからびっくりしちゃった…!でもセリー達見てたなら納得!広場で食べるのかな?また目立つんだろうな〜」
「まぁ、今ああして歩いてるだけで皆の視線集めまくってますから」
「ああ、詩津さん大きいお腹で大変そう…。なんか詩津さんのご出産を思うと、自分のことじゃないのに私まで緊張しちゃうな〜。楽しみだね、はなやぎに遊びにいらしたら何か盛大にお祝いしたいね!」
「ね。てかあのお腹の中に三鼓家ニューベイビーが入ってるんだよなぁ…何か、当たり前なんだけど改めてすごいことだよねそれって」
「分かる〜!絶対大変だろうに、詩津さんってすごい…かっこいい。憧れちゃう」
「芹にアドバイス貰いながら、何かはなやぎからのお祝い考えますかね」
「賛成!」
集合場所へ移動しつつ、
「何買ったの?」
「中華料理屋さんの青椒肉絲と、洋食屋さんのミネストローネと、居酒屋さんの塩焼き鳥と、洋菓子屋さんのミニショートケーキにしたよ〜」
「ええやん」
など、ほのぼのとした会話を交わして歩く2人。
そこへ蛍が小走りで合流して、集合場所へは結果的に3人で向かうこととなった。
「お2人さんおいすー。わても無事買えましたわー」
「え?蛍さん?なんだ、じゃぁもう3人集まってんじゃん。帰るか」
「ええぇ?!かのあどうするの?ちょっと待ってあげようよ〜!」
「だってもう4人中3人集まってるんだからさ、今から合流場所に行ってかのあを待とうの会が始まるわけでしょ。だるいよ」
「だるくないよ!4人集まる為の合流場所なんだからちゃんと待とう?」
「いや待つのがあまねんとかならさ、2、3分くらい待てばすぐに合流できるんだろうけどさぁ…かのあちゃんだよ?かのあどこにいた?」
「あー…まぁ、和菓子屋のとこでおそのに絡みまくってたの見かけたけど、普通に他人の振りしてスルーしたからその後は分からん。まだ和菓子屋じゃない?」
「ほら。てかかのあちゃんめっちゃ迷惑なことしてて草」
「お店のお客さんの手前ブチギレられないおそのの姿に味を占めてる感じだったわ」
「にやにやしてる顔想像できて何か腹立ってきた」
「えー!おその一生懸命働いてるのに可哀想だよ。待つのが面倒なら、このまま迎えに行ってあげたほうがいいんじゃないかな」
「逆走したら迷惑になるんよなぁ。仕方ない…じゃ、遊んでんならどうせ10分くらい来ないだろうし…先に出口でスタンプラリーの景品貰いに行こ」
「あ、それ賛成」
「メッセ送っとくわ。えーと…出口で待つ……もしも10分待って来なかったから…普通に発車します……」
「かのあお願い!気付いて!」
スマホのメッセージに気がつくよう祈る周を見て、「あまねんは優しいなぁ」と言いながらタイマーアプリを開いてしっかり10分セットする潮。
それから3人でスタンプラリー景品交換の列に並び、
「で?蛍は何頼んだの?」
「んー、定食屋さんの生姜焼きと味噌汁と、居酒屋さんの塩昆布きゃべつと、あと鉄板焼き屋さんの車海老の殻焼きと…あと青果店のデコポン」
「ねぇちょっと待ってよ。おその以外全員のメニュー聞いて回った者ですが何と誰1人メニュー被りなくてビビってるんだけど何か質問ある?」
「え!!本当?すごいねそれ!」
「それくらいメニューが豊富だったってことよなー」
など会話していると、あっという間に順番が回ってきた。
「あ、すごい!スタンプ全部集まってますね。ではこちら、各個数ごとに貰えるプレゼントが全部入ってます、商店街のキャラクター保冷エコバッグ差し上げますねー」
「す、すげー…!」
「めっちゃかわいい!嬉しい!」
「是非また商店街をご利用ください!本日はご参加ありがとうございました、お気をつけてお帰りくださいねー」
御礼を言って3つのエコバッグを貰い、近くのベンチに腰掛けて中身を探る。
その数々に、3人はそれぞれ感嘆の声を上げた。
「いちごのジャムと、ラスクと、ラングドシャクッキーと、クランチチョコと、商店街のキャラクターのミニハンカチ…」
「ドリップバッグと、お茶の葉と、お煎餅と、ドライフルーツまで入ってるよ〜!」
「丁度いいサイズの小分けでいいね。店名もしっかり入ってるし、美味しかったらリピートしにいこ」
「待って、下の方にミニラーメンセット入ってるんだけど」
「明日のお昼ご飯が決定しました」
「いいね〜!今日煮卵作っておくね!」
「あまねんマジ天使」
その時、10分経過したことを知らせるタイマーが鳴り響いた。
テイクアウトの袋とエコバッグを持った潮が、すっと立ち上がる。
「さて…」
「ま、待って待って!本当に行くの?」
「バスの時刻表だけ送っておいてやるか」
「かのあ!早く来て〜!」
ーーすると、その声に応えるように、奥の方からかのあが走って来るのが見えた。
「お゛ぉーーい!!待ってよーーー!!え゛ーーーん!!」
「お、来た来た」
「ちゃんと置いて行かれないんだよねぇ」
テイクアウトの袋を振り乱して全力疾走するかのあを迎えて、よしよしと背中を撫でる潮。
かのあは荒い呼吸を落ち着かせながら言った。
「お、おそのに、絡んでたら…っ!!スマホ見て!!っていう声が頭にぴーんって…!来たから…!そしたらメッセに気付いて…!」
「あまねんの声ちゃんと届いてて草」
「遊んでたら列から外れてたから…!な、並び直して…!そこから全力疾走で…来ました…っ!!」
「間に合って良かったねぇ」
それから、かのあの分のスタンプラリーの景品を貰い、今度こそ4人で並んで帰路を歩く。
「あーー…春祭り、楽しかったなぁ」
「本当に楽しかった!大満足だよ〜」
「おその忙しそうだったけど、何か食べれたかなぁ」
「あ!さっき聞いたよ!スタッフ分は希望のメニュー聞いてもらえたから、テイクアウト用の容器使って置いてて、終わったら食べるんだって!」
「そうなんだ!良かった〜」
「ちなみに、ラーメン屋のミニ豚骨ラーメンと、中華料理屋の春巻き、韓国料理屋の海鮮チヂミ、八百屋のトマトサラダと、あとはお茶と桜餅って言ってた!」
「いやちょっと待って、じゃぁマジで全員メニュー被りしなかったんだ。どんだけ性格ちがうのよ我々」
「豚骨いいなー。麺類のテイクアウトってどうなってるんだろ?」
「前のお客さんが頼んでたけど、コンビニみたいな感じでスープと麺に分かれてたよ」
「マジかよいいね。あー、ラーメンいいなー。早く明日のお昼になれ」
「えっ!!明日ラーメンなの?」
「エコバッグの中にミニラーメンセット入ってた。あまねんが煮卵作っておいてくれるそうな」
「うおーーー!!!やったーーー!!!」
駐車場に着いて潮の車に乗り込み、4人でふーっと一息。
エンジンをかけて、長い時間楽しんだ商店街を後にした。
「本当に細かいところまで楽しいお祭りだったね〜!商店街、前よりもっと通っちゃいそう」
「商店街盛り上がるだろうなぁ」
「…あれ?そういえば、蛍は喫茶店の彼とは会えたの?」
「ん?うん。詩津さんと歩いてる時に会って話したよ」
「おーおー。いいねぇ楽しいことがあって羨ましいですなー」
「花房くんとおそのって商店街でエンカウントしないのかな?」
「してるらしいけど、おそのが絶対に私に話しかけて来ないで領域みたいなの展開してるみたい」
「そんな絶対領域も領域展開も嫌だな」
「花房くんは今回そこまで大変じゃなかったらしいけど、おその含めた運営陣は本当に大変そうだったって言ってたから、帰ってきたらゆっくり労わってやりましょうや」
「そうしよう。てか、あまねんと芹に日頃の御礼兼ねたイベントもするし、そこでおそのにも楽しんでもらえるようなことしよう」
「いいね」
「え〜!何してもらえるんだろう!楽しみだな」
「喜んでもらいたいイベントを全力でわくわくしてくれるあまねんマジ天使」
「一生懸命考えます!!」
「ひとまず、今日は帰ってのんびりテイクアウトしたもの食べながら、春祭りの余韻に浸りますかー」
「「「はーい!」」」
まだまだ盛り上がっている商店街から、ゆっくりと遠ざかって行く。
頑張っている友人を思いながら、潮たちははなやぎへの帰り道を進んだ。
* * * * * epilogue
(ーーというわけで、春祭りお疲れ様でしたーー!!)
(お疲れー)
(疲れたー!)
(ボランティアスタッフの方々も、片付けまで本当にありがとうございました!皆さんの分のご飯ありますので、遅くなりましたがお家に帰ってゆっくり召し上がってください!)
(御礼の品もありますので、忘れずにお持ち帰りください!)
(今回の春祭り、これにて解散とします。皆さん呉々もお気をつけてお帰りください。たくさんのご協力、本当に有難うございました)
(ありがとうございましたー!!)
(わー…何か、すっごい静かな商店街になったね。昼間との差がすごくて、夢だったんじゃないかって思っちゃうよ)
(企画書5冊分が報われたな!)
(これで終わりではなく、定期的にたくさんのお客さんに此処を利用してもらえるよう、これからも俺たちで活路を見出していこう。春祭りはその始まりだった)
(そうだね)
(俺たちの代も、その先もずっと皆に愛されて続いていけるよう、今から俺たちが頑張っていこう。ついてきてくれるか)
(もちろんだよ三毛)
(当たり前だろー?さ、次は何をしますか大将!)
(SNSの動きだけでこれだけ若い世代が足を運んでくれることが分かった。春祭りのような大掛かりな実働だけでなく、盛り上げていく為にもっと電子媒体を駆使していこう)
(次の実働の為の準備運動って感じだね)
(あぁ。おそのは確か、薩摩のSNS活動の手伝いをしているのだったか)
(そうそう。薩摩って、動画投稿サイトでタロット占いの動画上げてるんだけど、それの動画編集やってる)
(ええぇ?!あいつ裏でそんなことやってたの?!マジ!?占いとかやってんの?!!既に今年一番ビビったわ俺!!教えてそのチャンネル)
(ちなみにすごいよ。実は、今回普通に就職するか和菓子屋継ぐか悩んでた時も占ってもらった)
(その動画編集の技術を、商店街PRの為に使ってもらいたい。各お店のPRをただ上げていっても仕方がないだろうから、その辺りは上手く考えながら動画を作っていこう)
(いいね)
(BGMは理助、お前に全て任せたい。お願いできるか)
(えええー!!!いいよ)
(感謝する。さぁ、明日からももっと忙しくなるだろう。大変だと思わず、この忙しさも楽しいと言えるようのびのびと活動しよう)
(おーーい。お待たせー)
(あ!!薩摩お前!!タロット占いとかやってるってマジ?!)
(げ。おそのあんた、一番バレたくないやつにゲロったな)
(流れで。すんません)
(なー!俺のことも占って!!頼む!頼むよ!!)
(あんたは何やかんや言って御指南必要ないくらい自分で勝手に切り拓いて突き進んでいける人間だから。心配しなくても占い必要ないから)
(え゛!俺前占い行ったらそれ同じこと言われたわ!!こわっ!お前こわっ!!)
(本能で生きてる人間は助言しなくても大丈夫なんだよね。転んでも痛い痛い言いながら勝手に立ち上がって走っていくし)
(やめろよ俺のこと分析するの!)
(どうせこうした方がいいよって言っても右から左だろうし)
(占いか…俺はあまり信じたことがないが、薩摩がやっているなら少し信じてみてもいいかもれないな)
(三毛。あんたは守ってくれてる存在が最強だから大丈夫。大体間違ったことしないから安心して)
(なんだと…だったら!だったらなぜあの時!なぜ…俺は歯にパセリがついていたんだ…!)
(草)
(あのね。良いことばかりが起きることが全体的に見て良いかどうかってことにはならないのよ。光もあれば陰もあって、陰があるから光があるし、光があるから陰があるの)
(つまり春祭り大成功の裏に歯にパセリがついてて⚪︎ぬほど落ち込む三毛の姿があったのは、光と陰だったってことか…)
(むしろ歯にパセリついてるのが数回地上波で映るくらいだったこと自体がこいつの強さを物語ってるのよ)
(めちゃくちゃ落ち込んでるけど)
(企画した春祭りは成功したけど、豆腐は全然売れなかった。これだと私にとっての陰になり得るけど、この陰はおそのたちにとっては「まぁまぁ」って感じじゃん?それがこいつにとって歯にパセリだったってことだよね。そこに学びがあるのよ)
(なるほど分からん)
(何で歯にパセリがついたままテレビに出ちゃったんだっけ?)
(…助言してくれようとした女性の声を、俺がまともに聞かなかったからか…)
(そうね。で、そこを振り返ると陰だと感じていたそこに今後光が差していくの。学ぶことで光差していく。それを繰り返してバランスを取りながら生きていく中で、そのお手伝いをするのが占い)
(その場合、今回の春祭りで楽曲制作がバズったことが俺にとって光で、陰は地上波で見せた鼻くそだったってこと?)
(いや陰デカすぎだろ)
(え?そう?)
(え?そう?とか阿呆顔で言ってるってことはそこと相対してないから、別のことがあるんじゃないかな〕
(アンチ増えて落ち込むとか?)
(おいマジかよ…!!この前「お前の曲聞いてるくらいなら工事現場で鉄パイプぶつかる音聞いてる方がマシ」とか意味わかんないコメントきてたのに!!増えるのかよ!!)
(その人の今いる周波数によって学びも全然違うからね。学びの中にある人たちを光でも陰でもない丁度良いところを歩けるようにお手伝いするのが、占いだと思ってる)
(ほぇー薩摩ってなんか、すげー達観してんのなぁ…)
(俺には分からない世界だが、そういう話は嫌いじゃないな)
(だから、良い未来を知りたいからチートみたいな感じで助言して!良いことだけ起こって当たり前にして!っていう気持ちも分かるんだけど、それが占いの本質じゃないと思ってるんだよね。学びにならないから。
周波数が上がることで出てくる悩みに寄り添って、魂にとってより良い選択ができることが何より重要だからさ)
(なるほど…分からん)
(で、なんで私の占いの話になったの?)
(商店街PRの為に動画作るんだってさ。で、私が今薩摩のお手伝いで動画編集してるでしょ?それで色々やろうってことになって)
(なるほどね。おそのの編集可愛いから楽しみだなー)
(皆んなで協力してやっていこう。此処を今より良いところにしよう。それが俺の今の目標だ。薩摩、お前も手伝ってくれるか)
(勿論。次世代の我々が一番すごかったって、名前をずらっと残していこうよ)
(いいね!!)
(ひとまず、今日は本当にお疲れ様。ゆっくり休んで、また後日の慰労会を楽しもう)
(はーい。詳細また連絡して。お疲れーー)
(今日は多分ぐっすりだわー…でも楽しかったなぁ。お疲れ、みんな)
(おう!明日も頑張っていこうぜ!お疲れーい!)
第十七話(四) 了