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はなやぎ館の箱庭  作者: 日三十 皐月
第2章 「箱庭の夢語」
24/39

第16話






セリー

〔ホワイトデーですね〕



〔おっ〕

〔珍しい人がイベント事の一言を切り出しましたな〕


セリー

〔はい 実は楽しみにしてました〕


あまねん

〔えっ!私が一番楽しみにしてました!ホワイトデーイベントきた〜!〕


セリー

〔周と蛍がお弁当が食べたいってことだったんで〕

〔今回のホワイトデーはみんなにお弁当を作りました〕

〔いる人はどうぞー〕


おその

〔何そのホワイトデー 最高かよ〕


あまねん

〔セリーーーー!待ってました!リクエストに応えてくれてありがと〜!〕

〔ちなみに私はホワイトデーとして、朝からホワイトチョコのモンブラン作ってます!〕

〔いる人はどうぞ〜〕


セリー

〔おお モンブランキター〕

〔萌がめちゃくちゃ喜びます〕


〔私もめちゃくちゃ喜んでます〕

〔ホワイトチョコ大好きだから飛び上がりそうなくらい嬉しいです〕


あまねん

〔そうそう!前に萌ちゃんとチョコレートのモンブラン作るって約束してたの思い出してね〜〕

〔潮がホワイトチョコの方が好きだから、ホワイトデーにしよっかなって〕


〔芹のお弁当と、ホワイトチョコのモンブラン〕

〔最高のホワイトデーです ありがとうございます〕


かのあるふぁ

〔おっ…お腹空いたーーーーー!!待ちきれないんだが?!〕


〔食堂に待ち合わせでいい?〕


セリー

〔オッケーです〕

〔その後14時前に一回抜けて幼稚園のお迎えに行ってくるね〕


あまねん

〔了解だよ!〕

〔萌ちゃん早く会いたい…モンブラン、喜んでくれたら嬉しいな〜〕


かのあるふぁ

〔わたくしめもよだれ垂らして待ってますぅ!!!〕


〔んじゃまた後でー〕


〔はーい 楽しみ〕








「お待たせしましたー、お弁当ですー」


「お弁当キターーーー!!!待ってましたーー!!!」



ーー正午。

芹がお弁当を持って到着すると、はなやぎ館の食堂には既に5人が揃って座っていた。


お待たせお待たせ、と言って芹がお弁当をそれぞれの前に置き、自身も着席する。



「は?何このお弁当箱…かわいい…キレそう…」


「何でキレるの…」


「可愛すぎて…」


「ありがとう…。使い捨て容器にしようか迷ったんだけど、これからもお弁当作る機会あるかもなーと思って」


「は?また作ってもらえるとか最高なんだけど?」


「その機会、逃さず増やさねば」


「お弁当箱に何を作って入れようかって考えるの好きだからさ。かなり楽しく作らせて頂きました」


「いやもう、全力で楽しみなんです」


「ねぇ開けていい?!食べていい?!ねぇ食べていい?!」


「はいはい、どうぞ」


「小学生かな?」


「何とでも言いたまえ!!早速…オーーーーープン!!!」



待ち切れないかのあの掛け声で、お弁当箱の蓋が一斉に開けられた。


中には、梅とちりめんじゃこ、桜海老と枝豆、鮭と胡麻の3種類の俵型おむすび。


それから、ハート型の卵焼き、お花の形に飾り切りされたウィンナー、きのこの和風パスタ、かぼちゃサラダ、かぶの酢の物、人参とアスパラの肉巻き、彩りにレタスとミニトマト。


具沢山なお弁当に、5人の顔が綻ぶ。



「何だよこのお弁当…?!結婚してくれ…!!」


「ありがとう。遠慮しておきますね」


「わ〜!めっちゃ懐かしい!高校時代思い出しちゃうな…。いつもこんな感じで彩り完璧のお弁当だったんだよね。リクエストしたものも全部入れてくれてるし、最高です!本当にありがとうセリー!」


「いえいえ。私も作ってて懐かしくなったよ」


「あー。今私はハート型の卵焼きにとてつもない幸せを感じています」



ランチョンマットに、お弁当用の箸。

且つ顔を突き合わせて広げたお弁当は学生のランチタイムさながらで、6人のテンションは自ずと上がった。



「あまねんがさ、セリーからお弁当もらった日は友達と取り合いになるんだって言ってたけど。そりゃ取り合いになるわなぁ」


「セリーさんが作った、しかもこんな可愛い手作り弁当なんてもう…何か一欠片でいいから食べたいだろうね」


「そうそう。ブロッコリーの房でいいからください!お願いします!って言って土下座してきた男の子もいたよ〜。あと、限定品の高そうなお菓子でうさぎさんウィンナーとの物々交換を求めてきた女の子もいた!」


「お弁当一つで楽しそうな高校生活ですねぇ」



話も程々に、待ち切れない面々が各々手を合わせる。



「いやもう!!待てません!!いっただっきまーーーーす!!」


「わいもわいもー。いただきまーす!」


「召し上がれー」



元気な声が食堂にこだました後、それぞれが好きなようにお弁当のおかずを箸で取り、口に運んで行った。



「ではまずは、このハート型の卵焼きから頂きましょうか……あー、美味しい。幸せですこれ…私好みの味付けですこれ…」


「なんと、形と味両方から幸せが貰えますこれ」


「それは良かった」


「いやおむすびうんまーー!!3種類あるの嬉しすぎる!!」


「たまにこうして豪華に振る舞うのってすごく楽しいよ。毎日このクオリティはさすがに無理だけど」


「私にはたまにでも無理だわ…。3種類のおむすび用意しようと思っただけで眠たくなるもん」


「うんうん。てか夜寝る前とか早朝に炊飯器セットしなきゃいけないとか、考えただけで二度寝したい」


「分かるーー!!しかも自分のためにセットしてるわけじゃないじゃん?かのあには無理ですセリーさん!!1000円渡すから自分で食べてきてほしいです!」


「私みたいに料理でストレス発散みたいなタイプじゃなかったら、自分以外の人の為に毎日作り続けるのって本当に大変なことだと思うよ」



芹の言葉に、おそのが小さく呻いた。



「うーん…お母さんが毎日早起きして作ってくれてたお弁当…普通に何の気無しに食べてたなー…」


「分かる。お弁当箱出してって言われただけで不機嫌になっちゃってた」



遠くを見つめるようにして話すおそのの後に続いて、かのあが申し訳なさそうに口を開く。



「かのあもさ、ちっちゃい時今より偏食だったから、毎朝納豆ご飯とバナナだったんだけど……ごめん、納豆切らしてたって言われた時めっちゃブチギレてたなー。何で納豆ないのーー!!って」


「同じものをずっと冷蔵庫にストックしとくのって意外と大変なんだよね。日にち保たないものとか特に」


「お母さんはさ、そうやって忙しい中でかのあのわがままを聞いてくれてたわけで、ご飯も毎日かのあ達の為に炊いててくれてたわけでさーー…そう思ったら今更申し訳なくなっちゃった」


「うちも、私は魚派で兄さんはお肉派だったから…冷蔵庫には常に魚とお肉が入ってて、おかずはいつも両方作ってあったなぁ」


「うーん…!かのあはお母さんとかセリーとかセリーママみたいに、家族に必要なものまで把握して用意するとか絶対できないよ!やれよ自分で!ってなっちゃう!ご飯も3食作るとか無理!コンビニで買わせてよ!」


「自分の為だけだったらそれでもいいと思うけどねー」



芹のしみじみとした言葉に、かのあは潮へと思い出したように質問をする。



「潮はどう思う?てか潮のところはどうだったの?あんまり家族の話聞いたことない気がする!」


「うち?うちは…朝ごはんもそうだけど、お母さんのお弁当とか食べたことなかったからなぁ。それこそ3食の内のどっかは無しかコンビニとかだったし。家のことはお父さんが仕事しながら不器用なりに色々やってたよ」


「うぇぇ?!そうだったんだ…」


「潮、お母さん忙しい人だったんだっけ。ずっとお仕事だったって聞いたような記憶があるけど」


「うーん…まぁ、お仕事…そうね。だから物心ついて初めて食べた手作りのお弁当は、芹のお弁当だったよ」


「えっ…まさか中学生の時に作ったやつ?そうだったんだ」



それぞれの育ってきた環境を話しながら、お弁当の中身はどんどん口の中へと運ばれていく。



「あまねんも、どっちかというとパパさんがお家のことやってたんだよね」


「うん!パパは在宅のお仕事だったから、皆んなが思うお母さんのやってたことみたいなのは大体家にいるパパがやってくれてたよ〜」


「パパさんの作るシフォンケーキご馳走になったことあるけど、まじで美味かったんよなぁ」


「あれ、お菓子作りが得意なカナダのおばあちゃんはパパさんの方の家系だっけ」


「そうだよ〜」


「受け継いでますなぁ」


「ふふ。ママもパパの作るお菓子が世界一美味しいって言ってた。お仕事遅かったりしたら、冷蔵庫に作って置いてあるんだって」


「めっちゃええやん…」


「パパさんめっちゃええやん…」



話している内に、お弁当箱の中は空っぽ。

名残惜しそうに最後の一口を食べた周が、力強く手を合わせて言った「ご馳走さまでした!」に、皆も続けて合唱する。



「「「「ご馳走さまでした!」」」」


「いえいえ。お粗末さまでした」


「もう、ほんっとに美味しかった!肉巻きとかもうめちゃ美味でしたセリー!酢の物も塩梅最高…これが食べたかったんだよね〜」


「桜海老と枝豆のおむすびめっちゃ好きでした。また食べたいです」


「パスタさぁ!!ちょっと美味すぎたんだけど?!」


「それな」


「また作ってくれー!!」


「はいはい。じゃ、ちょっと萌迎えに行って来るね」


「はーい!ケーキ用意して待ってます〜」


「気をつけて行って来てねー」


「ありがとう。ほうじ茶淹れてあるから注いで飲んでね。行ってきます」




ーー迎えに出る後ろ姿を見送り、芹の淹れてくれたほうじ茶を飲んでほっと一息つく。



「あーーーーーー…幸せな時間でございました…愛情のこもったお弁当って最高だね」


「でも6人分のお弁当作るって大変だと思うんだけど。セリーさんはさらっとやるから…」


「そう、だよね…。お弁当食べたいなんてリクエストしちゃったけど、普段からたくさん料理作ってくれてるわけだし…良くなかったかな。セリー優しいから、無理させちゃったかな」


「無理されるのが私たちの本意じゃないってことくらい芹もちゃんと解ってるよ。できないことはしないって言える人だから。大丈夫」


「うん…」


「周が気に病むくらいなら作るの止めるって言うよ芹は。だからそんな顔しないの」


「それは……だめだね。それが一番良くないね。ごめん潮、ありがとう」


「本人が喜んでもらいたくて作ったって言ってんだから、作ってもらえて舞い上がるほど嬉しい我々は馬鹿正直に喜んでいればいいのよ」


「そうだよ!!作ってもらえなくなったら困るからって、野菜食べられるように頑張ってるんだよこっちは!努力中なんだから水の泡にしないでよね!」


「えっ野菜食べてんの?かのあちゃん偉いじゃん」


「ふふん。実は蛍のおじいちゃんからもらった果物と混ぜて、野菜のスムージーから始めてんのさ!!偉いでしょ!!」


「いいなぁ美味しそう、私も飲も」


「まぁ8割果汁だけどな!!」


「…野菜の…スムージー…?」


「おん?!2割ちゃんと野菜ぶち込んであるけど何か文句ある?!」


「いやいや。かのあちゃんはえらいでちゅねー」


「すごいでちゅねー」



誇らしげなかのあを横目に、周が冷蔵庫からケーキを取り出す。


テーブルに乗せられたホワイトチョコレートのモンブランには真っ赤な苺が添えられ、ルビーチョコで作られたハート型のメッセージチョコには「HAPPY WHITE DAY」と可愛らしい字で記されてあった。



「美味しそーーーー!!!かわいいーーーーー!!!」


「本当に?嬉しいな〜」


「セリーに6人分作らせて云々言ってたけど、こんな手間暇かけて丁寧にうちらの為にケーキ作ってる君も同じでしょうに」


「ううん、私、お菓子作ってる時間がこう、一番リラックスできるというか…作った後に皆が美味しいって言ってくれる瞬間が幸せというか…だから、むしろ食べてくれてありがとうというか…。そっか、セリーもこんな気持ちなのかな〜」


「セリーの料理もあまねんのお菓子も、かのあがいーーーっぱい食べるから安心して!!安心していっぱい作って!!」


「あ、ありがとう…」


「まぁ正直にいうと我々はマジで有難いしただただ食べたいからどんどん作ってほしいよね」


「お互いの望みが叶ってる素晴らしい環境ですこれ」



ほうじ茶を呑み終えた湯呑みを片付けて、次はティーカップを並べていく。


周が用意した紅茶ポットからかぐわしい良い香りが優しく広がり、次いで並べられたホワイトチョコのモンブランのふんわり甘い香りが合わさると、食堂がおやつの時間を今か今かと待ち侘びているような空気に包まれる。



「毎回思うけど、こんな3時のおやつがあってええんか」


「作業しながら1人でもそもそ食ってるおやつと全くベクトルの違うおやつよな」


「かのあ昨日、一日中駄菓子食べてたからさ!!嬉しすぎて発狂しそう!!!」


「ひと月の内に何回か訪れるこの最高のイベント以外で過ごしてる日常がさ、うんこすぎるんだよね我々」


「私も昨日のお昼、いつかスーパーで買っといた貝ひもだったから。今日のお弁当まじで体全体に染み渡ったわ。そして今から食べるケーキであと2週間はおやつ無しで生きていける」


「お願いだから、もっと良いもの食べて…」


「いやね、自分の為に用意するのが面倒臭いのよ」


「分かる。手近にあるもの食べがち」


「セリーが用意してくれてる冷凍ご飯と漬物とかすぐなくなるもんね」


「あれはね、ご馳走です」


「セリーが洗って冷蔵庫に入れてくれてたミニトマトとか、あまねんが作っておいてくれてたラスクとか冷凍パンとかね」


「あれっ…?もしかして私たち、セリーとあまねんがいなかったらとっくに終わってる…?」


「気付いてしまいましたか…」


「またパン作ったら冷凍しておくね…」


「ありがとうございます!!」


「感謝です!!」



そんな話をしている内に、玄関ホールから食堂に向かって小さな足音が駆けてきた。


幼稚園の制服を着た萌がぱっと食堂の入り口に現れると、全員の顔がふにゃりと綻ぶ。



「みんな、ただいまー!萌、帰ってきたよー!」


「おかえり萌ちゃん」


「はーん制服萌えです萌さま」


「かわいいでしょー」


「かわいいですーーーありがたやーーーーー」


「くるんってできるよ!」


「あ゛ぁ゛ーーーーー!!がわ゛い゛い゛ぃーーーー!!!!!」


「はいはい、萌。汚しちゃうからお着替えして、手洗いうがいもしようねー」


「はーい」



さっと私服に着替え直した萌が、手洗いうがいをして改めて食堂へ戻ってくる。


そうして萌を椅子に座らせた芹が、テーブルに並べられたケーキと紅茶を見て目を輝かせた。



「なにこれ、また最高のおやつじゃんか」


「わー!モンブランだー!」


「そうだよ〜!前にチョコレートのモンブラン作るって約束してたでしょ?」


「うれしい!!ありがとうあまねちゃん!早く食べたいな!」


「ありがとうね、私周の作ってくれるお菓子大好きだから本当に嬉しい」


「ううん!こちらこそ美味しいお弁当をごちそうさまでした!」


「あまねちゃん、いただきまーす!」


「はーい、召し上がれ!」


「いただきまーす!」


「いただきますーあざますー」



7人で顔を揃えて手を合わせれば、待ち侘びたおやつの時間の始まり。


元気よく一口食べた萌が、嬉しそうに両頬に手を当ててみせた。



「すっごくおいしー!」


「かわいい…」


「かわいい…」


「かわいいと美味しいが同時に摂取できるって最高じゃない?」


「かわいいって摂取するものなの…?」


「中に入ってるクリームも美味しい」


「マロンペーストだよ〜。ちょっとだけ生チョコも混ぜてる」


「うましですこれ」


「紅茶も美味しい。幸せ…ありがとう」


「喜んでもらえて嬉しい!また作るね〜」



あっという間に食べ終え、萌がオレンジジュースを飲み切れば、美味しいおやつの時間は終わり。

皆で後片付けをしながら、ホワイトデーの余韻に浸る。



「ごちそうさまでした。最高のホワイトデーでした、ありがとうございます」


「我々は何をお返ししようかねぇ」


「4人で芹とあまねんに喜んでもらう企画何か考えるか」


「それめっちゃいいな」


「別に何もいらないよ〜って言おうと思ってたけど、何それすごく楽しそう…ちょっと期待しちゃう」


「私も別に作りたくて作ってるだけだから、って言おうと思ってたけど、面白そうだからめっちゃ期待しとく」


「期待しといて」



ーーどや顔の潮がそう言った後、食堂を後にする面々。

しばらくして萌と芹を見送り、はなやぎ館に夜の時間がやってきた。



「あー。美味かった弁当の時間からあっという間に夕飯の時間がやってきましたわ」


「皆は今日何食べんのー?クーバー頼むー?」


「取り寄せのラーメンあるけど鍋出すのだるいんだよねぇ」


「終わってるわー。牛丼頼むか」


「ええ、私ラーメン食べたいな〜。実は昨日、蛍がラーメン届いたって言ってたから煮卵作って置いてたんだ。お肉屋さんで焼豚も買っておいた!」


「は???誰だよこの有能な美女を産んで育てたママさんは!!功労賞与えるぞ!!!」


「ちなみにセリーが帰る前に、余ったら冷凍しなよって言ってご飯炊いていってくれてるから、ワンチャン炒飯もいけるね〜」


「ガチのマジで2人に喜んでもらえる企画本腰入れて考えます!!」


「ラーメン!!煮卵!!炒飯!!お腹すいたーー!!!」


「はなやぎの女神たちに感謝!!」


「じゃ、お鍋に水張って、炒飯作るよ〜」


「はーい!!」


「やったー!」



美味しそうな匂いに包まれるはなやぎ館の夜は、今日も平和に更けていく。







* * * * * epilogue






(コーチ、ホワイトデーありがとうございました〕


〔あ、そうだそうだ。めっちゃ高そうなバウムクーヘンあざました〕


(いえ、こちらこそです。色々調べたら一番良さそうだったので…あと女友達にも聞いてみたら、そこのバウムクーヘンお洒落で美味しいからおすすめってことだったので)


(我々には勿体無いお返しでしたわ本当に あざます)


(ちょっと待てやぁ!!そのバウムクーヘン姉ちゃんには届いてないけど?!おかしいだろ!!!)


(お返しはちゃんと送っただろ 親父とのツーショット写真と駄菓子の詰め合わせ)


(駄菓子詰め合わせええやん)


(まぁ、実はちょっと嬉しかったけどね?!)


(駄菓子好きだもんねぇかのあちゃん)


(いやそれはそれとしてさぁ!!写真何で2人ともあんなに無表情なわけ?!撮るならせめて笑顔で撮れよ!!無表情なのに両手でハート作ってポーズ撮ってんのまじで怖すぎるから!!〕


(何それ草)


(実家帰ってすぐ三脚立てて「写真撮ろ」って声掛けて、「え?あぁ…」ってオッケーもらって「手でハート作ってね」って指示してすぐパシャったのが あの一枚です)


(すぐパシャりすぎだろ!!もっと会話した後に撮れよ!!困惑が顔に出てんだよ!久々に会った父親にいきなりハートのポーズさすな!!〕


(しかも撮ってすぐ「じゃ」って言って帰ったから まさかかのあにホワイトデーのお返しでこの写真送られてるなんて想像もしてないと思う)


(草)


(会話しろよ!!久々に会ったのに意味わからん写真だけ撮って帰るな!!)


(ほんま草 その写真見たいから後で見に行くわ)


(いやそんな良いものじゃないよ?!息子の学生の時のジャージ着たおじさんと文豪みたいな見た目した大学生が無表情でハートポーズで映ってるだけだよ?!)


(見たすぎだろその絵面絶対見に行くわ)


(ちなみに母さんとも撮ったよ 駄菓子の詰め合わせの袋の底見てみ)


(えぇっ?!マ?!ちょっと待って!!)



(あった?)


(………)


(かのあちゃんー?)


(まぁ、楽しく過ごしてます、ってのを伝えてって言われたのと…。一緒に入れてたの見た?かのあの分として、今まで母さんが積み立ててきた通帳。俺も貰った。とんでもない金額で腰抜けたわ)


(……、)


(今まで、結構な額のものプレゼントしてたんでしょ?聞いたよ。でもその裏で、何かあっても大丈夫なようにって、今までずっと貯めてたらしい。遡ったら、本当に生まれた年から毎月積み立てられてた)


(…見た……生まれた年からずーーっと入ってる…)


(話聞いた後に、通帳見てさ。母さん、自分とずっと戦ってたんだなって)


(うん…)


(本当は、自分に何かあった時に遺産の分配で兄弟喧嘩したりしないようにって平等に貯めてたらしいんだけど。今回、かのあにはっきり決別されて…もう遅いかもしれないけど、渡しておこうって思ったんだってさ)


(け…っ決別までしてないけど?!)


(まぁ母さんにはそう聞こえたんじゃない。ちなみに、今までかのあがプレゼントしてくれたものは換算して入れてあるらしいよ〕


(うん…多分これ、プレゼント相当の金額…送ってすぐに入金されてると思う…)


(とりあえず、それが母さんの気持ちってことみたいだから。思うところもあるだろうけど、何も言わずに受け取っておきなよ)


(……うん…ありがと、那由多…)


(俺は何やかんや言って家族が好きだからさ。飲み込めないような思いとかがあっても、いつか…そんなんどうでもいいやって、思えるくらいの感情に気が付いたら、訳も分からず家族として生きてきた、その時以上に家族でいられるんじゃないかって…思うから)


(…うん)


(何か、うまく言葉にできないけどさ)


(ううん、分かる。分かるよ…那由多)


(俺は生まれた時から母さんと父さんの息子で、かのあの弟で、あもなと双子だった。訳も分からず家族だった。でも、たくさんのことが分かるようになった今なら、母さん達も同じようにそうだったんだって、思えるから)


(……)


(その上でさ。そうだ、家族なんだ俺たち、って。そうして同じように悩みながら生きてきた2人の血を継いで生まれてきた子供で、同じように、同じお腹から生まれてきた…血を分けたたった3人の姉弟で、家族なんだって)


(……)


(…何か、改めてそう思えてるんだよ。伝わったかな)


(…うん…め゛っちゃ゛伝わ゛っだ…っ)


(今回かのあが勇気出して母さんに自分の気持ち伝えてなかったら、こんなこと話す機会もなかったわけだし。だから、お疲れ…嫌な役引き受けてくれてありがとな)


(…うん…こちらこそ…写真もありがと…写真越しでもお母さんの笑顔が見れて…う゛れ゛じい゛…!)



(お二方、すみません。こっちだけで話してしまって)


(いえいえ こちらこそミュートして泣いてました すみません)


(那由多くんの心の綺麗さに胸打たれてました すみません)


(えぇ…いや、そんな…)


(私は自分の家族に対してそんな風に思ったことなかったから。だからなんか、いいなって。思った時には泣いてましたわ)


(幸せでいてくれよ、2人とも)


(かのちゃん後で写真見せてー)


(う゛ぅ…いいよ゛ぉーー!)



(何か、素敵なホワイトデーでしたねぇ)


(バレンタインデーの姉妹ショットがまさか、こんな展開を呼び寄せてくれるとはね 良い姉弟だよ君たちは)


(ちなみにちゃんと追加でバウムクーヘン送っておいたから。明日届くよ)


(ちょっと待って何かさぁ、那由多くんやってることイケメンすぎない?)


(えっ…そうですか…?というか、そうなんですか…?彼女いたことないしモテた記憶もないんですが…)


(いやもう、だとしたらモテなくていいよ君は ずっとそのままでいて)


(変な人に引っかからず真っ直ぐそのまま生きて)


(あっ、はい がんばります…)








第十六話 了






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