第11話
かのあるふぁ
〔ついに…クロモンの発売日が迫ってきましたな!!〕
蛍
〔おー〕
〔そういえば、配信許可もらったって言ってたっけ〕
かのあるふぁ
〔そうなんです!!〕
〔てことで、TAで行くか縛りで行くか迷ってるんだけどね?みんなどう思う?何が見たい?〕
潮
〔ま 正直、楽しそうにやってるのが見たくて見てるわけだから〕
〔かのあが楽しんでやれる方でいいんじゃない〕
おその
〔それなー〕
かのあるふぁ
〔えー!でも、ある程度みんなが見たい方を優先したくない?やっぱ〕
潮
〔気持ちは分かるけどね〕
セリー
〔クロモンって、クローゼットモンスター?〕
〔この前萌がぬいぐるみ欲しいっていうから買った かわいいよね〕
潮
〔グッズまじで可愛いんすよねぇ〕
蛍
〔萌ちゃんがクロモンのぬいぐるみ持ってるの解釈一致で良き〕
おその
〔わかる〕
セリー
〔萌がかのあの配信見るようになってから、結構一緒に見てるけどさ〕
〔心底楽しそうにゲームしてるかのあが好き だから、好きなことするのが一番いいと思うよ〕
かのあるふぁ
〔えっ セリー好き…〕
〔すこすこのすこ…心臓バーーーンッてぶち抜かれた…〕
蛍
〔かのあがたまにやってるさ、好きなゲーム何周目配信あるじゃん 今15週目に入ったやつ〕
〔まじでこの作品が好きなんだなぁ…楽しそうだなぁ…毎回ここで泣くの草なんよなぁ…とかって結構楽しんで見てるよ〕
〔あれなんかは完全にやりたくてやってるから面白いわけでさ〕
潮
〔TAも縛りも面白そうだけど、面白いからやる!ってかのあが思ってやってくんないと〕
〔それが一番面白いんだからさ 我々は〕
かのあるふぁ
〔滝のように涙出てるんだけど〕
〔みんなが褒めてくれてるとこめっちゃスクショしたった…印刷してそれぞれ額に飾るね…〕
潮
〔やめろや〕
かのあるふぁ
〔あ、全員分飾るからおそのとあまねんも何か褒めといてね…?〕
蛍
〔おねだりしてて草〕
〔全力でひっくり返って腹見せてるやん〕
おその
〔んー声が好き〕
かのあるふぁ
〔配信見てないな貴様!!〕
おその
〔いや、私の知ってるゲームやってたら作業用に見ながら聞いてる だから声が好き〕
〔決まったジャンルのゲームしかしない私からすると、色んなゲームを意欲的にやってんのはマジですごいと思うね〕
〔ほら 腹見せろよ〕
かのあるふぁ
〔絶対服従モーーーード!!〕
潮
〔一瞬で腹見せて尻尾振りまくってて草〕
あまねん
〔ゲームはあんまりしないけど、クロモンは分かるよ!ちっちゃい時結構やってたな〜〕
〔えーと、褒めるところか、んとね〜〕
〔かのあって、ゲームの字幕部分全部読み上げてくれるでしょ?聞きながら作業してることが多いから、地味にそこが好きだったりする!〕
〔あとはおそのも言ってたけど、声も好き!話も面白いし、テンポもテンションも好きかな〜〕
潮
〔腹撫でながらジャーキー喰わせてんなぁ〕
かのあるふぁ
〔美味しく頂きました!!感謝!!ベタ褒めじゃん!!〕
〔みんな結構見てくれてるんだねぇ…〕
蛍
〔見てくれてるっていうか、面白いから見てるんだよ〕
かのあるふぁ
〔はぅ〕
〔友達だから見てくれてるのかと思ってた…〕
おその
〔楽しそうにやってるの知ってるから見ちゃうんよなぁ〕
潮
〔古参ファンから言わせてもらうと、はずれがない 大体全編面白い、声出して笑う箇所が一回の配信で複数回ある アーカイブ見返したい神回が多い〕
〔以上〕
蛍
〔大ファンおるなぁ〕
潮
〔友達として会ってる時は別にどうでもいいけど〕
〔配信者として見てる分にはもう 大ファンです いつも見てます、応援してます〕
かのあるふぁ
〔いや待って、リアルが疎かなのおかしくない?!〕
〔普段のあの扱いで大ファンってマ…?!〕
潮
〔はぁ…かのあは私にとって遊園地なのよ 分かる?〕
〔年パス買って入場してんの 遊園地そのものを楽しむために〕
〔閉館後は閉館後で面白いけど年パス持ってるんで開館時だけでいいっすわ〕
かのあるふぁ
〔どういう理屈?!意味わかんないんだけど!!〕
〔配信外のかのあも大事にして!?〕
おその
〔かのあの配信はねぇ、わいは行きつけの本屋って感じかなー〕
〔絶対ほしいジャンル置いてあるんだよね 買いたい時にもう置いてあるのよ〕
蛍
〔重宝するわぁその本屋〕
〔私はメニューの多い食事処って感じかなぁ〕
〔定番も一品もサイドメニューも全部美味しいんだけど 端の方にさ、こだわりのメニューとかあって、それも食べれば食べるほど美味しいみたいな〕
セリー
〔んー ラジオのブース見てる感じかな〕
〔詳しくないジャンルのラジオなんだけど、それでも楽しそうにやってて何より話が面白いからずっと聞いていられるんだよね〕
〔それってすごいと思う〕
あまねん
〔私は音楽聴いてる感覚に近いかも!〕
〔丁寧なんだよね、全部 気持ち良いリズムで、テンポで、たまに激しくて楽しくて、尚且つちゃんと聞き続けられるようにしてくれてるから、飽きずにいられる〕
〔好きなだけじゃない努力を感じるよね〜〕
かのあるふぁ
〔えっ〕
〔かのあってもしかして、今日で人生終わる?これ〕
潮
〔お疲れ様でした〕
かのあるふぁ
〔いや!!かのあ500歳まで生きる予定だから!!〕
〔お金貯めて、誰かの為になるような色んな施設いーっぱい作るんだから!未定だけど!〕
〔でもよっしゃー!みんなに褒めてもらって俄然やる気出た!ありがとうね!頑張るよー!!〕
潮
〔いいね 応援してるわ〕
かのあるふぁ
〔許可貰えてちょっと肩に重荷乗っててさ みんなの言葉聞いて安心したし目が覚めたよ〕
〔やりたいようにやってみる!!〕
おその
〔楽しみにしてるわ〕
〔面白そうだったら買おうっと〕
蛍
〔もう予約済みだから、私は配信見ながら一緒にゲーム進めて楽しもうかな〕
セリー
〔萌と欠かさず見るよ〕
あまねん
〔かのあが配信始めたら、私も久しぶりに買ってやってみようかな〜〕
〔参考にしながらクリアしてみる!〕
かのあるふぁ
〔泣くわ〕
〔泣いてるわもう〕
〔みんな ありがとうな…〕
「おーい、潮ちゃーん」
ーー外から突然聞こえてきた声に、潮が慌てて体を起こす。
トークの途中だったスマホの画面を伏せて外を見ると、門の外にアウトドア向けの大きな車が停まっていた。
窓を開けて手を振り、急いで門へと向かう。
「何用ですか、春さん」
「久しぶりー。ちょっと手土産でもと思ってね」
ーー門の前にいたのは、芹の兄 三鼓 春一だった。
紙袋と保冷バックをいくつか手に持った春一に、潮は静かに言う。
「…手土産多くないっすか?」
「いやぁ、かなり量があったからさ。お裾分け」
「お裾分けの量じゃないですよこれ」
「寝かせておいたさつまいもがね、今ちょうど食べ頃なんだよ。これで周ちゃんにスイートポテトとか作ってもらって」
「おー良いっすね」
「で、こっちは秋刀魚なんだけど。焼くから入れて?」
「はい?」
「駐車場停めてきていい?」
「いいですけど…急ですねまた」
紙袋と保冷バッグを受け取って、車を駐車場へ移動させる春一を見送る。
洋館の入り口で改めて出迎えると、春一は七輪や炭などの荷物を乗せたキャリーをごろごろと転がしながら片手を軽く上げてみせた。
「今日誰がいる?」
「今日はー…今かのあがいて、後であまねんが帰ってきますよ。蛍は実家の用事で帰ってて、おそのも和菓子屋の手伝いでちょっと帰ってます」
「まじかよ…6尾持ってきたのに…」
「いや、大体皆いるんですけどね普段は。来るんだったら連絡してくださいよ」
「ま、いいか。全部焼いて贅沢食いしよう。夕飯の予定とか立ててなかった?」
「誰もいないんで、出前でも頼もうかーって話してたくらいですね」
「ならよし。今日の君たちの晩御飯は、秋刀魚と豚汁です」
食堂へ案内し、保冷バッグに入っていた秋刀魚と豚汁の材料を冷蔵庫へと移してもらう。
時計は16時を回っていて、もう1時間もすれば本格的に日が落ち始める。
豚汁作ってから七輪用意するわ、と言って、春一は豚汁作りに取りかかり始めた。
「お子さんたちは大丈夫なんです?」
「今日はね、嫁さんの方の実家に子供たちだけでお泊まり。で、その時にお義父さんから秋刀魚大量にもらっちゃってさ。冷凍してうちらだけで食うのもなぁと思って、持ってきちゃった」
「それはそれは。有難いっす」
「嫁さんは今日、家で見たかったアニメ見たり、子供がいる時は食べられないお菓子とかめちゃくちゃ食べたりする日にするそうな」
「お、良いですね」
「潮ちゃんとこに秋刀魚持って行って焼いて、食べてから帰ってくるって言ったら、潮ちゃんによろしく!って血走った目で言われたよ。ファンなんだってさ。知らんかったけど」
「そうなんですか?嬉しいなぁ」
「今って新しいの書いてんの?」
「そっすね。新刊はまだ先ですけど、まぁ。あ、ネットの方は来週くらいに更新しますよ」
「伝えとこーっと」
ーー話しながら手際良く野菜を切っていく春一の様子に、芹の姿を重ね合わせる。
それに気がついた春一は、一度手を止めて優しく微笑んでみせた。
「どう?結構似てる?」
「…まぁ」
「まだ好きなの?芹のこと」
「好きじゃなかったら、この洋館は祖父の空っぽの別荘のままですよ」
「そりゃそうだ」
再び作業を始めた春一の手によって、別のクーラーに入れて持ってきていた豚汁の具材が、あっという間に仕込まれて行く。
人参、大根、里芋、牛蒡、白ネギ、青ネギ、蒟蒻、そして豚肉。
鍋にごま油を入れてそれらを軽く炒め始めると、食堂中に良い匂いが漂った。
「あー具沢山。良い匂い」
「だろ?いっぱい食べて」
程なくして出し汁を入れて、弱火にしてことこと煮込む。
豚汁の仕込みを終えた春一は、今度は秋刀魚の下拵えを始めた。
「畑の世話、花壇の世話、やぎの世話…。潮ちゃんがこの場所を作ってくれてから、芹は色んな、自分がやりたいと思うことに目が向けられるようになったよな」
「それは…別に私が何かしたからじゃなくて、芹がそうしようと選んでしたことですから」
「やろうと思ってできることばっかりじゃないだろ?もし潮ちゃんがこの場所を作らずこれまで通りに過ごしてたら、あんな風に元気な芹は見られなかったかも。あ、内臓どうする?」
「私は…食べようかな。かのあは絶対食べないっすね。あまねんはどうだろ」
「んー。まぁ、一応取っとくか。後2尾はそのままにしといて、入ってる方がいいならそっち食べてもらおう」
手際良く処理を終えると、今度はお米を炊く準備を始める春一。
その様子をじっと眺めながら、潮は先ほどの話題に立ち返った。
「…実際のところ、本当に私は場所を用意しただけで。そこで花を植えたり、やぎ飼ってみたり、畑耕して野菜育ててみたりって行動したのは他でもなく芹ですからね。
此処じゃなくても、芹は自分で立ち上がれてましたよ」
「立ち上がれてたかもね。でも、その時の今頃ではまだ、芹は沈み込んだままだったかもしれない。俺たちが苦悩して、何とか元気にしてあげようと模索してたかもしれない。ずっと、何年もかけて」
「……、」
「場所を用意した、ただそれだけ、だなんて簡単なことじゃないんだ。君があの子を、光の方へ導いたんだよ。こっちだよって、声をかけたから。あの子は暗い方を見ずに、受け入れて、明るく日の差す場所を選んで今を生きてる」
ーー豚汁の良い匂いが、食堂を暖かく包み込む。
手料理の持つその暖かさを、潮は知っている。
此処へ来て、この厨房に立ち、いつも笑顔で皆に振舞ってくれていた。
あの笑顔を、自分は守ることができたのだ。
それだけで、どうしようもない充足感に包まれた。
愛しい人と同じような顔をした春一が、潮に微笑む。
「だから、潮ちゃん。ありがとうね」
「…いえ」
何とも言えない雰囲気が漂い、春一は一つ咳払いをしてみせた。
「ま、見てる分には切なすぎるけどね。あいつが気付いてないし、気持ちに応えてやれないだろうってのも分かってるから、心苦しいよ」
「…分かってます。でも、近くにいてくれるってだけで、それ以上に嬉しいことはないので」
「はー。俺には耐えられんよ。これが純情か…」
そんな話をしていると、ぱたぱたと食堂に近づいてくる足音が聞こえてきた。
入口を振り返ると、そこには目を輝かせたかのあの姿。
「何か、良い匂い…するけど…?!」
「おっ、かのあちゃん。今日はご馳走だよー」
「こんにちは、春さん!ご馳走最高ー!!」
小躍りしながら近づいてきたかのあは、立っていた潮にタックルをかまし、鍋に入った美味しそうな豚汁を見てガッツポーズをしてみせた。
「うんまそぉー!!」
「…痛いんだけど…」
「かのあちゃんが野菜食べられないって前情報を芹から聞いてたんで、蒟蒻多めにしてるよ。あと里芋とか、芋系は食べられるんでしょ?」
「食べられまっす!!あざまっす!!」
「後で秋刀魚も焼くからね。魚は割と何でも好きって聞いたけど本当?」
「やったー!魚大好き!骨がなければ食べられまっす」
「あ、忘れてた。かのあは骨取ってあげないと魚食べられないっす」
「はぁ?!うちの息子でさえ綺麗に自分で取って食べるよ?!誰がそんな甘やかすの…って周ちゃんかな…?だめ、甘えん坊しない、今日は俺が許しませんそれは」
「は、春さんが許してくれなくても、あまねんが取ってくれるもん!かのあ絶対取らないもん!」
「いーや絶対自分で取らせる」
「びゃーーー!!やだーーーー!!!」
「やだじゃありません」
親子かというやり取りを見つめながら、潮は呆れ顔でタックルされた腰を摩る。
それから炊飯器のスイッチを押した後、春一は「よしっ」と声をあげ、2人に向かって小首を傾げた。
「で、どうする?何時くらいに食べる?」
「何時でも良いですけど」
「んじゃ18時くらいにするか。17時半くらいから七輪用意するわ。火あっても寒いと思うから、上着とか着てきてね」
「了解です」
「しかし、1時間くらい暇になっちゃったなー。何かしよ」
「何かってまた…アバウトですね」
「雑談するのも良いけどなぁ。ゲームとかないの?」
「ありますよ」
「お、いいね。かのあちゃん何か対戦しようよ」
「お!良いですよ!でもかのあが勝ったら、秋刀魚の骨は取ってもらいますからね!!」
「おー?良いよー?別にー?そうするかぁ」
かのあの挑戦を受けて立った春一は、火を一旦止めて、豚汁の鍋に蓋をした。
ーーそれから、食堂を後にして、プレイルームへと移動してきた3人。
各種ゲーム機器、ゲーミングPC、映画鑑賞用のプロジェクターなどを一通り見回した春一の口から、思わずといったように感嘆の声が漏れる。
「すんげー…」
「ここがいわゆるプレイルームっすね。各自友達が来た時にここで遊んだりとか、そこのやつソファベッドなんで、泊まって帰ってもらうことも可能です」
「何て充実したシェアハウスなんだよここは」
「よく蛍がここで息抜きにゲームしてるよね!」
「あまねんも自分ちのDVD持ってきて大画面で推しのライブとか見てるよ」
「いいシェアハウスだねぇ…」
言いながら、潮の持ってきたゲームソフトを漁る。
「どれで対戦しようかなー!」とご機嫌なかのあの横で、春一がぽつりと呟くように言った。
「俺、この中にあるやつ全部やってるわ」
「えぇ…春さん…一体どこにそんな時間あるんすか」
「人生は、いかにやりたいことの為に時間を使えるかが勝負よ」
春一は、その中から一つを手に取ってかのあに掲げてみせた。
「かのあちゃん、ドラバルはどう?」
「おお…ドラゴンバルーン…ポップな絵柄の割に超高度プレイヤースキルが求められる高難度対戦シューティングゲーム…恐ろしい速さでコントローラーの上を動く指が有名なやつ…」
「いや!これはどうでしょう!ミュジカレ!!」
「お、おお…ミュージックカレイドスコープ…万華鏡のようにくるくる曲が変化しながら、音符も万華鏡のように変則的に表示される超高難度リズムゲーム…極めた者は集中するあまりゾーンに入ってしまうという…」
かのあも一つを手に取って掲げると、すかさず潮が解説を加える。
お互いが得意なゲームソフトをそれぞれ選び、さてどうするかとなったところで。
丁度2人の目に映ったゲームソフトがあった。
「うーん、閃光もいいな」
「せ、閃光…。いわゆる頭出しの極地と言われる、とんでもない反射神経を問われる高難度FPS…。ホログラムと固有スキルを駆使して対戦相手を翻弄し、自陣の6つの光源を守り抜くゲーム…」
「説明どうもね」
「正直、春さんが色んなゲームやり込んでるんだって知ってビビってますよ…良いでしょう!!閃光で受けて立ちましょう!!」
「バトルモードで、どちらかが3本先取するまで。もしくは1時間経った時点で勝利回数の多い方が勝ち。これで行こう」
「望むところです!」
制限時間は1時間。
早速セッティングをし、2人は各々のゲーム機の前でヘッドセットをつけて座る。
「実は俺さ、かのあちゃんの配信めちゃくちゃ見てんだよね…」
「な、何ぃ!?ライバルかと思いきや唐突にファン現る!!」
「いや、春さんまじでどんな生き方してんすか…?タイムリープでもしてんすか?色々やりすぎでしょ…怖いわ…」
「普通の人が過ごしてる中で、無駄な時間ってあるでしょ?ただぼけーっとスマホ見たり、22時に寝ようって思ってんのに0時までだらだら起きちゃったとか。そういう時間を過ごさないよう、無駄を極限に省いて生きてるってだけ」
「怖いわ…」
「今日みたいにのんびり過ごす日も勿論あるけどね。
ま、無駄を省けば1日って結構な時間あるから、割と色んなことできるよ。アウトドアもインドアもバランス良くね」
「怖いわ…」
「やるって決めたらそれだけやってるから、向き合う時間が濃密なんだよ」
「さっきから耳痛いよーどうしよう潮ー…」
「我々無駄な時間だらけだもんね…」
「ストイック春さんのプレイスキルまじで計り知れないんだけど…?」
「俺、多分結構強いよ」
「ぐぅ…!!強キャラっぽい…!!絶対魚の骨取らせてやるからな!!負けないぞぉ!!」
「やったれかのあ!」
ーーーしかし。
ドヤ顔の通り、1本目は春一の圧倒的勝利であっさり終わってしまった。
「か、かのあが…負けた…だと…」
「えっ、えっ?何が起きたの?かのあ、ほとんど何もできずに終わったけど?えっ?」
「閃光はね、まじで極めてたから俺」
「指の動きやばかったよ今…?」
「かのあも結構やり込んでるんだよこのゲーム…?えっ、まじ…?」
春一の選んだキャラクターが勝利を喜んでいるエフェクトを、呆然と見つめる潮とかのあ。
すぐに2本目が始まり、気を取り直して集中する。
「仕事しつつアウトドアして山籠りして古武術とパルクール極めてて2児の父でかのあの配信も見てる中で、片手間にゲーム極めてる超人にかのあが負けるわけないんだから!!」
「そうだぞ、かのあ!字面だけだと完全敗北っぽいけど、ゲームに向き合った時間はお前の方が長いんだ!気持ちで負けるな!」
「あ痛い!!無理!!あ、無理かも!!!ぎゃー!!」
「そこにいたら撃ち抜いちゃうよー」
「おんぎゃーー!!ちょっと待ってこれ、ホラゲーなんだけど!?」
「今赤ちゃんいなかった?」
「光源残り3つだよー」
「待って舐めプされてるこれ!!有り得ない…有り得ない!!こんなの、こんなのーーー!!」
ーーそうして。
あっという間に3本先取されたかのあが、床に撃沈する。
ふー、と一息ついた春一は立ち上がり、爽やかに言ってのけた。
「悪いね、ランキング1位になるまで突き詰めたからさ。このゲーム」
「い、1位だと…?!どんなに頑張っても6位までしか上がれなかったのに…!!これが、かのあと、春さんの…差…!え、てかちょっと待って、1位ってことは、あの伝説のHALU1って、まさか…!!」
「はー。久々にしっかりゲームしたわぁ」
「当時怒涛の勢いでランキングを勝ち上がり、絶対王者だったプレイヤーに完全勝利したあのHALU1が、まさか、春さんだったなんて…!!」
「何この展開」
興奮するかのあを横目に、冷静な潮がぼそっと溢す。
ゲーム機を片付けながら、春一は笑った。
「その後すぐやめちゃったから、ランキング除外になって勝ち逃げしちゃったけどね。ちなみに、ミュジカレだったら負けてたよ俺。リズム感ゼロだから向いてなくてさー。ステージ1もクリアできなかったもん」
「くっそーーーーー!!!閃光でもいけるっしょ、とか余裕ぶっこいたせいで負けたー!!!」
「かのあちゃんのミュジカレ実況見たけど、どう頑張っても勝てんと思ったね。君のリズムゲーのプレイスキルは本当に神がかってるよ」
「ありがとうございます!!じゃ、改めてミュジカレで勝負を…」
「しません。今回はどう足掻いても俺の勝利です。魚の骨は自分で取ってください」
「何てこったいだよ!!」
どんどんと床を叩く騒がしいかのあを置いて、プレイルームを後にする。
そうして、日も落ちた頃。
豚汁を弱火で温め直した後、中庭へと移動して、春一は七輪の準備を始めた。
「いやぁ、かのあちゃんと対戦できて楽しかったわ。また遊んでもらおうっと」
「ちなみにドラバルも強いんすか?」
「ドラバルはね、結構いいとこまで突き詰めてやったよ。最高ランクまではとりあえずいった」
「やべー…」
「とりあえず、やろうと思ったことは全部納得いくまでやりたいからさ。パルクールも古武術もそう。ただ、ミュジカレだけはどんなにやっても無理だった……音感はやっぱり生まれ持ったもんなのかな…反射神経だけじゃ追えないんだよ、あの不規則な音符が」
「かのあのミュジカレ実況って本当、凄すぎて意味分かんなくて見てたら気持ちいいっすよね」
「たまに悔しくて見ちゃうんだよなー」
ショックから立ち直ったらしいかのあが、とぼとぼと中庭に出てくる。
ダウンを着てもこもこになり、ちょこんと木の椅子に腰掛けたその姿は、まるで可愛らしいゆるキャラのようだった。
「負けた……くやちい……今日はなやぎの皆に褒められてテンションマックスだったのに、一瞬で…くぅ…」
「お、何で褒められたの?」
「かのあ、公式からクロモンの実況許可もらって気負っちゃってたんで、元気出してもらおうと思って皆でかのあの良いところ1人ずつ褒めたんですよ」
「すっげーな、公式から?さすがのかのあちゃんだなぁ」
「……。まぁ、全シリーズそこそこの再生数取ってますからね…」
「褒められて分かりやすくにやけ始めてて草」
「ちなみにクロモン実況全シリーズ見てるよ俺」
「……。ふ…ふーん???それはそれは。あざまっす」
「今回もやるのかなーって思ってたから、楽しみが一つ増えたなぁ」
「かのあ、口角上がってる。上がりきってるそれ」
七輪の火起こしをする春一の横で、にやにやとした笑みを隠しきれないかのあ。
かのあとお揃いのダウンを着ながら、潮は微笑んで言った。
「かのあの実況が上位に食い込んだら、何かまた美味しいものでも食べようか」
「良いね!!それ良いねぇ!!お肉!お肉!ステーキにしよう!!」
「はいはい」
「もしそうなったら、俺が行きつけの肉屋からめちゃくちゃ良い牛肉仕入れて送るよ」
「最高!!かのあって本当、人に恵まれてるぅ!!」
「ただいま、見慣れないおっきな車があると思ったら、春一さんだったのか〜」
「あ!おっかえりーーあまねーーーーーん!!!」
ーー七輪の火が良い具合に網を温め始めた頃、周が帰宅。
ささっと荷物を自分の部屋に置いて、ダウンを着て戻ってきた周を、潮と春一が改めて迎える。
「おかえりー」
「お帰り周ちゃん。お邪魔してるよ」
「ただいま、ようこそ!炭の匂いする〜。何焼くんですか?」
「秋刀魚!」
「わ〜!いいですね!やった、ご馳走だ〜!」
「豚汁も米もあるよ。持ってくるわ」
「手伝います」
食堂から、潮と一緒に豚汁の鍋と炊飯器、そして下拵えをしていた秋刀魚を持ってくる。
良い匂いに包まれた中庭で、お揃いのダウンを着た3人に見つめられながら、春一は秋刀魚を七輪に乗せた。
「あーお腹空くー!!七輪秋刀魚ーー!!!」
「まぁまぁ、ちょっとお待ちになって」
お腹を鳴らして待っていると、脂の弾ける音が響き始めた。
網を軽く持ち上げて焼き目を確認し、頷いて慎重にひっくり返す。
「おおーーー!」
「素晴らしい焼き色!!」
皮目も残さず、3匹の綺麗な焼秋刀魚が網の上に鎮座した。
そうして裏側も焼き終え、3人の目の前に大根おろしと共に並べられていく。
豚汁、ご飯と一緒に並んだそれらは視覚まで美味しい、絶品晩御飯となった。
「お待たせしました、絶品秋刀魚定食でーす」
「わーーい!」
「美味しそー!」
「ありがとうございます、春さん!」
自分の分と残りの2尾を焼き始めた春一に御礼を言うと、3人は仲良く手を合わせた。
「「「いただきまーす!」」」
「はーい、召し上がれ」
* * * * * epilogue
(はい、かのあちゃん。頑張って骨取って食べてね)
(ぐぬぬぅ…!負けたから何も言えない…!!)
(えっ!!かのあ、骨取れるの?大丈夫?)
(あまねん…)
(周ちゃん、だめだよ。手貸したらだめ。勝負で決めたことだからねこれは)
(は、はい。分からないけど、分かりました…頑張れかのあ!)
(ぴえぇぇぇ!!!無理だよー!!せっかくの秋刀魚なのにぼろぼろになっちゃうもーーーん!!)
(はぁ…仕方ないなぁ。じゃぁ、俺がとっておきの方法を伝授してあげよう)
(と、とっておきですと…?)
(俺みたいに骨あんま気にせずに食うのは無理そうだから、丸ごとずぼっと骨が取れる方法をね。やってあげよう)
(ま、まじすか!?そんな方法が?!)
(まずこうするでしょ?んで、こう上と下をこうして…んで、頭持って…よいしょ)
(うおおおおおおおおおお!!!)
(うるさっ声でかっ)
(見た!?潮見た!?ずるるって骨がぁ!!)
(見てるでしょどう見ても。はいはいすごいすごい良かったね骨取れて)
(これで身だけ食えるから)
(やべーーー…!!じゃ、いただきます)
(こら。君が自分でやらなきゃ意味ないでしょうが。自分の分でやってね)
(びえーーー!!上手く行く気がしない…!!)
(大丈夫大丈夫、やってみ)
(は…はーーー!!びびってると思った?できちゃうんですよねぇこれが!!)
(やるやん)
(やったーー!これで次から秋刀魚は自分で食べられるぞー!!)
(すごいじゃんかのあ!これで次から骨取ってあげなくて済むぞ〜)
(ウィンウィンでしかなくて草)
(うわぁ…秋刀魚ほっくほく…ご飯に合いすぎですわこれ)
(おいしい!脂すっごく乗ってますね!)
(うんうん、いい秋刀魚だね。これはうまいわ)
(七輪で焼く秋刀魚最高かよ…)
(豚汁もすっごく美味しい!ご飯も水加減丁度いい〜!セリーも春さんも料理上手いってすごいよね)
(2人とも美形な上に料理まで上手いって。はぁ…三鼓家さんさぁ?!)
(キレてるなぁ)
(上手いとか下手とかじゃなくて、俺らは単純に料理が好きなだけなんだって)
(あ゛ーーーー…美味しかったぁ゛ーーー…大満足…)
(骨の取り方も分かったし、美味しすぎたし!最高な晩御飯だったなー!)
(ご馳走様でした、春さん!全部すっごく美味しかったです!)
(貰い物だけど、喜んでもらえて良かったよ。あ、そういえば、さつまいも大量に持って来たからさ。スイートポテト作ったりとかに使って)
(え!いいんですか?!そろそろ作ろうかな〜どこのさつまいもにしようかな〜って悩んでたんです、助かります)
(寝かせてたからあまーくなってるよ。大学芋とかもいいかもね)
(やって!!あまねん!!思いつく限り全部作って!!)
(うん、たくさん作ってみるね!楽しみになってきた!)
(んじゃーそろそろ帰ろうかな)
(今日は本当に、ありがとうございました春一さん)
(こちらこそ。皆、芹のこといつもありがとうね。これからも仲良くしてやって)
(いや、それについてはむしろどうか仲良くしてください!ってスタンスなので我々は!)
(そう言ってくれるお友達に囲まれて、本当に良かった。また色々持ってくるよ)
(あざます!待ってまーす!!)
(かのあちゃん、配信頑張ってね。応援してるよ)
(あざまーーす!!美味しいもの食べさせてもらったんで、次はステーキご馳走になる為にがんばりまっす!!)
(いい心掛けだ)
(じゃ、またねー。お邪魔しましたーおやすみー)
(お疲れ様でした)
(おやすみなさーい!)
(ありがとうございました〜!)
(ほーい)
(いやー、美味しかったなぁ)
(さ、戻ってゲームでもする?)
(いいね!皆で遊ぼう!)
(んじゃミュジカレやる?!)
((却下で))
(はい)
第十一話 了