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はなやぎ館の箱庭  作者: 日三十 皐月
第1章 「箱庭の日常」
14/39

第10話(1)






あまねん

〔栗拾いがしたいです!〕



〔どうぞ〕


おその

〔6人分よろ〕


〔山の蚊はでかいからね、虫除けスプレー忘れずに じゃ、応援してる〕


あまねん

〔えっ えぇ…?!〕

〔あっ もしかして、一人で行ってくるね!っていう風に聞こえたのかな?一応お誘いのつもりだったんだよ〜〕

〔みんなで行こう?栗拾い!〕


〔メンタル激強で草〕


〔6人で栗拾いは多いって 2人でいいよ2人で〕


あまねん

〔いや、えっ!?〕

〔秋になったし、また何かしたいなぁと思ったんだけど…おかしいな…?思ってた反応と違うな〜〕


〔んー屋台飯パーティ楽しかったなぁ〕


おその

〔確かに あのイベント以降落ち着いてきたから何かしたい気持ちはある〕


〔何かやろうにも、何やかんや皆忙しかったもんね〕


〔はい〕

〔夏祭りの後からしばらく、ガチで3徹、3時間睡眠、2徹みたいな生活してました ようやく落ち着きました有難うございます〕


セリー

〔納品期限ぎりぎりの注文が結構あって立て込んでたから、ちょっと忙しかったね〕


おその

〔わても動画編集何本か抱えてたけど、最近ようやく終わらせたとこですわ〕


〔おっ まじ?皆ようやく落ち着いた感じ?〕

〔この前めっちゃ面白そうな展覧会見つけてずっと行きたかったんだけど、忙しそうだったから誘えなかったんだよね。超朗報だわ〕

〔誰か一緒に行こうよ〕


おその

〔展覧会?何の展覧会よ〕


〔『新進気鋭のトイレットペーパー展』〕


おその

〔何それ新進気鋭すぎる〕


〔トイレットペーパーに印刷された面白いデザインの数々を楽しむ展示会や

尚、今なら観葉植物デザインの消臭グッズが貰える模様〕

〔まじで観葉植物の見た目だから、消臭の液を垂らして乾いてきたら水あげるみたいにまた足していくっていうスタイル 有能グッズ〕


おその

〔いやそれは行こう 絶対行こう〕


〔はいーおそのはそう言うと思ってましたー で、いつにする?〕



セリー

〔いいなぁその消臭グッズ〕

〔ほしい〕



〔あっ…えっ?マジっすか芹さん 行く?〕


〔おっ 修羅場の予感〕


〔とんでもない大物が罠に掛かりやがったぜ〕

〔てなわけでおその、お前は逃してやろう 山へ帰るがいい〕


おその

〔ブッ○すぞ〕


〔誘われてノリノリだったのに振られてんのほんと可哀想〕


セリー

〔いや、何で2人で行くの 3人で行けばいいでしょ〕


〔てか普通に私も行きたいんやが?〕


おその

〔んじゃ4人で行くか〕


〔まぁ良かろう じゃ、日程決めるかー〕


おその

〔いつにするぅ?〕



あまねん

〔ちょ、ちょっと待ってーーー!私の栗拾いの案が無かったことになりそうな感じの流れやめてよ〜!〕

〔めちゃくちゃ楽しそうに話すじゃん!そんなにどうでも良かったかな!?栗拾い楽しくない?!〕



〔いやね、個別に誘われたならええやん楽しそうやん行くかーって感じだけど〕

〔6人は絶対多いよ〕


セリー

〔私は好きだよ栗拾い〕


あまねん

〔だよねセリー!めちゃくちゃいい案だと思ったんだけどなぁ…〕

〔いや!何と言おうと予定がないなら6人で行きます!譲りません!〕


〔いいけどさ 1週間くらい栗ご飯になんない?〕


〔は?ちょっと待って遺憾だわ。何で栗ご飯に全振りなわけ?甘栗食わせろや〕


〔うわキレてて草 あれ、もしかして栗ガチ勢おる?〕


(なめやがって…モンブランも作るぞ、あまねんがな〕


おその

〔モンブランは食べたいやろ。なぁ、あまねん〕


あまねん

〔あれ、もしかして思ったより盛り上がりそう?〕

〔いいね!モンブランもしてみよっか!〕


セリー

〔モンブランめっちゃ楽しみ〕



〔まぁ栗拾いが現実味を帯びてきたところで聞くけど、どこでやる感じなの?芹の兄貴の山?〕


あまねん

〔ううん、えっとね 今回栗拾いさせてくれるのは、いつもお世話になってる牧場の直売所のおばちゃん、小梅さんです!〕

〔足を悪くしちゃったから、今年の栗拾いはお手伝いがほしいんだって〕


〔ほう これで唐突な栗拾い案の謎は解けたな〕


あまねん

〔いつもお世話になってるから是非手伝わせてくださいってことで行くんだけど、せっかくなら皆で一緒に栗拾いできないかな〜って〕

〔思った次第です!〕


おその

〔まぁ楽しむかどうかは別として、モンブラン食えるなら行くわ〕


あまねん

〔よし、分かった 聞き方を変えるね!〕

〔栗拾ってくれた人には、後日おやつとしてモンブランが出ます!お手伝いする人〜!〕


おその

〔はいはーい!!〕


〔行きまーす!!〕


あまねん

〔おかしいな…栗拾い行こう!って誘った時にその反応がくるはずだったんだけどな…?〕 

〔でも、小梅さんに皆を紹介できる良い機会だし、何でも良しとします!〕



〔てかさぁ、そもそも成人済みの女6人が栗拾いに来ましたーって山に遊びに来るとかかなり特殊な状況じゃない?そのへん大丈夫なん?〕


あまねん

〔大丈夫!皆のことは色々話してあるし!お手伝いに行くわけだし!〕

〔それに、おばちゃんも優しいけどちょっと変わってる人だからね。色んなことに寛容な人なんだ〕


〔ん?おばちゃん“も”ってどういうことかな?まるで私たちがそもそも変な人みたいな言い方に聞こえるけど?ん?〕


セリー

〔めちゃくちゃ引っ掛かってて草〕


〔ねっちねちで草〕


あまねん

〔いや、悪い意味で言ったんじゃないよ…?〕


おその

〔潮、正義は自分の中にしかないから お前が自分を変なやつじゃないと思うならそう思うこと自体は紛れもなく正義だよ〕

〔ま 残念ながら私からするとお前は紛れもなく変人だけどな〕


〔はーお前に言われたくないんよなぁ〕


〔変人同士の会話ってマジで滑稽で草生えるわ〕


〔はーお前にも言われたくないんよなぁ〕


おその

〔変人代表が草生やしててほんま草〕


〔この6人の中だったら私がセリーの次に一番まともでしょうよ〕



あまねん

〔えーと…そろそろ本題に戻していいかな…?〕

〔一応今週土曜日の午前中からでどうかな?と思ってるけど、行けそう?あ、セリーは是非萌ちゃんも連れてきてね!楽しいと思うから!〕


セリー

〔ありがとう、助かる〕


〔土曜午前ね、オッケー〕



かのあるふぁ

〔ちょっと待ってー!!配信中にぴこぴこスマホ鳴ってるなーって思ってたら!!何楽しそうなこと企画してんの!!!〕

〔栗拾いとか幼稚園の時以来なんだけど!かのあもいくー!!〕



〔あ、ごめん。絶対参加するだろうと思ってたから、もう勝手に人数に入れてたわ…てか会話に参加してないの気付いてなかった いなかったんだ〕


かのあるふぁ

〔えぇぇ!?「あ、いたんだ」は聞いたことあるけど「あ、いなかったんだ」は初めて聞いたよ!?それってことはつまり……かのあの存在感が有りすぎるってことでいいのかな…?〕


〔それは言い得て妙だな…もしかしたらそうなのかもしれない〕


〔いないことに気が付かないくらいの存在感 でもいないってことに気が付いてない それは存在感がないからなのか、それとも存在感が有りすぎるから起きる現象なのか〕


おその

〔喋らせたらめちゃくちゃうるさいのにね。何でいなくてもいると思っちゃうんだろうなぁ不思議だなぁ〕


あまねん

〔分かんないけどとりあえず、最後の最後で栗拾いめっちゃ楽しみな人現れたからもう…何でもいい…嬉しい…〕

〔というわけで、参加する人は土曜日の午前中に駐車場集合ね〜!〕


〔ほーいよろしくー〕


おその

〔モンブラン!モンブラン!〕









「まぁ!いらっしゃいお嬢さん方!」


「おばちゃん、こんにちは!今日はよろしくお願いします」



ーー土曜日の午前。


約束通りの時間に山へ行くと、たくさんの栗の木に囲まれた女性が一人。

テーブルや椅子、ブルーシート、栗拾いの道具など諸々を用意して待っていたその女性は、やってきた7人を笑顔で出迎えた。



「みんな、こちら小梅さん」


「初めまして、佐竹小梅です。足を悪くしたから、今年は息子が手伝ってくれる予定だったんだけどねぇ。俺も腰が痛いからーなんて言われちゃってもう、困ってたの。来てくれてとっても嬉しいわ」



周以外がそれぞれ名乗りつつ挨拶をして、最後に萌が手を上げながら元気よく挨拶をした。



「萌です。よろしくおねがいします!」


「まぁお利口さん、かわいらしい!私の一番下の孫が今丁度このくらいなのよー!大変よね、お母さん。お世話頑張ってるの、見たら分かるわ」


「いえ…ありがとうございます。毎日勉強です、本当に」


「うんうん。4人育ててきて、5人孫がいるけどね。小さい子供とずっと一緒に過ごすって、余裕を持っていないとしんどいものよね。心だって休息が必要だわ」


「そう思います」


「お母さん、お婆ちゃん、嫁。たくさん呼ばれるから、名前のある一人の人間だってことを忘れそうになるけれど…そういう時、名前を呼んでくれる誰かの存在ってとっても大切だわ」



お友達を大事にね、と優しく微笑まれて、芹も微笑みながら頷いた。

それから、「さ!」と大きな声をあげ、小梅は手を一つ叩く。



「じゃぁ、たっくさん栗を拾って頂戴!人手があって助かるわ、じゃんじゃん採って帰ってね!」


「「はーい!!」」


「採った栗は何にするの?栗ご飯かしら」


「色々する予定なんです。栗ご飯とか、甘栗とか…あとモンブランも!」


「まぁ、モンブラン!いいわね、周ちゃんお菓子作るの上手だものね」



そんなことを話しながら、早速用意してくれていた栗拾いの道具を装備した面々。


小梅が萌に道具をつけている横で、盛大にあくびをしたかのあの後ろ頭が潮によって盛大に叩かれる。



「いだぁ!!何すんの!?」


「そんな堂々とあくびをするんじゃないよ君は」


「生理現象なのに!!遅刻しないように配信して完徹で来てるんだよ?!あくびくらいさせてよね!」


「勘違いするなよ、完徹がお前だけだと?こちとら何回あくび噛み殺したと思ってんだ」


「…まさか……」


「集合時間ぎりぎりまで配信しやがって。いつ寝るかな?もう終わるかな?終わったら寝ようかな?とか考えてたらもう集合時間間近だったわ」


「だってー!ぎりぎりまで何かしてないと寝ちゃう自信しかなかったんだもん!」


「あのさぁ…君たちはどうしてこう、何か予定を立てる度に睡眠時間を犠牲にするのかね」


「早く寝てれば早く目が覚めるでしょうよ」



蛍と芹がもっともなことを言うと、かのあは両手を勢い良く交差してドヤ顔をしてみせた。



「ブッブゥーーー!!君たちとは体の作りが違うんですぅーー!!早く寝たって昼に起きますぅーー!!君たちみたいなきちんとした大人と一緒にしないでくれる?!」


「一体何をキレられているのだろう我々は」


「いや、まぁ今回は寝てから来ようと思ってたし、そもそもかのあと一緒とは思われたくないけどさ。一回寝ると満足するまで寝ちゃうから、予定ある日の前日は寝ないのが良策だったりするのよ」


「個人の見解で草」


「そんな眠そうに言われてもねぇ…」


「いや潮と一緒だと思われたくないけどさー!かのあも学んだんだよね!次の日に予定がある時は完徹するのがベストだって!」


「同じこと言ってるって君たち」


「寝ずに来たら眠たくて楽しめないでしょうに」


「いや?楽しいよ?」


「むしろ眠たくてテンション上がってるから!!任せてよ!!」


「声でっかいなぁ…」



眠そうにあくびを噛み殺したり、目がぎんぎんに開いたりと忙しい潮とかのあを横目に、萌が栗拾いの道具を背負いながら嬉しそうに飛び跳ねた。



「萌、栗拾い初めて!このいがいがは触ったらダメなんでしょ?」


「そうだよ、痛いからね。ちくちくするよ」


「でも、いがいがの中に入ってるよ?どうやって採るの?」



近くにあった栗を指差して言った萌に、小梅がよっこらしょと声を上げてお手本を見せる。



「いい?萌ちゃん。おばちゃんの方を見ていてね。こうやって、足でね、こうするでしょ?そうして、踏んでね…」



小梅がいがの両端を長靴の底を使ってぐいっと踏むと、艶のある立派な栗が現れた。

それをトングで掴み、背中のかごにひょいと入れる。

手際良く栗を拾った小梅を、萌は目を輝かせて見つめた。



「わぁ!出てきた!すごい!萌もやってみたい」


「よし、じゃぁ私と一緒にやろうか」



萌の後ろについた潮が補助しつつ、小梅が見せた手順でいがを割る。

嬉しそうな萌が、その中から栗を拾って天に掲げてみせた。



「できたー!できたよー!かのあちゃん!みてー!」


「うひゃー!よかったねー!尊い!可愛い!初栗拾い記念日!」


「えへへー」


「上手上手。次1人でできそうかな?」


「うん!ありがとう、潮ちゃん!」



ご機嫌な萌の、よいしょよいしょと要領を得て次々と栗を拾っていく小さな背中を、大人たちがにこにこと見つめる。



「いやぁ、連れてきて良かったわ」


「めっちゃ楽しそうでかわいい〜。張り切ってモンブラン作らなくちゃ」


「よっしゃーモンブランの為に人肌脱ぐかぁ」


「拾うぞー!栗ごはん!甘栗!モンブラン!」


「かのあ、普段外あんま出ないんだから無理したら倒れるよ。寝てないんだし、程々にね」


「はーいセリーママー!」


「ママっていうな」



張り切る萌に次いで、かのあもどんどん栗を拾って行く。その後ろを、潮や蛍、おそのがのんびりと栗を拾いながら着いて歩いた。



「まぁまぁ、皆元気いっぱいで見ていて楽しいわ!若返った気分になるわね。周ちゃんが素敵なところで過ごして、素敵なお友達に囲まれてるんだって分かっておばちゃん嬉しい」


「本当、すっごく楽しいんです毎日!だから紹介したくって。皆を連れてきて良かった〜」


「お手伝いに来てくれてありがとうね。お礼と言っては何だけど、お昼ご飯をたっくさん用意してるから!栗拾いが終わったら皆でたんと食べてお帰り」


「えぇ?!良いんですか?」


「昨日お父さんが船釣りに出てね、大きな魚をいっぱい釣ったのよ。ついでに朝市で良い海鮮を買ってきたからね。それで舟盛りしたり貝を焼いたりするからね!」


「うわ〜!最高!」


「周、まだ皆には黙っとこう。疲れてきたかなーって時に言えば士気爆上がりするから絶対」


「そうだね!そうしよっか」



立ち上がった芹に続き、周も道具を担ぐ。

「よろしくね、怪我はしないでね」と小梅に見送られ、2人も皆に混ざって栗を拾って歩き始めた。







ーーそれから、小一時間後。



「結構拾ったんじゃない?」


「何言ってんの、まだまだあるよ。あそこ見てみ?」


「先生ー、わーい!とか言って先に歩き回ってたかのあちゃんが一番拾った栗の数が少ないのは何でなんですかー?」


「それはね、一番先にバテたからでーす」


「はうぅ…限界…限界だよぅ…かのあの小枝みたいに細い足がぷるぷる震えてるよぅ…」


「朝まで配信してちょっと栗拾いに来ただけのやつおって草」


「だから寝ないとやっぱダメなんだって。学んで?君たち」


「著しく全てのパフォーマンスが落ちるよね。睡眠足りないとさ」



溶けたアイスのようになってブルーシートに倒れこむかのあを、呆れ顔で見つめる面々。



ーーその時、一台の軽トラが現れた。

今風にカスタムされたおしゃれな軽トラは、休んでいた小梅の近くにゆっくりと停まる。

そこから出てきたのは、1人の男。



「こんにちは。驚いた、俺だけじゃなかったんですか?」


「あら、言ってなかったかしら?周ちゃんもお手伝いに来てくれたのよ」


「聞いてませんよ」



どうやら7人がいるのは想定外だったらしく、小梅の言葉に恥ずかしそうに身なりを整える。

そんな男を、周が笑顔で迎えた。



「栄さん!こんにちは、お手伝いにいらしたんですか?」


「あ、うん!足が悪いから手伝いに来てほしいって言われて…周ちゃんもいるなんて聞いてなかったから、びっくりしたよ。知ってたら色々お野菜持ってきたんだけど」


「嬉しい、今度また頂きます!」



嬉しそうな周に、栄もまた嬉しそうに頬を緩ませる。

それから、なんだなんだと騒めいている潮たちへ周がくるりと振り返った。



「みんな、こちらさかえ 史千珈ふみちかさん。ご実家の農業手伝われたり、色々されてる方です!仲良くしてます!」


「あ、初めましてどうも…!周さんと仲良くさせて頂いてます、栄です、よろしくお願いします…!」


「いや結婚前の挨拶じゃないよね?何これ?親の気分になるわ」



恥ずかしそうにする2人に、蛍が思わず口を開く。

すると、おそのが茶化すように言った。



「周がいつもお世話になってますーこの子ったらもう本当、顔良し見た目良しで料理上手いわ菓子作れるわコミュ力高いわで本当、困っちゃうでしょう?」


「えっあっ、はい…!本当にその通りで…!」


「ちょっと蛍、おその!調子に乗らないの!」



その後おどおどとする栄へそれぞれ挨拶を終えると、小梅が仕切り直すように手を一つ叩いてみせる。



「さて!あともう少しね。皆で拾えばすぐだわ。ささっと拾って、美味しいお昼ご飯にしちゃいましょう!」


「お昼ご飯?!」


「そう!小梅さんご夫婦がね、お昼ご飯に美味しい舟盛りと海鮮用意してくれてるそうです!」


「「「「わーい!」」」」


「舟盛り!海鮮!最高ー!」


「栗全部拾うぞー!おー!」


「ご馳走になりまーす!ありがとうございますー!」


「こちらこそお手伝いに来てくれてありがとうね、喜んでもらえて私も嬉しいわ!」


「あの…遅れての参加になっちゃいましたけどそれ、俺も食べて帰って良い感じです…?」


「何を遠慮するの、当然じゃない!」


「よ、よっしゃー!急いで拾おう!」



お昼ご飯ブーストで、再度残りの栗拾いを始めた潮たち。

栄はその反対方向から自前の道具で栗を拾い始めた。



「あ。ねぇ周ちゃん、モンブラン作るって言ってたけど。良かったらうちで作って帰らない?お菓子作りの道具は全部揃ってるから、材料だけ言ってもらえれば買ってくるわよ」


「えっ本当に?!いいんですか?何か、何から何まで」


「勿論よ!その代わり、おばちゃんにも食べさせてね!モンブラン、大好きなの」


「勿論です!今日食べられるって知ったら、皆もっと喜ぶな〜」



必要な材料を紙に書いて渡し、周も栗拾いに混ざる。






「俺、必要無かったよね多分…?」



ーーしばらくして、全ての栗の木を周り、拾えそうなものは拾えただろうという頃。

大量の栗を入れた籠を背負った栄が、申し訳なさそうにそう言った。


疲れてしまった萌をおんぶしていた潮は、それを聞いて静かに首を振る。



「何言ってんすか、後半籠背負ってたの栄さんだけっすよ」


「いや…確かに、皆何故か俺の籠に入れて歩いてたけど…」


「自分の籠の中の栗全部そっちに移す輩も1人や2人いましたし」


「えっ誰?!確かに途中からずしんと来る重さになったよ!?」


「あーモンブラン楽しみだなぁ」


「それなー」


「犯人は君たちか!」



栄を交えた栗拾いは初めましての割に和気藹々と終了。

皆でブルーシートへ戻って、栗を一箇所に集めていく。



「おかえり皆!いっぱい拾ってくれて有難うねぇ。おばちゃん本当に助かっちゃった」


「ただいま戻りましたーいやぁ、かなり楽しかったなぁ」


「皆で何かやるって本当、楽しいんだなー」


「小梅さん、見て!萌、途中で疲れちゃったけど…こんなに拾ったよ!」


「まぁすごい!お手伝いしてくれて助かった。お疲れさま!ジュースあるからね!」


「わーい!」


「おばちゃん私も!私も飲みたいです!」


「どうぞどうぞ、たくさん用意してあるからね!あっちのシートに、ほら」


「わーーい!!」


「人一倍はしゃいで人一倍休んだお陰で、最後に人一倍元気になってて草」



萌よりも嬉しそうにジュースの元へ駆けていくかのあの背中に、眠そうな潮が小さく溢す。

その肩を蛍が優しく叩いた。



「かのあ、実は皆が栗拾ってる間に30分くらい仮眠してるから」


「どうりで…」


「帰りの運転は任せな。潮もゆっくり寝てくれよな」


「いや、どの口が?自転車しか運転できないでしょうよ君」


「一応免許は持ってるよ?任せて?」


「任せられるか」


「はいはい、私がするから」


「芹ならまぁ…お言葉に甘えようかな」



道具を片付けながら言った芹に、潮が頷く。




集め終わった道具と一箇所に集めた栗を小梅の乗ってきた軽トラに乗せたところで、栗拾いのイベントは終了。



「さて!それじゃぁ、お昼ご飯を食べて帰ってちょうだいね!」


「「「はーい!!」」」


「ご馳走になりまーす!!」



早速小梅の家へと皆で向かうと、既にバーベキューの準備がされていた。

手を洗い、各々が好きな席につく。



「それじゃぁ、材料はここに全部あるからね。お箸とかコップはこっち、調味料はそこ、おしぼりはあっち。他に必要なものがあったらいつでも声をかけてちょうだいね?」


「有難うございます!」


「私はあっちでお父さんと栗を剥いてくるから、もうじゃんじゃん!遠慮せずたっくさん食べてね!今日は皆、お手伝いしてくれて本当に有難う!」


「こちらこそなんですが…?!」


「何か栗拾いした以上のお礼が返ってきている気がするけど?」



栗の皮を剥きに行った小梅の背中を全員で見送り、改めて席に着く。



「えーと…じゃぁ…食べますか…?」


「よっしゃー!!貝焼くぞー!!」


「ちょっと待って、めっちゃ良さそうな牛肉もあるけど!?」


「栗拾いの報酬豪勢すぎん?」


「とりあえず!今はありがたく!いただこう!」


「ゆっくり恩返ししていくかー」


「恩返しの恩返しかぁ…巡り巡るんだねぇ」



火の番を買って出た栄がしみじみと言って、全員で頷く。

そして、各々がジュースを選び、バーベキューがスタートした。



「栗拾い楽しかった!お疲れ様でしたー!」


「お疲れー!ジュースでかんぱーい!」


「「「かんぱーい!!」」」







*   *   *   *   *  epilogue







(お嬢さん方、貝焼けたよー食べられるよー!)


(わーい!食べる食べるー!)


(調味料どこだったかな?あ、あれか。醤油とバターと…おお!レモンまである!)


(牛肉用の岩塩とかわさびもあるんだが)


(栗拾ったお礼がこんなに立派でいいものなの…!?)


(蛍、考えるな。今は有り難く食べよう)


(ちなみにあのでかい椎茸も焼きたい。焼こう)


(焼こう、今はもう、食べよう)


(ちょっと皆、小梅さんが握ったであろうあの塩おにぎり食べた?もうね、めっちゃくちゃ美味いから本当)


(それも食べよう)



(で…一応聞くけど、栄さんはあまねんと付き合ってるの?)


(え、えぇっ!?いやいや、付き合ってないよ!周ちゃんが俺なんかとそんなわけ、本当に、仲良くしてもらってるだけで…)


(んー、そういう感じね理解)


(後であまねんにも聞いてみよ)



(ねぇねぇ、あまねんは栄さんと付き合ってんの?)


(え?付き合ってないよ?)


(ほーん?で、どう思ってんの?)


(んー。大学卒業した時に、もし栄さんに好きな人がいなかったら…いいなぁって思ってるくらい)


(ふーーーーーん?)


(皆と過ごす今が楽しいから、あんまり具体的なことは考えてないけどね〜)


(何かにやついてしまいますなぁ)


(そんな感じなのねー)




(いやー!食べた食べた…!お腹はち切れそう…!)


(あれ?あまねんどこ行った?)


(小梅さんの家でモンブラン作ってるよ。いつから作りに行ってたんか知らんけど、なんかもう下の生地も焼いててマロンクリームも出来上がってる状態だったわ)


(お菓子なんて、クッキーですら1日かかる自信あるわ。飯食ってる間にモンブラン出来てるってマジ?)


(てことは、おやつに出来立てのモンブランが食べられるってことですか?!)


(最高なんですか?!)


(そういえば甘い匂いがする気がする…肉の煙で掻き消えてたんだなぁ)




(お待たせ〜。モンブラン冷えたら食べられるから、先に甘栗とか栗ご飯とか皆で一緒に作っちゃおう!栄さんも是非持って帰ってくださいね、小梅さんタッパー用意してくださってたので)


(いやぁ、後から参加なのに至れり尽せりで本当…すみません…!)


(なーに言ってんの栄くん!たくさんあるんだから、まだまだ力仕事頑張ってもらうわよ?)


(勿論、お手伝いします!)



(何やかんや楽しかったな、栗拾い)


(それなー)


(萌も楽しそうで良かったなぁ。お腹いっぱいで寝ちゃったし…さぁ、我々も寝に帰りますかー)


(いや帰ろうとしてるけど君たち、まだ甘栗作り残ってるからね?)


(えぇっ?!)


(えぇっ?!じゃなくて)


(しゃーない、もうひと頑張りするかぁ)







第十話(一) 了




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