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はなやぎ館の箱庭  作者: 日三十 皐月
第1章 「箱庭の日常」
13/40

第9話







セリー

〔おはよう諸君〕

〔秋の新作を鋭意制作中なんですが、誰かピアスとネックレスのモデルやってくんないかな〕

〔御礼有り〕



〔おはよう〕

〔是非やらせてくだしあ〕


セリー

〔あぁ、言い忘れてたけど潮以外でお願いします〕


〔草〕

〔満を持した立候補なのに名指しで拒否られててほんま草〕


おその

〔これは恥ずい〕

〔じわじわ来る共感性羞恥〕


セリー

〔いや…〕

〔潮って、こういうの頼むと異常なほど見つめてきて全然集中できないからさ〕


〔えっ?見ちゃだめなんですか?えっえっ〕


おその

〔見るにしても限度があるでしょうよ〕


〔目の前に誰よりもどれよりも何よりも美しい人間がいるのに、それを見ずにどうやっていられるって?〕


おその

〔ま、気持ちは分かるけどさ〕


セリー

〔ほら、見るなって言うとこういう問答になるから嫌なのよね〕

(というわけで潮以外で動くマネキンしてもいいよって人募集してます クエスト報酬は私特製のチーズハンバーグ定食でどうでしょう〕


〔おかしいだろ!!!〕

〔立候補できない状態で、喉から手が出るほど欲しいような報酬を聞かされるなんて!!おかしいだろ!!間違ってる!!クエスト受注させてくれよ!!〕


〔キレてるキレてる〕

〔あっ 広域積んで完全サポートにまわります、ライトボウガンです、よろしくお願いしまっす ウッス〕


あまねん

〔絶対食べたい!終日日程空けます!〕


おその

〔セリー特製のチーズハンバーグとかもうさぁ…よだれ出たわ〕

〔ハンマー専門です、めちゃくちゃスタンさせます、よろしくお願いします〕



かのあるふぁ

〔ちょっと待ったーー!!チーズハンバーグと聞いたら黙っていられませんな!!〕

〔大剣一択で確実に狩ります!!欲しい素材があるなら最速ノーダメで狩れます!!よろしくお願いしまーっす!!〕



セリー

〔あの、討伐クエじゃないんでパワーいらないです 突っ立っててもらえればクリア報酬出るんで〕


〔おい、素材を最速で集めるのが目的じゃねぇ…私たちはチームプレーを楽しんでんだ 甘ちゃんがよぉ、一人でTAでもやってな〕

〔調合分の回復薬グレートも持っていきます、広域最大で体力三分の一以下にはさせません、よろしくお願いします!〕


セリー

〔いやダメージ喰らわないんで回復もいらないです〕


おその

〔おいいつまでやってんだ、早くクエスト出発しようぜ〕


あまねん

〔そうだよ!全然何の話してるか分からないし!〕


セリー

〔やってくれる感じなら皆にお願いしたかったんだよね どんな風に見えるのか試したいから〕

〔じゃぁ4人はクエスト受注したってことで〕



〔モニターにもなれないチーズハンバーグも食べられない挙句に皆というカテゴリの中に入れてもらえなくてクエストすら受注できない…〕

〔もういい!ファミレスでチーズハンバーグしこたま食ってくる!!〕 



〔チーズハンバーグの口になってて草〕


〔スラアクのワンマンで味方斬りまくるけど何か文句ある?〕


〔永遠に回復してやるからクエスト一緒に回そ〕


〔頼んだぞ…〕



セリー

〔まぁ冗談はさておき〕

〔じゃぁ潮も入れて、全員やってくれるってことでいいのね〕

〔有り難すぎる 感謝〕


あまねん

〔勿論オッケーだよ!いつ頃にする?〕


セリー

〔ピアスとネックレスを合わせた写真何枚か撮らせてもらえればそれでいいから、それぞれの日程で大丈夫です〕

〔あ、時間は萌が幼稚園に行ってる間だと助かる〕


おその

〔いつでも暇なんでセリーに合わせるっす〕


あまねん

〔私もいつでも大丈夫!セリーに任せます〜〕


〔日中だったら明後日がいいかなぁ〕


かのあるふぁ

〔んーとね、明日は配信お休みしようかと思ってるよ!でも日中寝てたらごめん、叩き起こして!〕


セリー

〔了解〕

〔今日夕方から萌と近くの小さい夏祭りに行く予定だから、その時にバルーンのぴこぴこハンマーがないか探しとくわ〕



かのあるふぁ

〔な…夏祭り…だと…?!〕



〔おっ これは皆で夏祭りに行くフラグきた?〕


セリー

〔商店街のお祭りだけど〕

〔来るの?萌が喜ぶよ〕


おその

〔そういえば夏祭りがあるとかじいちゃん言ってたなぁ 1人で行くの寂しいからいいやと思って忘れてた〕


かのあるふぁ

〔ちょーー!!みんなで行こうよー!!〕

〔前回の屋台飯パーティからずっと浴衣着たくて仕方なかったんだー!〕

〔クリーニングして袋に入れて干したままだった可愛い浴衣、お披露目するよ!〕


〔いいね浴衣 着るかぁ〕


おその

〔夕方ね んじゃ母さんとこ顔出して浴衣着てくるわ〕


セリー

〔あれ、皆予定空いてる感じ?〕

〔それなら今日合わせるのがいいのでは?〕


おその

〔おっ、そうね それがいいか〕


〔予定聞かれて決める時って当日も含んでいいのか迷うよね〕


あまねん

〔分かる!今日いけるんだけど、今日いけるって言ったらセリーがこっちに合わせて忙しなくなっちゃうかな〜とか考えちゃった〕

〔セリーの新作たのしみ!どうする?はなやぎで集まって、新作見てからお祭り行く感じにする?〕


セリー

〔皆が良ければそういう感じにしよっか〕


おその

〔了解 浴衣着たらそっち行くわー〕


かのあるふぁ

〔りょーかいだよー!!浴衣出して風に当てとこうっと!〕


セリー

〔じゃぁそんな感じで〕

〔潮はどうする?いじけちゃった?〕



〔いじけてませんー クローゼットから浴衣探して今陰干ししてましたー〕

〔当然モデルもやるし夏祭りも行くしクエスト報酬のチーズハンバーグも食べるけど?〕



セリー

〔はいはい よろしくね〕

〔今日は屋台のご飯でお腹いっぱいになると思うから、チーズハンバーグはまた後日作ります〕


あまねん

〔やった〜!楽しみだな〕


セリー

〔じゃぁ、萌を幼稚園に迎えに行ったらそのままそっちに向かうわ〕


〔オッケー 気をつけて来てくらはい〕







ーー夕方


はなやぎ館の中央ホールは、色鮮やかな浴衣姿で彩られていた。

花が咲いたような空間で、可愛らしい桃色の浴衣に身を包んだ萌がくるっと回転する。



「見て見て、萌の帯。リボンなんだよ」


「マジ天使」


「天使現る」


「それでね、ふりふりもついてるんだよー」


「貢がせてください可愛すぎます」


「明日も生きられます感謝します」



蛍とおそのが萌に完敗している横で、芹は小首を傾げながらピアスとネックレスを周に合わせていた。

その顔を、周がにやにやしながら見つめる。



「うーん。やっぱピアスは一回りサイズ下げた方が可愛い気がする…。ネックレスはもうちょっと短くして、アクセントもう一つつけようかなぁ…」


「…潮がセリーのことずっと見ちゃうの分かったかも。これは見ちゃうな〜。悩ましげな顔がいいね!」


「でしょ?視線の吸引力半端ないんだって」


「視線の吸引力って何よ」



呆れて言った芹が、「次の人どうぞ」と蛍に手招きする。

蛍は「はい先生」と言って周と交代し、眉根を寄せて胸の辺りに手を当てた。



「先生、私…先生を見てるとこの辺りが苦しいです…」


「じゃぁ見ないでください」


「辛辣ぅ」



蛍の感じだとオレンジの方がいいなぁ、と再び悩ましげにメモしつつ、写真を撮っていく。

一通り撮り終えて、次はおそのの番。



「一つ言っていいかな?」


「何」


「潮に色々言ったけど、私もセリーの浴衣姿が色っぽすぎて目が離せんのだが」


「君たちはもう、揃いも揃って…」


「違う違うセリーさん、これはね、我々が悪いわけじゃないと思うのよ。やっぱ三鼓家やばすぎるんだって。萌もほら見てみ?なんかもう、体が勝手に跪こうとするのよ、あの可愛さに。私たちが君たちに惹きつけられるのは本能よ?最早」


「はいはい、いいから黙ってマネキンしてくださいねー」



軽くあしらわれながら、今度はかのあが呼ばれる。

その横で、萌が再び嬉しそうに話した。



「髪飾りもね、ふわふわがついてるんだよ。かのあちゃんの髪にもついてるね!」


「そうなんだよー!てか奇しくもお揃いみたいになってて最高なんですけど!!浴衣の色も奇跡的にピンクでさ!あとで写真撮って!!最高画質で印刷して額縁に飾るから!!」


「いいな、私も額縁に入れて飾ろ。萌単体で撮ったやつ一緒に印刷しといて」


「な、何で?!いいでしょ別にかのあが入ってても!飾ってよぉ!!」


「かのあとのツーショット飾るくらいなら萌と自分のツーショット飾った方がマシだわ」


「あっそれいいね!それは絶対撮って飾ろ!はなやぎにも飾ろ!」



しっかり写真を撮って収め、最後に潮が呼ばれる。



「ちょっと、良い機会だから私も撮ってよ写真」


「てかこれを機にみんなで写真撮りたいね〜」


「商店街に写真館あったよね?みんなで撮ってもらおう」


「いいねー!」


「いや、それはそれとして今芹とのツーショット撮ってくんないかな。いやむしろ芹の単体ショットでも可。この間近の浴衣姿をいつでも拝む用」


「撮ってやろうと思ったけど最後の一言が余計だったわ。撮るのやめますね」


「芹との思い出を一枚撮ってくださいお願いします写真館で畏まった感じで撮ったのとまた雰囲気が違うと思うんですこの間近の浴衣姿をどうか写真に収めさせてください私が撮ったら嫌がられるんですお願いします」


「過去に類を見ない早口で草」


「大懇願で草」


「必死で草。撮ってもいいから、ちょっと大人しくしてて」



案の定穴が開く勢いで芹を見つめ続ける潮の願い通り、作業する芹を各々のスマホで写真に収めていく面々。



「うわ、この角度めっちゃいいわぁ…」


「送っといて」


「あっ!奇跡的にカメラ目線もらいましたー!」


「送っといて全部」



呆れ顔を浮かべながらも、皆でわいわいするこの時間を楽しむ芹。



やがて潮に合わせ終わり、全員分の写真も撮り終わり、芹は道具を片付けながら満足げに言った。



「すっごい参考になった。協力感謝ね。チーズハンバーグは明日の夕飯でどうかな?今日明日で萌と泊まろうと思ってるから」


「よろしくお願いしまっっっす!!!」


「やばい、もうお腹空いてきた」


「じゃ、そういうことで。お祭り行こうか」


「「はーい!」」



萌とかのあが元気に返事した後、早速全員で商店街へと向かった。






「ひゃー、楽しみ!結構人いるね!」


「浴衣着てる人もいるけど、この人数で浴衣着て歩くのは私たちくらいかな…?」


「目立つぞーこれは」



ーー潮とおそのの運転で商店街の近くにある駐車場に車を停め、祭りを楽しむ人々を遠目に見る。


7人全員が浴衣姿でいるのはかなり目立ったが、それがプラスに働いた。

おーい!と声を掛けたのは肉屋の店主。



「よく来たねおそのちゃん!友達いっぱい連れて!あ、チラシいるかい?ほら、これ見て周りな!」


「おー!おっちゃんありがとね」


「浴衣姿、みんな素敵でいいねぇ目立ってるよ!」


「見つけてくんなかったら適当にだらだら周るところだったよ、危ない危ない」


「チラシいっぱい貰っても困るだろうから、3枚くらいあげとくか?」


「助かるよー」


「ありがとうございます」


「良かったね本当。さてさて、何があるのかなーっと」



肉屋に並ぶ列から離れて、どこで何が売っているのか確認する面々。



「めっちゃわくわくする」


「あ、じいちゃんとこは何出してんの?」


「前回のかき氷がめちゃくちゃ気に入ったらしくて、かき氷だす!って言ってたよ。あまねん何か色々聞かれたんじゃない?」


「あ、そういえば聞かれた!出し物で出すから教えてくれってことだったけど、これのことだったんだね〜」


「おそのじいじバージョンのかき氷が食えるってこと?最高じゃん」


「あ。そういえばそこの花屋はね、確か本物の花で花飾り作って出すって言ってたよ」


「え!めっちゃいいじゃん!!萌ちゃんにつけなくちゃ!!」


「わーい!」


「おっちゃんとこはコロッケとメンチカツ出してるから、全部見終わってから買って帰ろう。晩御飯用に」


「いいね!」


「おっちゃん、周ったらまたこっち顔出すから、メンチとコロッケ適当に置いといてくんないかな?」


「おー!毎度あり!待ってるからゆっくり周ってきなよ!」


「ありがとー」



肉屋を後にして、まずは花屋で生花を使った綺麗な花飾りを選んで買い、それぞれ身につける。



「やー、いいねぇ。若いねぇ。お嬢ちゃんの分はおまけしとくね」


「わー、ありがとう!」


「すみません、ありがとうございます」


「おやつ食べたいなら、パン屋に行っておいで。ミニ揚げパン出してるはずだから」


「揚げパン?!最高かよ」


「喫茶店でココアとかコーヒーも出してるよ」


「行こう!」



店主のおばちゃんに教えてもらった通りに、早速パン屋へ向かう。


店の前にはテーブルが出されており、普段より小さく焼かれたパン屋自慢のふかふかコッペパンが次々と揚げられていた。



「めちゃくちゃ良い匂いするんだが…!?」


「きなことシュガーと、シナモンか。全部何個か買って皆で分けよう」


「おばちゃん、全部3個ずつ頂戴なー」


「はーい。あ、シェアするなら小さく割ってあげようか?」


「助かる!ありがとう!」


「毎度あり」



一口大に切った揚げパンを、種類ごとに袋に入れてもらう。

萌がきなこの揚げパンを口にして頬を緩ませたのを皆でほくほく見つめた後、一つずつ味わいながら今度は喫茶店に向かった。



「揚げパンうまっ」


「あそこのパン屋さんって何食べても美味しいよね」


「分かる。あ、喫茶店も外にテーブル出してやってるよ」


「コーヒーとココアとカフェオレ出してるんだって」


「お祭りで喫茶店のコーヒー飲めるとは思わなかったなー」


「色々新しいのも新鮮でいいね」



「あっ」



「あ?」



喫茶店に近付くと、蛍が小さく声をあげた。

しかし何事かと振り向いた潮にぶんぶんと首を振り、「こっち見んな」と真っ赤な顔をする。



「何だと。理不尽な」


「あー、例の喫茶店じゃん?」


「喫茶店………何か前に言ってたイケメンの大学生がなんちゃらってやつ?興味なくて忘れてたわ」


「正直にどうもありがとう」


「どういたしまして。何、目でも合った?」



並んでいる列で見難いが、どうやら蛍と大学生ーー花房は、お互いに気付いたらしい。


列に並び、ボードに書かれたメニューを見ながら話を続ける。



「顔真っ赤にしちゃってさ。てっきりあれで終わったもんだと思ってたよ」


「いや?連絡取ったり、なんか、作ってくれたケーキ食べさせてもらったりしてるけど?」


「はー?こいつリア充しやがって。ドヤ顔やめて?」


「なんかぁ、自然豊かな公園のベンチとかで二人でケーキ食べて過ごしてぇ、ばいばいしてるぅ…」


「気持ち悪い喋り方すんな…!」


「うんうん、進展してるみたいで安心したよ〜!嬉しいなぁ」


「おめでとー。さ、私は何にしよっかなーっと」


「いや、おめでとうに温度無さすぎ」


「んーカフェオレにするかぁ」


「同じくー」


「わいもわいもー」


「私ブラックコーヒーで」


「私もブラックにしようかな〜」


「萌ココアー!」


「かのあもココアー!」



メニューが決まったところで、順番が回ってくる。

蛍を先頭に押しやると、花房はとても嬉しそうに微笑んだ。



「いらっしゃいませ!来ないって言ってたから…来てくれてびっくりしました」


「いや…一緒に行く人もいないんで家にいようと思ってたんですけど、誘ってもらって…」


「そうなんですね!あっ、浴衣…その、かわいいです、すごく」


「あ………ありがとう、ございます…」



「乙女おるなぁ」



茶化されて軽く後ろを睨みつけた蛍は、空気を変えるようにして咳払いをしてみせた。



「あー……えっと、カフェオレ3つと、ブラック2つと、ココアを2つお願いします」


「はい!ありがとうございます」



注文した飲み物がてきぱきと用意され、あっという間に提供される。

それから、花房は「ちょっと待っててください!」と言って一度喫茶店に入ると、転びそうな勢いで駆け戻ってきた。



「これ!あの、実はお祭りが終わったら渡しに行こうと思ってて…!でもあの、日持ちするからと思って作りすぎてしまって」


「?」


「フロランタンなんですが…良かったら皆さんで召し上がってください!

すみません、容器がちょっとあれで…」



花房が差し出したのは、背の低いタッパーに一つ一つ綺麗に詰められたフロランタン。


せめて可愛い袋に、と言いながら紙袋に入れてくれたそれを受け取って、蛍は微笑んだ。



「いいんですか…?すみません、めっちゃ美味しそう」


「お仕事の合間に息抜きしてもらいたくて、勝手に作ってしまいました…皆さんにも美味しく食べてもらえたら嬉しいです!」


「あの、ありがたく…頂きます」



全員でお礼を言って、喫茶店を後にする。


ほくほくにこにこと嬉しそうな蛍。

潮は微妙そうに眉根を寄せた。



「いや、食べるのめっちゃ申し訳ないんだけど」


「え?」


「愛しの彼が蛍の為に作ってくれたお菓子なんて、我々が気軽に食べていいもんなの?」


「いやいや、まじで彼の作るお菓子美味いから食べてみ?正直自慢したいまである」


「食べていいなら食べるさそりゃ」


「うまそー」



通りにイートインスペースとして幾つか設けられた木のベンチに腰掛け、各々の飲み物と一緒に早速フロランタンを頂く。



「う…うまい…!」


「美味しい!私ねとっとした感じが個人的にちょっと苦手だったんだけど、そういうのが全然ないタイプのフロランタンだね、好みだな〜」


「コーヒーに合う甘さでいいね」


「ココアにも合うよ!美味しー!!」


「萌、このお菓子だいすき!」


「きっと喜ぶよ。伝えとく」



ーーそれから、居酒屋が出している焼き鳥を買い、八百屋が出している冷やしフルーツを買い、鮮魚店が出しているあら汁を買い…


そろそろお腹が膨れてしまう、というところまで来た頃、和菓子屋へと辿り着いた。



「じいちゃーん、デザートにかき氷食べに来たよ。お、いいサイズじゃん」


「おー、来たか!お前たちがやっていたのを参考にしてな。食べやすい器を仕入れてみた」


「いいね。売れてるじゃん、みんな美味しそうに食べてる」


「宇治抹茶と黒蜜きな粉の2種類だけだがな。慣れないもんでどうも待たせちまう。さ、お前たちはどっちにする?」



美味しそうにかき氷を食べるお客さんたちを見回しながら、おそのたちは各々好きなかき氷を注文する。



「ちっと待たせるぞ、悪いな」


「むしろ7人で押しかけてすみません…ピーク過ぎた後で良かったね」


「いや、多分じいちゃんが慣れない感じで可哀想だからと思って、皆譲り合って並んでるんじゃないかな」


「何ぃ?しかしそういえば、列は途切れんが大行列になったことはないな…」


「優しい人たちばっかりだねぇ」


「そこへ遠慮もなく7人で並ぶ我々」


「空気読め感半端ないわ」



7人分を受け取り、ささっとその場を後にすることに。



「ありがとうねじいちゃん!」 


「ありがとうございましたー!」


「おう!余裕がないもんで構えずすまんな!毎度あり!」



7人が離れると、おずおずとまた伺うようにして何人かが並んでいた。

その様子を振り返りながら、デザートのかき氷を頂く。



「優しいね皆。あーかき氷うんまぁ」


「母さんは和菓子屋の方に入ってるからなぁ。一人で大変そう」


「手伝いに行く?」


「いや、私も手伝おうか?って聞いたんだけど、じいちゃん一人でやる!って聞かなくてさ。この前の屋台飯パーティがかなり新鮮だったみたいなのよ。

和菓子しか売ってこなかったから、一回あんな風に和菓子を喜んでもらうのも悪くないって」


「じいちゃんかわいいな」


「だからって一人でやらんでも」


「いい経験だから、失敗しても一人でやらせてくれってさ」


「じいちゃんかっけー」


「頑張れじいちゃん」



頑張っている姿に遠くからエールを送り、かき氷を食べながら和菓子屋を後にする。



「うんめーなー。この前よりグレードアップしてるんじゃない?」


「あの感じならもっとこうした方が良かったな、ああした方が良かったな…ってぶつぶつ言ってたからね」


「職人かっけー」


「萌、ゆっくり食べな」


「そこに座って食べよっか」



再びベンチに腰掛けて、かき氷をゆっくり楽しむ。



「食べ終わったら写真館に行って、写真撮ろう」


「で、肉屋寄ってコロッケとメンチ買って帰ろう」


「おっけー!」






ーーそれから、かき氷を最後の一滴まで食べ切った後。

7人の足はうきうきと写真館へと赴いた。


店主は浴衣姿の7人を拍手で迎え、ご機嫌に髭を撫でる。



「撮り甲斐があるねぇ。畏まった写真じゃつまらないだろう、楽しそうに!仲睦まじく!ポップに!撮っていこう」


「わーい!何枚でもいいんですか?」


「いいよ?また来てくれるっていうなら、特典で3つまで小さいフォトフレームに入れてあげよう。後の4枚はポストカードにしてあげようかな」


「おっ、じゃぁホールに全部飾ろうよ!」


「ん?分け合うんじゃなくて、一箇所に飾るのかい?」


「そうそう、一緒に住んでて。あ、ここ2人はたまに来る感じですけど」


「じゃぁ、飾りやすいようものをあげようね。そこの2人は持ち帰って飾ることのできるものをあげようかな?」


「いいんですか?」


「君たち、写真館なんて成人した時以来じゃないかい?お嬢ちゃんは七五三かな。こんな風に気軽に写真を撮れることもそう無いから、嬉しいんだよ。せっかくだから記念にたくさん持って帰りなさい」


「ひゃー、お祭りも写真も全部思いつきだったけど本当来て良かった」


「お言葉に甘えます!」


「これを機に、気軽に遊びに来てくれたら嬉しいよ」



お礼を言って、早速準備をして撮影スタジオに入る。



「さぁ、いいかい?たくさん撮るからね!ーーはい、スタート!」



楽しかったお祭りの思い出を、記憶だけでなく記録にも残していく。

各々好きなポーズを撮り、仲睦まじく、楽しく、時に2人だけで、3人だけでーーと様々な画を収めていった。


満足いくまで写真を撮った後、店主はポストカードサイズの7枚を先に印刷し、会計時に1人1人手渡していく。



「これね、いっぱい撮った中で一番よく撮れてるなーって独断と偏見でおじさんが勝手に思ったやつね、おまけであげる」


「わー!めっちゃいいサイズなんだけど!」


「ほんと、すごい良い写真」


「写真も飾るやつも出来上がったらまとめて贈るよ、楽しみにしておいてね!」


「ありがとうございます!」


「また来てよー、おじさんいつでも髭伸ばして待ってるからねー」


「あっ!おじさん、今度うちの和菓子屋の写真もさ、じいちゃんと一緒に撮ってくれる?」


「もちろん!出張撮影いつでも行くよ、いつでも連絡して」


「ありがとう!」



そうして写真館を後にして、7人の楽しい夏祭りはいよいよ終わりを迎える。

昼下がりの空の下、並んで歩く背中。



「夏祭り楽しかったなー!でも、夏のおっきい行事が終わっちゃった」


「次は秋だ」


「秋は何して遊ぼうか」


「楽しみだね」



最後に肉屋に辿り着き、コロッケとメンチカツを受け取る。



「色々回れたか?また来年もおいでな!」


「ちょっとおっちゃん!めっちゃ入ってるけどこれ?!」


「おまけだ!うちの母ちゃん特製チャーシューとポテトサラダもつけといたからな。いっぱい食えよ!」


「まじぃ!?おばちゃんありがとー!!」


「ありがとうございまーす!」


「あいよー!いっぱい食べなー!」


「私この前ちょうどご当地ラーメンセット衝動買いしたんだよね。特製チャーシュー乗っけて食べよ」


「いいね!やば!あれだけ食べたのにもうお腹空いてきた」


「じゃぁね、おっちゃん、おばちゃん!」


「はいよ毎度ありー!またおいでー!」



ご機嫌で商店街を後にし、車に戻る。


程よい疲れを感じながら、夏祭りを終えた7人ははなやぎ館へと帰っていった。







*  *  *  *  *  epilogue






(おっすー写真届いたってマ?)


(届いたよー!見てこれ、めっちゃ良くない!?)


(おーめちゃくちゃ良いじゃん…てか何か多くない?)


(おじさんめちゃくちゃ張り切って色々入れてくれててさぁ。見てこれ、ミニアルバムまでつけてくれてる)


(おじさん絶対大赤字でしょこれ。払った額の倍以上のおまけ贈ってくれてるって絶対)


(有り難し。また撮り行こうな)


(次何で撮り行こっか?ハロウィンとかクリスマスとかもいいね)


(良いねーそれでカレンダー作ってもらおうよ!)


(最っ高じゃんそれ絶対しよ)



(いやぁ、なんか皆で撮った写真がホールに飾ってあるのさぁ、めっちゃ良いんだけど分かる?これがエモいってやつ?)


(言葉に言い表せんわ。写真ってやっぱり良いね)


(スマホの中でいつでも振り返るのも良いけど、こうして飾るとまた違う良さがあるよねー)


(はーーーーーー…この芹最高。この芹も最高。全部最高)


(1人だけ違う目的で写真見てるやついまーす)


(セリーしか見てないやついまーす)


(ちなみに芹とツーショットで撮ったもらった写真、データでもらったやつスマホのロック画面に設定してるけど何か文句ある?)


(7人で撮ったやつにしろや!)


(7人で撮ったやつはホーム画面に設定してる)


(なら良し!!)



(思い出が増えてくって楽しいな〜)


(今を楽しんだ後に過去も楽しめるって最高だね)


(これ見た後に、次は何しよっかなって未来も楽しめるよ)


(切ないくらい人生満喫してるね私たち)



(さっ、配置とか決めて、萌と芹に見てもらわなくちゃ)


(よっしゃ、飾り付け開始ー!!)








第九話 了



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