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はなやぎ館の箱庭  作者: 日三十 皐月
第1章 「箱庭の日常」
11/40

幕間 「ひと匙で、溶け溢れてしまうように」








おその

〔あまねんの好きな推しグループのライブDVDを買ってみたんだが〕



〔おっ 推しでもできたんか〕

〔詳しく聞こうか〕


あまねん

〔見たの!?ついに推し友ができる!やった〜!〕


おその

〔正直見るまではアイドルへの熱気ってよく分かんなかったんだけど、すみません…舐めてました…〕

〔そして無事推しを見つけました…〕


あまねん

〔熱く語ろう!そして次のライブは一緒に行こう!〕


おその

〔無事過去のアルバムも全部買って聞きました…〕

〔是非とも、今後のご指導ご鞭撻のほどをお頼み申す〕


〔新規、粗相だけはすんなよ〕


おその

〔マジでそれだけは気をつけたい〕



〔ちなみに、あまねんに連れられてライブ見に行ったことある民だけど〕

〔熱気と迫力に圧倒されて正直失神するかと思ったよ〕

〔間近でダンスパフォーマンス見たのも初めてだったから、魅せるっていう能力がここまで人間の脳を満足させるものなのかと感動した〕


〔潮らしいコメントでいいね 私も一回体験してみたいなぁ〕


おその

〔画面越しでも充分興奮してやばかったのに ライブとか行ったら本当に倒れるかもしれんな〕


あまねん

〔もうね、分かってもらえた喜びがやばすぎるよ〜!早くライブ一緒に行きたい!次絶対に連れて行くからね!あと他のツアーのDVDとかほとんど全部のグッズも網羅してるから是非今度実家の推し専用部屋に来て!〕


セリー

〔この話題になると周が珍しく長文で興奮してていいよね〕


おその

〔あまねんが陽キャであることを忘れさせる唯一の瞬間よな〕


〔私はゲーム実況してるグループのこともう10年近く応援してるけど、基本見る専だしグッズもちょこちょこ買うくらいで、活動に何か大きく貢献したりとかってないからなぁ〕

〔こう、あまねんのガチを見ると…推し活ってすごいんやなぁって〕

〔それに比べてわいは…にわかで本当、恥ずかしくて顔上げられませんわ〕


おその

〔私はハマるとズドーン!!ってタイプだから今回は多分もう戻ってこれんわ〕

〔既にグッズ注文して全裸待機中〕


〔仕事早いんよなぁ〕


〔ここまで布教が完璧に決まったら気持ち良かろうて〕


あまねん

〔ようこそ沼へ〜!大歓迎だよ!〕



かのあるふぁ

〔やばいついていけてない…まだ2.5次元の領域に足を踏み入れてないかのあには…ハードルが高い…!〕

〔てか正直ハマるのが怖いまである…!!〕


〔かのちゃんはやめときな 悪いことは言わん、君は絶対にハマるから絶対にやめときな〕


かのあるふぁ

〔やっぱり?とんでもない額叩き出しちゃいそうだよね…〕


セリー

〔実は周の布教活動により片足だけ突っ込ませてもらってる民だけど、かのあはまじでやめといた方がいいと思うよ〕


〔セ、セリーさんまで?!〕


おその

〔セリーが沼に片足突っ込んでるですってぇ?!これは初耳だぁ!!〕


〔え…?〕


おその

〔潮その反応いいねぇ!俄然面白くなってきたぞぉ!!〕


あまねん

〔えへへ…セリーはね、ずっと推し活の話し相手してくれてたの〕

〔ちゃんと話相手になれるようにって自分もグループから推しを見つけてくれてね、この人いいよねーって…もうセリーって本当、最高だよ!〕


セリー

〔萌がいるからライブとかは行けないし、グッズたくさん買ったりとかってまでの熱量は今は注げないんだけど〕

〔割と二人で話す時は推しの話してる〕


あまねん

〔これからは3人になるね!やったー!〕


セリー

〔というわけで、おそのは私の分もライブ楽しんできて〕


おその

〔がってん承知の助ですセリー先輩!!〕



かのあるふぁ

〔潮ー、息してるー?www〕


〔あ?草生やすな話しかけんな一生〕


かのあるふぁ

〔ちょ、ちょっとー!!八つ当たりだよー!〕


〔推し活云々言ってたけど、そもそもめちゃくちゃ身内を推してるガチ勢いたね近くに〕


おその

〔ねぇねぇ、潮ちゃん今どんな気持ち?ねぇねぇ、セリーに推しがいるって知ってどんな気持ち?ねぇねぇ〕


〔はー…推しに推しがいるのなんて当たり前だろ、は?逆にそれぐらい寛容じゃなくてどうする 例え推しが異性を推していようと我々に推しの自由を奪う権利なんてないんだよ分かる?今から推し活しようってやつが…はぁ…分かってないなぁ、素人だからやめた方がいいよ?推し活とか。向いてない向いてない〕


〔早口で草〕

〔善良の皮被ってるけど絶対厄介民やん〕


おその

〔こわ もっともそうなこと言ってるだけで滲み出る厄介感が足元まで水溜りになってて全く隠せてない ダウト セリー可哀想〕


〔は?可哀想なことなんて何もしてないけど?は?ただ好きなだけでそれ以外はむしろ傍観してるけど?言いがかりやめて?〕


おその

〔ヒェ…〕


セリー

〔たまにやる潮のその厄介ムーブは無視するのが正解?〕


〔んー正解なんてないんよなぁ〕



あまねん

〔あー…なんかすごい厄介なことになってるけど…〕

〔もしみんなもハマりそうだったらいつでも言ってね!あ……かのあ以外ね〜!〕


かのあるふぁ

〔んぐぐぐぅ…!!そんな風に煽られると深みにハマりたくなっちゃうんだけど!!〕


あまねん

〔がっつりハマった時に責任取れないけどそれでもいいなら、ぜひ!〕


かのあるふぁ

〔とりあえず、mv漁りから始めます!〕


〔あーあ、終わりの始まりだよ〕


〔かのあが幾ら注ぎ込むか焼き肉賭けて勝負しよ〕









「おばちゃん、こんにちは〜」


「あら周ちゃん、いらっしゃい。お菓子作るの?」


「そうなんです。フォンダンショコラ作ろうかと思って」



ーー少し奥まった場所にある、牧場の直売所にて。

周が顔を出すと、女性がにこやかに笑って出迎えた。



「フォンダンショコラだなんて、お友達の娘さんの為に作るにしては大人びてるわねぇ」


「ううん、今日はお友達に。すごく良いことがあったからお祝いに」


「あら、そうだったの?じゃぁ何かおまけしなくちゃ」



そう言って早速あれこれと袋に詰めていく女性。

「そんなことしてもそれ、私ちゃんとお金払いますよ?」と、やんわり制しながら、周はバターや卵をカゴに入れていった。



「おばちゃんのところのバターとか卵で作ると、やっぱり全然味が違うんですよね。普通の食材で作るよりも美味しく感じる」


「もう、嬉しいこと言ってくれるわねぇ。バターもう1つつけちゃう」


「だめです!おばちゃん、本当に多めに代金置いて行きますよ!」



お会計をして、渡されそうになるおまけの袋を断固として拒否する。

すると、駐車場に車が停まるのが見えた。



「あ、ほら。他のお客さんいらっしゃいましたよ」


「お得意様なんだから遠慮しなくても良いのに。どうしたら受け取ってくれるのかしら」


「私は、良いものにはきちんと代金を払いたいんです」



そんなことを話している内に車の主が降りてくる。

直売所へと入ってきたのは、一人の男性だった。



「ーーおばちゃん、外にめちゃくちゃ可愛い軽トラが停まってたけど…あんなお洒落な軽トラ持ってたの?」



邪魔にならないようにと入れ替わりに店から出ようとした矢先、周の足がぴたりと止まる。



「あら栄くん、いらっしゃい。あれはこの子の愛車なのよ、お洒落よねぇ」



話題に出されて思わず振り向くと、男性はそれを聞いて目をきらきらと輝かせて周に声を掛けてきた。



「すごいですね、カスタマイズしたんですか?」


「あ…えっと、父がそういうのが好きで…。私が農家さんのお野菜とかここの食材とかたくさん買って帰るので、カスタマイズした軽トラが最近流行りでいいぞ!とかって。全部やってくれて」


「いいですね…お父さんセンスいいなぁ…」



おどおどと答えると、男性は外の軽トラをまじまじと見つめて唸る。

愛車を褒められて悪い気などしない。

しかし、男性ははっとしたように周を振り返り、申し訳なさそうに謝った。



「すみません、じろじろ見て…」


「え?いえ、父も喜びます。すごく器用なんですけど、趣味でしかやってないので…すごいことしてても人の目になかなか触れないから」


「いや、本当にこの配色とか色々すごいですよ…勉強になるなぁ」



ーー不思議な人だなぁ


軽トラをまじまじと見つめる男性を、周もまじまじと見つめる。

すると、そんな二人をまじまじと見つめていた女性が気を利かせるように話し始めた。



「この人は栄くんって言ってね、元々おっきな会社でパソコンをやってたんだけどねぇ。こっちに戻ってきてからは、うちを含めて色んなところの会社のホームページとか作ってくれてるのよ」


「えっ、そうなんですか?」



配色が勉強になる、と言った理由に合点がいく。

栄と呼ばれた男性は恥ずかしそうに頬を掻きながら答えた。



「あー…えっと、ホームページとか動画の制作にも携わってたんで、近所の人たちに頼まれて色々はい、やってますね」


「最近ホームページが可愛くなったのはそういうことだったんですね!SNSとかもお洒落に更新してるから、すごいセンスのいい方が入ったんだなーって思ってました」


「そ、そう言ってもらえると嬉しいです。一応制作と管理任されてる感じなので、ついでにSNSで新しい情報とかも発信できたらと思って。許可もらって勝手にやってますね」


「本当にすっごいありがたいのよー!新しい商品とか、多めに買って欲しいなーって思ってる商品とかを栄くんに言うでしょ?そしたらその日の内にすぐ写真撮りにきてくれてね。その後SNS見て買いにきましたーって子がたくさん来たりするの!」


「うんうん、私もフォローして逐一見てました。あれですよね、丁寧でわかりやすいし、買いに行こうって思っちゃう感じで」


「いやぁ、何か今日はすごい褒めてもらえる日だなぁ…恥ずかしいな…」



耳をやや赤くして、栄はそう節目がちに言う。

何だか興味を引かれて、周は話が途切れてしまわないようにと口を開いた。



「パソコンがお得意でしたら、ネットさえあればこっちでもお仕事に困らないですもんね」


「はい…それに、元々あんまり散財しないタイプだったし、十分なお給与ももらってたんで…暮らしていくのに十分なお金は貯金して手元にあって。だからもう地元帰って、のんびり実家の農家の手伝いでもしようかなって帰ってきたんですけど。こんな風に前職でやってたこと頼んでもらえるのって、結構嬉しかったりして。意外と楽しくやらせてもらってます」


「すごい…なんかすごく、いいですね」


「私たちも栄くんが色々やってくれて助かってるのよー。私たちパソコンのことなんて全然分からないでしょ?チラシ出しても若い子はあんまり見てくれないし…」


「うーん、チラシとかは…確かに私もあんまり見ないかも」


「でしょう?それが栄くんに頼んでみたらびっくり!本当に有難いわよー!」


「行ってみようかな?って思った時にまず見るのってホームページだったりするから、それがお洒落だったりSNSもこまめに更新されてたりすると行きやすいですもんね。正直私、めっちゃ見てから来てます」


「大丈夫かな、俺…今日何かあるのかな?こんなに褒められて」


「栄くんったら、気が優しいからずっとこんな調子なのよ?すごいことしてるんだからもっと胸を張ったら良いのに」



どこまでも自信なさげな立ち居振る舞いが、女性には少しもどかしいようだった。

周が微笑んでいると、女性はそれを見てにんまりして続ける。



「栄くん栄くん。周ちゃんはね、学生さんなのよ」


「わぁ、学生さんか…眩しいなぁ」


「それでね、翻訳家さんになりたいんですって!」


「ふふ。はい、海外の面白い書籍とかを日本語に訳してこっちで出版して…みたいなことことに携わりたくて、今勉強中なんです。将来的には翻訳も買い付けもどちらもできたらいいなと思ってて」


「ええ!じゃぁ、英語が堪能なんですね」


「おばあちゃんがカナダ人で、海外に行く機会が多かったんです。私とたくさんお話がしたいんだって会うたびに英語を教えてくれたから…今こうして目指してる感じですね」


「すごいなぁ。もし翻訳が必要な時が来たらお願いしてもいいですか?」


「是非!お手伝いできることがあったら、喜んで」



思いの外盛り上がる会話。

腕を組んで満足そうにその様子を見つめる女性。


栄は思い出したように胸ポケットから名刺を取り出して、周におずおずと手渡した。



「あ、俺…さかえ 史千珈ふみちかです。一応名刺とかも作ってみたんで、お渡ししておきますね」


「すごい!あ、私そういうの持ってないんですけど…。えっと、紙に書きますね!」


「ああ、すみません、わざわざ」



小さなテーブルにメモ帳を取り出し、持っていた筆記用具で名前と連絡先を書き出していく周。

落ち着かない様子でそれを待っていた栄の背中を、女性はつんつんと突く。



「ねぇねぇ、二人ともすごくお似合いじゃない?おばちゃんワクワクしちゃう」


「ちょっと、おばちゃんやめてよ。彼女、学生さんなんだから…」


「あら、栄くんだってまだ27でしょ?それに周ちゃん、彼氏いないって言ってたわよ!」


「やめてやめて本当に。おばちゃんから見たらまだ27なのかもしれないけどさぁ…」


「あーえっと…柏手 周です。よろしくお願いします、栄さん」


「あっ!はい!こちらこそ…!よろしくお願いします、柏手さん」



ーー27には見えないけどなぁ。私が今21だから…6歳…って何を考えてるの私 え?


これまでにない感情に狼狽えながら、頭の中でそんなことを考える。

栄は受け取ったメモ紙を大事そうに鞄へしまい、周の持っていた荷物を気にかけた。



「というか、すみません…!色々入ってますけど重たくありませんか?それ。引き止めてお話してしまって…気が利かずすみません本当」


「えっ?いやいや、大丈夫ですよ」


「めちゃくちゃ今更ですけど、車まで運びましょうか」


「いやいやいや、大丈夫です!気を遣わせてしまってすみません」



丁重に断って、これ以上気に病まない内にと直売所の扉に手をかける。



「色んなお話が聞けて面白かったです!またお会いできる機会があったら、是非お願いします。あと、農家をお手伝いされてるとのことだったので…もしお時間ありましたらその辺りのお話も聞けたら嬉しいな、なんて」


「い、いや、俺は願ったり叶ったりなんですが…!是非是非。本当にのんびり過ごしてるので、いつでも声掛けてください」


「本当ですか?嬉しい。では、またご連絡しますね!」


「は、はい…!」



ちょっと強引だっただろうか、なんて思ったが、対する栄は周よりも随分嬉しそうに見えた。



「じゃぁ、おばちゃん。また買いにきます!」


「はいよー、次は二人でおいで!」


「お、おばちゃん…!?」



狼狽える栄に、女性は豪快に笑う。

ぺこりと頭を下げて周が店を後にし、軽トラに戻ると、二人が何か話しているのが見えた。



ーー良い人だったなぁ



どうも茶化されているらしく、顔を赤くして首を振ったり顔を覆ったりしている栄。

微笑ましいその様子にくすりと笑って、車を発進させる。

すると、気がついた二人が周に向かって大きく手を振ってくれた。



「いつも良い1日だけど、今日はとびきり良い1日だったなぁ」



そんな独り言を溢しながら、周ははなやぎ館への帰路をいく。








*   *   *  epilogue







(ただいまー!フォンダンショコラ作るよー!)


(えー!まじー!大好物なんですけど?)


(そう、祝!ようこそ沼へ!のお祝いスイーツだよ〜)


(なんだそれ可愛すぎだろ!)


(ちょっとちょっと、フォンダンショコラだって?私にもあるのそれ?)


(ようこそ沼へ!のお祝いスイーツらしいから潮にはなさそう)


(良いよじゃぁ、おそのから奪って食べるから)


(奪われてたまるか。勝負じゃ!)



(ちょっとちょっと、皆の分も作るから。喧嘩しないの!)



(あ。あまねん、今なんか落としたよこれ。名刺?)


(へっ?あ、ありがとう!危ない危ない)


(バターと卵と名刺って。どこ行ってたの君は一体。どんな社交界よ)


(ううん、何か不思議なご縁があってね…何か名刺もらっちゃった。私、普段男の人とあんまり話したりしないんだけど…)


(おっ もしかして推しの話の後は恋バナでも始まるんか)


(運命来た?)


(分かんないけど、全然嫌ではなかったよ。不思議だよね〜)


(どんな生き方してたらバターと卵買いに行って名刺もらって帰ってくるの…あまねん…末恐ろしい子)


(それな)



(あっそういえば、過去ライブのDVD持ってきたよ!!みんなでおやつ食べながら鑑賞しよう!)



(普段ならおやつだけ頂戴って言ってるところだけど、今日は気分だから乗っかるわ。6人中3人ハマってたら普通に気になるし)


(今日配信遅い時間からやるって言ってたからかのあも呼ぼ)


(いいね、今後ハマって貢ぐ金額当てゲームしよ)


(えぇ…そんなえげつないゲーム嫌だよ…普通に見ようよ…)







番外編 「ひと匙で、溶け溢れてしまうように」 了





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