羞恥プレイのその先には
私は私を抱きかかえて拘束している男を見下ろして、この先はどう行動するべきかと、物凄く必死に考えていた。
私のファーストキスが欲しいと夜久は言った。
そうしたら私を床に降ろしてくれる、と。
そうか、私がキスするまで夜久は私を下に降ろさないつもりか!
「ふはははは!策に溺れたな!対妖のドルイドめ!腕が痺れるまで私を抱き締めていればいいさ!」
「ふははは!太陽なドルイドでいってやるよ!お馬鹿さん。」
夜久は私を抱いたままベッドルームに再び戻り、ぶつぶつと低い声で呪文を唱え始めたのである。
「え?」
私の身体は宙にふわりと浮いている!
私を宙に浮かべた男は、自分の成果ににやりと笑うと、ベッドの真ん中に腰を下ろした。
「やらなきゃ出られない部屋。振出しに戻ろう。実際にやらなくてもさ、やったような結果になりゃいい。互いに自分を慰めるってどうだ?互いの行為を見せあいっこしながらは燃えると思うよ?」
「え、きゃあ!」
宙に浮いている私の足が勝手に開きだし、私の股の間を夜久に見せつける格好になると、私は慌ててシャツの裾を引っ張ってシャツと手であそこを隠した。
「この変態!あんたには情ってもんが無いのか!」
「欲情しっぱなしだよ?君のせいでね。」
どうする?
あそこを見られる羞恥とファーストキス、どちらを守るべきなのか?
私はどうするべきかと必死に考えたが、こんな究極の選択の選択できるわけなどない。
もう死んだ!そう思った時、死にかけた人間が体験できる体験をした。
記憶の走馬灯だ。
私は三歳の時にお父さんと結婚すると父に言い、父とマウストウマウスをしたじゃないかと思い出したのである。
くっそ、忘れたままでいたかった過去だったぜ。
いや、反抗期で意地悪した時でも父が私に優しかったのは、この記憶が父にあるからだなと、そこにも気が付いた私は、ファーストキスを捨てる選択にした。
もうファーストキスじゃなかったし、そんな気持ちだ。
私のお父さんと間接キスしちまえよ?そんな気持ちでもある。
「夜久!ファーストキスをあげるから下ろして!って、きゃあ!」
私はベッドに沈んでおり、すぐさま淫獣夜久が期待に溢れた顔で私に覆いかぶさってきた。
私を抱き締めるんじゃ無く、両手をついて私を見下ろすという覆い被さり方だ。
「いいのか?」
「空中で大股開きさせられる屈辱と比べたら!」
「恥じらいのある女こそ大好きだよ。じゃあ、まずはパンツを履こう。」
「まるで私こそパンツを脱ぎたがりだったかのような物言いだな。履くから返して、私のパンツ。」
「俺が履かせてやる。脱がすのの反対だろ?これからキスする男への信頼が駄々上りだろ?」
パンツを返してくれないところで、お前への評価は駄々下がり中だ。
けれど私は黙っていた。
パンツは脱いでいるよりも履いていたい。
黙っていると夜久は私の上半身から下がり、私の足元にしゃがみ込んだ。
「右足の爪先を上げて。で、左足もこっちに。」
言われた通りに右足を上げれば、彼は上手すぎる程に私の右足首にまでパンツを通し、左足首にだって簡単に引っ掛けてしまった。
そして彼はパンツの左右をそっと引っ張りながら指先で持つと、パンツを上にあげながら私の顔の方へと上半身を動かして屈めてきたのだ。
私は彼を拒めない。
拒めばきっとパンツはお尻まで到達できない。
だから私は観念して、そっと目を瞑った。
パンツはそろそろと上に上がり、私の膝を過ぎ去った。
次は腿へと上がって来たが、わざとなのか夜久の人差し指の第二関節が私の肌に触れている。
私ははっとして瞼を開けた。
「俺を見ていて。俺だって思いながら俺にキスをして欲しい。」
夜久は笑みを見せると、彼自身が彼が私に望んだように、彼の瞳は私の瞳を覗きこむように見つめてきたではないか。
彼は再び動き出した。
私に触れながら、でも私の下半身には目を向けずに私の顔だけを見つめ、彼の指関節は上へと昇って私の下半身へと迫りくる。
私は夜久に見られている羞恥と、彼の指が肌に引き起こす感覚に息を吸った。
ああ、もうすぐ到達してしまう!
私の腰は彼の指から逃げ出すようにして、少しだけ勝手に持ち上がった。
「完了。」
腰をあげた事でパンツは私の臀部を通過できて、パンツのゴム部分は腰に到着できた。
夜久は腿から臀部の横をなぞり、腰に到達した時点で関節ではなく指先で私の腰を撫でた。
その攻撃で私の足はじんとつま先まで痺れてしまった。
だけど私は夜久に何も文句を言えなくなった。
彼は私のファーストキスを、自分の唇に受けなかったのだ。
夜久はそっと顔を傾けて、自分の右頬に私の唇を当てさせる、という恩情をして見せたのである。
唇じゃなくていいの?と、驚く私の視線は夜久の顔から動かせなくなった。
彼は私にパンツを履かせたが、パンツを履かせる時に私のあそこに視線を動かすことなども一切しなかった。
彼は私の顔だけを見つめ、私の唇に期待を込めた眼つきをしただけだったのだ。
その上、唇を欲しがりながら唇を奪わなかった。
こんなことは良識のある男性であるならば当たり前なのかもしれないが、私は夜久がして見せたことで物凄い奇跡が起きたかのような気にさせられたのである。
いいの?唇にキスをしなくて?
そんな言ってはいけない言葉が零れそうだった。
夜久は充足した猫みたいな表情をして見せると、私の耳に囁いた。
「キスをありがとう。絶対に君を守るよ?」
語尾にハテナが付いているふわっとした誓いだが、私は夜久に魔法をかけられたみたいになっていた。
だって、信じている、なんて私が夜久に返しているのだもの。