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妖精管理官と電マ

 夜久は自分が警察を辞めさせてもらえない理由を滔々と語りだした。

 私は聞きたくもないが、夜久に襲われて突っ込まれる危険性から少しでも遠ざかれるならばと、黙って奴の言い分を聞いた。

 黙って聞いているが、まるっきり聞き流してもいた。

 妖精事件から警察官が次々に辞職し、人手不足となっているのは有名な話だ。


 五年前に妖精界と人間界がなぜか混ざり合ったが、一方的に貧乏くじを引くのは魔法も使えない人間の方だった。

 人間は妖精界に立ち入ることも出来ないのに、妖精たちは大挙して人間界に押しかけて来ては、自由奔放すぎる振る舞いを繰り返した。

 そこで、妖精が巻き起こす悪戯に対処する必要性に迫られ、人間は自分達の秩序を守る警察にその仕事を放り投げたのである。


 日本では警察庁であるが、警察庁は超常現象に対応できる職員を選別して妖精管理官なるものを仕立て上げ、新たな部署を警察内に設置したのだ。


「絶対的な人手不足だ。朝から晩まで狩り出され、制服姿ならば不審がられないからって、朝から晩までこの格好で宝来通りを行ったり来たりさせられてさ、ああ、本当に最悪。人間は不審がらないだろうけどさ、妖精は不審がるだろうが。警察イコール妖精取り締まりって、知られちゃってんだから。ちっ。とに、現場を知らない上の奴らは馬鹿ばかりだ。」


「え?ってことは、あなたは対妖課のドルイドなの?」


 部署の正式名称は、対妖精案件処理執行管理課。

 省略して対妖たいよう課。

 また、そこに属する職員は、正式名称の妖精管理官ではなくドルイドと呼ばれているのである。


「そう。警察庁直轄になる対妖課のドルイド。」


 夜久は自分が選抜された職員であり、ドルイドであると言い切った。

 私はそこで思い出した。

 妖精界と混ざったせいで魔法が使える要素が出来た人間界だが、妖精界が来襲する直前で囁かれていた都市伝説のせいで魔法使いになれる条件が変わってしまったという情報を。


「お前!童貞かよ?そんで、三十を越していたのか!」


 三十歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい。

 その伝説は事実となり、世の三十代以上の童貞男性が魔法使いとなったが、魔法使いとなって恋人ができる魔法を使い、結局魔法使いは次々姿を消している。

 警察は魔法使いな職員が魔法力を失わないための、きっと私生活の監視や拘束などのパワハラもしているのだろうと、夜久を見つめながら考えた。


「そっか。それでやりたがりなのか。定年退職まで童貞維持じゃ、やさぐれるのも仕方が無いよな。わかるよ。」


 夜久は私を反吐を見るような目で見つめた後、偉そうに言い返して来た。


「俺はまだ二十七だ。そして俺は童貞だが、素人童貞の方だ!」


「もっと最悪だよ。この最低野郎!汚物にしか見えんわ!」


 夜久は私に怒鳴り返すどころか、にやっと意地悪そうに微笑んだ。

 ベッドに腰を下ろしている彼は、ベッド下へと身をかがめ、再び身を起こした時には右手には凶悪な機械を持っていた。


「わ、わあ、何を考えている!」


「ハハハ。疲れているから肩でも解そうと思っただけなのに、そうか、これでいけないことを想像したか。さすがやりたい盛りの十代だ。」


 私は夜久から逃げようと夜久から身を背けたが、それがいけなかった。

 どおんと私の背中に夜久がのしかかって来て、私はうつ伏せにベッドに押し付けられてしまったのである。


 びぃいいいいいいいい。


「ひ、ひい!何を考えているの!止めてよ!」


「大丈夫だよ。ほんのちょっとで天国に行ける。」


 スカートは捲られていないが、お尻すれすれまで短くしたスカートだ。

 いやいや、太ももの裏に機械の振動の空気感を感じる。

 そう、奴は危険な機械を私の太ももの間に下ろしているのだ。


「や、やめて!」


「俺は汚物だし。もう、何をやっても尊敬されない汚物だし。だったらさ、お前もぐちょぐちょの汚物にしてやるよ。」


「ひいいい!やめて!それを絶対に、ああ!」


 夜久はそれを私の股の間近くの太ももに軽く一瞬だけ当てた。

 私はビクンと背中をそり返した。


「これをあそこに押し付けたら、君は何分で壊れるかな?」


「やめて!謝るから止めて!」


「名も知らない人に謝られてもねえ。」


 びいいいいいいん。


 無情に音を立てて、ミリ単位で肌の近くで振動しているそれの存在に、私の身体はぞわぞわと不思議な感覚が芽生えていた。

 一度当てられた感覚に脅え、とっても敏感になっていた。


「なかなか綺麗な足だな。贅肉が無さすぎるのはちょいと色気が足りないが。知っているか?肉があった方が密着があるからさ、腰を振る時にはいい感じになるんだよ。」


 私は畜生と歯噛みしながら、このろくでない男の暴挙をやめさせるためだけに、プライドを投げ捨てて大声を上げていた。


「聖マドリンド女子学園の二年、豆名まめな都希つきです!夜久さん!ごめんなさい!謝ります!だから許して。」


 び。


 機械の音は止まり、私はほっと息を吐いた。

 いや、安心などするべきでは無かった。

 グルんと体を裏返され、私は仰向けになった。

 私の両肩の直ぐ上には、それぞれ檻の柵のようにして夜久の腕が置かれ、私の腰の上に座るようにして両膝を私の腰の横についている。


 私に触れているようで触れていない。

 私を自由にしているようで、絶対に逃がしてくれない。


「信用をし合うには胸の内をさらけ出すのが一番だ。」


「そ、そうね。互いを知ることからよね。」


 彼は嬉しそうに笑った。

 ろくでなしの癖に笑顔は意外と気安い人好きのするもので、待ち合わせなどでそんな笑顔を向けられたら、十中八九の女の子はのぼせるだろうと思わせた。


 私はのぼせない!

 こいつの性根をしているから、と、私は作り笑いを顔に浮かべた。


「いい子だ。じゃあ、余計なものを脱ぎ捨てようか。おっぱい見せて。」


「お前の胸のうちはそれしか無いのかよ!とっとと殉職しちまえ!」

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[一言] ここまで超ドキドキしながら読んでます!
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