条件をクリアしないと出られない部屋
歪んだ世界が正常に戻ると、そこは大きなベッドが真ん中に鎮座するという、それ以外は何もないが殺風景にも思えない部屋だった。
ぐるっと部屋を見回して、真面目と称する女子高生ならば、ここは絶対に男性と入ってはいけない場所だと理解した。
「何で!」
私が叫んだそこで、私の腕がきゅうに軽くなった。
横にいた紺色の影が私から離れ、部屋の内部を探り始めたのである。
私はそういえば警察官に腕を掴まれていたのであり、警察官が一緒であれば自分がいかがわしい場所にいても大丈夫だと、ベッドヘッドの棚や、ベッドの下を覗き込む警察官を眺めながら気を落ち着かせていた。
四方が壁とガラス張りの風呂場しかない、窓どころか出口が無い部屋という真実から目を逸らすにはそれしかない。
「隠し目はあからさまなものは見当たらないな。」
「隠し目?」
「これは妖精の仕業だ。俺達を監視する目の事だよ。」
「監視?妖精の仕業?私達は妖精に誘拐されたの?」
尋ねた私に答えるどころか、警察官は何かを見つけてびくっと肩を震わせ、しかしすぐに爽やかそうな外見からは想像できなかった行為を行った。
大きく舌打ちをしたのだ。
「ちっ。これが条件だったのか。」
「条件?何?」
ベッド下を覗いていた警官は立ち上がると、私を見返して、宝来通り神隠し事件、と静かに答えた。
「え、うそ!それって噂じゃなくて本当に人が消えていたの!」
警察官は嫌そうに溜息を吐いた。
それから私に見せる為なのか、モニターにリモコンを向けた。
え?部屋にモニターってあったっけ?
ぴっ。
真っ黒だったモニターに映像が映り、そこには電光掲示板のように文字がさっと流れたが、私は見ない振りをしてしまいたかった。
「これがアンサーだ。やらないと出られない部屋。それじゃあ、数日行方不明だった奴らが何があったかなんて口が裂けても言えないか。」
私は自分に言い聞かせた。
私は大丈夫。
一緒にいるのは法の正義と市民の秩序的な生活を守る警察の人だ。
「じゃ、やろっか。ローションもあったから前戯も無くとも大丈夫だろ?取りあえずベッドに転がって。」
「やんのかよ!嫌だよ!ここは他の逃げる方法を考えるべきだろ!」
すると、警察官はふうと溜息を吐き、気が抜けたようにしてぽすんとベッドに腰を落とした。
「俺さあ、家に早く帰りたいんだよね。明日はオフだし。」
「お前さ、警察官だろ?無力な乙女を助けてやろうって気は無いのかよ!」
「助けてやるからさ、さっさとやろうよ。やれば出られるんだし。」
「名前も知らない奴と出来るか、馬鹿!」
警察官はすくっとベッドから立ち上がると、私に敬礼をして見せた。
うお!
ピシッとすると、見栄えのいい男だけあって、実にカッコいいと悔しいが胸がどきりと高鳴った。
悔しい。
「宝来署所属、夜久十三巡査部長であります。」
やくじゅうそう?
おかしな名前だ、とそう思ってほけっとしたのが不味かった。
夜久は私の真ん前にたった二歩で辿り着くや、私をひょいっと持ち上げて、なんとベッドに転がしやがったのである。
慌てて起き上がって逃げようにも、夜久は私に圧し掛かっていて、私は彼の重みで動く事さえできなかった。
「なななな!何をするのよ!」
「紹介しただろ?君は俺の名前を知った。じゃあ、やろう。」
「やだ~!私はまだ十七歳だ!淫行だ!レイプだ!こんなことをしたらお前なんか訴えてやる!お前なんか懲戒解雇になって犯罪者だ!」
私の上から重みが消え、それは夜久が私の上から身を起こしたからなのだが、彼は額に右手を当てて落ち込んだような表情をしていた。
「そうだろ?仕事を奪われるのは困るだろ?」
「いいやあ。俺さあ、仕事辞めたいんだよね。懲戒解雇いいなって、ああ、懲戒解雇いい響きだなってじんとしちゃった。」
「やめたいなら、退職しとけよ!人を巻き込むなよ!」