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最終話 王都へ

 ギルド内の空気が一変したことで、ライリーは慌てて声を上げた。


「あ、皆さん落ち着いて下さい。勇者がこの国に来ているという情報は入ってません」


 お陰で張り詰めた緊張感は、すぐに解けていつもの喧噪(けんそう)が戻ってくる。


 そんな中でアルテナに目を向けると、彼女は小さく首を縦に振った。つまりライリーの言った通り、王国に勇者はいないということである。

 アルテナは国内のどこにいても、勇者が入国すれば確実に察知するからだ。


「それにわざわざ勇者が女性一人を誘拐するとは思えませんし」

「娘さんが行方不明になって気が動転したってだけじゃないのか?」


「そうかも知れませんが……」

「何か気になることでも?」


「実はその娘さん……クロエは私の友人なんです」

「そうだったのか。それは心配だろうな。しかしどうして俺なんだ?」


「リアムさんとアルテナさんは、たったお二人で地獄虎(ヘルタイガー)皇帝熊(エンペラーベア)を討伐されましたし、実力もAランク相当ですから」

「そういうことか。依頼主は?」


「王都ルークの東にあるカンタン子爵領の領主、エイダン・ボワソー・カンタン子爵閣下です」

「ずい分と遠くからの依頼なんだな」


 ここから王都までは馬車で五日はかかる。もっとも王都には何度も行ったことがあるので、転移魔法を使えば一瞬だ。


「ルークの冒険者ギルド・ルークールから王国内の全ギルドに回されたんですよ」


「勇者が本物なら冒険者ではどうにもならない。しかしそもそも依頼自体が眉唾だから、請ける冒険者がいないってことか」

「おそらくそうでしょうね」

「報酬は?」


「完全成功報酬で一億イーエン。金貨百枚と、白金貨九十枚で支払うとあります」


「それはまたえらい高額な……」

「子爵閣下は一人娘のクロエを溺愛してますから」


 聞けば子爵は早くに妻を亡くし、再婚することもなく男手一つで娘を育て上げたそうだ。もちろん使用人の助けはあっただろう。


 だだ、そんな父の愛を一身に受けた娘のクロエは、美しく心優しい女性として領民からも慕われていたらしい。


 ところで一億イーエンを金貨にすると千枚となる。しかし千枚もの金貨を用意するのは上級貴族でも骨が折れると聞く。対して白金貨は見た目も美しくて大きいので、貴族は好んで手にしているのだ。


 それを報酬に使うのだから、やはり貴族は愚かだとしか言いようがない。おそらく自分たちにとって貴重な物は、冒険者ごときなら大層喜ぶはずだとでも思っているのだろう。


 彼らは白金貨を実際に使うとなると、両替の手数料がバカにならないというのを知らないのだ。

 両替手数料は王国の法により、金貨以上は一律に一割と決まっている。つまり白金貨一枚の両替で、金貨一枚分を取られてしまうというわけだ。


 まさか五百イーエンのランチ代に白金貨、百万イーエンコインを差し出す者はいないだろう。店側だって迷惑だろうし、そんな大金を釣り銭として用意出来るわけがないからだ。だからどうしても両替が必要になってしまうのである。


「で、ギルドはそこから半分差っ引くわけだよな」


「あ、いえ。今回は完全成功報酬なので、ギルドは依頼料を別で受け取っていますから、報酬から差し引かれることはありません」


 なるほど、そういうことか。


 通常ギルドに依頼を出す場合、報酬は前払いが基本となっている。例えば金貨十枚が報酬だとしたら、手数料として半分の金貨五枚を引いた額を冒険者に支払うというわけだ。


 ところが依頼が達成出来なかった場合、当然報酬は依頼主に返金しなければならない。その際、報酬に含まれる依頼料と違約金が相殺される仕組みとなっている。

 つまり、ギルドは単に受け取った金を返すだけで、表面上は金銭的な損害を被ることはないのだ。


 とは言っても厳密には経費が発生しているので、実質赤字となってしまう。その穴埋めのために、依頼を達成出来なかった冒険者にはペナルティとして、報酬の一割を支払う義務が課せられていた。


 もっとも王国の法でペナルティの上限は金貨一枚と決められており、多くのケースでは高くても小金貨一枚、一万イーエン程度が相場となっていた。


 ところが完全成功報酬の場合は話が違ってくる。依頼が達成されなければ報酬は一切支払われず、当然ギルドには違約金と相殺すべき依頼料も入ってこない。


 さらに完全成功報酬依頼の多くは報酬が高額で、通常のケースに当てはめてしまうと違約金も高額となってしまうのだ。故にギルドは、完全成功報酬依頼では別枠で依頼主から依頼料を徴収しているのだった。



 命をベットして金を稼ぐ俺たちの胴元は、絶対に損することはないということだ。



「アルテナ、どうする?」

「リアムさまにお任せします」


「ちなみにこの依頼には、未達成時のペナルティもありません」


「なんだ。それなら他にも請ける冒険者がいるんじゃないのか?」

「いえ、やはり勇者絡みとなりますと……」


 たとえ報酬が一億イーエンでも命には代えられないわな。


「分かった。その依頼を請けよう」

「本当ですか!?」


「ああ。それと口座をギルド共通に変えてくれ」

「手数料が二分から五分になりますよ」

「両替で一割取られるよりマシだろ」


「それはそうですが……一億イーエン、もらうつもりなんですね」

「依頼を請けるんだから当然だろ」


 なお、依頼が人や動物の救出だった場合、対象が死んでいた場合の約定も交わされている。依頼主には酷な取り決めだが、見つけたけど死んでいたので依頼未達成となれば、請けた方はたまったものではないからだ。


 その場合は依頼主の希望を叶えることで、依頼達成と見なされる。


 そして今回の希望は、もし娘が殺されていたら、殺した者を捕らえて依頼主の目の前で酷たらしく殺す、というものだった。


 王国の刑法はタリオ、つまり同害復讐が基本理念となっている。だから依頼主の希望が法に触れることはない。


 むろん、ギルドが仲介に入っているなど制約はあるが、代行した冒険者が罪に問われることもなかった。


 余談だが、タリオには決定的な欠点がある。それは人を殺せば自分も復讐で殺されるが、復讐する者がいなければ裁かれることがない。つまり一族を皆殺しにしてしまえば、復讐に怯えることもないというわけだ。


 しかし王国の法は、きちんとその欠点を塞いでいた。一族を皆殺しにした犯罪者は、その者の一族も王国によって皆殺しにされるというものである。

 また、殺人以外の復讐に関しては、代わりに金銭で解決することも可能だった。


「娘さん、生きているでしょうか」

「さあな。相手が営利目的なら望みはあるが、勇者を名乗っている以上、その可能性は薄いだろう」


「リアムさん、クロエをよろしくお願いします」

「ああ。ライリーも彼女の無事を祈っていてくれ」


 そして俺とアルテナはギルドを出て、人気のない路地に入って王都ルークへと転移するのであった。


もう少し続けるつもりでしたが、人気ないので完結させます。

尻切れトンボで申し訳ありません。

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