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第三話 アルテナの正体

「アルテナはな、元は魔神だったんだよ」

「魔……神……?」


「そして俺はその魔神を喰った。つまり神を喰らいし者ってわけだ」

「神を喰った……だと……?」


「ムシャムシャ喰ったわけじゃないぞ」


 俺が喰ったのは魔神の肉ではなく、その神格だ。


 自分を崇める魔族を失った魔神は途方に暮れていた。もちろん、ロイセル軍から運良く逃げ延びた魔族はいる。しかしそれはほんのわずかで、魔族の血が滅びるのも時間の問題だった。


「いやぁ、さすがは神様だよな。バカな天使と違って帝国を滅ぼそうとはしなかったんだから」


 魔神とは神である。その力の前では、天使など風に翻弄される木の葉よりも儚い。それでも、魔神は天使を手にかけようとはしなかった。

 代わり魔神はわずかな魔族を生きながらえさせるため、ある策を講じた。


 それがストン村だ。


 魔神は村を作り、生き残った魔族をそこに集めた。そして魔族の特徴である角をなくして姿形を人間に似せ、平穏に暮らしていけるように加護を与えたのである。

 もちろん、魔族特有の強い魔力も生活に支障のないレベルまで抑え込んだ。


 だが、多くの信仰を失った魔神の力は弱まっていた。このままでは他の六柱の神々との均衡が崩れ、せっかく救った魔族があの忌まわしい天使たちに滅ぼされてしまう。


 魔神は自分の神格を取り込んでも壊れない、強い何かを探した。それは生き物なら何でもよかった。


 神格を取り込めば半永久的に生きることになる。死にたくても死ねない体になるが、そもそも神格を得た者が自ら死を望むことはあり得ない。

 そして選ばれたのが俺だったというわけだ。


「アルテナはある意味魔神の抜け殻だ。だからいつも空腹なのさ。そんな彼女は特に生命力や魔力が大好物でな」

「そんな……!」


 俺の言葉を聞いて、ウィリアムは慌てて両手を下げた。だが、光の流出は全く止まらない。それどころか、背後の兵士たちも漆黒の闇に生命の光を吸われ始めていたのである。


「や、やめろ! もうやめてくれ!」


「ギャーッ」

「熱い! 熱い!」

「ぐぇぇぇっ!」


 背後でバタバタと倒れる兵士たちに目を向け、勇者は膝を折って力なく両手を地に着けていた。


「助けてくれ……イヤだ……死にたくない……」


「戦争しにきて死にたくないはないだろう」


「た、頼む。帰る! 大人しく帰るから!」

「さっき聞いた時にそう応えていればよかったのに」


「後悔してる! 反省もしてる! だから頼む! 殺さないで……」


「後悔か。先に出来てりゃ死なずに済んだかもな」

「悪かった! もうしない! 本当だ! 勇者もやめる!」


「自分じゃ加護は外せないだろ」

「やめ……これ以上吸われたら……」


「どうやら相手が悪かったのはお前の方だったようだな」


 勇者が断末魔の叫びを上げ、辺りに静寂が戻ったのはそれからわずか数分後のことだった。そしてその場に転がった亡骸(なきがら)は一瞬で霧散し、命を吸い尽くした漆黒は愛らしいアルテナの色を取り戻していた。


「アルテナ、お疲れさま」

「美味しかったです」


「今回の勇者も雑魚だったな」


「そうですね。ところでリアムさま」

「うん?」


「抜け殻は酷いですよぉ」

「あ、すまん、悪かった」


「ダメです。帰ったらお仕置きです!」


 そう言いながら彼女は、嬉しそうに俺の腕に巻きついてきた。


◆◇◆◇


 今のアルテナには魔神だった頃の記憶はない。神格を失うとはそういうことなのだ。ただ、俺の中にある彼女自身が、俺に対する強い思慕(しぼ)の原因であるとは思う。


 もちろん、それを煩わしいとは思わないし、むしろ愛おしいくらいだ。愛おしいくらいなんだが……


「やぁ! 私も入るぅ!」

「いや、だからさぁ……」


「分かったって言ったもん!」

「はい?」


「置いてかないでって言ったら、分かったって言ったもん!」

「あ……」


 そう言えばそんなこと言ったような。しかしあれは眠かったからだし。


「頼む、さすがにトイレは勘弁してくれよ」

「ぶー。じゃ、扉の前で待ってる!」

「仕方ないなぁ」


 そして――


「リアムさま、いますか?」

「はいはい、いますよ。ちょっと待っててね」


「リアムさま、いますかぁ?」

「いるってば……」


「リアムさま……」

「なあアルテナ、思ったんだけどさ」


「何ですか?」

「これ、逆じゃね?」


 普通はトイレに入るのが怖くて付いてきてもらって、中から外に向けるやり取りだ。しかし今、用を足しているのは俺で、外で待っているのはアルテナである。


「えへへ、分かっちゃいました?」

「アールーテーナー」


「きゃぁぁぁっ! 抜け殻って言った罰ですってばぁ!」


 そして彼女はこの後ベッドに連れていかれて、今度は俺からの罰という名の甘いお仕置きに歓喜の声を上げるのだった。


「リアムしゃまぁ、もっとぉ……」

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