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36 オリバーさんとステファン様の関係

あけましておめでとうございます。

今年もゆるゆると更新していきますので、よろしくお願いいたします。

「ステファン様……!」

「ああ、いいいい。そんなかしこまらなくて。それよりどう? 二人ともうまくやれてる?」


 あのステファン様が開発室に突然ご来訪なさった。わたしはあわてて頭を下げる。

 いったい何をしに来られたのだろう。緊張する。

 オリバーさんはというと、胡乱な目をずっとステファン様に向けつづけていた。


「なんだよその目はー。いいじゃないか、ちょっとぐらい様子を見にきたって! 一応僕は君の上司だろう、オリバー」

「今までこんな遅い時間に来たことなんかなかっただろう。いったいどういう風の吹き回しだ? だいたい……」


 現時刻は夜の九時くらいだった。

 オリバーさんはステファン様と仲が良いのか、ずっと軽口を叩きあっている。

 いわく、ステファン様は女性が苦手なオリバーさんを今回のことでとても心配しているらしい。わたしと険悪な雰囲気になってやいないかと確かめに来たのだとか。


「あ、あの、ステファン様。大丈夫です。オリバーさんには引っ越しの時もとても親切にしていただきましたし。なのでご心配なさるようなことは何も!」

「へえ~。あのオリバーが? 親切!」

「どういう意味だ。ステファン」


 びっくり顔のステファン様に、オリバーさんはさらに冷たい目を向ける。


「あのな、たとえ苦手だからって仕事をぞんざいになどしないぞ。あまり馬鹿にしてると……」

「わかったわかった。今だって問題なさそうことぐらい、見ればすぐわかるよ。うん安心した。これからもその調子で頼むね、オリバー、アンジェラちゃん」

「は、はいっ」

「言われなくとも……」


 わたしとオリバーさんはそれぞれに返事をする。

 それにしても、ステファン様は本当にオリバーさんと仲が良いようだ。ただの上司と部下って感じにはとても見えない。そう思っていると――、


「何? どうしたのアンジェラちゃん」

「えっ」

「なにか僕たちに言いたいことでも、あるのかな?」

「あ、はい、えっと……」


 わたしの視線に気づいて首をかしげられるステファン様。

 どう言おうかと迷っていると、ハッと何かに思い至ったようだった。


「ああ! なるほど。僕らのやりとりを疑問に思ったんだね。どんな関係なんだーって」

「あ、ええと……はい」

「うんうん。実はね、僕とオリバーは幼馴染なんだ」

「幼馴染?」


 いわく、オリバーさんとは同い年なのだとか。

 オリバーさんのお父さんが技師としてこの城の機械全般のメンテナンスをまかされていた頃、子どもだったオリバーさんもよくこの開発室に手伝いに来ていたのだそう。その頃から、ステファン様はオリバーさんに目を付けて、よく遊び相手に誘っていたのだとか。


「本当にお前はいつだって、余計なちょっかいばかりかけてくるよな」

「余計な、ってなんだよー。実際一緒に遊んで楽しかったでしょ?」

「息抜きとしてはな。でもあとで毎回こってり親父に叱られてた」

「えっ、そうだったの!?」

「王子様のお誘いを断るわけにもいかないしな……お前の前では叱らなかっただけだ。でもしょっちゅう手伝いの息子がいなくなるもんだから、ずーっとイライラされてたよ」

「あちゃー……」


 申し訳なさそうに頭に手をやったステファン様だったが、直後みじんも悪いと思っていないような笑みを浮かべられた。

 オリバーさんは深いため息を吐き、そろそろと手元の資料を片付けはじめる。


「オリバーさん?」

「ん? ああ、今日はもう終いだ。こいつが来たらもう仕事にならない。また明日、同じくらいの時間に来てくれ。明日からは本格的に製作を手伝ってもらう」

「は、はいっ」


 元気よくわたしが返事をすると、ステファン様がニマニマしながらオリバーさんにささやいた。


「オリバー、くれぐれも……彼女に手を出したらダメだよ」

「はっ、何を言っている!?」


 一気に赤面して書類を床に落としてしまうオリバーさん。

 わたしも思わず言葉を失ってしまった。


「建前上はこの子は兄上の『お気に入り』なんだからね。ややこしいことになったら……コトだよ?」

「ふ、ふざけるな! 誰がそんなこと!」

「どうかなー? この子割と可愛いしー、オリバーでも間違いを起こしちゃったりしてー」

「するかっ! 馬鹿なこと言ってないで、もう早く寝ろ!」

「はいはい。じゃあね」


 振りかぶられた拳をかわして、ステファン様が退散していく。

 オリバーさんはそれをものすごい表情で眺めていたが、姿がようやく見えなくなると、ようやく胸をなでおろされたようだった。


「はあ……ステファンはああ言ったが、気にするな。自分にそんな気は一切ない」

「は、はい……。あの、今日は本当にありがとうございました」

「ああ」


 一礼をして、わたしも開発室を後にする。

 部屋を出ようとしたとき、ふとオリバーさんに声をかけられた。


「アンジェラ・ノッカー」

「はい」

「お前は……」

「?」

「いや、なんでもない……」

「なんですか。言いたいことがあるなら、遠慮なく言ってください」


 オリバーさんはしばらく視線を足元に向けていたが、やがてぽつりと口にした。


「その、お前は……ここにあるもの……兵器を、開発するということを……まだ実感できていないんじゃないか? と、思ってな……」

「実感?」

「ああ。今からでも……いや、いつだってそれは、考え直すことができるんだからな」

「はあ……」


 よくわからないが心配、してくださってるのだろうか。

 ステファン様はああ言っていたけれど、わたしはどうにかこのオリバーさんとうまくやっていけそうな気がした。


 最後に、オリバーさんから風呂場の場所を城内地図で教えてもらう。

 わたしは一度自室に戻り、着替えを持ってそこへ向かった。

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