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35 王城での食事と開発室

 どうしよう。

 出かけるときはあまり気にしてなかったけど、今になってこの格好がものすごく間違ってるような気がしてきた。


 クロード様のメンテナンスで登城するときは、いつも師匠に用意していただいた深紅のドレスを着ていっていた。

 でも今日はいつもの出勤スタイル。

 動きやすいボーイッシュな服装に、ジャンプブーツ。


 でも、帰る場所は下層地区じゃなくて、一等地も一等地のお城……。


 ああ、どうしよう。

 今から帰って工房でドレスに着替えてくる?

 でもでも。明日になったらまた同じような動きやすい服で出勤したいし……。いちいちドレスを着替えたりするのも面倒くさい。

 出る時も特に誰にも何も言われなかったし……。


 そうだ。

 オリバーさんだって、ずっとつなぎ姿だった。

 だったらわたしだってずっとこの格好でいてもいいんじゃないの?


 だってずっとあのドレスでいたら、移動とか作業の時に汚してしまう。

 あの綺麗な服は、なにか正式な場でだけ着たい。


 うん、そうしよう。

 わたしは一人で納得すると、堂々と城門をパスして自分の部屋へと向かった。



 ◇ ◇ ◇



 客室に戻ると、食事が移動式ワゴンの上に乗せられていた。

 この城に引っ越すにあたり、食事の心配はさせないとクロード様に言われていたけれど……正直、師匠のところでもらう「まかない」より何倍も美味しそうだった。


 夕食は牛肉のステーキと、生野菜のサラダ、それとおそらくコーンスープ、そして焼き立てのやわらかそうなパンだった。

 朝食は緊張しすぎていたためにいらないと断っていたのだけれど、まさかこんな素晴らしすぎるお夕飯をいただけるなんて。


 わたしは荷物を床に置くと、さっそくそれを窓際のテーブルに持っていき食べることにした。

 

「では、いただきまーす! はむっ……んんっ!? ん~~~~っ!」


 なんてジューシーで柔らかいお肉なんだろう。あふれでる肉汁がたまらない。

 香ばしいこの匂いは、きっとなにかの香辛料を使っている。でも、それが何かを想像しきる前にわたしはあっというまにそれをたいらげてしまった。


 次にサラダだ。


「はむっ……うわっ、なにこれ! 信じられないくらいみずみずしい!」


 わたしは産まれて初めて生の野菜を食べた。

 こんなにしゃきしゃきして、複雑な苦みと甘みが口の中にあふれるなんて。

 何か酸味のあるソースがかかっているが、それがよりこの野菜たちの旨味を引き出している気がする。

 わたしは、あまりの感動に涙があふれてきた。


「ああ、美味しい……美味しいよう……」


 次にスープ。

 ひたすらに甘く滑らかなその液体には、匙をすくう手が止まらなかった。

 お肉を食べているときにパンも食べはじめていたのだけれど、わたしはそれをひとかけらだけその液体に浸してみた。


「んんん~~~っ!」


 感謝。圧倒的感謝である。

 でも同時に恐怖もした。

 だって、これほど美味しい食事をいただいてしまったら……わたしはもうあのあばら家に戻れないかもしれない。


 振り返れば清潔なシーツに包まれた寝台があった。

 その感触は今朝方確かめたばかりだ。

 今夜ここで寝てしまったら、わたしはあのあばら家に戻れるだろうか……。


「いやいや。何考えてるのわたし。ここでのお役目が終わったらまた元の生活に戻るに決まってるじゃない。ここでの暮らしに、慣れちゃダメ……」


 わたしは首を振ると、空になったお皿をまたワゴンに戻した。

 そして、オリバーさんの待つ開発室へと向かう。



 ◇ ◇ ◇



 開発室では遮光ゴーグルをかけたオリバーさんが何かを溶接しているところだった。

 明るい火花が散っており、わたしは手でそれを隠しながら声をかける。


「遅くなってすみません」

「アンジェラ・ノッカーか。夕食は食べてきたか?」

「ええ、しっかりと。おかげでこれからもう二仕事くらいできそうです!」

「それはなによりだ……」


 オリバーさんからは、『義肢型の兵器』の簡単な説明をしてもらった。

 いわく、熱源が出る兵器部分と、熱源に侵されない義肢部分をどうにか和合させたいらしい。


「今のままでは銃身を組み込んだ義手の方も、飛行装置を組み込んだ義足の方もその衝撃と熱に人体が耐えられない。それをどうにかするのが俺たちの、ひいてはお前の仕事だ」

「わかりました」


 この日は各パーツの大まかな構造や、仕組み、形状などを説明してもらった。

 これはやはりわたしひとりではどうにもならないと感じる。

 師匠に相談だな、と頭の片隅で思いながら自分だったらどうするかを必死で考える。


「――と、いうわけだ。何か他にわからないことがあったらいつでも聞いてくれ」

「はい、ありがとうございます。それにしても、オリバーさんってすごいですよね。ここまでお一人で造られたんですよね?」

「いや、このほとんどは俺の父が……」


 そこでガーッと扉が開く音がした。

 見るとそれは第二王子のステファン様だった。


「やあやあ、二人とも。頑張ってるね。さっそく初日の様子を見に来たよー」

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