21 注文品の到着と泥棒騒ぎ
二週間後――。
わたしとPDSの店長は、空港の入り口で待ち合わせをしていた。
リアルな朝の光がガラス天井の合間から差し込み、何十隻と並んでいる空中輸送船の船体を美しく輝かせている。
まだ九時前だというのに、滑走路である広場にはすでにたくさんの人がいた。
わたしとPDSの店長は、さっそく鉱山の国の船へと向かう。
手順はこうだ。
まず店長が 鉱山の国の人たちから品を受け取り、代金を払う。次にわたしがその店長に代金を払う。そうすることで、理想のパーツがわたしの手元に渡るというわけだ。
「おい、アンジェラちゃん。さっそく中を確認してみろよ」
「はい!」
わたしはドキドキしながら荷箱を開けた。
すると緩衝材の木くずの中から、黒光りする義肢の「外装」が現れる。
「うわああ~~~すごいっ! かっこいい~~~!」
「おおおおっ!」
わたしも店長も、その素晴らしい出来栄えに思わずテンションが上がってしまった。
取り出してみると、ものすごく軽い。
ファインセラミックスが真鍮の半分以下の重さというのはダテじゃなかった。
「これならクロード様も満足していただけそう……」
小さくつぶやくと、店長が「何か言ったか?」と聞いてきた。
でも、顧客のことをしゃべるわけにはいかないので黙っておく。
「いえ。この軽さならお客様も喜んでくれそうだなって」
「そうだろうそうだろう。いやー、俺も力になれて良かったよ」
「本当にありがとうございました、店長!」
そう言って笑い合っていると、どこからか叫び声が聞こえてきた。
「きゃあああーっ! 誰かーっ!」
女性の悲鳴だった。
声のする方を見ると、大きなボロ布をまとった小柄な人物がものすごい速さで走ってくる。
「危ねえっ!」
「うわっ」
店長に引き寄せてもらわなければ、わたしはその怪しい人物に激突されていた。わたしは大事な商品を抱きしめたまますぐに振り返る。
走っていった人は、どうやらジャンプブーツを使っていたようだった。
「あれは人の多い場所では使っちゃいけないのに……」
ジャンプブーツはもともと、戦場で素早く立ち回るために開発された軍用品だった。それが市街でも使えるようになったのは、戦後になってからだ。
使う場合は人の少ない場所に限る、水平方向ではなく垂直方向に主に使うこと、など国内ではさまざまな決まりがある。それを守っていない上に、「泥棒ーーっ!」と追加の怒号が聞こえてきたので、これはもう警察案件だなと思った。
「泥棒なんて出たのは久しぶりだな。交通ルールを無視してるとこを見ると外国人か?」
店長が、顎に手をやりながらそんなことをつぶやいている。
たしかにここで売り買いができる人間は、一部の商人だけだった。つまり本来身元がたしかな者しかいない。
わたしみたいに紛れ込んだ人間は本当にレアなのだ。
だから、あの泥棒が何者なのかわたしも少し気になった。
しかし、しばらくすると数人の軍服を着た人たちが足早にやってくる。
そして周囲にいる人々に似顔絵のようなものを見せて回った。
「おい、今ここに赤毛の女が来なかったか?」
「よく見ろ。こういう顔だ」
「どっちの方向に行ったかだけでも教えろ!」
彼らの軍服は、黒ではなく濃い緑色をしていた。
あれは、あの色は……。
胸に黒い三角の紀章。そうだ、間違いない。あれは――、
「隣国……石炭の国の人たちだわ……!」
わたしが隣国の人たちを目の当たりにして固まっていると、店長が優しく声をかけてきてくれた。
「アンジェラちゃん。少しきな臭くなってきた。今日はもう帰った方がいい」
「はい。そうですね……」
そうしてわたしたちは他の商品のチェックもそこそこに、それぞれの店へと戻ったのだった。




