表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/50

2 わたしは見習いの義肢装具士です

 最高の義手が作れた、と思ったら夢だった。

 枕元の時計を見るとすでに八時を回っている。


「やばっ、遅刻だ! また師匠に怒られちゃう」


 わたしの名前はアンジェラ・ノッカー、十七歳。見習いの義肢装具士だ。


 すばやく髪をまとめあげて、ミルクティー色のシャツと、焦げ茶のショートパンツとコルセットを身に着ける。台所の上に置いておいたパンを一口、葡萄ジュースを一口だけ飲み、商売道具の入ったバッグを背負う。

 さらに編み上げ式のジャンプブーツを履いて――、


「おっと」


 忘れずに玄関を施錠。

 鍵を回すと、プシュッとドアノブから完了した音が鳴る。

 バッグから真鍮製のゴーグルを取り出して、目元に着ける。準備OK。ジャンプブーツと同期したのを確認してから、わたしは勢いよく下層地区の地面を蹴った。



 ◇ ◇ ◇



 ここは深い渓谷の中に建造された巨大な温室――その名も【蒸気の国(スチームキングダム)】だ。

 大小の配管が数十キロにまたがって迷路のように張り巡らされ、空には強化ガラスの天井がはめ込まれている。


 およそ百年前にこの星の環境が激変したとかで、当時のあらゆる技術が投入された。


 街のほとんどの動力は蒸気機関だ。街の下を流れる川でタービンを回し、発熱した炉で蒸気を無尽蔵に生み出している。


 わたしは貧民なので、下層地区のあばら家に住んでいた。

 勤めている工房ははるか上の上層地区にあった。

 街のあらゆる重要な機関はすべて上にあり、労働者はみな文字通り上を目指す。


「よっ、ほっ」


 配管から配管へと軽快にジャンプしていると、同じような人たちがすぐ横を通り過ぎていく。


「よお、アンジェラ。今日も元気そうだな!」

「ええ、ありがとう。とっても元気よ」

「急いでうっかり足を踏み外すんじゃねーぞ」

「そっちこそ」


 ご近所さんがわたしにいつもの挨拶をくれる。

 彼らもわたしと同様に、蒸気の力で跳躍力が倍増するジャンプブーツを履いていた。下層地区の人はみな貧乏なため、それくらいしか交通手段を手に入れられないのだ。しかし、これが中層地区になってくるとホバースクーターに乗った人や、高層エレベーターに乗って上に行く人などが散見されてくる。


「いいなあ。わたしも早く一人前になって中層地区で暮らしたい」


 その思いを両足に込め、わたしはより高くジャンプした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ