2 わたしは見習いの義肢装具士です
最高の義手が作れた、と思ったら夢だった。
枕元の時計を見るとすでに八時を回っている。
「やばっ、遅刻だ! また師匠に怒られちゃう」
わたしの名前はアンジェラ・ノッカー、十七歳。見習いの義肢装具士だ。
すばやく髪をまとめあげて、ミルクティー色のシャツと、焦げ茶のショートパンツとコルセットを身に着ける。台所の上に置いておいたパンを一口、葡萄ジュースを一口だけ飲み、商売道具の入ったバッグを背負う。
さらに編み上げ式のジャンプブーツを履いて――、
「おっと」
忘れずに玄関を施錠。
鍵を回すと、プシュッとドアノブから完了した音が鳴る。
バッグから真鍮製のゴーグルを取り出して、目元に着ける。準備OK。ジャンプブーツと同期したのを確認してから、わたしは勢いよく下層地区の地面を蹴った。
◇ ◇ ◇
ここは深い渓谷の中に建造された巨大な温室――その名も【蒸気の国】だ。
大小の配管が数十キロにまたがって迷路のように張り巡らされ、空には強化ガラスの天井がはめ込まれている。
およそ百年前にこの星の環境が激変したとかで、当時のあらゆる技術が投入された。
街のほとんどの動力は蒸気機関だ。街の下を流れる川でタービンを回し、発熱した炉で蒸気を無尽蔵に生み出している。
わたしは貧民なので、下層地区のあばら家に住んでいた。
勤めている工房ははるか上の上層地区にあった。
街のあらゆる重要な機関はすべて上にあり、労働者はみな文字通り上を目指す。
「よっ、ほっ」
配管から配管へと軽快にジャンプしていると、同じような人たちがすぐ横を通り過ぎていく。
「よお、アンジェラ。今日も元気そうだな!」
「ええ、ありがとう。とっても元気よ」
「急いでうっかり足を踏み外すんじゃねーぞ」
「そっちこそ」
ご近所さんがわたしにいつもの挨拶をくれる。
彼らもわたしと同様に、蒸気の力で跳躍力が倍増するジャンプブーツを履いていた。下層地区の人はみな貧乏なため、それくらいしか交通手段を手に入れられないのだ。しかし、これが中層地区になってくるとホバースクーターに乗った人や、高層エレベーターに乗って上に行く人などが散見されてくる。
「いいなあ。わたしも早く一人前になって中層地区で暮らしたい」
その思いを両足に込め、わたしはより高くジャンプした。