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14 クロード様の二回目のメンテナンス日

 あれから十日ほど経った。

 その間、わたしは壊れた部品の直し方など、師匠からまだ教わっていなかったことを積極的に学ぶようになっていた。

 お店に来るお客さんの対応も率先してやるようになったし、部品を一から作ることにも挑戦してみた。だってこうでもしないと、王城で何かあったときにいちいち師匠に聞きに戻らなくてはならないからだ。


 わたしの仕事に対する姿勢が変わってきたのを、師匠はとても喜んでくれているようだった。


「こんなにやる気になるとわかってたら、もう少し早くこうすべきじゃったのう」

「師匠。今でも王族の方の担当を自分がするなんて、間違ってるって思ってるんですよ。だから、そんなこと言わないでください」

「しかしのう。あれからお前さんは目覚ましい成長ぶりじゃ。もう少ししたら、義肢のオーダーメイドも任せられるようになるかもしれんの」

「オーダーメイドを、ですか?」


 それは顧客の希望通りの素材、形状、機能などをすべて叶え形にする、見習い義肢装具士としては夢のような仕事だ。ほとんどの義肢は既製品をうまく組み合わせて作られている。しかし、すべてオーダーメイドとなると難易度が相当高い。それが完璧にできるようになれば、晴れて一人前の義肢装具士というわけだ。


 今のわたしは簡単な整備から、多少の修理ができるレベルになりつつある。でも義肢をゼロから作り出すなんて……そんなことできるのだろうか。


「はじめは義指からじゃな。呪いの発症しはじめは指から腐り落ちる。それができるようになったら次は義手じゃ。これは手首までのと、ひじから先のもの。最期は肩から先の義腕。この義腕までできたら、お次は義足じゃ」

「足の方が難しいんですよね、たしか」

「そうじゃ。足は重い体重を支えなくてはならんからのう。バランスをとる機構と、歩く際の衝撃を吸収する機構をうまく組み込まねばならん。これがちと厄介でな」

「はー。やること沢山ですね……」

「ああ、じゃがお前さんならできると信じておるぞ」


 師匠はそう言ってわたしの肩をポンと叩いた。


「お前さんは美しいものへの情熱が半端ないからの。技術さえ身に着けば、いつか最高の義肢を作りだす義肢装具士になれるはずじゃ」

「はい。ご期待に沿えるよう、頑張ります!」

「おう、その意気じゃぞ」


 そして、さらに数日が経った――。



 ◇ ◇ ◇



 今日はクロード様の二回目のメンテナンス日だ。

 わたしはまた、工房にある深紅のドレスに着替え、真鍮のハイヒールと黒の飾り帽を身に着けた。

 前回あんな別れ方をしてしまったので多少気まずかったが、それでも仕事なのでつべこべ言わずに城に向かう。


「来たか、アンジェラ」

「はい。お久しぶりでございます。クロード様」


 例の応接間で待っていると、しばらくしてクロード様がやってこられた。相変わらずお美しい方だ。わたしはじっと見つめたくなる気持ちを押し殺して、カテーシーをする。


「本日もよろしくお願いいたします」

「ああ。先日はご苦労だった」

「いえ……。あの、いろいろと失礼なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」

「そのことだが、あとで話がある」

「……は、はいっ」


 気まずい。クロード様のことを思って、あの時は気をまわしたつもりだったけれど、やはりとても怒ってらっしゃるようだ。叱られるのもやむなし、と思ってたけど……急に気が重くなる。

 クロード様は軽くため息を吐かれると、わたしから視線をそらされた。


「とりあえず、今日はメンテナンスの前に君に紹介しておきたい者がいる」

「紹介しておきたい者、ですか?」

「ああ」


 クロード様は振り返ると、廊下の方に向かって声をかけられた。


「おい、もう入ってきていいぞ」

「はい。失礼いたしますわ」


 廊下で待機していたと思われる人物は、クロード様の許可を得てすぐに入室してきた。


 女性だった。

 それもとびきり美人の――。


 わたしは思わず目を見張る。

 太陽のような明るい金の髪を縦にゆるく巻いている。目鼻は大きくパッと華やかな印象。豊かな胸を強調する白のスリットドレスに、わたしよりも高いピンヒール。腰のベルトには十字の模様が入った小さなバッグがいくつもぶら下がっていた。


 ああ、美しい。思わず見惚れちゃう。でもこの人はいったい……。


「はじめまして。クロード様の専属の義肢装具士さん。わたくしはレイナ・コーディ。王族の方々を診させていただいている専属医師ですわ。以後お見知りおきを」


 そう言って、レイナさんは女神様のようにわたしに微笑んだのだった。

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