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82.ソフィア3


「できるというのは・・・地底の門を復活させるということか?」


一気に、レオの顔が曇る。


「ソフィ。もしや・・・」


呻くような声を発する。


レオの脳裏に浮かんだのは、ソフィスティアが自らの身を賭して壁を復活させようとしたことだろう。

それを阻止するために、壁の向こう側にレオは行ったのだ。


「違うわ、レオ」


慌てて、その懸念を否定する。


「今まで、やろうとしたことが間違っていたの」


その先を促すようにレオが首を傾げる。


「一日で、壁を復活させようとしていたのが間違っていたの。神ではない私には、その力はないわ。だからその代わりに、まずは壁ではなく、網を編むわ」


「網?」


「そう。大きな魔物が通れないぐらいの網。一日目はそれで、段々と目を細かくしていくの。そして、目が十分に細かくなったら、今度はその間に膜を張るように、少しずつ壁を作っていくわ」


それを聞いたレオは、ソフィアの言わんとすることを一瞬で理解したようだった。


「確かに・・・逆転の発想だな。何も、魔物を防ぐものは平面である必要はない、紐のようなものであってもよい、と」


ソフィアは頷いた。


「そう、だって、達成したいことはそれであって、神と同じものを作ることではないのだもの」


「復活の力をそのように使えるか?」


「ええ。できると思うわ。この復活の門を元に戻すときの感覚が、ソフィスティアの時の記憶が戻ったおかげでわかるから・・・」


感嘆したようにレオが言う。


「よく・・・思いついたな」


「レオの・・・おかげよ」


「俺の?」


「あなたが聖なる存在としての重荷を背負ってくれていたから・・・私はクレイン家で生活を送ることができた。聖なる存在だったならば、できなかった些細な、でも聖なる存在だった頃にはできなかった経験を・・・」


じっと、レオが自分の言葉に耳を傾けてくれる。


「レース編みを教わることがあったし、兄の釣りについて行って、小さな小魚は逃して大きな魚を捕まえる網を使うのを見たこともあった。そんな小さな一つ一つの思い出が、新しい方法を思いつかせてくれたの・・・だから・・・私、試してみたい。今度こそ、あなたを犠牲にしないで、ともに生きるために」


「・・・君は、いつも俺の想像を上回ってくるな」


困ったように、レオが笑う。


「記憶が戻ったばかりで、無理するなと言いたいけれど、俺に君を止めることはできない」


そして、そっと傍らに立ち、肩を抱いた。


「君の思うようにやってくれ、ソフィ。君の身を脅かす全てのものから、守ることは俺に任せてほしい」


「ありがとう、レオ・・・!」





レオに見守られ、聖なる力を地底の門に注ぎ込む。

ソフィスティアの時、エマの時、そして今生の思いを込めて。

自分のためでもあり、人のためでもあり、そして誰よりも今生を幸せに生きてほしいレオのためでもある。


――― どうか、お願い・・・


そしてイメージしていた通り、その力は、するすると光の線を描き、そして絡まりあって、網のようになっていく。


まるで、人の思いが交差していくよう。

願わくは、その思いが、この世を守る術となること。


――― どうか、『レオン』と『ソフィスティア』の苦難が報われますように・・・


二人の記憶は、自分たちであって、自分たちではない。


悲しい最期を迎えた二人の思いが、どうか意味あるものであってほしい。


そして、二人を支えてくれた人たちのためにも。


――― 聖なる力を授けてくれた神がいるならば、どうか、この願いをお聞き届けください・・・


祈りと共に、光の糸はくるくると広がっていく。

幻想的な光景は、自分ひとりの力ではないことを、確かに感じさせてくれた。


きっと大丈夫。


そう、体の奥底で感じる。


そして、どんどんとその網は広がり、ようやく穴の全面を覆った時、自分の中の聖なる力が尽きた。


「あ・・・」


深い息を吸おうとした瞬間、眩暈で倒れそうになった。

さっと、レオが身を支えてくれたと思うと、そのまま抱き抱えてくれた。


「大丈夫か」


レオの深い青の瞳が、自分の顔を覗き込む。


「ええ・・・大丈夫。力を出し切ったから・・・ソフィスティアの時のように、倒れるまでではないから、体は平気よ」


そして、顔を上げる。

そこには暗い穴に賭けられた、光る線が輝いている。


「・・・できたわ・・・」


レオの視線は壁ではなく、ソフィアに向いている。


「ああ、さすがソフィだ・・・」


照れくささを隠すために、ソフィアはこほん、と咳払いをする。


「まだこれがうまくいくかはわからないけれど、まずは実験としては成功ね」


「うまくいくさ」


そういうと、レオは踵を返した。


「さあ、まずは戻ろう。ソフィの体が心配だ」


「ちょ、ちょっと、下して、レオ。大丈夫だから」


必死に抵抗するが、レオは下してくれようとはしない。


「いや、大丈夫ではない」


大丈夫、大丈夫ではない、そんな問答を繰り返しながら、レオは元来た道を足早に戻る。

目的が終わった以上、ここにソフィアを留めていたくはない、というレオの思いは、何となく察せられた。


じきにおろしてもらうことも諦めて、ソフィアはおとなしく、レオの腕に体を預けた。






「・・・ソフィア様・・・・・・!!!」


口々に叫ぶのを聞いて、ソフィアは目を覚ました。


思った以上に聖なる力を使ったことが体に堪えたようで、いつの間にかレオに抱きかかえられたまま、眠っていた。


「ソフィは無事だ。力を使って疲れただけだ」


頭上から、低く落ち着いたレオの声が聞こえる。


起きなければ、と思うのに、その声で安心しきって、再び目を瞑る。


ソフィスティアやエマの時の記憶が戻ったとはいえ、使い方を知っていることと、力を使うこととは別もののようだ。体が重くて、言うことを聞かない。


「ソフィ。起き上がらなくていい。このまま俺が連れていくから・・・」


そう耳元に囁く言葉を聴いた途端、まるで魔法にかかったかのように、再び眠りについた。



不安を消し飛ばしてくれるような温かさに包まれて、満ち足りた思いで。


きっと大丈夫。


そう思いながら。



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