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19.王家の秘密3


ソフィアが再びレオの方を見ると、ん?というように、人畜無害風な笑顔を返される。誰もがこの笑みにやられてしまうわけだから、実はどのような武器よりも凶悪といえば凶悪だ。


「レオの意図はともかく・・・そういう事情があって、冷・・・」


冷酷と言いかけてから、オリバーの真似だったと思い出して軌道修正する。


「・・・冷静な王太子を演じていたということね」


「どこまでをどう開示してよいのか判断がつきかねたから、やむを得ずそうしたが・・・しかし王太子の顔で接したのを後悔した」


「え?」


「ソフィは、3日目にはもう役目を辞そうとしていただろう?もう会えなくなったら、と焦った。調べ物を手伝ってほしいと思ったことは事実だ。だが、もう半分はソフィアに側にいてほしかったからだ」


レオは真っすぐソフィアの目を見て言う。

その瞳は綺麗すぎて、吸い込まれそうだ。ひたむきな視線なのに、どこか柔らかで優しい光も宿っており、すべてを包み込んでくれる心地がする。

この輝くような美貌の殿下にこんなことを言われたら、どんなに冷たい心の持ち主だって、溶解寸前だ。


ソフィアはため息をついた。


「あのう、さすがにこれだと皆さんが勘違いするのも仕方ありませんね・・・レオの言動は、ちょっと人の心を捉えすぎて・・・」


そこまで言ったところで、オリバーの妙に冷静沈着な声が横やりを入れた。


「いえ、このような態度とお言葉になるのはソフィア様にだけです」


「は?」


思わず聞き返すが、いやいや、勘違いをしてはいけないと己を戒める。


「あ、ああ・・・私が古くからの友人だから・・・」


だからこんなにもキラキラ友人モードなのねと納得する。


「それも違います」


オリバーは平然として、まるで今日の公務の予定を読み上げるかのような声のトーンで言う。


「いわゆる『溺愛』という症状かと」


――― は・・・いいいいい・・・・・・!?!?


「な、なにを、いって・・・で、で、でき・・・できあ・・・いって・・・」


しどろもどろになりながら、無理やり笑う。


「そ、そんなことあるわけないでしょう!それこそ、『麗しの殿下』のレオに失礼よ。幼馴染だから友人になってほしいと言われたんだから・・・」


――― オリバーの馬鹿!


思わず心の中で悪態をつく。

ありえないことを言われても、レオは困るし、ソフィアは何だか申し訳ない気持ちになるだけだ。


「もう、冗談好きな従者も困りものね・・・」


そもそもこの天然王太子に『溺愛』という意味がわかるかしらと思いながらも、レオに同意を求めようとした。


が。

オリバーのトンデモない一言に対して、レオは否定することもなく、微笑み、そのままそっと手を重ねてくる。


――― !?!?


ソフィアは完全に思考できない状態になり、目を見開くことしかできない。しかしそんなことはお構いなしに、レオは、その瞳にまるでソフィアしか映っていないような態度をとる。


「俺は嬉しいのだ、ソフィ」


「・・・う・・れしい・・・?」


そうだ、とレオは頷く。


「オリバーの進言は正しいことは俺自身、理解していた。なぜかはわからないが、私が人を惑わせているような態度をとっているのだろうと。俺はもしかすると、『魅惑』という人の気持ちを操る魔法を気づかずに使っているのかと恐れていた」


「・・・」


何が恐ろしいって、こんなにも人離れした魅力を持ちながら、それが原因だとは思っていないところだ。見目だけではなく、その優しさも、冷静さも、賢さも、それが合わさってのレオの引力だということを理解していない。


「しかし、ソフィは一貫して俺に対してつれない態度をする」


「へ?」


さっきから間抜けな返答ばかりしかできない。

つれない、って何がつれないというのか。

レオの言動にここまで動揺させられっぱなしだというのに、レオはどこに目をつけているのか。


「俺が一番魔法を使ってしまうであろう相手に変化がないということは、俺はそのような魔法を使っていないということだ」


――― 何、その反証の理屈は!!!


愕然としてレオを見る。何も言うべき言葉が見つからない。

レオのこの暴走は、どうしてしまったのだろうか。オリバーの冗談に悪乗りしているというのか、あるいは、あまりの孤独に錯乱してしまったというのか。


何と言ったらいいのかと言葉を探しているうちに、レオは先に進んでしまった。


「・・・ソフィ、近々、王宮で国王陛下の即位20年の祝賀行事が行われるのは知っているか?」


ずいぶん話が飛んだことに驚きつつつ、ソフィアは話が変わったことに少し安堵した。


「まあ、そうなのね」


もしかすると、ウィンデル侯爵夫人も、そのために王都に来たのかもしれない。


これ以上動揺したくないから、手をさりげなく重ねられたレオの手から引き抜く。


「陛下は華々しくすることは好まれないが、一通りの儀礼はなさる予定だ。当日は晩餐会も催される予定だから・・・」


そこまで言ってから、レオは言葉を切った。

どうしたのかとソフィアが首を傾げると、レオが意を決したように口を開いた。

そっと外したはずの手が、再びレオの大きい手に取られた。


「晩餐会に出席し・・・俺にエスコートさせてもらえないだろうか」


キラキラと目を輝かせて尋ねられているが、その言葉がおかしい。


――― ・・・え・・・・えええええ・・・!?


話が飛んだと思ったら、とんでもないほうに飛んでいた。


「い、今の主語は誰・・・?誰が誰と晩餐会に出席するって言ったの?」


「もちろん、君と俺、だ」


ソフィアは顔を真っ青にして言う。


「ちょっと・・・ちょっと待って。レオ、突然何を言っているの・・・大体、私、まだ社交界デビューもまだなのよ・・・?」


社交界デビューする際には、その年の王宮の春の恒例の晩餐会で国王と王妃に挨拶をすることが慣例となっている。もちろん、一人ずつ、一瞬前に進み出て淑女の礼をするだけのことだけれど、それを終えてからでないと、一人前のレディとして貴族の集まりや、ましてや王宮の晩餐会に参加することはない。


そんなことをレオは知らないはずないのに。

王太子の気軽さなのか、簡単なことのように言ってのける。


「その時に、陛下に挨拶をすればよい。俺からも言い添えておくから」


「そ、そういう問題ではないわ・・・!」


本当にこの王太子はずれている。理解していないのだろうか。


この麗しき氷の殿下は、普段は人が側に寄ろうとしても、王太子オーラで蹴散らすような人だ。そんな人が、キラキラ友人モードで女性をエスコートしたとあっては、どんなに人の興味を掻き立てるかは容易に想像できる。


――― まずいわ・・・


誤解されたり、噂話の渦中に放り込まれるのは御免だ。

社交界が華やかで楽しげなものだけではないことは、ソフィアだって知っている。


「駄目よ、レオ」


はっきり言わなくてはならないと、ソフィアは決意した。


「それでは私が・・・レオの特別な存在のように見えてしまうわ」


それはまずいでしょう、と言いかけた。


なのに。


「・・・君は特別なのだ」


空耳だろうか。


「特別なんだ、ソフィ」


青の瞳がソフィアを見つめる。世にも麗しい顔は、冗談を言っているようには見えない。


「今も、昔も・・・これからも」


とどめを刺され、ソフィアは声を失った。


―――  え、えええええ――――――っ!!!


特別とは何なのか。過去、現在、未来とはどういう意味なのか。


思い違いをしないようにと、思い留まろうとするソフィアの鉄の意志を崩壊させんとするのか、レオは重ねた手に力を込める。

一体これはどういうことか。


オリバーは何の疑問も挟もうとしないし、感激屋のアリアに至っては、「まああああああ!!!」と、うるうるの涙目で喜んでいる。


本読み役のはすが、何だかとんでもないことになってきたことを感じながら。


不覚にもソフィアは何も考えられなくなり、


「か、考えさせてください・・・」


と小さな声で答えたのだった。



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