お店の状況
下に降りると広いフロアにテーブルが並べられ、布で作った人形や木剣が並べられていた。
「ヴェルトさん武器屋の間違いですか?」
「オモチャ屋だよ、一応。それより会わせたい人がー……いたいた、ノワルこっち来てー」
「はいっ、今行きます」
来たのは金髪で背が高く、ワイシャツの上にオレンジの半袖ジャケットを身に付けた女性がはたきを持ってやって来た。
「こちら例の月見里さん」
「月見里竜です」
「ノワル・セン・エイレスと申します!うちみたいな店に来ていただきありがとうございます!」
ノワルはなぜか涙を浮かべていた。
何事かとヴェルトを見るとそっと視線を外された。
竜はお店を見回してラインナップについて聞いてみた。
「売れてる物って何ですか?」
「そうですね……木剣何かよく売れますよ!」
「そうですか……」
「はいっ!うちは堅くて折れにくい木を使ってまして、器用に加工する職人も居るんですよ!」
ノワルは満面の笑みを浮かべながら店の自慢をした。
「へぇー、木刀って子供によく売れるものなんですね」
思った事を聞いてみると、それまでニコニコしていたノワルの笑顔が固まった。
「ノワルさん?」
「……えっと、たまにお金のない見習いの冒険者さんとか、子供のお土産何かに買われていきます」
ノワルの声のトーンが下がっていった。
「あっ、でも木刀ってお土産の定番ですよね!」
「そうなんですか?」
「はいっ、自分もついつい買っちゃいますよ」
ノワルが泣きそうになってきたので話題を変えることにした。
「それにしても色んな種類の剣があるんですね!」
「冒険者を目指す子供たちはいっぱいいますからたくさん用意してるんですよ」
竜の頭に嫌な予感が走った。
「他にオモチャって何があるんですか?」
「私が作った人形です……どうですか、かわいくできたんですよ」
「確かに可愛いですね……」
たくさんの種類の剣、申し訳程度に並べられる手作り人形に、ますます竜は不安になった。
「お客さんって来るんですか?」
「…………」
「来ないんですか?」
ノワルは更に涙を浮かべた。
「あんまり売れてないんですね……」
「実はそうなんだよ。というかかなりピンチなんだ」
ヴェルトは両手をモジモジしながらはにかんだ。
「ピンチってどれくらいですか?」
「えーっと、店が潰れちゃうくらい」
店の状況を知らされた竜は、思考が追い付かなくフリーズしてしまった。
「大丈夫かい」
ヴェルトに尻尾で顔を叩かれて竜は正気を取り戻した。
「どういうことですか?!異世界来たと思ったら就職で、その店が閉店のピンチってどういうことですか」
「だからキミにお店を助けて欲しいんだよ!」
あり得ない状況と、まさかの頼み事に更に分からなくなった。
「俺に店を建て直すなんて出来ないですし、そんな力ないですよ」
「キミにしか頼めないんだよ、頼むよ」
「無理ですって」
「ほらっノワルも頼んで頼んで」
黙って観ていたノワルはヴェルトに言われると竜の両手を掴んでお願いした。
「月見里さん、どうか助けてください。お願いします」
「そんなこと言われても力がないですよ……」
ノワルの頼みに困っていると、耳元でヴェルトが呟いてきた。
「そんなに無理だって言うなら諦めるけど、キミが壊したさっきのゴーレム弁償してくれるかい? あのゴーレムって高かったんだよねー」
ヴェルトの囁きに竜はビクリとした。
「あれって俺が悪いの?」
「だってキミが触ったじゃないか!」
ヴェルトはニヤリと笑うと話を続けた。
「弁償出来ないってゆうなら、キミを警備兵に引き渡すしかないよ、残念だけど……」
「どうなるの……」
ヴェルトはちらっと見ると大きくため息をついた。
「少なくとも拷問かもねぇ。 だってこの国のことよく知らないだろうしさ」
ヴェルトは可哀想な目で見ると、またそっぽを向いた。
竜は最悪の妄想をしながらただただ怯えるしかなかった。