武器の新調
魔石を回収すると、クエスト完了の3体まで狩りを続けた。
戦い方は目くらましをしての一撃だったが、そのおかげでレベルが4に上昇していた。
先日、スキルポイントを払って手に入れた成長速度倍加の効果も大きいのだと思う。
3体目を倒し終えたところでタイミングよくピキっと言う音をたててダガーナイフが折れてしまった。
「こいつも結構、使ってたもんな、折れるのも仕方ないか・・・・・・」
琥珀はどこか寂しそうだった。
だが、そこまで使った自分が誇らしくもあった。
その後、背負っているリュックから予備のダガーナイフを取り出す。
メインとして使っていた物に比べれば、性能は劣るが、こちらもダンジョン産のため、そんじょそこらのナイフには劣らない。
「メインのナイフも壊れたことだし武器屋に新調しにいくとするかぁ……」
琥珀はそういうやいなや、サブのナイフを前方へ構えつつ一階層まで戻り、ダンジョンを後にした。
そしてギルドに行き、クエスト完了の報告。
続いてギルドに隣接されている武具屋に向かう。
因みに、ドアは自動ドアではない。手動式だ。
ダンジョンが出現してからというもの、極力、一般市民に対してお金を使わなくなっていった。
出現当時は、魔物がダンジョンに溜まりに溜まって、ダンジョン外に溢れ出す、魔物災害が頻繁に起こった。
それを、危惧した政府はそちらの対策にお金をかけるようになっていった。
一般市民からすれば良いこともあった半面、不便なことも増えてきた。
琥珀はめんどくさがりながら手動でドアを開け、中に入る。
ここは武具屋なので今日は武器の購入のついでに防具のメンテナンスもしようと思う。
「あ、琥珀いらっしゃい、今日はどうしたの?」
店のドアを開けると明るい声が聞こえた。
この赤髪の巨乳な女性は坂下真希と言う人物だ。
琥珀の高校時代の先輩で、家が鍛冶屋をしていたため、ダンジョン出現以降は武器の加工や防具の修復をするようになった。
明るい性格もあって、冒険者の人々からは人気がある。
それに求婚されることもしばしばあるのだとか。
そんなことを真希を見ながら思った琥珀だったが今日の本題を切り出すことにした。
「今まで、使っていたダガーナイフが壊れてな、新調しに来たんだ、そのついでに肩の部分の防具も傷が入ったからメンテナンスにきたってわけだ」
因みにだが、琥珀の防具の見た目は唯の私服だ。
繊維に6階層の植物系の魔物であるエレマトンの素材を使っている。
そのため、浅層の魔物ではなかなか傷が付きにくい。
そのため、メンテナンスをするのも実に半年ぶりくらいだ。
「ふ〜ん、肩の部分は分かったけど、タガーナイフの方はどんな風に壊れたの? 実物はある?」
真希が実物を見たいようだったので、バックから折れたダガーナイフを取り出しテーブルの上に置く。
折れた部分もきちんと忘れず持って帰っておいたのだ。
それを、手に持ち真希は数秒眺めていた。
「これは、寿命で壊れたようね。もっとも、手入れをもうちょっと怠らなかったら長持ちしたかもしれないけどね」
悪戯な笑みで真希は琥珀の悪態をつく。
事実、琥珀はそこまで手入れをしていなかったのだ。
それを一瞬にして見抜けるとは流石、職人といった所である。
手入れに関してはこれからきちんと行わなければならないと思う。
「それで、何かいい武器はあるのか? できれば今と同じでダガーナイフがいいんだが」
「あるにはあるけど、ダガーナイフって、琥珀ねぇ、あんた死にたいの? あんなリーチが短い武器の何処がいいのよ、物好きにも程があるでしょ」
真希の言うことは正論だ。
ダガーナイフは一般的にマイナー武器だ。
ゲームの世界ならまだしも、現実でのダガーナイフは命を脅かす危険がある。
「そう言われてもなぁ、前に太刀とか大剣とか人気武器を使ってみたことがあるが、どれも、なんていうか、こう、しっくりこなかったんだよ、その点に関して言えば、ダガーナイフは小回りも利くし、手数で勝負したい俺にはピッタリだからな」
「はぁ〜、まったく、今から用意してくるからそこで待ってなさい」
呆れたように言う真希はそう言いながらテーブルの横の椅子を指さし、「座って待っててね」と言った。
言われた通り、座りながら店内を見渡し、数分待っていると、店の奥に行っていた真希が帰ってきた。
用意してきてくれたであろうダガーナイフは布で巻かれ、中が見えないようになっていた。
こう言う風に、見えないようになっていると何か凄そうな物のがあるように感じるのはラノベ好きだった所以だろう。
「これが、貴方がこれから愛用する、ダガーナイフよ」
真希は満面の笑みで、布を外す。
琥珀も期待を絶頂にしながらナイフを見る。
ダガーナイフは全体が黒のデザインで赤で模様が書かれていた。
「――――――おぉーーー!!!! これが――――俺がこれから使うダガーナイフか!!!! めっちゃかっこいいな!!」
「そんなに喜んでもらえてよかったわ、性能も折り紙付きよ、15階に生息しているクイックラビットの牙を使ったものだから」
15階という単語が聞こえたあたりから、若干、琥珀は困惑していた。
「本当に俺なんかが、こんな代物を使っていいのか?」
15階と言うと、中級者枠の冒険者が行く階層だ。
現時点で、2階層の琥珀には宝の持ち腐れと言っても過言ではなかった。
しかし、そんな琥珀をよそに、真希は一蹴りした。
「それに、見合う冒険者になりなさいって意味もこもってるからね、頑張りなさいよ」
そりゃそうか。
真希自身もまだ琥珀がこのナイフに見合う冒険者だとは思っていないのだろう。琥珀は少しでもそう考えた自分を反省した。
その後、防具のメンテナンスもしてもらった。
「あ、因みに代金は10万円だから、はいこれ請求書ね。いつも通り、この店の口座に振り込んでおいてね」
現金が渡せない冒険者はこのように、請求書を渡される。
期限は1週間でそれを過ぎていけば利子がついてくる。
「あぁ、分かってるよ、今日はありがとな」
「えぇ、こっちも売れ残りが売れて助かったわ」
その言葉に琥珀は頭上に疑問符を浮かべる。
売れ残りを琥珀は売られたのだ。
「マジで?」
「マジです。まあ、でも、ただマイナー武器だから売れなかっただけで性能は確かなんだから気にしないでね」
そう、言われた琥珀はまあ、性能が確かならいいかと自己完結した。
その後、忘れないようにと10万円を銀行に振り込みにいったのだった。
初心者枠の冒険者としては痛い出費である。