第三話 悲しみと復讐
時刻は立ち、俺は自室で寝ていると、扉からノック音が響いた。そして古ぼけた本とランプを持ったレイリンが部屋に入ってきた。
「夜分遅くすまないね」
「いや別にいいさ。何の用だ」
「連の力について古書をあさって調べていたんだけど、面白いことが乗っていてね」
そう言って古書のあるページを開いた。そこには、代行者と書かれた女のシルエットが描かれていた。俺はレイリンが見せたページの意味が分からず彼女に尋ねる。
「これはいったい」
「これは代行者とよばれて、ある日突然あるものに強大な力を授ける存在なんだ。 それが異世界の人間だとしても」
「なに!? そんな奴がいるのか」
「まあ伝説の存在だけどね。でも連の境遇に似た部分があるでしょ。突然力を授けられたところか」
「たしかに、しかし何のために、力を授けるんだ」
「それはこの世界の均衡を守るためだといわれているよ」
「世界の均衡」
「そう、世界の均衡、何のためにかわからないけどね」
そんな彼女の言葉を聞いて、ため息をつき、彼女に気になっていたことを尋ねた
「……なあ少しレイリンに聞きたいことがある」
「なに」
彼女は、少し驚いた顔で、反応した。
「なぜ俺にここまでしてくれる。普通のものなら、俺なんかほっておくだろう」
その言葉に彼女は、しばし沈黙して、俺について語りだした。
「それは君の力が欲しいからだよ」
「欲しい?いったい何のために」
「それはね。復讐のため」」
『復讐』俺がもと現代社会ではあまり聞かない言葉で聞いた瞬間、自分の思考が一瞬止まった。彼女は静かに語る。
「私ね、親をギガイに殺されているんだ。」
「え」
「親と一緒に登山をしているときに襲われてね、私の親は私を逃がすため、岩肌にあった洞窟の中に隠してくれたんだ。」
「でも私の父は洞窟へ入らず別の道を選んだ。私からギガイを離すため。そして父はギガイに捕まり、に足から喰われてしまった。大きな悲鳴と血が舞ったよ。でもおやは私を助けるため洞窟のほうへはよらなかった。
私のことを助けてくれたんだ」
「そんなことが」
現代では考えられない話が俺の胸に刺さる。
「私ねその時まで、父親のことはあまり好きじゃなかったんだ。いつも誰かに頭を下げて弱い人間だった」
レイリンの声色はわずかに震えている。それは怒りと悲しみで混じったものだった。
「……」
「でも私を助けてくれた。命を懸けて。それを理解した瞬間。過去の私の蔑みが罪悪に変わった。そして私は父を殺された恨みを晴らすべく、どんな手を使ってもギガイを殺すと決めたんだ」
「それが理由」
「ええ」
言葉が出ない。生きていた環境がちがう。改めてここが異世界だと理解してしまった。
「だから、あなたがギガイを殺す力を持っているのなら、あなたのことを助けようと思ったのよ」
「そうだったのか」
「ごめんなさいね。利己主義で」
少女は申し訳なさそうな顔で発した。その言葉に俺は別に気にしていなかった。見知らぬ人間を無条件で保護するなんて、何か考えがあるのだろう。
「いや、いいんだ すまないな話してくれて」
もし俺が彼女の立場だったら復讐なんて思いついただろうか。おれは泣きわめいていただけじゃないのか。そう思うと彼女の怒りと悲しみが俺の心の中を満たした。
「俺手伝うよ、レイリンのために、自分のために」
レイリンの話を聞いて、改めて、そう誓った。それを聞いたレイリンは微笑み、
「そう言ってくれてありがとう。私、いい子ぶって貴方をだましているようで気が悪かったの」
「そうかい」
「さて言いたいことは言ったし、今日はもう寝ましょうね。て、私が起こしたんだったねごめんね」
「いいさ、お休み」
「お休み」
俺は一人になり彼女のことを改めて考えた。彼女の人生なんと激しい物なんだろうと思う。ギガイを殺すたび彼女は救われるのだろうか。
本当にそうなのかわからない。
「考えすぎだな寝よう」
そういって、現状の言いえぬ胸の内を秘めて、布団をかぶった。