夜番
星が空を覆って、冷たい風が焚き火の炎を揺らめかせる。
焚き火に暖められた空気がそっと俺の頬を撫でて、日記をつける手元に、一緒に旅をしている黒犬のタロウが擦り寄ってきた。
西暦が終わって100年。
最後の戦争──後に『共喰い』と呼ばれるようになった世界大戦──で人類の約9割が死滅したこの世界は、そんなことはどうでもいいとばかりに、今日も太陽の周りを回っている。
俺はそんな世界に生き残った数少ない人類の一人だ。
いや、生き残ったというより、生き残りの二世代目と言うべきか。
俺は戦争を経験してはいない。
経験したのは俺の親父の代までだ。
あの戦争で全てがなくなった、というのは、俺の爺さんの言葉だ。
戦争のきっかけは食料問題だった。
医学の発達と共に増え続ける人口に、それを養うだけの食料を生産することができなくなった国々は、広い土地を求め、また食い扶持を減らす為に戦争した。
人間同士が互いに喰らいあう。
だから『共喰い』。
その戦争は爺さんの言う通り、土地も食料も、全てが強国に占領されていった。
第二次世界大戦から実質衰退していっていた日本がそんな列強国に勝てるはずもなく、中露連邦に国ごと囲い込まれてあえなく敗戦した。
その頃爺さんらは曽祖父の予想で日本が負けるという事が分かっていたのか、爺さんらはその母兄弟を連れて国外に亡命した。
しかしそれもうまくいくはずもなく、途中で兄弟とは逸れ、母は戦争に巻き込まれて殺されと、爺さんは戦争で家族を失い、母国とも引き離された。
……まぁ、そんなこと言われたって、俺にはどうもしようのないことだが。
終わってしまったこと──本当に、人類が全滅してそんなこと覚えていたって仕方ないくらい、終わってしまったことなんだから、今はもう、生きる為に点々と各地を回りながら、どこかにあると言う楽園の国を目指して旅をするしかない。
なぜなら大半の文明は滅んでしまったのだから。
「ん、んぅ……」
焚き火の爆ぜる音に混じって、一緒に旅をしている女の子の小さな寝言が響いてくる。
長い銀の髪──正確には白なのだが、焚き火の炎に照らされると銀色に見える──を携えた、中学生くらいの女の子。
身長は140センチくらいで、目は濃いアメジストの石絵の具ように、紫が勝った黒い色をしている。
白変種、と呼ばれる人種だ。
ホワイトタイガーなどのように、突然変異で髪などが白く変色した種が、一つの種として固定されると、白変種と呼ばれるものが生まれる。
一種のアルビノかと思いきやそうではなく、彼らはメラニン色素の欠乏によって髪の色が白くなったり、目の色素が薄れて青や赤になるらしいのだが、白変種はメラニン色素の欠乏によるものでは無い為、基本的に体毛以外は普通に黒い色をしている。
例えば、目とか肌とか。
彼女は元々の血筋が白人なので肌は白いのだが。
背が低いのは、彼女の話によると日本人の血が入っているからなのだとか。
「ふぁ〜あ……。
俺もそろそろ寝るかな」
俺は焚き火に薪を追加すると、包まっていた毛布を被り直して、寝息をたて始めるのだった。