魔王と授業
「サササくん。 いきなり知らないお友達ばかりで大変かもしれない。 だからと言って泣かせてしまうのは先生は違うと思うよ。 一緒に謝りに行こう」
さあ! と言わんばかりに伸ばされてた手を俺は掴む以外の選択肢がなかった。くそう。今の俺はあまりに無力だ。
「ごめん、やり過ぎたよ」
「いいよ、俺もごめん」
意外な反応に少しだけウルっときてしまった。そして互いに握手をして抱き締めた。熱い抱擁とはまさにこの事か。俺の中にある汚い大人の血が浄化されたかのようだ。
和解を終え、昼休みも終わり、先生が授業を黙々と進め始めた。今は歴史の授業のようで周りを見渡す限りみんな眠そうだ。これは人間界でも同じか。
「人間たちは自分とは違う見た目というだけで我々を迫害し始めたのです。 しかし我々も元は人間。 彼らの主張は受け入れることは出来なかったのです。」
んん?魔族が元人間なんて話は聞いたことがないぞ?俺が今まで生きてきた中でそんな事実は聞いたことがない。
「そもそも暗黒魔法により合成をさせられた人間たちは特殊な力を持つことが出来たわけですが、その力は人間の力を大きく越えてしまっていたため、人々は恐れ、非難し、そして排除したのです」
「アダムとイブ。 これは人間の始まりと言われていますが、我々は…」
(キーンコーンカーンコーン)
鳴り響いたチャイム。そして先生は話の途中にも関わらず、すぐに話をやめた。良い先生か!
「じゃあ次は体育だからなー、着替えた校庭に集合だ。 あ、男子は別の部屋で着替えること!」
「はーい」
そう答えると男子は一斉に着替えをもって移動を始めた。俺は突然歴史の授業からの移動を告げられたことにより、どこに向かえばいいか分からずにキョロキョロしてしまっていた。
「転校生くん、どーしたのー?」
背が低く黒髪ロングヘアーで少しだけ小麦色に焼けた肌の女の子が話しかけてくれた。
「あー、いやー、移動先がわからなくってさ」
あ、なるほど!という表情をして彼女はすぐに案内をしてくれた。
「こっちだよー、案内するねっ」
教室を出て1つ下の階へ連れていってもらった。その間に彼女は少しだけ教えてくれた。名前はスー・ギダニ・リー・カオというようで、みんなからはカオと呼ばれてるそうだ。
この学校では力が全てで一年生の頃からランク付けされているらしい。転校生くんはまだ魔力を制御が出来てないから練習あるのみだねっと明るく厳しいご声援を頂いた。
俺が男子の着替え教室へ着いた時にちょうどクラスメイトが教室から出るところだったようで、中に入るとすでに誰もいなかった。
「んー、みんないっちゃったね。 もー、誰か待っててくれてもいいのにね。 じゃあ私も着替えに戻るね。 校庭の場所はわかるかな?」
「いろいろありがとう。 実は校庭の場所も知らないんだ」
「そっかー。 じゃあ着替えたらここに来るから待っててね!」
そういうと彼女は走って教室へ戻っていったようだ。カオ、気が利く良い子じゃないか。ただ、魔族なんだよな。信じられない。
俺の知っている魔族は街や村を襲い、食糧の強奪、破壊、そして躊躇なく人を死に追いやる。そんな危険な奴らだと思っていたので、正直頭がまだついて行けてない。
そんな事を着替えながら考えていると、教室のドアをノックする音が聞こえた。カオが戻ってきたのだろ。俺は急いで身支度をして廊下へ向かった。
先ほどに続き校庭までの道のりもカオは話をしてくれた。
「実はこの辺少しだけ物騒になってきたんだ。」
「物騒?」
「魔界の奥地に住んでいたドラゴンがね、この辺で見かけたみたいなんだって。 怖いね。」
人間界ではドラゴンと言えばほぼ生ける伝説のような存在だ。知能は高く、鋼より硬い鱗。そして灼熱のブレス。特定のダメージ境界を越えないとダメージすら与えられないと言われていた。
「ドラゴンなんているんだな。」
「ただのドラゴンなら私も修行で倒した事あるんだけど、噂だと尻尾が炎のように赤いドラゴンらしいんだ。 通常のドラゴンより何倍も強いってシショーが言ってたんだ。」
「まじか、なんでこの辺にいるんだろう」
「ねー。 えっ、きゃあ」
カオは急に揺れる大地と、外から聞こえる叫び声にビックリしたようだ。それもそのはずだ。俺は急に揺れた身体を支えることが出来ずに尻餅をついてしまった。
「んっ、大丈夫だった?」
カオは優しい笑顔でこちらに手を伸ばしてくれた。俺は照れながらも彼女の手に捕まり起き上がった。
「何があったんだろう?」
(きゃーーー)
遠くの方から叫び声が聞こえてきた。それも一人だけではなく複数の声だった。一体何が起きているんだ?
「校庭の方から聞こえてくるみたい。 急がないと…!」
「えっ?」
てっきり叫び声とは逆の方に逃げようとするのかと思ったら、まさかそちらに向かっていくとは!
俺はカオに手を引かれながら校庭までの道をひたすら走った。そして時すでにおすしであることに気がついた。
生徒たちは火だるまになり身体を左右に捻りながら悶え苦しんでいる。そしてその景色を見下ろすかのように黒いドラゴンが空中をホバリングしている。
「うそ、ほんとに現れるなんて…」
「まさかあれがさっき言っていた…?」
「危ない!」
俺は咄嗟にフジアヤの右肩を両手で突き飛ばす事によってレッドテイルドラゴンの火炎から守ったのだ。
「いったぁ」
カオは顔面から地面に激突してしまい額から血が出ていた。苦痛の表情をみせていたが、
「ありがとっ」
痛みに耐えながらも笑顔でこちらに微笑みをかけてくれたのだ。その表情といえば大人になったら魔性の女と言われるに間違いない。
俺は彼女の微笑みを力にありったけの魔力を右手に集中させる事にした。
(この右手が壊れたっていい。 彼女を救えるのであれば…)
「うぉーーー! 全魔力解放!」
そう叫ぶや否や右手には漆黒の闇が渦巻き始めた。そして何もかもを吸い込むよう圧力を感じた。というか実際周りの空気が歪んでいるようだった。
力を溜め終わった俺はレッドテイルドラゴンの方を睨むように見上げたが、ジリジリと後退していっているようだ。
「ぐ、ぐぎゃああぁ!!」
ドラゴンは一般的にプライドが高いと言われている。実際魔族の学校を襲撃するなんて簡単な事ではないはずだ。それを一体で襲撃してきたという事は力に自信があるのだろう。
そんなドラゴンが一歩でも後退するような事があればそれはプライドが傷つく要因として十分だろう。意を決したドラゴンは体を持ち上げ、翼を広げた。その姿はまさに巨大なモンスターそのもので数十mの大きさにもなっているように見えた。ただでさえ小さくなった俺は見上げる形になってしまう。圧倒的な力の差を見せつけるかのようだ。
「大丈夫よ、今のあなたの魔力ならレッドテイルドラゴンの硬い鱗も突き破れるはずだわ」
まさに縮こまってしまいそうな瞬間に声をかけてもらったことで冷静さを取り戻すことが出来た。
黒いオーラを纏った手を眺めてから大きく息を吸い込むと覚悟を決める。そして、再び拳を構えると、その切っ先をレッドテイルドラゴンに向けて睨みつける。その視線を受けたレッドテイルドラゴンは一瞬怯んだような素振りを見せるが、すぐに態勢を整えるように雄たけびを上げながら飛びかかってきた。
迫りくる巨体を前にしても一切動じることなく待ち構えると、突き出した拳から放たれた黒いオーラによってレッドテイルドラゴンの身体が大きく吹き飛ばされていく。
その威力は凄まじく、勢いよく地面に叩きつけられたレッドテイルドラゴンはそのままピクリとも動かないままでいる。
そんな光景を目の当たりにして俺自身も何が起こったのか分からず呆然と立ち尽くしていると、隣ではフジアヤが満足そうに微笑んでいた。
「ふふ、かっこよかったね」
「ん、あぁ、ありがとう」
「改めまして、私はカオ。 四天王クレナイの一番弟子なんだ。 今日からよろしくね。 サササ。」
私の魔界での初めての友達が出来たのだった。