魔王の絶対的な力
目が覚めると周りにいた何人かが叫んでいる声が聞こえた。頭がぼーっとし、言葉に集中出来ない。
俺は一体どうなったんだっけな。うっ、考えると頭に痛みが走る。そんな事を何度か頭の中で繰り返していると周りの声をいつしか聞き取れるようになってきた。
「やったぞ、魔王様が目を覚ましたぞ! ほらほら! 一瞬体が動いた!!」
「まじかよ! これであいつらに引導を渡すことが出来る! マントの男に感謝しかない!」
聞き覚えのない声だ。何人かが会話しているのがわかるが、意味が良くわからなかった。魔王?魔王が復活してしまったのか?というか、ここどこ?
まだ収まらない頭の痛みを堪えながら、上半身を起こすことにした。それまでガヤガヤしていた話し声は聞こえなくなり、静けさが逆に耳障りだった。
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数時間前
急な雨は身体にしみる。少しやりすぎてしてまった後悔と自責の念があるからなのか。勇者はゴミクズに対しても情を持つことが出来た。
「あなたは間違ってなかったわ。彼がカナに対してもやったことは許される事ではないわ」
ミカは勇者タツオを心から心配しているように見えた。強姦男とはいえ、一緒に旅をしてきた仲間。それは間違いのない事実だったからこそ苦悩する、友情は時として心を蝕んでしまったところだった。
「そうだな、そうだよな!」
タツオがすこしだけ持っていた自責の念は、愛するミカの言葉で吹き飛んでしまったようだ。晴れ晴れとした笑顔を見せるタツオは皆の憧れである有者そのものだった。
一人だけ欠けてパーティー。それを気にするものはもはや一人として残っていない。そんな新たな物語が始まりそうな空気を持っていた。
彼らは暗黒強姦魔を置いて帰路する途中、爆音とともに闇夜を明るく照らす、黒く輝く闇が降り注いでいるのを見つけた。
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薄暗い部屋の中にいるようだ。そしてこの静けさ。そーっと目だけを左右に動かし、状況を確認してみたがよくわからない。
聞いてしまったほうが早い気がする。というか考えたくとも頭が痛くて考えがまとまらない。
「ここはどこだ?」
精一杯頑張って発した言葉は低く唸ったような音で部屋中に鳴り響いた。静かなこの場所では木霊のように反響しているように思えたが、耳がおかしいだけだったのかもしれない。
しかし奇妙だ。俺は暗黒騎士として勇者と魔王復活を阻止すべく、シンユゥーを追っていたはずだ。シンユゥーは体術はもちろん魔術にも秀でた奴だった。
常に頭まで覆いかぶさったフードを被り、まるで盗賊のような身のこなしで魔王の封印されし術式のある場所へ侵入をしていた。
そう、最後の闘いでは俺はやつに敵わなかった。死を覚悟していたが生き延びた。それは魔王が復活するという事実を国へ持って帰らせるために殺さなかったのだろう。
まてよ?そうすると俺はなんで死んだのだ?
考えてもなにも思い出せない。俺は考えることをやめて周囲を見渡すことにした。
ここは狭い部屋のようだ。直感的にそう感じた。またポロポロと何かが落ちる音が聞こえた。まるで土が声の衝撃で崩れ、床に落ちているかのような感じだ。
どれくらいだろう。言葉を発してから十秒、いや一分か、時間の感覚がわからない。しかし返事がないことだけは確かだ。ただなんだろう。静けさの中にいながらも張り詰めた緊張感のある空気を感じた。
頭も痛いし、目はまだ見えない。段々イライラがピークになってくるのを感じた。なんなんだよ一体!そのフラストレーションを気づけば声に出していた。
「ここはどこだと聞いている!」
今度は目一杯声出して叫んでみた。その音は反響すると同時に近くに居たものに何か影響を与えたようだ。倒れる音やギャーという声が響いていた。
「申し訳ありません、魔王様。 こ、ここは魔王城コーンクリートです。 お忘れになってしまったのでしょうか…」
年老いた老人のような男がそう告げた。体は痩せ、背中は曲がっているが何か強い力のようなものを感じた。
しかし、コーンクリートだと?知っている限りそれは魔王の本拠地ではないか!これはまずいと思い、身構えてしまった。しかし何だかいつも以上に体が軽く、魔力がみなぎってくるのを感じていた。
私は立ち上がり、臨戦態勢と取った瞬間のことだった。
「申し訳ございません!」
周りの人は口々に謝罪の言葉を発していた。それもかなり畏怖をおぼえたような言い方であった。わかればいいんだよ。
当たりを見回すと狭い部屋だと思っていたが、実は幅は狭いが奥に長い道が続いているようだった。
「魔族共よ、どこに隠れている。 姿を見せよ!」
発し終わると同時に全身の魔力を解放し暗黒魔法による魔瘴気を放ち魔族達の行動を阻害した。
しかし、思っていた以上の魔瘴気の濃さが辺り一面を包み込み、ただでさえ暗い部屋は暗闇に落ちていった。
「魔王様申し訳ありません!」
大きな声で謝罪をする声が聞こえた。やはり魔王が近くにいるというのか。今度は暗黒刀剣を作ろうとしたが、どうにも加減が出来ない。完成した魔剣は仰々しい魔力を放ち、漆黒の剣が出来上がっていた。
剣は黒い稲妻のようなものを発していて、何かを吸い取っているような気もした。試しに一振りしてみると、先ほど放った魔瘴気は綺麗に二つに割れ長い廊下のような直線通路が見えた。
そしてしばらくすると奥から誰かが走ってきて声を張り上げた。
「ほ、報告します、先ほどの衝撃で入り口は半壊してしまいました。そして我が義勇軍の多くは負傷し、緊急治療を行っています…!」
「なんということでしょう、さすがは魔王様。」
ん、今やったの俺でしょ?魔王っていうなんだよ失礼だな。
「俺を魔王といった奴は誰だ?」
「ハッ、第一特攻隊長のトコトコとなります! この度はトコトコの名前を知っていただきまことにありがとうございます!」
「二度と口にするな」
可能な限りの怒りを込めて言い放つとトコトコは泡を吹いて倒れてしまった。が、誰も助けようとしない。
「いや、誰か助けてやれよ」
そうつぶやくと周りの者たちはびっくりした顔をした。しかし、こちらの怒りが通じたのかトコトコを医務室へ運んでいった。
しかしおかしい。俺は一体なぜここに?確か、タツオに消えろと言われて… そう言えば魔族転生をしたような気がする。
そもそも魔族転生は禁忌とされているためあまり細かい事は知らないが、名前からして魔族に転生しちゃってる感じはある。もしかして、もしかしてだけど、俺魔族になっちゃったの?
目覚めて何もわからない俺に手を差し伸べて色々教えてくれたのはシツジージという老人だった。