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鬱ゲーにありがちな10くらいのあれこれ

1・主人公の故郷が敵の襲撃により壊滅 (通称 村焼き)

2・主人公や仲間が冤罪による投獄を受ける(あるいは投獄されていた)

3・人が発狂していく過程をじっくりと見せつけられる

4・自分の思考及び行動が、他人により操作された結果だったという恐怖を与えられる

5・主人公、あるいは仲間が闇落ちする

6・異形化した元人間と戦わされる

7・人としての思考ができない規格外の能力持ちによる大量虐殺

8・街や組織が丸々一つ生贄にされる

9・ラスボスを倒しても世界は救われない

10・最初からラスボスを倒すことが不可能な設定で主人公すら死亡し次回作へ続く


……他にも色々ある気がするけど、これ以上は考えたくない。

 キラナヴェーダというゲームは、一応、ラスボスや隠しボスさえ倒してしまえばそれで終わりだった。私が死んだ後に続編が出た可能性もあるけど、製作者のインタビューでは二作で完結とのこと。

 道中でどれだけ死人を出しても、主人公とヒロインは無事だった。

 だから現状、心配すべきは。

 様子を探っているこの街を含め、これから行くジャータカ王国内の街や寺院の一般庶民が全滅している可能性。



 黒い巨大なハエ取り草は、人間を食べることだけはしないらしい。今、街の中で小悪党達を追い回しているのは、向こうが自分に怯えているのを面白がっているだけ。いじめっ子資質も抱えている辺り、有害認定も止む無しである。

 そんな知的生物に抵抗もせず、小悪党達は街の北へと向かって逃げていく。

 上空から鳥型の使い魔で追うと、北には大きな建造物が並んでいるのが目立つ。そこに彼らの奥の手があるのかもしれない。

 私と同じく街中の監視を任されている魔術師が叫ぶ。

「どれだけ民家の中を探っても、人の姿が見つかりません!」

 その報告に、シデリテスが溜息をつく。

「おそらく、この国を牛耳る側は、今この街にいる者たちこそ正当な住人であり非力な庶民だと言い張るつもりなのだろう。どう見ても無法者集団だが。我々が無力な街に攻め込んだのだと」

「では、本来の住人たちは……」

「他の土地へ連行された、だけなら良いのだが」

 どうやらシデリテスも敵側に倫理観を期待していないようだ。

 街にいるあの小悪党達からすれば、魔獣に襲撃されているというのが現状の認識であって、隣国の人間が侵攻してきたとは思っていないはず。このまま勘違いさせる方向で話が進み、巨大ハエ取り草はぐねぐねした路地を駆け抜けていく。


 王宮のお膝元にある街なら首都らしく整った環境であるべきなのに、そんな発展ぶりはまるで感じられない。土地だけは広いのに、傾いたり朽ちたりした民家が煩雑に並んで、修繕や整備なんて発想がないかのよう。公共施設らしい建築物も商店街らしい通りもなく、モニュメントどころか街を区切る空間すら見当たらない。 

 芸術が未発達なアストロジア王国でも、ここまで衰退した“都市”はなかった。どれだけ飾り気がなくとも区間整理だけは行っているし、市民の憩い場は用意してある。

 高台になった街の北部は富裕層が暮らす地区のようで、大きい建物がある。でも、それも芸術性がそぎ落とされた、ただの石塊のよう。

 シデリテスが憂うように述べる。

「ジャータカ王の在位を祝った催事の折は、こうも廃れてはいなかったのだが。王宮に近いからこそ、優先的に搾取されてきたのだろうか」

 そんな街で、根っこのような足をわさわさ動かして走るハエ取り草は、逃げる人間に追いつけず、休憩するかのように速度を落とす。そして、街の真ん中辺りで立ち止まり、根元から伸びた大量の二枚葉を勢いよく開いた。いくつものトゲトゲした葉が、何かを吸い込むように揺れる。それから葉を閉じ、更にその姿を大きくした。土地の穢れを糧に成長したようだ。

 そこまで見届け、舞燈の王が一言漏らす。

「あら、あの子にも気付かれちゃったか」

「あの街には何があるのですか?」

 シデリテスの問いに、舞燈の王が曖昧に答える。

「北の国から、嫌なモノが運び込まれているの。だから、嫌われ者同士で潰しあってもらえばちょうどいいでしょう?」

 ……街の北に魔物が隠れていて、これから中ボス戦が展開される?

 なら、北へ逃げている小悪党達は、それに助けを求めに行っているのか。

 あのハエ取り草が穢れを吸って成長したのは、その魔物への対抗意識だったらしい。

 警鐘に反応し、街北部の建物からもゴロツキ達が飛び出してきた。本当に、善良な市民らしい人間がいない。そして、そのゴロツキ達の後から、見覚えのある“嫌なモノ”が姿を現す。

 四つん這いでのっそりと陽の下へ出たそれは、泥のように灰色に濁った合成生物。長い胴体の真ん中に丸い頭がめり込んでいて、長い耳と小さな口が付いている。キメラらしいキメラを作ろうとした過程の失敗作だけど、敵地に捨てておけば足止めになる、という雑な判断で放置されたのだろう。

 その生物を目にしたこちらの陣営からは、溜め息が聞こえる。

 やっちゃいけない領域の魔術をやっちゃった馬鹿がいるのかぁ、と言いたげだ。

 ゴーレム作りなら南の国でもやってはいるけど、あれは無機物に行動パターンを与えて操作するものだから、批判する要素はない。けれど、北の大陸で行われる生物合成は倫理観を欠いたもの。

 元が何の生き物だったか考えたくないそれは、高台から街を見下ろした。黒い生物が自分を威嚇しているのを察知し、売られた喧嘩をあっさり買ってしまう。跳ねながら移動し、高所からハエ取り草に躍り掛かった。

 訳の分からない生物同士の殴り合いが始まり、舞燈の王が両手を重ねて朗らかに言う。

「オヤツの時間にしましょう」

 その提案に、シデリテスは気力が抜けたように答える。

「そうですね、しばらくは状況に進展もないでしょうし……」

 魔物のくせに物理的な殴り合いしかできないモノ同士じゃ、観察も実況も面白くない。北の大陸では、闇市の闘技場で賭け事になっているけど。


 簡素な補給(お茶会)を済ませた辺りで、巨大ハエ取り草が相手をKOしたのが確認された。

 こちらの陣営のみなさんは、あの植物じみた形状でよく殴り合ったものだ、と半ば呆れ気味。

 元のゲームでは、仲間になったばかりのキャラのために、廃墟になった研究施設に寄ってのイベント戦闘だった。不快感を煽る戦闘BGMと共に、あの灰色の生物が暗がりから不意打ちで登場するのだ。

 でも、明るい環境で高所から見下ろせば、あの中ボスには何の迫力もなかった。ゲームの雰囲気作りは場とBGMによる影響が大きい。

 挙句、こちらから変な生物を用意してきたせいで、敵側の目論見は外れてしまった。パニック映画らしい展開を迎えたのは、向こう側。

 ゴロツキ達は街から出て王宮の方面へ逃げて行ったけど、補給なしで行ける距離ではない。でも、こちらはそれに慈悲を出す気がないので放っておく。

 ハエ取り草が敵を倒して喜んでふんぞり返るのを見ながら、舞燈の王から追加の指示が飛ぶ。

「今すぐ使い魔を街から離して、音を遮断しなさい」

 全員が指示に従ったところで、街の北部から橙色の光が上がるのが見えた。それは街を囲うように裏路地を滑り、円を描いていく。煩雑に見えた街並みは、魔法陣が組まれているのを上空から確認できないよう誤魔化すためだったらしい。数分で完成した円陣は、勢いよく火柱を上げ、街から距離を置いたこちらからも目視できるほどの威力を見せた。

 流石にこの炎では、あの巨大ハエ取り草も無事では済まない。

 街に施された仕掛けが隠蔽される勢いで燃えるのを見届けつつ、次の作戦へと移る。

 私達は、この街で何が起きたのかを知らない。やってきた時点で既にここは燃え尽きた街だった。そういうことにして、先へ進む。



 念のため、敵が再度この街を掌握しないよう、結界を張ることになった。妖魔の発生源になっても面倒なので、その対策でお清めも行う。

 鎮火した黒焦げの街に入り、手短かに状況検分。

 民家だけでなく、罠らしいものは全て無くなっていた。街を炎上させる魔術が発動した段階で、全てリセットされたようだ。

 騎士や結社の魔術師達が街の北部へ向かう中、テトラは一人、街の中央で立ち止まってぼんやりしていた。あの生物達がここで命がけの殴り合いをした痕跡は何もない。黒く煤けた石畳が残るだけ。

 迷ったけど、私はテトラの側にいることにした。いつもこういうときはヴェルがテトラをなだめてくれたけど、今はナクシャ王子の護衛で街の外。

 下手に声をかけても見当違いな慰めになるかと考えていると、テトラが枯れた声を出す。

「……こんなことになるなら、連れてこないで僕が燃やしておけばよかった」

「この国に来てからあの植物はずっとイキイキしていたし、悔いのない最期じゃない?」

 罠の無効化に貢献してくれたし、名誉ある戦死というやつでは。でも、テトラが納得していないのは、あれを捨て駒にしたことではなかったようだ。

「……結局、あいつは魔物だった。自我が芽生えて、どんどん暴れるようになるのを見て、仲良くなるとかそういう次元の生き物じゃなかったんだなってやっと理解できた。僕が勝手に、あの植物に喜んでただけ。詐欺に遭ったのに気付かずに はしゃいでたようなもん」

 流石にあれだけの奇行を見たら、そう考えるか……。

「しょうがないでしょ、もらってきたのは子供の頃だったし。教授も止めなかったんだから」

「それなんだけど。今思えば、教授はあれが危ない生物なの分かってたよ。畑に植えたあれが害虫駆除してくれるのが嬉しくて、教授に言ったんだ。あの植物をくれた村の人にお礼が言いたいって。でも教授は、あの村にはもう行けませんよ、無くなりましたからって答えて。その時は意味が分からなかったけどさ……」

「ああ、そういう……」

 隠れて有害生物を育成する、密売組織か反社会勢力だったのだろう。当時ならまだ、アストロジア王国内にそんな村が存在していても不思議ではない。ほぼ猟師のジョンさんと幼児の魔術師二人になら、有害生物を押し付けてもバレないと思われたんじゃないだろうか。

 でも、教授が気づいたなら、摘発や処罰が発生して、廃村は免れない。

 あれを育ててきたことを後悔しているのか、テトラは元気なく言う。

「舞燈の王がいなかったら、アイツは僕の言うことを聞かなくなって、手に負えなかったんだろうな」

「そうかもしれない。でも、結果だけ見れば悪くはないでしょ。敵は人間すら使い捨てにする連中なんだから。あの生物は、状況をかき回すのにちょうど良かったわ」

 舞燈の王が力を貸してくれるのも、テトラの功績みたいなもの。偶然だって利用しないと。

「……良かったのかな」

「良かったの。テトラがあれを連れてきたおかげで、こっちの陣営は少ししか労力を使ってないんだから」

 戦場ではお茶会するぐらいに図太くいかないと。その余裕が尽きたら負け確定。

 敵は鬱ゲー産の、純度が高い悪役なのだ。動揺すると、付け込まれる。



 鬱ゲーのテンプレといえば。

 秘めの庭に入って、ラーラさんからヴェルの境遇を聞かされたときに思ったんだっけ。

 RPGの主人公みたいな経歴だ、って。

 村焼き被害者の会といえば、復讐に走るのが鉄板だけど。ヴェルは故郷の壊滅原因が魔獣だと思っていたから、魔獣を倒せるようにと鍛えていた。

 もし、北の国で開発された召喚術が原因だと知ったらどう考えるだろう。当時の召喚師はアーノルド王子の魔術で死んだとしても、術自体は再現しようとする集団がいる。その集団と、このジャータカ王国上で遭遇する可能性が高い。

 そして。

 あの灰色の合成失敗獣がこの国に持ち込まれたってことは、同じ施設で生まれたあの子も、この国に連れて来られている可能性が出てきた。あの子は、(HP)を削りながら戦うしかできない。出会ったら速攻で治癒術を使ってあげたいけど、敵として対面したなら、救う口実がない。ここでは私一人の独断で行動できないから。

 召喚師については、集団戦のどさくさで潰せることを期待しているけれど。

 眠れる獅子三号は、できれば助けてあげたい。

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