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その世界設定には従えない!  作者: 遠野香祥
役割破棄/魔術師ゲルダ編
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メタ視点によるキャラ考察

どのゲームの話とは言わないけども。むしろアプリゲームでありがちな運営ミスかもしれない

 元々、私は乙女ゲームや少女漫画で定番の俺様系キャラには興味がなかった。

 好むタイプのゲームジャンルはRPGやS・RPGがメイン。それは大抵、主人公が少年であり、俺様キャラは敵側にいることが多い。その手の性格のキャラは主人公になるどころか、仲間であることも少ないし、仲間になるキャラであれば何か心に問題を抱え、擬態として俺様ぶっているというパターンが多い。非現実的なまでに傲慢さを抱えたキャラは、こちらを煩わせる役目。

 そんな印象を抱えてきた私と、乙女ゲームを楽しむ友人とはキャラの好みがとことん合わなかった。

 友人が言う。

「あんたは安心安全な性格のキャラばっか選ぶね。ファンタジーが好きなのに、キャラの好みだけは現実的なんだわ」

 どういうことなのかと考え込む私に、何故か友人は熱弁する。

「キャラの性格に夢を見ないワケ、要するに」

「夢?」

「そー。現実ではどう考えてもDV加害者って感じの横暴強引キャラでも、乙女ゲーだとヒロインのことだけは絶対に大事にするでしょ。そういうのがウリだから。遊ぶ側もそこ分かって楽しむんだし。そうじゃないシナリオはクソゲー扱い。でも、あんたはゲームにもそこは期待してないんだ。俺様キャラとか嫌いでしょ」

「嫌いというか、関わりたくない」

 好きの反対は無関心、というやつだ。

 それは現実の人間に対しても、物語の中の登場人物に対しても感じることだ。言葉がキツいキャラや粗暴なキャラには興味がない。

「戦い方は脳筋なのに、キツいキャラ駄目とか言うのが不思議」

「それはクリアが下手だから仕方なくやってて、キャラ性を壊したいわけじゃないから……」

「好きだから強くしたいとかじゃないの?」

「それもあるけど」

 私には頭脳戦ができないから、特定のキャラをうんと強くして敵をなぎ倒すしかできない。ルジェロさんに最強装備を与えて杖で殴らせているのもそれが理由だ。詰め将棋的な戦闘は諦めている。

 私の手元の携帯ゲーム機を覗き込み、友人は考える。

「私が今ハマってるアプリ、あんたの好きそうな温厚キャラもいるけど、最近は公式が俺様キャラや王子系キャラばっかり優遇して顰蹙買ってるから、勧めるに勧められなくなったな。私には楽しいけど、特定のキャラしか供給されないとか良くないでしょ」

「そんなことがあるの?」

 公式がキャラひいきとは。

「集金に必死なのかなーって。人気キャラだけイベントでの出番が増えてるから、それ以外のキャラを推してるユーザーは怒るでしょ」

「集金……」

 商業ゲームは慈善事業ではない以上、売れないと運営もままならないのは理解できる。

 とはいえ。私が好む傾向のキャラは公式から大事にされていないということか。それじゃあそのゲームに興味は持てない。

 私好みの絵柄とキャラで乙女ゲームを作る制作者はいない。乙女ゲームにその要素を持ってきても人気が出ないと思われているので、最初から私のようなゲーマーは客層として扱われていない。私も乙女ゲームに興味はあるのに。それが原因で、私が遊ぶゲームは偏っていく。

「こういうのあるとなー、勧められないから困る。あんたにも同じゲームやって欲しかったんだけど。設定とかは好きそうなのに」

「そりゃ推しだけSSRが増えないのは怒ると思う。恋愛要素なら一部のS・RPGにもあるし、そっちも楽しいからそれでいいかな」

 S・RPGは主人公の性別を選択してキャラ同士の恋愛を楽しむゲームも存在するけど、物語は戦禍の国家や地域が舞台であるのが殆どだ。だから、私が勧めても友人はS・RPGでは遊ぼうとしない。

「私は死人が出る話はやだ。前にいいなと思ったあの吊り目のキャラも死んだとか言ってたじゃん。妹に殺されるとか何なの? 意味分からない」

 私が絵柄と雰囲気に惹かれて買うゲームは、何故か理不尽な展開が多い。世界の危機や国家間戦争が見たいわけじゃないのに。

「乙女ゲーでもバッドエンドはあるでしょ」

「最終的にはハッピーエンドだからいいの。私はバッドエンドしか存在ないゲームなんかしない。途中でどれだけバッドエンドに分岐しても、確実にハッピーエンドがあるならそれでいい」



 ……どうやらこの世界にその幸せな結末は無いようだけど。

 痛む頭を抱えて起きる。

 思い出さなくてもいいことを思い出した。

 友人は、アストロジア王国にもハッピーエンドがあると思い込んでいた。ゲーム上はそう見えていたのだろう。

 でも。

 ないっぽい。

 これからその問題について考えるわけだけど、どうしようか。


 眠りについたときはとても良い気分だったのに。

 どうにか身支度を調えて、一日の準備を始めた。

 ヴェルが魔術研究棟にやってきて、ぎこちなく言う。

「おはよう、ゲルダリア……」

「おはよう、ヴェル」

 まだ誓約でのことが影響しているのか、緊張しているようだ。

 何て声をかけようかと考えたところで、軽く振動を感じた。

 揺れているのは、部屋全体。

「え?」

 地震?

 この世界でも?

 隠れる場所を探さないと。そう思ったところで、すぐに収まった。

「今のは一体……?」

 状況確認のため外へ出ようとすると、テトラがやってきた。

「ねー、今さあ、北の方で空が光ってたんだけど……」

「王城で何かあったのかな」

「山を越えた向こうに見えたよ」

「じゃあ、北の大陸で何か起きたということ?」

「そーじゃない?」

 あの国の人や妖精達は無事だろうか。

 情報が入ってくるのに時間差がある以上、今心配しても何も出来ない。

 とにかく今日も一日が始まる。ボンヤリする余裕はなさそうだ。



 生徒達は新月祭の夜に起きた事件について知らない子が殆どのようで、そこだけ見ればいつも通りの学院だった。

 昼に会うアリーシャちゃんも、新月祭を全力で楽しんだことを話してくれた。その様子を黙って眺めるバジリオ君がぐったりして見えるけど、それも普段どおり。陰でバジリオ君がどう行動しているのかは気になるけど、そこを問いかける糸口はないのでそっとしておく。


 放課後に魔術研究棟へやってきたイライザさんとナクシャ王子によって、ようやく新月祭の夜に起きた事件の詳細が聞けた。

 ナクシャ王子がお祭り開始の後にすぐ外へ飛び出して行ったのは、よくない気配を察知したのが原因らしい。飽きたと言って他の生徒との交流を投げ出したのは、建前だったのだとか。

 そうならそうで、もう少し言葉は選んで欲しかった。それだけ緊急事態だったのか。

 ナクシャ王子にとって大事なのはイライザさんだけらしく、他の人間の安否にはあまり興味がないようだ。けれど、それにより彼女の心労が増し、あの後は延々とお説教だったらしい。

 夜の襲撃の件もあり、流石にナクシャ王子も反省したようだ。今までとは別人のような真面目さで、イライザさんの話を聞いている。最初からこう対応できたなら、あの子も泣かずに済んだろうに。

 イライザさんによる説明というより ほぼ愚痴である話を聞きながら、ソラリスとノイアちゃんはお茶を飲みながら黙って何かを考え込んでいた。タリスはその話を自分が聞いてもいいのかと悩んでいるような困り顔。テトラとヴェルは無表情。

 お祭りの後なのに空気が重い。全員無事だったのに。

 そう思ったところで、珍しくソラリスが口を開く。

「今朝、フェン様から言われた。今までの計画で完了した案件は、ここに集まる人間にはもう話してもいいらしい」

「計画?」

「夏になる前から東の国境沿いの出入りに制限をかけて、この国に入り込んだ不穏な存在を炙り出していた。それも新月祭でほぼ終わったから、次の段階に移行する準備は整ったとか」

 そんなことを進めていたのか。王都全体で新月祭を実行した目的は果たされたらしい。

 次の段階とは何だろう。ソラリスもそこまでは聞かされていないのか、黙ってしまった。

 またみんなで静かにお茶とお菓子を口にする。

 そして、周囲を窺っていたタリスがこちらを見て何かに反応した。

「……姉さん」

「どうしたの?」

「確認したいことがあるので、場所を変えても良いでしょうか」

 また二人で魔術研究棟から出て、人がいない校門前へ向かう。

 魔術探知に反応がないので監視の心配はない。それを確認し、二人でベンチに座る。

「確認したいことって?」

「妙な反応をずっと感じていたのですが。姉さん、何か魔術拘束をかけていませんか?」

 ヴェルとの誓約について、あっさり気付かれるとは思わなかった。

 手の甲を見せて聞く。

「これ、そんなにも分かりやすく目立つ?」

 魔力を込めることでうっすらと可視化される白い花。それをじっと見て、タリスは考え込む。

「その魔術については、古い資料で読んだことがあった気がします。よく思い出せませんが」

「魔術師の誓約なの」

「誓約? 何の為のものですか?」

「それは………護身の協力みたいな意味で」

 どう説明すればいいのやら。

 タリスは納得できないように言う。

「誓約というなら相手がいるのでしょうが。まさか……ディーが相手ですか?」

 どうしてそこで機嫌が悪くなるのだろう。警戒するような術ではないのに。

 答えずに、はぐらかす。

「この術については記録が少ないという話だけれど、タリスはどこで資料を見つけているの?」

「我が家の書庫です。ソーレント家が関係した物事の記録は、始祖王の代からずっと破棄されずに残っているので」

 それは初耳だ。

「……歴史書や魔術に関係した記録があるの?」

 つい食いつくように質問する。私の表情に、タリスは呆れたように返す。

「申し訳ないのですが、あの書庫にある記録は門外不出とされているので、いくら姉さんの希望でも持って来られませんよ」

「そう……」

「姉さんがあの家へ戻るのであれば別ですが。家人であれば書庫へ入ること自体は拒否されませんよ」

「そんなわけには……」

 過去の記録を読むためだけに公爵家の人間ぶって屋敷に出入りするのは、都合が良すぎる。

 タリスは私の歯切れの悪さに溜め息をつく。

「その話は今は置いておきます。それにしても、僕が先輩たちの話を聞いてしまっても良かったんでしょうか」

「ああ、これからの国家間の都合について? タリスだってこの国で何か起きれば、無関係では済まないと思うのだけど」

 新月祭にかこつけた不審者の炙り出しは、私が確認できたのは王都だけだったけど、他の地域でも貴族に協力させて実施していた可能性はある。故郷でも。

「確かに情報は必要ですが。信用に足るかどうか試されているのでしょうね、ロロノミア様に。情報を口外しないかどうかの見極めの中にいるというのは、気が重いです。当然ながら言い触らすつもりはありませんが」

 王族も一枚岩ではないから、フェンはずっとあちこちで色んな人間を試しているのだろう。身内に敵が居ないかどうか。王族以外に信用できる人間がどれだけいるのか。

 王族だけでなく、貴族たちもそれぞれ自力で信用できる人間を探っているだろうけど、タリスはフェンほど徹底できないのか、浮かない顔をしている。この世の全ての人間が善性を抱えていると思い込むほど寝ぼけてはいなくても、人を試すようなことは苦手なのだ。

「タリス」

「何でしょう?」

「どこに不審者や敵がいるのか分からなくなっても、魔術研究棟に集まってるあの人たちは信用できるから。一人でいて不安になったらあそこに来て」

 ナクシャ王子についてはまだ怪しいところがあるけど、それはともかく。

「……姉さんがそう言うのでしたら」

 不本意そうな口調。

「嫌なら無理はしなくてもいいけど」

「嫌というより……」

 口ごもるタリス。

 これ以上曖昧なままにしてもしょうがないので、はっきりと聞く。

「タリスはどうしてディーとトラングラを信用できないの?」

「……それは」

 俯いて答える。

「ただ、僕の感情が追いつかないだけです。性格的に合わないのもありますが」




 みんなが宿舎へ戻った後。

 魔術研究棟を閉める片付けの途中で、ヴェルが言う。

「この学院に来てから、余計なことばかり増えるね。ゲルダリアは、このまま王族の指示通りに動いても大丈夫?」

「私は平気。ヴェルの方こそ、このままでも平気?」」

 アーノルド王子との関わりが少なく済むと良いのだけど。

「ゲルダリアとテトラが居るなら平気だよ」

 きっと互いに似たことを考えている。

 一人では学院でうまく過ごせなかったかもしれないけど、三人でなら。

「……君は、怖いと思うことはない?」

「私が怖いのは、大事な人が居なくなることだから」

「……そうだね。それが、一番辛い」

 感情を押し殺したように言うヴェル。嫌なことを思い出させてしまったかもしれない。


 ヴェルの穏やかさは、側に居てとても心地良い。私の言動を頭ごなしに否定することもなく、不愉快な思いをさせられることもない。

  その逆で、私はヴェルに何か負担をかけていないか心配になる。

 魔術を研究するために得た知識のほとんどは教授からのものだけど、金属の加工に関してはヴェルが協力してくれないと何もできなかった。

 私達は互いの不得意なことを補い合ってきて、今では大抵のことは一人でできる。

 一人前になったからもうそれぞれ勝手に生きることも可能なのだろうけど、その選択はしなくていい。そうはっきりしてから、開き直って側にいると決めた。

 タリスはヴェルのことが苦手だと言う。気性は似通っていると思うのだけど、同族嫌悪だろうか。出会い方が違えば、 二人は意気投合できそうなのに。

 ヴェルの方も、タリスからよく思われていないのは理解できているけど、原因がタリスの心理的な都合である以上、どうにもできずに放っている。

 無理に仲良くはしなくてもいいけど、私がヴェルやテトラと何かをする度にタリスの機嫌が悪くなるのは悲しい。私は二人がいてくれたおかげで今があるのだし。時間をかけてタリスの考えが軟化するのを待つしかないだろうか。


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