表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その世界設定には従えない!  作者: 遠野香祥
役割破棄/魔術師ゲルダ編
40/155

隠居計画は未だ叶わず

久々のゲルダリア視点になります。

 とても悲しい夢を視た。

 目覚めて一人、頭を抱える。

 夢の中の私達は、学院で過ごすことに嫌気がさして旅に出てしまったけど、私はこの世界が滅ぶ星だということを忘れていた。

 三人で旅に出て、南の国の遺跡を巡って満足し、そのままその地域に定住した。

 でも。

 アストロジア王国が滅亡を免れていても、星の危機が待っている。

 キラナヴェーダ2のみんなが世界の救済に失敗したら、どのみちアストロジア王国の民も終わるのだ。

 南の極点の古代遺跡は、北の極点の遺跡と同じくこの星の気候を管理調節している。

 だからキラナヴェーダ2の最終決戦で戦略をミスると、ラスボスを倒してもバッドエンド。

 北の極点の遺跡はキラナヴェーダの一作目でベストエンドにして崩壊しているから、南の極点にある遺跡だけは絶対に壊してはいけない。

 なのに、夢の中の私達は冬の訪れを迎えてしまう。本来の冬というものを初めて体験した世界では、寒さに対処できなかった。

 春が到来する前に、世界は白く染まり終わってしまう。

 私達三人が知らないところで、世界を救うヒーローとヒロイン達は負けてしまったらしい。

 世界を救う役目は、キラナヴェーダのキャラたちのもの。私はそこに介入できそうもないのに。

 急に心配になった。あの面々にも、無事でいてほしい。

 

 私は今まで、魔獣の発生が人為的なことだと分かった上で放ってきた。

 イシャエヴァ王国の内情を知っているなんて、明かしようがないから。

 だけど、魔獣による被害を防ぐためには発生源を突き止める必要があって、そうなれば結局は魔獣が人為的な誕生をしているのが判明してしまうわけで。

 この国は他国から被害を受けている、と王族が気付いて対処に出るのは当然のことだ。

 アストロジア王国で発生する魔獣も、キラナヴェーダの世界と同じ集団がこの国でばらまいているのであれば。

 私達三人が魔獣を退治するために爆弾や武器を量産してきたことへ、警戒を強めているかもしれない。

 この国は食糧問題と魔獣問題をある程度解決し、次の国難を防ぐべく動いている。

 そうなると、仕掛けている側はどうするだろう。

 諦める?

 そんなわけがない。

 確実に次策を打ってくる。

 何がなんでもこの国を衰退させ、イシャエヴァの王族も全滅に追い込んで古代の遺跡を掌握して、この星を丸ごと黒幕の思い通りにしてしまうかもしれない。

 この国にすらイシャエヴァの魔術師たちによる魔獣侵攻が起きているのなら、隣国のジャータカも危うい。キラナヴェーダの開幕時間になる前に、世界全体が衰退に向かわされている可能性が高い。私はあの国については詳しくないけど、ラスター、もといソラリスがやってきたのもジャータカ王国からだと言うし……。

 キラナヴェーダ2のバッドエンドを思い出したことで、関連ごとも思い出してしまった。

 ジャータカ王国の南の国で、いずれ異界の王が目覚めて暴れ出す。それを阻止して南の極点にある遺跡を保護しないと、この星の気候管理が不可能になり、世界に冬が戻ってくる。

 冬のない世界に慣れきった人や生き物には対策が間に合わず、凍えてしまう。

 私は、キラナヴェーダ2のキャラたちを信じたい。あの人たちに、ちゃんと世界が救えるのだと証明してほしかった。

 ……パーティメンバーに、不穏要素を抱えた双子姉妹と、途中の選択次第で助からない人がいるけど。大丈夫だろうか。

 ヤンデレ暗殺者の、双子姉妹。育ての親から、イシャエヴァの童話である瑠璃姫をモチーフにした格好をさせられてきた二人は、主人公君とヒロインちゃんを何度もしつこく襲撃する。

 最終的に主人公君の強さに惚れた二人は、育ての親をあっさり捨て仲間になるんだけど、ヒロインちゃんの命を狙うことだけは諦めないという面倒くさい子たちだ。

 名前は確か、ラフィナとメローナ。あの双子姉妹は、今この時期にどこでどうしているんだろう。

 あの子達が敵だった時期の足止めさえなければ、時限式のイベントは解決するんだけど。




 秘めの庭でヴェルに出会って以後、私とヴェルは毎日顔を合わせていた。

 テトラも具合が良くなってからは、毎日私達と一緒だった。

 シャニア姫の占いを聞く以前から、約束した訳でもないのに魔獣退治や調査の旅も三人一緒。

 二人と私が一週間離れて過ごすのは、これが初めてのことだ。

 だから私は気落ちして、嫌な夢を見たに違いない。精神が弱っているときほど悪夢を視やすいから。

 いつも通り魔術研究棟へ向かう準備をする中、不安は拭えなかった。

 朝から一人で大量の作業をこなさなくてはいけないこともある。

 放課後にはノイアちゃんが来てくれるけど、あの子だって自分の勉強があるだろうし、あまり無理なお願いはできない。

 今日の授業は私がいつも担当している学年だけだからどうにかなりそうだけど。

 明日からまともに仕事をこなせるだろうか。

 そこについて考えると、今日視た夢のように、この学院から逃げ出したくなってしまう。

 ……ああ、遺跡巡りしたかったな……。

 この学院での仕事さえなければ、三人でまだあちこちに出かけていたのに。

 そういえば。

 私とテトラが行きたい場所を挙げ連ねている間、ヴェルは静かにそれを聞いていた。

 ヴェルの行きたいところはなかったんだろうか。

 帰ってきたら、ヴェルにも行きたいところがないか聞いてみよう。この学院での仕事が終わるまでは旅に出られないだろうけど、出かけたい場所についてあらかじめ調べておけば、急に時間ができたときに対応しやすいだろうから。

 ……駄目、職務放棄したくなってきた。

 私だけ逃げ出してる場合じゃないのに。


 授業の間はキラナヴェーダのバッドエンドについて忘れ、仕事をこなした。

 けど、授業終了後に私の元に駆けて来た子と向かい合って、再度それを思い出す。

「先生! 先生!」

「今日は何でしょう?」

 亜麻色の長い髪を揺らして、長身なアリーシャちゃんはいつも通り元気にやってきた。

 この子はキラナヴェーダ2のパーティメンバーで、選択次第では助からない戦士だ。

 彼女はいつも私の授業を熱心に聞いて、昼休みにも私のところへ遊びにくる。

 アリーシャちゃんの幼馴染みである小柄な魔術師、バジリオ君も一緒だ。

 二人がこの国で学生時代を過ごしていたのは予想外だった。

 アリーシャちゃんはキラナヴェーダ2の終盤で、選択によって死亡したり生き残ったりする。

 彼女が死んだ場合、バジリオ君は発狂し、魂を破壊する魔術暴走により後を追うように死んでしまう。

 お願いだから、この世界では生き延びて欲しい。安全なところで幸福になってほしい。

 私の心配を知らず、アリーシャちゃんは好奇心いっぱいの表情で言う。

「先生! 噂で聞いたんですけど、巷に出回ってる魔術書って、先生たちが書いたって本当ですか?」

 ……著者名は伏せられて出版されたのに、どうしてそんな噂に。

「誰が言っていたの?」

 問いかけにはバジリオ君が答える。

「なーんか警備の人がそんなこと言ってたって話でしたね」

 テトラがうっかり口を滑らせたみたいだ。

 きっと言いふらすつもりはなかっただろうから、テトラに余計なことは言わずにおこう。

「噂は噂でしかないと思うわ」

 適当に誤魔化す。

 著者名は秘匿するという約束での出版だから。

 二人はあまり納得していないようだったけど、それ以上追求はしなかった。

「あたし、あの本の冒頭好きなんですよねー、我が師に捧げるっていうアレ」

 そうでしょうそうでしょう、と心の中で頷く。

 あれは絶対に入れたかった一文なのだ。

 そう思っていると、アリーシャちゃんは目を輝かせて言う。

「あたしも我が師ってやつ言ってみたいですね! 先生のこと師匠って呼んだりとか!」

「それはちょっと……私はまだそんな立場の魔術師ではありません」

「ええー? そんな、充分凄いじゃないですか」

 と言われても。

 私だってエルドル教授をお師匠様と呼んでみたかったのに断られたのだ。

 教授を差し置いて私がそんな呼ばれ方をするわけにはいかない。

 バジリオ君がアリーシャちゃんに茶々を入れる。

「お前のそのわけわかんねえ盛り上がりは何なんだ」

「うっさい! こういう憧れがわからないのは、アンタが冷め過ぎてるだけ!」

 元気が有り余っているアリーシャちゃんは腕をぶんぶんと振り回す。

 この二人のやりとりは懐かしい。ゲーム中でも二人の関係性はこうだった。あれこれ言い合うわりには、常に一緒に行動するのだ。喧嘩するほど仲がいいという言葉そのままで、私は微笑ましく眺めている。

 そんなアリーシャちゃんが授業外でも魔術について詳しく知りたいと言うので、そのたびにあれこれ説明してきた。二人がこの学院を出て南の国へ行った後、無事であるように。

 私としては、バジリオ君の魔術を見てみたい。

 風狼疾駆、という名前の攻撃魔術。ゲーム中ではあの技が好きで、よく使っていた。

 でも、私がバジリオ君の魔術について知っているとは言えないので我慢している。

 いつか直接見てみたいけど、攻撃魔術が必要になるのは非常事態なわけで、そんな機会が訪れるのを願うのは良くないわけで。もどかしい。


 二人が去ったあと、次の授業の準備をしながら考える。

 エルドル教授と言えば、この王国や星全体が滅亡したときはどうしているのだろう。

 謎の多いあの人が、あっさりと世界的な危機に巻き込まれてしまうものなのか。

 この学院から秘めの庭に手紙を送ると一週間ぐらいかかってしまうし、この疑問に教授が答えてくれるのかはわからないけど。質問するだけしてみよう。

 教授は情報を伏せることがあっても、嘘をついたことはない。

 子供特有の回答に困る質問にも、教授はうまく嘘なく答えていた。

 私の得たい情報を明かしてくれないにしても、ヒントになる話はしてもらえるかも。


 始祖王アストロジアは北の国で妖精と出会い、連れ帰って妻にした。

 その伝承の妖精族はまだ北の国にいる。

 そして、テトラは妖精に会いたいらしい。危ないからあの国には行かないで欲しいとは言いづらかった。

 でも、テトラが北の国へ行くのを止めてしまった場合、きっとあの主人公君は助からない。

 戦闘レベルがまだ低い中で魔獣使いに勝てたのは、相手がテトラとの戦闘で弱っていたからだ。

 だったら、テトラを止める代わりに私たちも一緒に行けば、犠牲者を出さずに済む。

 その日が来るまでの間、私たちはどうにかしてこの国の滅亡を防がなくては。

 この一週間は忙しくて私一人ではどうにもできないけど、二人が帰ってきたら精神操作の術への対抗策を取ろう。

 キラナヴェーダの黒幕が率いる組織は、あの国の王族達の精神を破壊してしまう。

 それと同じ手段をこの国へ持ち込まれてしまう前に、手を打たないと。

 ……精神に作用する術への抗い方は、この前ちょうど教授が教えてくれたばかり。

 教授も、未来予知や先読みが可能なんじゃないだろうかと疑ってしまう。

 いや、余計なことを考えるのは止めよう。


 ヴェルとテトラが無事に調査を終えて帰ってくるまで、大人しくしなくては。

 王族の通うこの学院。どこにスパイがいるかなんて分からないから、一人で目立つことはするものじゃない。仕事も山積みだから、優先事項を決めて対処しなくては。

 やがて放課を知らせる鐘が鳴る。

 テトラがあの鐘に仕掛けをしていったけど、今のところその影響は出ていない。

 なら、大丈夫。



 ……そう油断していた。

 この話の前にIF分岐としてバッドエンドルートがあったのですが、書く時間が足りないのでやめました。

 シナリオ量の多いゲームで更に大量にバッドエンドを用意してあるジャンルは凄いですね……。

 個人的には理不尽に爆発するバッドエンドや、登場人物はハッピーなのに物語が強制終了してしまうからという理由でバッドエンド扱いになってしまうものが好きです。この話とは一切関係ないのですが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ