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その世界設定には従えない!  作者: 遠野香祥
ブラコン役 ゲルダリア編
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目指せ、爆弾魔


 今日も、薬を作るための資料を書庫で探して借りる。

 薬の研究は、材料が手に入りにくいためにあまり進んでいない、と書庫管理の魔術師が教えてくれた。

「薬の材料をこの施設で栽培できないんですか?」

「栽培が難しい材料があるのと、あと植物だけが材料じゃないからね。魔獣の肝を使うものもある」

 結局は魔獣退治しないといけないのか。


 代替品を作れないだろうかと考えながら、食堂に向かう。

 最近はおかみさんと仲よくなって、おかみさんの名前がラーラで、旦那さんがボギー、息子さんがテトラという名前だと教えてもらった。

 ラーラさんはお昼の準備をしているけど、何故か元気がない。

「どうしたんですか?」

 ラーラさんは、はっとして顔を上げ無理に笑う。

「あらゲルダリア。いやね、顔に出てたかしら。最近ちょっとうちの子が元気なくてね。これから寒くなる時期だし、元々体力の無い子だから心配で」

「そんなことが……」

 豆のスープだけでは栄養が足りないのだろう。お肉とか魚とかが手に入ればいいのに。

 私の作った植物の栄養剤では、畑の豆は完全食になってくれない。

 ラーラさんの手伝いをし、昼食を済ませ片付けを終えて、私は書庫にこもって調べ物をする。



 この施設の周辺で育つ植物と狩ることのできる動物では、栄養価の高いご飯を作るのが難しいみたい。

 近隣では、魚も捕れない。

 川ならすぐ裏の山にもあるけど、鉱物による汚染で生き物がすめる状態じゃないので、ここの施設では魔術による濾過(ろか)と加熱処理で水を得る生活をしている。

 もしかして、私が公爵家で生活していたときの食事の材料は、この国で作られたものじゃないんだろうか。輸入品?

 この国の魔術師で黒魔術を使う人がいないのは、生贄用の動物を確保するのが難しいからかもしれない。そう思う程度には、養鶏も未発達だ。

 なのに魔獣は出る。

 じゃあ、栄養あるお肉になって薬にもなるような都合のいい魔獣はいないだろうか。

 調べたけど、魔獣は狩るのが難しくて、これも研究が進んでいない。

「……つまり、魔獣を狩るのが簡単になればいいのね」


 そうだ、爆弾を作ろう。

 魔獣を狩ろうにも、私の風属性の魔術では、まだそんなに強い攻撃ができない。

 つまり、今は爆弾魔になるしか道がない。

 調合系のゲームでもそんな段階だ。簡単な料理と簡単な栄養剤が作れるようになったんだから、次は簡単な爆弾作り。

 フィールドマップに出て、爆弾でモンスターを退治することで、新しい材料を手に入れる。

 そうやって段階をふんで強い魔法使いや錬金術師になっていくのだ。

 爆弾より強い攻撃魔術は、それから習得できるようになるはず。


 書庫にいた人達に話を聞いて回ったら、武器や魔術道具の研究をしている魔術師を教えてくれた。

 それは講義のときに私と同じく教授の話を前のめりになって聞いている、同い年くらいのスミレ色の髪をした男の子だった。

 ヴェルヴェディノという名前で、故郷の町を魔獣に破壊されてしまった子だそうだ。

 ラーラさんが言っていた、悲壮感のある子とはヴェルヴェディノのことだったんだろうか。

 他の魔術師が、ヴェルヴェディノは金属加工のための研究棟にいることが多いと教えてくれた。



 研究棟の一室をのぞくと、大人の研究者と一緒になってハンマーを振るう男の子がいた。あの髪の色はヴェルヴェディノだろう。

 鍛冶の最中のようで、金属をハンマーで打つたびに、虹のような光が散る。魔力を込めて武器を作っているようだ。

 憧れの魔剣づくり。それを目の前で見ることができるなんて。

 テンションが上がって声を出しそうになったけど、慌てて手で口を押さえる。

 邪魔をしてはいけない。いくら魔術で武器を作るといっても、基礎はまだ人力なのだ。

 私の好きなゲームみたいに、頑丈な大釜に材料を入れてぐるぐるかき混ぜるだけで作れるようになれば楽なのに。

 そもそも、あんな立派な大釜がない。

 ないものだらけだ。

 そんなことを考えながら、ヴェルヴェディノが打つ剣の色が七色に変化していくのを眺める。

 この世界では錬金術の研究はあまり進んでいなくて、廉価な金属を高価で希少な金属に替えることはまだできないみたい。

 それでも、今目の前で剣が作られていく様は、とても神秘的な光景だった。

 水蒸気と金属の臭いでむせかえりそうになるけど、それが気にならなくなるほどの輝き。

 ヴェルヴェディノから剣へと魔力が流れて、色とりどりの光があふれる。

 それを見て、この世界に生まれて良かったなと思う。

 前世のときから武器とか防具を作ることに興味があって、RPGでも最強の装備作りに夢中になったのだ。


 目の前の二人は、今それに挑んでいる。

 できることがあれば、手伝いたい。

 私の作りたいものと手に入れたい素材が、この二人の役に立つだろうか。

 前世で通っていた学校の図書館は、中二病患者にも優しく錬金術や魔術の歴史に関する資料が沢山揃っていた。

 あのとき読んだ本の知識が役立つ機会について考えていると、やがてハンマーを打つ音が止んだ。

 そして。

 ふうっと息をついたヴェルヴェディノと、男の人がこちらを向いた。

 疲れたような顔で、ヴェルヴェディノが言う。

「……どうしたの、さっきからそこで。たしか、君はゲルダリアだっけ」

「私の名前覚えてくれたんだ、ありがとうヴェルヴェディノ。私、薬を作る素材のために魔獣を倒す必要があって、爆弾を作りたいの。だから、ここの工房を一つ貸してもらいに来たわ」

 一息にそう言うと、ヴェルヴェディノは黙って手元のハンマーを見る。そしてもう一度こちらを見る。


「……そう。それは分かるよ。僕らも、強い武器を作る材料が足りない。今作ってる剣より強いものは、魔獣を倒す必要があるんだ。君とは利害が一致しているから、手伝えることがあれば協力するよ」

「ありがとう!」

 思わず声を上げた私に、ヴェルヴェディノは静かにうなずいた。

「それぐらいは平気。君は急ぎの案件みたいだから」

 言われて、はっとする。

 確かにテトラの栄養剤や薬を作るのは急いだほうがいい。

 でも、ヴェルヴェディノだって、故郷を魔獣に荒らされたことを気に病んでいるのでは。強い武器作りの研究を途中にして、私に協力してもらってもいいのだろうか。

 そんな私の迷いが顔に出たのか、ヴェルヴェディノの剣作りを補助していた男の人が口を挟んだ。

「一人で焦っては危険だからね。みんなで協力しあったほうが、皆の役に立つものができるはずだよ」

 確かに。私が作るものは物騒なものなのだ。爆発しないものを作るときすら爆発させてしまう。一人で事故を起こしてこの工房の人に迷惑をかけるくらいなら、武器作りの研究をしている二人に協力してもらって安全に作業したほうがいい。

 私は二人に頭を下げる。

「……おかげで、少し冷静になれました。よろしくお願いします」

 そんな私に、ヴェルヴェディノは穏やかに言う。

「僕もね、君と同じように焦ってたんだ。でも、ジョンさんに落ち着くように言われて。君の気持ちは分かるよ」

 ヴェルヴェディノのスミレ色の髪と瞳が、優しく揺れる。

 ジョンという名前らしい男の人は、私達二人のやりとりを柔和な表情で聞いている。

 ヴェルヴェディノやジョンさんと会話するのはこれが初めてだけど、ここで会えたのがこの二人で良かった。



 ジョンさんとヴェルヴェディノの協力のおかげで、日々の爆弾作りは順調に進む。

 ただ、簡単に量産ができる爆弾では、小動物ぐらいの大きさの魔獣しか倒せないらしい。

 今の私の力量では、もっと強い爆弾を作る事ができない。材料も無い。 

「ままならないね……」

「そうだね。作りたいものは急がないといけないのに」

 ヴェルヴェディノと二人でそんな会話をする。

 でも、一人で爆弾や武器を作る羽目になったら、気が急いて失敗ばかりしたかもしれない。

 ラーラさんとテトラのためにも、ちゃんと落ち着いて武器を用意しなきゃ。

 休憩のために、ヴェルヴェディノと二人で食堂に向かう。

「ジョンさんはお昼はいいの?」

 私の疑問に、ヴェルヴェディノが真剣な顔で答える。

「ゲルダリアの作った爆弾が増えて、もうすぐそれなりに狩りができそうだから準備するって」

「そっか……お世話になってばかりだね。一人で何でもできる魔術師になる日は遠いなあ……」

 私のそのぼやきに、ヴェルヴェディノも真面目な顔でうなずく。

「そうだね。僕らはまだ、体格も全然足りないから」

 ヴェルヴェディノの身長は私とあまり変わらない。同じ年頃の男の子よりも少し小さくて、女の子と間違えられそうな雰囲気だ。きっと本人はそれを気にしているのだろう。

 二人で軽くしょげながら食堂に行き、私はラーラさんの手伝いのために厨房へ向かう。

 料理と盛りつけを手伝い、ラーラさんと世間話をする。ラーラさんは普段どおりの笑顔だし、テトラの様子はまだ大丈夫そう。

 だけど、あれはラーラさんが私を心配させないように明るく振る舞っているだけの可能性もある。

 ラーラさんは、今までずっと私のやることを笑顔で応援してくれた。

 他の魔術師達みたいにツンツンした態度で接されていたら、私はやる気が早々に折れていたに違いない。

 私が畑の薬を作れたのも、ラーラさんのおかげ。

 そんなラーラさんの元気がないのは、私としても悲しいし、テトラと会えないのも残念だ。

 ラーラさんとテトラのために、絶対に人用の栄養剤を作りたい。

 ご飯を食べたら、ジョンさんの分の料理を持って、狩りの用意を手伝いにいこう。



 ジョンさんとヴェルヴェディノの協力のおかげで、お弁当を入れるための保温用の器を作ることができた。

 これで、狩りに行ったときも温かいご飯が食べられる。携帯食料はおいしくない。狩りを手伝ってくれる人達にも美味しいものを食べてほしいと思って、保温の器を三人で研究したのだ。

 爆弾の数も充分。狩人の皆の弓矢と剣も山ほどある。

 念のために私は鍋と追加の食料も持って、狩りについていくことにした。

 魔物を狩るための戦い方は詳しくないけど、エルドル教授の講義を受けたおかげで風の魔術で自分の身を守るぐらいはできる。

 私とヴェルヴェディノはジョンさんの狩りについていくための外出許可をもらい、準備は整った。

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