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その世界設定には従えない!  作者: 遠野香祥
ブラコン役 ゲルダリア編
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迫り来る、回避不可能イベント

 面倒事を片付けて、ゴードンさんの案内で目当ての採掘場まで慎重に進む。

 突き当たりの地点をカンテラの灯りで照らしながら、シャベルで岩肌を軽く削るようにしていく。

 途中で硬い物に触れたので、その周囲をつるはしで崩す。

 そうしてようやく、お目当ての石を見つけた。

 一見普通の水晶にも見える。

 魔力を流すと、キラキラと虹色の光を散らせながら輝いた。


憧れの、魔法の石だ。


 手のひらに載るくらいの大きさの魔石。

 三人で代わる代わるそれに触れたり軽く削ったりして、ヴェルヴェディノが言う。

「うまく加工できれば、使い道は多そうだね。これが広く流通するなら、普通の人達も魔術を使う生活が普通になりそうだ」

 私達の作業を途中まで黙って手伝ってくれたゴードンさんが、興味津々に石を見る。

「この山脈に、どのくらい同じ物がありそうなんだい? それが魔力の塊なら、魔術師の君らなら感覚として察知できそうだが」

「この坑道に入ってからずっと、感覚が狂いそうな魔力の波は感じるので、うまく行けばもっと見つかりそうです」

 そんなやりとりをしてから、更に採掘を続ける。

 日が暮れる頃には、透明な石の塊が10個ほど見つかった。

 採掘になれていない私達だけでは、きっともっと時間がかかっただろう。


 宿でその魔石に魔術を乗せたり加工をしたりして、私達はそれぞれ自分の考えていたことを試した。

 私は、魔力の無い人のための護符を作る。

 ヴェルヴェディノは、魔石の魔力で剣を強化。

 テトラは、使い魔の術を使って魔石を跳ねさせている。……ゴーレムでも作るんだろうか。


 私達の魔術を見て、ゴードンさんも鉱山の管理人さんたちも不思議そうな顔をしていた。

「最初は宝石としてロロノミア家に納品するつもりでいたそれが、魔術の道具になるなんてなあ」

 そんなことを言うゴードンさんに、私は護符へと加工した手のひらサイズの魔石を渡す。

「私達が採掘した石は好きに使っていいと許可をもらえましたけど、私達だけではうまく採掘できませんでしたから。これは、ゴードンさんへの御礼になります。防御の魔術をかけた護符になりますので、よろしければお使いください」

 ……いつか来る石ゴーレムとの10連戦に備えて。

 そんなことを考えながら差し出した魔石を、ゴードンさんは喜んで受け取ってくれた。

「ありがとう! 俺がやったことなんぞ ただの案内でしかないが、君達の役に立ったならなによりだ!」

 ヴェルヴェディノとテトラもそれぞれ、鉱山の管理人さんやゴードンさんに加工した魔石を贈っていた。

 ヴェルヴェディノが鉱山への不法侵入者を防ぐための魔術結界を作ったので、もう山賊の侵入の心配はなさそう。

 テトラがゴードンさんに渡した魔石は、持ち主の危機に応じて自動で飛び出してかばってくれるものだとか。

 

 この鉱山での研究が終わったら、ゴードンさんと会うことはもう無いだろうけど、私とテトラの渡した道具でうまく生き残って欲しい。


 魔石といえば。

 この国の鉱山から魔石をすっからかんにしてしまうよりは、他の国から輸入できたりしないだろうか。

 そう、例えば。

 この星の北の極点にある、翡翠みたいな色の魔石でできた遺跡。

 あれの管理はイシャエヴァ王国が行っている。

 でも、鬱ゲー世界の中では最終的に崩れてしまうのだから、どうせならあの遺跡を今のうちから切り崩して素材にさせてはもらえないだろうか。

 なんて、虫の良いことを考えてしまう。

 あの遺跡を構成する魔石をエネルギー源にして黒幕が世界制服を狙ったのだし、残しておいても得なんてしないし。

 遺跡を作り上げた古代の人達には悪いけど。

 帰ったら王国の偉い人に、他国から魔石が買えないのか聞いてみよう。

 あの遺跡が無くなってしまえば、鬱ゲーの1作目の危機も消えるわけだから。




 秘めの庭に帰り、教授に採掘した魔石を見せ、あったことを報告した。

 そして、三人でまたどんな魔術書を作るかの話に戻る。


 怪我を治す術は、魔術属性がどうであれ魔力があれば使えること。

 攻撃に向かないと思われる属性の魔術でも、本人の意識と応用次第で魔獣の退治に使えること。

 私はその解説を担当した。

 ヴェルヴェディノは今までに見かけた魔獣の特徴をまとめて、見かけたら逃げるべきか戦えるのかの判断に使える情報を。

 テトラは、同属性の魔術は相殺が可能だから、魔獣がこちらと同じ属性の術を使っていたら攻撃が通らない代わりに防ぐこともできるという話を。

 それぞれまとめて本に載せる。

 鉱山での研究についても軽く触れた。


 三人で内容を考えた魔術書の冒頭には、念願の『我が魔術の師へ捧ぐ』という一文を入れた。

 エルドル教授の名前も、著者である魔術師の情報も出したら駄目だと言われたので、そこは伏せることになったけど。

「著者名を出しちゃ駄目って、何でなのさ」

 テトラは不満そうだ。

「詐欺師が私達の名前を名乗る可能性があるからじゃない?」

 私達が本を出版したことで、魔術師を名乗る詐欺も出るかもしれない。

 世知辛い。


 やがて本が出版されて、国内のあちこちで配布されたらしい。

 しばらくして、著者宛てにお礼の手紙が届いたとのことで、私達は三人でそれを受け取った。

 テトラが内容を読み上げる。

「『魔術書の内容を実践したことで体が丈夫になり、遠くの行商にも出られるようになりました!』

 だって。へー。良かったじゃん」

 自分の紹介した魔術が役に立ったのはとても嬉しい。

 テトラが他の手紙も読み上げる。

「『この本を読んだことで強くなって女性にもモテモテ、人生が変わりました! 二十代男性』

『この本を読んだことで運が舞いこみ、鉱脈を当て一攫千金に成功しました! 三十代男性』」

「それ何か、違うものへの感想じゃない……?」

「……ま、まあ、喜んでいる人がいるならそれでいいんじゃないかな……」




 こうして『秘めの庭』で魔術の研究を続けながら過ごすうちに、更に数年過ぎる。

 私も、貴族として育ったのであれば王立学院に通う年齢になった。

 乙女ゲーム『王立アストロジア学院』での世界はその一年後に開始になる。

 私は魔術師の施設で隠居状態だから、もうあの学院とは無縁だと思っていた。

 けど。

 どうやら、うまくはいかないようだ。


 王国から偉い人がやって来て言った。

 空きができてしまった王立学院の魔術講師を探していて、その役目をヴェルヴェディノと私に担当して欲しいとのこと。

 もしゃもしゃとした白い髭を撫で回しながら、偉い人は言う。

「前任が孫の誕生を理由に、仕事の引き継ぎ無しで故郷に帰ってしまってね。そんな理由では無理矢理連れ戻すこともできずに困っていたのだが。

どうやらこちらには、若くして魔術書を作り上げた優秀な者が何人もいると聞いたのでね」


 ……どこから突っ込めばいいのかな。

「それは、断ることってできますか?」

「かまわないが、秘めの庭への資金提供について見直すかもしれんな」

 そう言われてしまっては仕方ない。

 ここで生活する皆の生活費用と研究資金を止められないためにも、私はしぶしぶ王立学院に向かうことにした。

 ヴェルヴェディノだけでも講師として充分なんじゃないかとも思った。

 けど、私の研究の半分はヴェルヴェディノの研究が進まないと結果が出ない。なら、一緒に行って、そこで研究を続けるしかないか。

 単純に、ヴェルヴェディノと離れて生活するのが淋しいというのもあるけど。


 ただ、心配事はある。

「講師なんて役目を負うには、私はまだ未熟だと思うんですが……」

 エルドル教授に相談すると、教授は、補佐役を付けるから大丈夫ですよと言った。

「でも、学院に行っている間は自分の研究が止まるんですよ。それなのに私の補佐を引き受けてくれる人なんているんですか」

 そう聞くと、背後から弾んだような声が届く。

「ゲルダリア、平気だよ。僕はそんなこと気にしないからね!」

 いつものようにテトラは明るく笑う。

 そういえば、エルドル教授もシャニア姫からの予言を聞いているんだった。

 ちゃんと配慮してくれたらしい。

「これまでどおり、三人一緒にいられるのね」

「そりゃそうだよ。僕らは三人一緒でないと早死にするんでしょ?」

 何故かそこで得意気なテトラに、ぼやきが届く。

「まったく、テトラは暢気すぎるんじゃないかい?」

 ヴェルヴェディノが困ったような不機嫌なような調子でやって来た。


 私よりも頭一つ分ほど背が高くなってしまった相手を見上げる。

 いつからかヴェルヴェディノは後ろ髪だけ伸ばして束ねるようになった。

 魔術の使えない場所で近接戦を行うときに備えて首の保護が必要だと言っていたけど、私とテトラはそれをしっぽと呼んでいた。

 ヴェルヴェディノのしっぽのような後ろ髪が揺れるのを気にしながら言う。

「ヴェル。私は学院に行ってからも迷惑をかけることになるだろうけど、よろしくお願いします」

「そんな。こちらこそ普段から君には世話になっているんだから、今更改まる必要はないよ」

「なんだよ、二人して。僕も一緒に行くんだからな。ちゃんと役に立つんだ」

「大丈夫、テトラのこともちゃんと信用しているから」

 三人一緒なら、あの学院に行っても大丈夫かもしれない。

 私はあの学院で弟のタリスを見つけたときにおかしくなるのかもしれないけれど、テトラとヴェルヴェディノなら、ちゃんと止めてくれるだろう。

 この二人なら、身内の不正は放っておかないから。



 三人で王立学院に向かう準備を始めたところで、教授から言い渡される。

 これからは今までの名前を学院では名乗らないように、と。

「なんだってまた?」

 そう問うと、教授は厳かに答える。


「君達を一人前の魔術師と認める儀礼の一環です。この庭に集うものは、一人前になった暁には所属の同じ魔術師として、シェルメント姓を名乗ることが義務付けられていますから。その際に、今までの名前とは別に、魔術師としての名前も与えております。王立学院で働く魔術師として認められた君達に、私からの贈り物です」


 そう言われてしまっては、断れない。

 ということで、与えられた私の魔術師名はゲルダ・シェルメント。

 王立学院にいる間は髪と目の色も魔術で変えるように言われたので、私は前世の日本人らしく黒髪黒目に。


 テトラの名前は、トラングラ・シェルメント。

 赤いふわふわした髪は焦げたような茶色に、茶色の瞳は炎の色へ。


 そして。ヴェルヴェディノの魔術師名は。

 ディー・シェルメント。乙女ゲーの中の攻略対象、青髪青目の寡黙な魔術師は、彼だった。

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