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うわ、主人公の故郷、焼かれすぎ……?

この文言のweb広告、廃れましたね


 また主人公の故郷の村が焼けた。


 私がイラストと世界観に惹かれて買うRPGはこんな始まりばかりだ。

 無事にエンディングまで到達しても、どうしてこうなったのかという思いが強い。

 世界が平穏を得られても、主人公は帰る故郷を無くした挙げ句に助からなかった。

 どうやらこのシリーズは、主人公の故郷を焼くことに定評があるらしい。

 なら別の製作会社のゲームで遊ぼう。



 今回は主人公の所属部隊が野営地ごと焼かれた。

 上官の裏切りによる強襲で、いきなり敗走イベントが始まる。

 どうやらこのシリーズは主人公が居場所を奪われる始まりで一貫しているらしい。

 ラスボスは倒したけど、そこから主人公のしがらみの清算があって泣かされた。

 次も、別の会社が作ったゲームを選ぶと決める。



 チュートリアルから中盤までは順調だった。

 途中で主人公の様子がおかしくなって、過去回想が始まる。

 主人公の故郷は、ゲーム開始の五年前に焼かれていた。

 結局は村焼き被害者だったのだ。

 記憶が胡乱な主人公というジャンルがあるらしい。



 今まではゲーム専用機向けのゲームだから村焼きモノに遭遇することが多いのだ。

 基本無料で従量課金制のアプリゲームなら、隙間時間に遊ぶ前提のモノだし重いシナリオも少ないはず。

 そう思いながら、最近人気のアプリをスマホにインストールした。

 キャラデザインもゲーム音楽も、とても私の好みに合う。

 そう油断していたら、チュートリアル後にまた主人公の故郷は焼かれていた。


 どうして……。


 思わずそのまま友人に通話して愚痴ってしまった。

 私の話を聞いた友人は呆れて言う。

「何それ。我慢して毒をたくさん飲んだ報酬にやっと飴玉一つもらえるみたいな話。そんなのDV野郎の手口と何も変わらないじゃん。散々暴力をふるって、弱ってる相手に花束を持ってきて愛してるよっていうのと変わらないよ」

 仰る通り。

 主人公に不幸を強いる物語は、DVによる支配や洗脳で人を縛り付ける行為と似ているのだ。

「感情って、プラスの出来事とマイナスの出来事は別でカウントされるから、エンディングだけよくてもね」

「そうなんだよ」

 私に同情しつつ、友人は言う。

「ゲームシナリオも個人で事前に内容を細かく選べりゃいいんだけど」

「選ぶって? ジャンルじゃなく?」

「じゃなくてさ。いま私がやってるゲームは、ヒロインが顔のいい男からちやほやされるタイプの接待ゲーなんだけど」

「うん」

「そこに話がたどり着く前に、ヒロインが駄目男にウザ絡みされるのが前提なワケ。それを、顔のいい男に助けてもらうっていうお決まりのパターンで。私あれ嫌だな」

「何が嫌なの?」

「ゲームで売り込みたいキャラは、前述の駄目男みたいにヒロインの地雷を踏むような人間じゃないってアピールっぽいんだけど、私その前振りが要らない」

「なるほど」

 メインキャラを持ち上げるためのモブキャラ。当て馬。

 それが狂言回しとして本当に必要かどうかの議論もよくあることだ。

「現実の男に愛想尽かしてるから接待ゲーやってんのに、何でゲーム中でまで駄目男にウザ絡みされる体験しないといけないのか分かんない。キャラは好きだから遊ぶけどさー」

 これは現実上でモテる人間の悩みでは。

「こっちとしては、不快さを完全に削ったものだけお出しして欲しいけど、そう言うと他のファンから物語性がどうとか現実性がどうとかごちゃごちゃ言われんの」

「あー……」

 救われるシチュエーションが欲しい人もいるのだろう。

「私の推しは当て馬なしで輝けるぞって言い返してるけどね」

「強い」

不幸からの脱却話(シンデレラストーリー)は好きでも、前振りの度合いは好みが分かれるでしょ。演出が選択できれば一番いいのにさ」

「ジャンルごとに物語の定型があって需要があるのも分かるけど、主人公の村を焼くのは何でかな……」

 そこまで追い詰めないと旅に出ないわけでもないだろうに。

「あんたはもう、RPGで遊ぶのをやめた方がいーんじゃん? シナリオ上のお約束が辛いなら、向いてないんだよ」

「そうかな……」

 向いていないと割り切ってやめられるなら、こう何度も村焼きを拝んではいない……。



 情報無しでゲームを選ぶのがよくないのだ。

 今回はちゃんと他の人に聞いて、主人公の故郷が焼かれないスタートのもので遊ぶ。

 焼かれはしないけど、廃村による旅立ちだった。悲劇度は低いからいいか……。

 と、思っていたら、仲間になると思った初遭遇キャラが無残に死んだ。

 そこでゲームを投げ出そうと思えなかったのは、主人公の心が折れなかったから。


「テトラは自分に旅の心得を与えてくれた。なのに旅をやめたら、この人の優しさが無駄になる」


 そう己に言い聞かせ先へ進む。

 結局、仲間が五人死んだし敵側も大勢死んだけど、引き返せる段階はとっくに越えていたから、止まれない。

 そして、ゲームの主人公は世界を一時的に救う結果を迎えた。



   *   *   *   *   *



 ミルディンから宿を提供してもらって三日目の朝。

 あのRPGで遊んだときのことをまた夢に視て思い出した。

 近いうちにあのゲームの舞台になっている国へ向かうから、緊張しているのだろう。

 冒険は好きだけど、無謀な挑戦をしたいわけではない。備えを出来るだけ多く用意しなくては。


 用意を済ませて工房に行くと、私と一緒にこの街へ来た人たちが揃っていた。

 全員で北の大陸へ向えるわけではないけど、共同研究を進めていく。

 ここでの研究結果をアストロジア王国に持って帰る許可をもらっているので、北の大陸へ向かう私たちに万が一があっても、研究は続くだろう。


 専用の魔術式を仕込むため、魔剣の柄を改造する。

 周囲の魔力を集めて剣へと流す術式を刻むのは、ヴェルが手伝ってくれた。

 これで私自身の魔力を封じても、今まで通り魔術が扱える。

 ただ、それでは魔剣を取り上げられたら終わってしまうので、他にも補助具を作ることにした。身につけて目立たないものを選んで加工していく。


 ゲーム中の最強武器は、ミルディンが既に二つ確保していた。後衛担当の家出少年用の指輪と、一番最後にパーティへ加入する格闘系お姐さんの手甲。

 それらの武器に使われた妖精魔法を解析し、人の能力で応用できる魔術化も確立できた。ユロス・エゼルの解析技術のおかげだ。

 魔石で作られた武器には、みんな大好き魔法付与(エンチャント)が施されているのだけど、その内容は、武器を通じて攻撃対象の生命力を削り分解する魔法の発現、という恐ろしいものだった。物攻+魔攻による殺意の塊である。そのため、装着部位には使い手が無事であるように保護処理がされている。

 もしかしたら、予知の中で私が死にかけていたのはその魔法のせいかもしれない。

 杖を使っての攻撃を反射され、私は外傷なく死にかける羽目になったのかも。

 魂への攻撃なんて、ゲーム中には存在しなかった。

 そんな凶悪な魔法があるなら、ゲーム中のボスたちがこぞって使いそうなものだ。

 隠しボスも相手の攻撃を反射することはなかったけど、妖精が攻撃反射の魔法を使っていた。

 ということは、今の界砕の王は、生け贄にされたディナ・シーの魔法を継承してしまった可能性がある。

 突き詰めると、私が死にかけたのは、武器の構造を知らずに起こした自滅なのでは……。

 大体、最強装備というのは武器だけではない。防具だって存在する。なのに、予知の中の私は武器しか持っていなかった。紙装甲でボスに挑むのはよくない。

 そんなわけで、武器に施された使い手の保護魔術も他の道具に転用することが決まる。

 これがあれば、他の攻撃も受け付けにくくなる。


 最強武器のうち、残る三つはまだ現地にあるはず。

 ルジェロさん向けの長い杖と、ヒロイン用の扇子、主人公用の剣の装飾具。

 在り処は全部覚えているので、偶然を装って発掘できないかと目論んでいた。

 主人公用の装備なら、ヴェルに使用適正があるかもしれない。


 道具作成の合間にご飯休憩していると、ヴェルがためらいがちに言う。

「この前の話で気になっていることがあるんだ。舞燈の王は、どうして君に現状の責任があるなんて言ったの?」

 そっか、詳細が分からないと、無茶振りされてるだけに感じるかもしれない。

 どう説明しようか。

「……私が貴族の役割から逃げて魔術師になったことは、影響が大きかったみたいなの。私とテトラが魔獣狩りに出て、代わりに他の魔術師たちの研究時間が増えて、アストロジア王国の魔術の発展度合いが変わっている。それは封じられた異界の王には都合が悪かったみたい。舞燈の王は詳しく説明してくれなくて、実際はどうか分からないけど……」

 案の定、ヴェルは不満そうだ。

「そういう経緯があっても、君が無理する必要はないよ。責任だなんて言いがかりじゃないか……」

 私やイライザさんが物語の外側から情報を持ち込んでいるのは、ラスボス視点だと反則どころか脅威になるので目をつけられるのは仕方ない。

 でも、それを知らないヴェルは私に同情的なので申し訳なくなる。

「ありがとう。でも、ここまで来たなら、このまま私達がミルディンに協力するのが一番手っ取り早いと思うの」

 ミルディンなら容赦なく足手纏いは要らないと言うだろうから、まだ工房から追い出されていないということは、私たちの出す情報と道具が役に立っているのだろう。

 ここまでは順調だ。

 問題があるとするなら、ゲーム一作目の武器が、続編のボスにも通じる保証がない点。

 倒す優先順位は界砕の王だけど、舞燈の王の限界が来る前にここに戻ってきて、あの覗き魔(かくしボス2号)と戦う用意をしなくては。




 共同研究の開始から一週間。

 驚異の速度で研究が進み、道具が仕上がっていく。

 最新技術を使った工房に慣れてしまうと、もうアストロジア王国での作業に戻れないかもしれない。

 最終調整を済ませ、あとは私の魔力を封印する段取りになった。

 その処置は、ヴェルに行ってもらうことにした。

 二人で宿の一室を借りて向かい合う。

「そういえば、私の魔力を封じたらアエスはどうするの?」

 顕在化のためにヴェルからだけ力を引き出すのは、負担になってしまう。

 そう考えていると、ヴェルは手のひらにアエスを乗せてこちらに差し出す。

「あらかじめ対策は取ってあるよ。アエスは普通の生き物じゃないから、体内に魔術を仕込んでも大丈夫なんだ」

 言われてよく見ると、アエスの背中辺りにぼんやりと円陣の光が見えた。

 私が使う道具と同じ、周囲の魔力を取り込んで自分用に変換する術だ。

「いつの間に……」

 そんな時間あったっけ。

「君があの魔術師に何か言われて、鋼玉の錬成をしている間にね。何で君があの作業をしてたのか謎なんだけど……」

 あれは……。

「北の大陸では、妖精避けのために宝石を用意したほうがいいって言われたの」

「そうなんだ?」

 正確には、愛人妖精(リャナンシー)を追い払うための魔術を教えてもらっていた。

 北の大陸には、男をさらって生命力を吸う妖精が存在するのだ。

 ミルディンから、

「貴方の連れはリャナンシーの餌食になりそうな人間ばかりですね」

と、馬鹿にされているのか哀れまれているのか分からない口調で言われてしまった。

 そんなことを言っておきながら、ミルディンは、リャナンシーの餌食になりそうと判断した理由を説明してくれない。

 根拠が不明とはいえ、ヴェルとテトラを連れさられるわけにはいかないから、私は対策を取るしかなかった。

 この世界の妖精族で人に近い倫理感をしているのはディナ・シーとケット・シーぐらいなので、他の妖精は人間に有害だと思った方がちょうどいいのだ。

「……ヴェルは、妖精に興味ある?」

 ついそんなことを聞いてしまう。

「僕? 妖精猫に懐かれなかったのは残念に思ったけど、他の妖精には興味ないかな」

「ならいいの」

 もふもふなら許す。スシュルタとイージウムは何故かヴェルに辛辣だったけど。

 そのやり取りを終え、私の魔力を封じる儀式を行う。


 静かに目を閉じ、意識を集中する。

 ヴェルが私の額に触れ、じんわりと熱が伝って魔力が流れ込む。

 くすぐったい。

 誓約のときとは違い、一方通行の魔術。

 自分の力が内側に押さえ込まれることに、つい抵抗しそうになる。

 だけどここで反発すると、術を仕掛けるヴェルが危ない。

 我慢するうちに、魔力を察知する能力がどんどん鈍くなっていく。

 相手がヴェルでなかったら、この処置は受け入れられなかっただろう。

「……終わったよ」

 言われて、ゆっくりと目を開ける。

 ヴェルは私を気遣うようにかがみ、視線を合わせる。

「異常はない?」

 彼が私を心配する理由をすぐに理解した。

 受け取る感覚が、今までと違うのだ。

 体が芯から冷えてしまったかのような、落ち着かなさ。

 今まで身近に感じていたものを失うのは、想像したよりショックが大きい。

「ずっと思い通りになっていた力を扱えなくなるのは、予想していたより不安になるものね」

 ついそう呟いて、自分の手を見つめる。

 手の甲には、ヴェルとの誓約の証である白い花が浮かぶまま。でも、誓約を自分で知覚することができない。

 ……これでは、何かあったときに私からヴェルの居場所が分からない。

「念のため、アエスには常に君の側に居てもらうよ」

「分かったわ」

 アエスが私の手のひらに乗って、翼を広げてキリッとした顔をする。その頑張りますアピールを微笑ましく思い、アエスの頭を撫でて言う。

「これからもよろしくね」

「ピュイ!」

 自分で選んだことで落ち込んでいる場合ではない。早く、外から力を借りる魔術に慣れなくては。

 目標は高い方がいい。ソリュ・ロロノミアぐらい魔術発動が早くなるように訓練しよう。


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