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空を飛びたい魔法使い  作者: ヨウレ
二章 逃亡
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七話 出産祝い

 魔法の練習を再開した、


 ハンググライダーの初飛行の時、僕のつたない風魔法でも姿勢制御に役立った。

 しかし、今の僕の風魔法は弱い、強くする方法も見つからない、それなら数を増やそうと考えた、2個同時の風魔法を3つ4つに増やそう。

 しかし、これが難題だ。どう練習すれば良いかも分からないんだ。


 無意識にベッドに横になり古代文字の教師ロイの事を考えていた。ロイは、マッシモが三冊目の魔法書を書こうとしていたと言った。それは訓練や練習だけで魔法の次のステージに行けるのか? それとも、それ以外の何かが必要なのか? 内容が知りたい。


 神ノ山に行きたい。壊された道を自分の目で確認したい。迂回うかいできないのか? ハンググライダーで越えられないか? こんな時王族の身分が恨めしい。

 もし僕が黙って国境を越えたら政治問題だし下手へたしたら戦争だ。訳を話せばグレンフィートが大陸の再統一や侵略の意思があるかと勘繰られてしまう。父上や爺もみなが反対するだろう。

 そんなことを考えながら僕は寝たらしい。


 ノックの音がしてる。それも結構激しく。返事をするとリーリアと侍女が顔を出した。


「王子、……寝ていらしたのですか? メグ様を知りませんか? もう一時間もお探ししてるのに見えないのです」


「分かった。……今起きるよ。一緒に探すから……」リーリアに答えながらベットの足元の方に不自然な毛布の塊を見た。


 毛布を持ち上げると丸くなって寝てるメグを見つけた。


「ああ良かった! メグ様、起きてください。メグ様」とリーリアが起こす。


「おはよう」と、寝ぼけてるメグが起きだす。


「メグ様、なぜここで寝てたのですか?」


「にいさま、よんでも返事しない。だから部屋に入った。呼んでも起きないから起きるの待ってた」


「よろしいでしょうか?」と、リーリアと一緒に来た侍女が訊ねる。


「どうしたの?」


「レオン王子、奥様がお呼びです」


「母上が? 今?」


「はい、今いらした方がよろしいかと」


「え~っ、にいさまは今からメグと遊ぶのに」


「メグも一緒に母上のところに行こう!」


「……うん」


 母上の侍女に皆でぞろぞろと付いて行く。


「やっぱり、庭で遊ぶ」と、メグが行ってしまった。


 あいつ母上に悪戯でもしたのかな? と思いながら後ろ姿を見てると。


「王子」と、侍女に呼ばれてしまった。



 サロンで母上が待ちわびてた。


「母上、お呼びでしょうか?」


「たまには、お茶に付き合いなさい」


「はい、もちろん。それで、今日はなんでしょうか?」


「出産祝いの贈り物のデザインを選んでほしいの」


「ええと、それは、息子に出産祝いを強請ねだっているのでしょうか?」


「私の出産ではありません。そもそも、あなたにその様な物を強請る訳が無いでしょう」

「あなたも、いろいろ迷惑を掛けた侍女のアンナです。後三月程あとみつきほどで生まれるそうです」


「ああ、小柄で元気でくるくる動く母上付きの侍女ですね。ここを辞めて嫁いでたのですか? それが母上と同じ時期に出産ですか、奇遇ですね。で、出産祝いに何を贈られるのですか?」


「カトラリーにします。彼女は、他国に嫁いだので私の庇護が受けられなくなりました。だから、せめてもの品を贈りたいのです。女王の私の名前の入った彼女の力になれる品を贈りたいのです。あなたには、名前とは別の模様か図柄を入れるのでそれを選ぶのを手伝いなさい」


「グレンフィートの紋章は使わないのですか?」


「そうです、使いません。全てのカトラリーに『アナマリアトからアンナへ』と、入れます。それだけでは寂しいから、何かもうひとつ入れたいのです。この後、商会の者が職人を連れてきます、そこで一緒に考えなさい。よろしいですね」


「分かりました。少し考えたいので商人達が来るまで庭を散歩してきます」


 薔薇園の薔薇の小道、いつも遊んでいる芝生の庭に向かう通り道だ。ここでよくアンナを見かけた、薔薇を眺めてたり庭師の手伝いをしていた。今思えば彼女は薔薇好きだと思う。


「遅れました」と、応接室に入っていくと。母が商人たちと私を紹介し、商人達に挨拶をして話に加わった。


「母上、どこまで話が進んだのですか?」

 テーブルの上には、沢山のカトラリーが広げられていた。

 

「このセットに決めました。ここに、名前を。ここに、何か図案を入れたいと考えています」


「母上、何セット贈られるのですか?」


「40セット考えています。それが?」


「それでは、4セット毎に10種類の異なった薔薇の花を入れませんか? 王宮の薔薇園に咲く薔薇の花を」


「それは、良いですね。彼女は薔薇が好きでしたね」


「それでは、私が職人たちを庭師の所に案内し花の候補を選んできますね。候補が決まったら図案を作成して提出してもらいましょう」


「ええ、よろしくね」



 昼食が終わるとメグがまとわりついてきた。


「にいさま、かあさまの用事終わったの?」


「うん、終わったよ。何して遊ぶ?」


「お空を飛びたい!」


「馬車に乗って遠くまで行かないとできないから難しいな。竹とんぼか竹ひご飛行機で遊ぶか?」


「もっと高くとぶの!」


「……なんか考えるね。でも今日は竹とんぼにしよう」


 芝生の庭に向かう途中の薔薇の小道で、

「メグ、侍女のアンナを覚えてる?」


「う~ん、覚えてない」


「アンナは時々ここで庭師を手伝い薔薇の花ガラを取ってたんだよ」


「バラのおねえちゃん! いっつもメグのおへやにバラを飾ってくれてた。バラのおねえちゃんのこと、メグ覚えてるよ」


「そうか覚えてるか」


「バラのおねえちゃんに赤ちゃんができるんだって」


「かあさまと一緒なんだ」


「母上もバラのおねえちゃんも元気な赤ちゃんが生まれると良いね」


「うん」


 久々に竹とんぼで羽根突きをし、部屋に戻ると侍女にシーツを一枚取に行かせた。遊びで使い切り刻むから無地のごく普通の物を。

 竹を細い棒状に割る。シーツにゲイラカイトの骨の位置に竹の細い棒を小麦粉で作った糊で仮止めする。針と糸でシーツと竹の棒を何か所も縫い、チョキチョキとカイトの形に切り抜き、最後にお腹のピラピラを糊で止め縫いつけ終わり。


 裁縫上手な侍女に頼むとあっと言う間に縫ってくれる。後はカーメラ商会に太い木綿糸(タコ糸の代わり)を注文して届くのを待つだけ。


 侍女にメグに話すなと釘を刺す。メグが知ると次の休みの日まで待てなく駄々をこねるからと。



 次の休みの日、


「にいさま、今日の玩具おもちゃは魔法で飛ばすの?」


「いいや、今日は魔法は使わないよ」


「あ、そうなんだ」あ、メグのテンションがちょっと下がった。


「メグ、兄ちゃんの玩具にハズレは無いだろ」


「う~ん、あんまりハズレがない」何だ、何かハズレがあるのか?


「メグ、もうちょっと期待しろよ!」


 なんて言ってるうちに騎士の訓練場についた。


「じゃあ、やってみるからな。フランク用意してくれ」カイトの調整の時、散々付き合わせたので慣れた動作でカイトを持ち十歩ほど離れた。


「放せ!」と、ふたりで走りながらフランクに告げる。


 ゲイラカイトは風に乗りぐんぐん上がって行く。


「メグ、どうだい」


「にいさま、すごい、高い、もっと高く上がるの?」


 メグが上を向いて口を開けてカイトを目で追っている。ポカンとしてるメグがフッと我に返ると、

「やりたい、にいさま変わって!」


「どうぞ」と、糸と糸巻きを渡した。


 受け取ったメグに、

「糸を常に張っているんだ、糸が弛んだら糸を巻いて、強く糸が張ったら少しずつ糸を出していく」


「すごい、すごい、高い? この間の飛んだ時より高い?」


「高いかもしれないね」

 

 メグは気に入ってくれたみたいだ。僕はカイトのもっと先に自分の飛んでる姿を想像してにやけている。



 休みの日の午後、


 メグが僕の部屋で綾取りをしてる。


「なんで、兄ちゃんの部屋で綾取りしてるの?」


「天気になったら、にいさまとカイトで遊ぶ!」


 流石に今日は無理だと思う。僕は窓から空を見上げる。空は真っ黒でみぞれ交じりの雨が降っている。普段なら天気が悪ければ城の大階段の踊り場や大広間で遊んでる。しかし来週の成人式の為、城に人が溢れてる現状では城の中で遊べやしない。


「にいさまも綾取りやって!」


「ふふふ、兄ちゃんの腕前の披露だ」

 転生後、動かした事の無い指の動きが破滅をもたらした。

「痛い、痛い、指がつった、両手の指がつった、リーリア、フランク、指を伸ばして、リーリアはこっち、フランクはこっち、もっと優しく、その指じゃないこっち」

 もうほとんどパニック状態だった。


 メグは呆れて帰って行った。



 兄上が成人した。成人式とお披露目のパーティーで丸一日潰れた。

 まあ、どこでも同じで無駄に長い長い。兄上は皇太子と正式に認められニコニコしている。良いことだ。これでお家騒動の種がひとつなくなり、めでたい、めでたい。


 先日綾取(あやと)りをして指がつったのが恥ずかしい。

 転生前の僕はもっと器用だったと思いながら手を眺めて、もっと器用になり指一本一本が自由に動けば綾取りも難なくできる。器用さの代わりに魔法、この指一本一本に魔法をつかさどらせれば3つ4つと魔法の同時発動が可能かもと思いついた。


 取りあえずやってみよう。指先の魔法制御、風魔法じゃ感触が小さすぎて感覚があやふやだし目で見てわからな。

 水魔法がやり易い。少し広めのテーブルにコップ一杯の水をぶちまけ、左手の人差し指をテーブルから少し浮かせ水玉を作る。次に中指で水玉を作る。これで同時発動ふたつ。次は右手の人差し指、ここからが難しかった。

 左手の魔法が解ける。右手の人差し指の魔法が発動しない。まるで体中に蕁麻疹じんましんが出るような歯がゆさが続いた。

 挫折した。諦めた。

 3日間、悶々としていた。もう一度トライした。

 挫折した。

 2日目に暇だったので、また始めた。

 そんなことを繰り返してた。

 何回も何回も繰り返した。


 何気に出来た。左手の人差し指に水玉、左手の中指にも水玉が、右手の人差し指にも水玉ができてる。


「へへへへ、へへへへ、へへへへ、へへへへ」変な笑いが止まらなかった。誰かに見られたらドン引きされたと思う。


 一度できると、もう失敗はしなくなった。左手の人差し指、中指、親指も難なく出来た。指3本なら右手左手のどの指でも問題なく可能だ。

 しかし指4本は全く出来ない。指4本でまた同じ事を繰り返すと思うと泣けてくる。

 地道に続けよう。



 魔法の3つ同時発動ができて数日後の夕食時、


「にいさま、仮病で学院さぼるならメグと遊ぼう!」


「レオン、本当か?」と、兄上。


「いえ、いえ、違います。先日下町で屋台の食べ物にあたっておなかを壊したからです」


「ふらふら遊び歩くのもいい加減にしろ」


「はい、今後は気を付けます」と、兄上を胡麻化ごもかしてると母上の視線も痛い。僕は早々にその場を逃げだした。


 メグが部屋に戻ったのを見計らってメグの部屋を訪ねた。延焼を食い止め防火をする必要がある。


「メグ、少しお話しよう」


「いいよ」


「メグは何でお兄ちゃんを苛めるんだ?」


「え、いじめてないよ」


「でも兄ちゃん兄上に怒られたよ」


「……」


「メグ、兄ちゃんが仮病でさぼってるって誰が言ってた?」


「みんな」


「侍女のみんな?」


「そう」


「今度のお休みの日はず~っとメグと遊ぶから許してくれる?」


「うん、許してあげる」おお、笑顔が戻ったな。


「じゃあ、お休み」


「おやすみなさい」


 部屋のドアを開けてくれた侍女に、

「君たちメグの前でのお喋りはもっと気を使って」


「すみませんでした」


「気を付けてね」


「はい」


 これでこの火事は完全に消火したな。これでさぼりも有耶無耶になるだろう。



 甘かった。


「母上、何でしょうか?」


「アンナに貴方が作った玩具を一式全てお送りなさい」


「それは出産祝いでしょうか?」


「そうです」


「お代は?」


「あなたがお出しなさい。ハンク(兄上)は上手く誤魔化せても私は誤魔化せません。今後は勝手にずる休みをしないようにしなさい。良いですね?」


「はい、もう致しません」


「では下がりなさい」

 

 母上にくぎを刺された。当分ずる休みが出来なくなってしまった。困った、困った。


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