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空を飛びたい魔法使い  作者: ヨウレ
一章 転生そして魔法使いに
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四話 赤い鉱石

 僕は魔法に頼らず大空を目指すことにした。


 まずは先日知り合った大店おおだな、カーメラ商会を呼んで情報収集を開始した。

 帆布の調達、元の世界でも本物を触ったことがない、帆布製のかばんを持っていただけだ。こちらの世界の帆布を取り寄せた。ちょっと薄くて、ちょっと弱っちくて、少し軽めの帆布だった。何とかなりそうだ。

 竹と絹、どちらももっと温暖な地方に行かなければ手に入らないだろう。竹は竹細工の調理器具を見たことがある。絹は母上や侍女たちに聞いてみたが全然知らないみたいだ。

 アルミ、どこかにボーキサイトがないか調べさせた。カーメラ商会のつてで大手のホーガン金属卸しに話を通し、赤っぽい軽い石がないか探させてる。ちなみに土魔法の還元(酸化物から酸素を取り除くこと)は割合簡単なのでボーキサイトからアルミニュウムを取り出すのは可能だと思ってる。



 革細工職人からの革のボールが届いた。ちょうどバレーボール位の大きさと重さで、少しヤワだけど上出来だ。早速メグとボール遊びに興じた。


「メグ、今度のボールはどう?」


「こっちのほうがいい!」


 喜んでもらえた。しかし、このボール遊びは下手な方より上手い方が走り回る理不尽な遊びだと気づいた。メグはニコニコと元気だが、僕はヘトヘトになった。まあ、寒い冬には体が温まってちょうど良い。負け惜しみだけど。


 この新しいボールを20個ほど注文し、届いたボールを母上やメグの侍女に配って歩いた。暇なときに子供や幼い弟妹と遊んでみてほしいと。上手くいけばメグの遊び相手が確保でき、僕の小遣い稼ぎになると思っての先行投資だ。


 「ボールなげるよ」と、メグ。

 「メグ様、お上手です。少し高く投げますね」と、侍女。


 思ったよりうまくいった。母上付きの侍女や付き人の妹や娘さんが、メグのボール遊び付き合ってくれてる。このボール、特に小さい子供に人気が出た。



 いつも通りメグと庭に出て、


「何して遊ぶ?」


「竹とんぼ」


「昨日も竹とんぼだったよ」


「にいちゃまとお外で遊ぶ時は竹とんぼ」


「なんで?」


「みんな魔法がへたっぴだから面白くない。にいちゃまと遊ぶとき以外は竹トンボであそばない」


 メグも考えてるんだと感心してしまった。


 30分も遊ぶとへとへとになる。魔法プラス運動は疲れる。

「メグ、少し休憩……しよう」息も絶え絶え。


「いいよ」


 ふたりで庭にあるベンチに腰掛けた。


 特に聞く事もなかったので何気に、

「メグ、勉強はどうだ?」


「うん、、順調だよ」


 一瞬言いよどんだ感じがした。それにわずかに目をそらした。辺りを見回すとリーリア(付き人)や侍女達は皆ニコニコしてるだけだった。

 僕は思い出したぞ、こいつらは役立たずだと。


 メグと他愛もない話をした後、また竹とんぼで遊んだ。


「そろそろ昼食のお時間ですのでお着替えに戻りましょう」と侍女が提案する。


 へとへとの僕はその提案に乗った、

「お終いにしよう?」


「うん、いいよ」


 みんなで本宮に戻った。


 メグと別れた僕は、爺の部屋に行き。

「爺、入るぞ」と入室した。


「……」最近は爺に何も言われなくなった。それはそれで寂しいものだ。


「爺、メグの勉強ははかどっているの?」


「何も苦情が有りませんから順調でしょう」


 そうだ、爺も甘々だった。メグは調子の良い処があるから心配だ。僕はメグの家庭教師に会いに行った。


「先生、メグの授業の進み具合を教えていただけますか?」


「はい、レオン王子」


 僕の昔より良いが及第点ギリギリだ。その点を指摘すると。


「女王様も女の子だから普通でよいとおっしゃいましたので」


「この成績は普通より低いと思います」


「しかし皆があまり厳しくしてはと仰いますので」


「皆とは誰?」


 爺を筆頭に付き人や侍女の名前を上げられ、思わず苦笑してしまった。教師の元を辞して母上のもとに向かった。


「母上、少しご相談したいことが」


「何ですか?」


「メグの勉強の進み具合です。もう少しお尻を叩いてやらせるべきだと思います」


「爺もリーリアも何も言ってきませんが」


「彼らは甘すぎます。この先、苦労するのはメグです。私も爺とフランクが甘すぎて苦労しました」


「レオン、あなたは何をしたいのですか」


「私がメグの勉強を看ます。爺とリーリアに口を挟まないように言ってください」


「わかりました。爺とリーリアには伝えます」


「失礼します」


 母上がつぶやいた、

 あの子は何を言ってるのかしら、あなた(レオン)が一番メグに甘いわよ。



 僕は考えがあってカーメラ商会に向かった。カーメラ商会行くとすぐに主人が出てきた。


「今日は、どのようなご用件で?」


「紙をこれと同じ寸法に切って届けてほしい。なるべく急いで」と、トランプとカルタのサンプルを渡した。


 幼児教育、トランプとカルタが定番でしょう。直ぐに紙が商会から届き、文字と絵の上手な付き人と侍女を集めて2日で作り上げた。



「にいちゃま、なぜここにいるの?」


 そうここはメグの授業を行ってる小部屋だ。気分は授業参観の父兄そのもの。


「メグの頑張って勉強してるところが見たくて」


 メグも初めのうちは僕に緊張して大人しく真面目に話を聞いていたが、授業も中ごろすぎるとキョロキョロしたり髪を触り欠伸したり集中力ゼロだ。まあ、小さいから仕方ないが文字の読み書きと足し算くらいは何とかしようと心に決めた。

 授業の後にお勉強じゃあ可愛そうなので翌日の午前中一緒に遊ぶ約束して開放した。



「にいちゃま、なにしてあそぶの?」


「今日は、カードゲームをします。一緒に遊ぶ人はメグ、僕、侍女のサライとヤーナの若いふたりに参加してもらいます。初めは七並べをします」


 どうも僕の狙いが分かったらしくジト目でみるみる機嫌が悪くなっていくメグ。ルールを皆に教えてゲームスタート。僕はメグの後ろで助言係り、メグ、サライ、ヤーナの三人でゲーム開始。二回、三回と進むうちに楽しくなったらしくメグもご機嫌で遊んでくれた。カードもお子様仕様で数字に合わせて模様を個数分全て描いてある、そうたとえばハートの13には13個のハート模様が描いてある。数字が読めなくても手と足の指を駆使すれば遊ぶことが可能なんだ。


 一時間ほどで終了。短い時間を毎日続ける方が集中できるし早く数字を覚えてくれると考えたんだ。休憩してお茶とお菓子を食べ次はカルタを行う。ここで奇跡が起こった。メグが一度もビリにならない。そうサライが驚異的に鈍いんだ。「あーあー」と声を上げるがまったく手が付いてこない遅い遅い。メグは自分より弱い相手がいて喜んでいるが、サライは半べそを掻きながら最後まで頑張ってくれた。後でお礼をしなくては。


 メグと僕の努力の結果、一月後メグの学力は人並み以上に上がった。地理は地図でボードゲーム風にして遊び。歴史は魔法使いの物語などを面白可笑しく脚色して話してあげた。


 吟遊詩人の詩や戦史を改めて読み返したことでいろいろ考えることがでてきた。


 空を飛ぶ魔法について色々書かれてる。例えば「魔法使いは輝ける翼を駆って大空から舞い降りた」「王は白い鷹のように敵の中に切り込んで行く」「王は羽ばたきもせずに上空に駆け上がり去って行った」。

 ロイの話から、空を飛ぶ魔法は子孫に伝えられる道具が必要と僕は推察する。「輝ける翼」、これは金属の翼なのか或いは絹のドレスのような光沢をもつ翼なのか? 「白い鷹」「羽ばたきもせず」これはグライダーやハンググライダーを指しているのか?


 もうひとつ、「敵に雷の一撃を加え城門を打ち破った」「風と氷の欠片が舞い雷光の一撃でドラゴンの歩みを止めた」これから想像できるのは強い雷を作ることができそうだ。風で氷の欠片をシェイクし静電気をためているのか?


 これで進む方向が決まった。ひとつはハンググライダーの製作(予定通り)。もうひとつは雷の一撃、雷は無理にしてもスタンガン程度はできそうだと思う。


 スタンガン計画始動、先ずは両手ですくえる程の氷を作成しドラム型洗濯機の要領で攪拌かくはんした。ピリとも来ない。雷は氷の粒の摩擦だったと思うがこれではダメなのか? もっと効率の良いもの、元の世界ならプラスチック片が良さげだが? 絶縁物質で軽く小さく均一なもの、う~ん雲母うんもが良さげかなと思いホーガン金属卸しの店に向かった。


 店で声をかけるとすぐ奥へ行き、お茶をふるまわれた。主人は会合に出ているがすぐ戻るので待って欲しいと言う。ただの買い物だから誰でも良い、と言うが聞き入れてもらえず待たされた。これは約束も入れずに急に来て仕事の邪魔じゃないか? 爺や母上にばれたら、またお小言を言われそうでちょっと憂鬱だ。


「大変お待たせして申し訳ありません。王子、今日はどのようなご用件でしょう?」


「その前に私はただの客だ、主人と打ち合わせなら前もってその旨伝える。ただの買い物の時は店員が相手をしてくれば良いと思う」


「そうは、行きません。粗相そそうがあっては困りますので」


「私も困る。分かったから今日の事は、付き人やハーゼン()には内緒にしてくれ」


「承りました。それでご用件は?」


雲母うんもを扱っているかな? ほんの少しの量で良いのだが」


「? どんな物でしょう?」


「柔らかめの鉱物で薄く剥がれ、キラキラして顔料にも使われるかもしれないな」


「ああ、雲母ですね。今お持ちします」主人は店の者に取りに行かせた。


「雲母は、よく扱うのか?」


「ええ、大量には扱いませんが、少量必要とされるお客はおります。ああ、こちらになります」と一塊の雲母を渡してくれた。


 僕が雲母をじっくりと見てると店員のひとりが主人に耳打ちしているのが目に入った。主人が声をかけてきたので顔を上げると。


「先日、頼まれました赤い鉱物のサンプルが幾つか入手致しましたのでご覧ください」先ほどの店員がテーブルの上に鉱物の入った箱を並べ始めた。


 彼が並べ始めてすぐ、その赤っぽいころころとした石に目が留まった。主人に断って手に取り土魔法を発動した。還元した後には、鈍い銀色のアルミニウムのコメ粒ほどの塊とそれ以外の鉱物が手のひらに残った。


「ほほう、土魔法ですか。お上手ですね」と主人が声を上げ。初めて見るのか先ほどの店員は目を丸くしてる。


「当たりだ。これが探していた鉱物だ。どこで採れた?」


「サイトフィートです」


「キース山脈か?」


「いえ、トーモア砂漠です」


「露天なのか?」


「そのように聞いてます」


「入手したい。明日の午後早くに来てくれ、ハーゼンも一緒に話をする。その時に量と時間と金の話をする。ハーゼンには私から話をしとく」


「ええと、今日の事はどうしますか?」


「些細なことだどうでも良い。雲母の代金は明日払う。それから明日、あるだけその赤い石を持って来てくれ」


 言いたい事を言った僕は直ぐに辞して城に戻った。



「爺、入ってよいか?」


「どうぞ」


「爺、話がある」


「金の無心ですか?」


「えっ、なんで分かるの?」


「まあ、みんな同じ対応をしますから」


「明日、ホーガンが来る。ホーガン金属卸しから赤い鉱石を買いたい。協力してほしい、おもにお金のことで」


「なんでその鉱石が必要なんです?」


「空を飛ぶため! 始まりの王達は魔法と道具を併用して空を飛んだと考えている。その道具をその鉱石から作り出してると思うんだ」


「どうやって作るのですか?」


「もちろん土魔法で行うつもりだ」


「えっ、出来るのですか?」


「できる、土魔法も人並みに使える。ある程度のサンプルを入手して加工にかかる時間を算出したい」


「金額はまだ全然分からないですね」


「ああ」


「分かりました。後は、明日の話し合いで」


「爺、お願いする」



 翌日午後、ホーガン金属卸しの主人が訪れた、


「主人、王子がわがままを申してすまんな。よろしく頼む」と、爺が挨拶する。


「こちらこそ贔屓にして頂きありがとうございます。それで、こちらが今お納めできる赤い鉱石です」


「やはり少ないな。1㎏はあるか?」


「いいえ、300ℊでございます。で、いかほどご入用で御座いますか?」


「私は、100㎏欲しい」


「王子、それほど必要なのですか?」と、爺が聞いてくる。


「精錬したものが最低30㎏、できれば40㎏以上欲しい」


「なるほど、それくらいになりますか」


「で、主人幾らになる?」と、爺が聞いてくれた。


「こちらになります」と、主人が金額を紙に記して示す。


 僕はのけ反った。考えていた額の十倍いや二十倍以上。思わず爺を見ると、


「まあ、こんなものかな。納期はどれ位かかる?」と、爺。なぜ爺は驚かないの?


「一年程見てください」


 また、驚いた。

「なぜ、それほど高価で納期がかかるのだ?」と、僕。疑問だらけだ。


「私ども民間の商人は他国から調達する場合、鉱石や原石で調達しません。国同士の直接取引以外は普通、鉱石や原石では移動できないのです。通常、金属は地金、宝石は半加工品かカット済みの製品でしか国境を越えられません。雲母などの顔料や絵の具などに使われる一部の品だけが鉱石のまま流通してるのです」


「王子、密輸に直結するから精錬したもの以外の取引は難しいのだ」と、爺が補足する。


 僕は理解した。相当難しいことを頼んでいると。


「国家間の取引を行うのであれば、産出国、通過国全てに用途を明らかにして折衝せっしょうを行う必要があります。費用は安くなりますが、時間はもっとかかります。また、許可が下りない場合も有り得ます」


「王子、10㎏の費用は王国で用意します。残りは王子自身で調達しなさい」


 爺は、太っ腹だった。

「ありがとう、爺。主人10㎏はなるべく早く入手して。残りは保留だ。その間に金策する」



 このごろ、お金の事ばかり考えてる。

 金儲けのネタに昔読んだラノベを思い出してみる。トランプ、カルタ、石鹸、紙、印刷、和食、衣類やドレス。

 トランプ、カルタ、すぐに真似され大金にはつながらない。石鹸、ちょっと質の悪いものは既にある。紙、既にある。印刷、難しそうでやる気も無い。和食、食べるオンリー。衣類ドレス、僕にセンスは無い。元が社会人3年目の新米技術者にはどうにもならない。思考放棄した。



 部屋に戻り、とりあえず頂戴した雲母で雷魔法について考えよう。

 雲母と言えば、雲母の代金を忘れていたので支払いしようとしたらサービスですと言われた。いや、代金は払うと強く言うと、先日店でお出ししたお茶菓子の方がはるかに高いと言われ赤面した。

 氷の代わりに雲母を作り出し、風魔法で勢いよく攪拌かくはんしたらパチパチ音がし始めた。


 このスタンガン魔法の効果をどうやって調べれば良いか悩んでる。人は不味い、馬やペットの犬も不味い、城の中で探すのは無理だ。詰め所の牢、ここも未決(有罪か無罪かが決まっていない)しかいないからダメだ。夜の往来でごろつきに絡んで実験するか? 間違って一般人に絡んだら僕自身が犯罪者になってしまう。



 少し肌寒いが庭で寝転んでいるとメグと侍女の声が聞こえてきた。立ち上がって声のした方向を見るとボール遊びに興じる姿が見えた。ボールを見てカーメラ商会に行こうと思った。フランクを探しふたりでカーメラ商会に向かった。


 歩いてる最中にフランクが、

「お出かけの時に私に声をかけてくださるなんて珍しいですね?」などのたまいやがる。


「色々と爺に頭が上がらないからな。少しはお行儀良くしないとな。それと主人がいなかったら直ぐに港の方に行くぞ」


「はい。……なぜ待たないのですか?」


「店の者や主人を走らせるのは気の毒だからな」


「王子、何の為に行かれるのですか?」


「世間話を」


「用事は無いのですか?」


「無い。世間話をしたら良い金策を思いつくかな」


「ああ、わかりました。散歩のようなものですね」


「おお、分かってくれたか」


 店に着き主人の不在を知るとそのまま直ぐに港に向かった。どうも今日はめぐりあわせが悪いな。


 港でする事もなくぼんやり船をふたりで眺めてた。


 フランクが退屈さに飽きたのかふらふらと釣り人の方に向かった。フランクも付き人のくせに自由人だと思いながら釣り人とフランクを見てた。


 暇な僕の脳は、ひとり連想ゲームを始めてた。釣り、魚とり、毒もみ(毒もみの好きな署長さん、宮沢賢治作)、電気ショック漁。僕は魚でスタンガンを試そうと決めた。


 釣り人とフランクを見ながら、どこに行くか考えた。こんなに開けて人目のある港は不味いだろう。やはり人目のない小川がベストだ。地図を思い浮かべ、町はずれの小川に決め。フランクに声をかけた。

「フランク、帰るぞ」


 城に到着し部屋に戻る途中、フランクを煙に巻きひとりで再び城から出た。門番の兵士が何か言いたそうだが目をそらしスタスタと歩き去った。途中でちょっと大き目な魚籠びくを買いひとり小川に向かう。


 そこには僕の想像とかけ離れたものが見えた。見える範囲の上流から下流まで人がいっぱいいるではないか。何で? ひとりの男に話を聞くと、魚(たぶん鱒だと思う)が産卵の為に遡上する、その為支流のこの小川にも紛れ込こむ。本流では難しいがこの小川では魚が簡単に捕れるため人が集まってるとの事。これが二週間位続くそうだ。


 たくさんの人の魚取りをぼんやり眺めながら今日一日なんかズレた日だなと考えてた。おもむろに立ち上がり城に向かって歩き初めた。



 朝暗いうちに城を抜け出した僕は港を目指した。漁船の船着き場付近は朝も早くから人が多い、だが荷物の揚げ降ろし用の桟橋付近の早朝は無人の筈と考えたのだ。ここで魚相手にスタンガン魔法の調整をするつもりだ。月明かりの中スタスタ歩いていると酔っ払いがでかい声を上げて騒いでいた。足早にその横を通り過ぎると。


「おい、ガキどこに行くんだ?」

「怪しい奴だな、顔を見せろ」


 おい、おい、こいつら酔っ払いじゃなく巡回兵士じゃないか! 肩を掴まれたので仕方なく振り返るとそこにはよく見る顔があった。


 僕はそいつの袖をつかみ少し離れた場所に引っ張り。そいつは時々城の通用門に立つ兵士のひとりだ。素早く金を握らせハーゼン()フランク(付き人)には喋るなとくぎを刺した。青くなって棒立ちの兵士を後に残しサッサと逃げだした。向こうも王子相手にガキ呼ばりし肩を掴んだりしたので他言はしないだろう。後でもう一度(おど)しておこう。


 人目のない桟橋で小魚相手にスタンガンの練習をした。初めは気絶してもすぐ泳ぎだして逃げたが、風の攪拌方法や作り出す雲母の形や大きさを調整することで一撃で大きな魚も気絶できた。目を回してる魚を魚籠びくに詰めこんて戻る途中、貝を取ってる少年らを見つけた。


「おい、貝を取ってどうするんだ? 食うのか?」


「いや、売りもんだ」


「この魚やるから一緒に売ってくれ」


 のそのそと近寄り、魚籠を覗き込んだ少年が、

「あんちゃん、いいのか?」


「ああ、いいよ」と僕が答えると、みんな貝取りを終わりにして貝の入ったかご魚籠びくを持って歩き始めた。一緒に付いて行くと市場にスタスタと入っていく。一軒の卸の店で話をし、主人が手早く魚をより分けると幾ばくかの金を受け取った。少年は金を僕に差し出し。


「いや、いい。この残りの魚は?」


「これは売れないから持って帰れと」


「食えないのか?」


「いや食える。スープに入れてしゃぶる」


「礼の代わりに料理して食わせてくれ」


「それでいいのか?」


「良い」


「ついて来い」


 ついて行き。少年のお袋さんの作ったスープを食べ、久しぶりに日本人だった頃の味を思い出した。和食とは全然違うが魚の出汁が和食を少しだけ思い出させてくれた。少年に別れを告げ魚籠だけを持って城に戻った。


 魚籠を簡単に洗い人目に付かない所に隠し、浴場に行き温まってると、


「王子、どこに行ってたのですか? カーメラ商会の主人が見えてました。明日また見えるそうです」


「ああ、悪いことをしたな。まあいいか」



 昼食の席に着くとメグに泣きながら怒られた。

 なんで怒られるのか分からず、よくよく話を聞くと、昨日今日と僕が遊ばないでどこかに行ってしまったのがいけないらしい。確か昨日今日の午前中はリーリア(メグの付き人)と侍女とトランプかカルタをする日だと思い、リーリアに目をやった。

 リーリア曰く午後のお勉強に少し難しいカルタや計算の多いトランプを行うので午前中は普通の遊びをする事になったそうだ。既にメグの頭の中では決定事項で兄ちゃんが逃げたことになってる。


 冤罪えんざいだ! しかし泣く子とメグには勝てないので、メグの教師に休みをもらい午後遊ぶ約束をした。なぜか母上の視線が痛い。気のせいか?



 昼食後、


 先ほど隠した魚籠を取り出し、フランク、リーリア、侍女ふたり、護衛騎士六人、厨房から見習いふたりを連れてメグと町はずれの小川に向かった。


 辺りを見回し趣味や楽しみでなく実益一直線のオーラを出してる男を見つけ、一日分の利益の金を出すから網を貸せと交渉した。まあ、貴族のボンボンが護衛騎士や侍女をはべらせ威嚇したら断れるはずもなくこころよく網を貸してくれた。

 メグに網で魚を取らせ、取った先から料理見習いふたりにさばかせた。大はしゃぎで魚取りに興じていたメグも小一時間で疲れを見せたので終わりにし。見習いふたりには魚を先に持ち帰らせ料理長にメグの取った魚を夕食に出すように伝えさせた。

 メグがダウン寸前だったので僕が負ぶって帰ることにした。僕自身は兄ちゃんらしい事をしてると悦に入ってご満悦だが、フランクとリーリアはメグを落とすのではないかと気が気でなかったらしい。

 途中でフランクにカーメラ商会の主人に明日は午後に来るように伝言を頼んだ。



 昼寝をしパワーが戻ったメグは、夕食時に父上や長兄、母上に身振り手振りで魚取りの状況を説明し魚を食べると身を乗り出し美味しいか美味しいかと何度も聞いていた。父上や長兄は苦笑しながら美味しい美味しいと言っている。母上もニコニコしながらメグをほめていた。僕にも聞いてくるのでメグの取った魚は特別美味しいと答えた。


 僕は食後にリーリアを呼び出した。

「リーリア、メグの午前中の予定を教えてくれ」


「ず~っとレオン王子と遊ぶ予定だと思います」


「綾取りや、お手玉はどこに行った?」


「綾取りや、お手玉は流行が終わりました」


「最近の流行は?」


「ボール投げが一番です。それもレオン王子が最初に作ったあのへんな形のボールです」


「他は?」


「普通のボール、鬼ごっこですね。それとレオン王子と魔法で遊びたいみたいです」


「明日は魔法で遊ぼう」


「それがよろしいかと」



 少し体力が温存できる遊びを考えないといけないな。


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