三話 古代語
「王子、ワイゼンホフ伯爵からお茶会の招待状が届きました」
「いつ?」
「明後日です。少し急すぎます。日程を調整しますか?」
「いや、僕も早く実験の結果を知りたい、そのまま招待に応じると伝えて」
「それから、爺にも伝えておいて」
当日、出発間際の馬車に爺が乗り込んできた。
「爺、昨日まで忙しくて行けないと言ってなかった?」
「いや、先日の実験の結果が分かると思うとどうしても話を聞きたいので。そういえば水魔法の方は再現できたのですか?」
「できない。難しい。……取っかかりが見つからない」
「王子、古代文字の教師が見つかりました。ダルモフィート王国の学院教師を招聘しました」
「隣国? でいつから来てくれる?」
「来年度からになります」
「うあっ、まだまだ先」
ワイゼンホフ伯爵邸サロン、
「伯爵、お招きありがとう。さっそく話を聞かせてください」
「王子、素晴らしい、驚異的です。特に炎を出せる者と魔法がまだ使えない者の成長が著しい」
「特に初めて魔法を習う者の習得時間が速い、速いものは一時間で遅くとも半日で覚えました」
「何人試しの? 一族の者だけじゃないの?」
「20人に協力させました。初めに3人血縁者に試させたところ、皆容易く熟すのでさらに一族以外から人を集めて試させました。これほど画期的な方法はもう秘匿できないでしょうから」
「そうだ僕も秘密にする気はない。魔法の発展のためにも」
「こちらが20人個々の詳しい情報です」と、ワイゼンホフ伯爵から紙の束を受け取った。
「ありがとう」パラパラと内容をザっと見ていく。
「ハーゼン殿は試させなかったのですか?」
「すまん。少々忙しかったのでな。私も人を集め試してみるか」
「それで、どのように広めるのですか?」と、ワイゼンホフ伯爵が訊ねてくる。
「いや、秘密にする気はないが態々広める気もない。伯爵と爺が知り合いから広めて」
「いいえ、それはいけません。それでは王子の業績が埋もれてしまいます」
「業績と云う程じゃないし、僕は気にしない。それより面白いことを見つけた」
「王子、何を見つけたんですか?」
「この『魔法の書』の著者を知っている? 著者はマッシモ・アイラ。どんな人物か知りたいと思わない?」
「それで友好国の主要貴族の調査概要を借りたのですね。見つかりましたか?」
「いや、見つからなかった。しかし古王国の家系図で面白い名前を見つけたよ。マッシモ・アイラフィートの名前を見つけたんだ」
「アイラフィート、王家に連なる者ですか聞いたことのない家名ですな。どこの家系に連なるものですか?」
「初代国王ジョージ・キャンベルフィートの次男。そう、始まりの王達のひとりだ」
「……」
「彼は、空を飛び、ドラゴンを倒し、敵の砦を焼き払った『始まりの王達』の魔法を間近で見ていたに違いない。その彼が著した『魔法の書』がこの内容だ。この『魔法の書』は続きがあると思わない? その疑問を解く鍵は古代文字で書かれた本の中にあると思うんだ」
「では、来年からその謎の解明が始まるのですな」
「ああ、古代文字の勉強が待ち遠しい。それともうひとつの疑問、いや実験になるな。魔法の複数同時行使を試したい」
「なぜ、魔法の複数同時発動なのですか?」
「炎の魔法は蠟燭の煙を作り出す魔法と点火の魔法のふたつが同時に発動する。ならば、風魔法をふたつ同時に発動できないか? 風魔法と水魔法を同時に発動できないか? ふたりはどう考える?」
「魔法の複数発動はできないと教えられてきました」と、伯爵。
「私もそう教えられてきた」と、爺。
「だけど、炎の魔法自体が複数の魔法を発動してる」
「やってみたいことは多い、だけど取っ掛かりのヒントが必要なんだ」
部屋で空を眺めながらぼんやりしていると、こちらに突進する暴走メグと目が合った。思わず受け止め抱き上げると、
「にーちゃま、あそぼう、あそぼう」と、いつもの遊ぼう攻撃。
最近綾取りがお気に入りで僕を自由にしてくれてたのにと思い。
「メグ、リーリアと綾取り遊びはしないのかい?」
「あやとりあそびはご飯(昼食)たべてから、いまは、にいちゃまとあそぶ!」
「あはは、光栄だな。何して遊ぼうか?」と、メグの顔を眺めてたら、ふとお手玉が頭に浮かんだ。きっと綾取りの和風ぐあいに刺激されたんだろう。
「メグ、お手玉しようか?」
可愛く首をかしげる妹と手をつないで厨房に向かいながら侍女の誰が裁縫が上手か考えていた。
乾燥豆と端切れでお手玉を縫ってもらい、メグの部屋の絨毯の上に向かい合って座りこんだ。メグの目の前で先ず2個のお手玉を回して見せた、キラキラした目で見上げるメグに次は3個で回してみせる。
「やる、やる、メグもやってみたい」と言うのでやらせるが初めからできるわけもない。
「うーー」と唸るメグにお手玉1個から練習を始めさせた。
メグと練習しながら、ジャグリングでふたつの魔法を行使する助けにならないかと考えてた。
メグのお昼寝の間にジャグリングの練習をし疲れたのでぼんやり空を見上げてると、お手玉の代わりにシャボン玉で、手を使う代わりに手に風を纏わせれば良いかもと考えついた。
一週間ほど試行錯誤した。
シャボン玉は石鹸の質が悪くシャボン玉が大きくならず直ぐ割れてしまう。紙風船、紙が厚く重たいので無理だった、魚の浮袋や鳥の羽根、蝶の翅、タンポポ(に似てる植物)の種等いろいろ試したが、丁度良い重さ、左右2個のバランス、まっすぐ落ちる等の条件に合う竹とんぼに落ち着いた。
この一週間でメグにとってお手玉、シャボン玉、竹とんぼと次々と面白い遊びを教えてくれた兄の評価は鰻登りだ。この後、少しの間は僕の言うことをよく聞くとても良い妹だった。
ジャグリングも形になり。風魔法で2つの竹とんぼをうまく浮かし続けることができた。それに比べてメグの出来の良いこと。お手玉2個回し3個回しのハンデがあったのに、今じゃジャグリングの腕前はどっこいどっこいだ。
水魔法も土魔法もちょっと見せたら直ぐ真似して覚えるし。火魔法はさすがにまだ早いと教えずにいたら、メイドが燭台に火を点けるのを見て覚えてしまった。この時も母上からメグを叱る代わりに僕が延々と叱られた。理不尽だ。
メグは2個同時の練習がお気に召さず付き合ってくれなかった。
メグのお気に入りは、王宮の人込みの中で人を縫うように竹とんぼを飛ばすこと。当然非難が殺到し、僕はお叱りを受け、メグに悪いことばかり教えると評判はガタ落ちだ。
そんなこんなの中、練習の甲斐があり三月かかってふたつの魔法の同時発動が成功した。何も変わらなかった。メグと遊びながら泣きそうになっていた。
ただメグと遊んでいるうちに魔法の細かい制御が随分と上手くなった。最もメグは僕の上を行って竹とんぼで難なく宙返りさえやってのける。
そう、魔法は上達しないが遊びは上達する。いや魔法も少しは上達した。メグと僕の最近のお気に入りの遊びは竹とんぼの羽根突きだ。羽根の代わりに竹とんぼ、羽子板の代わりに風魔法を使かう。自分の思った所で素早く適切な風を作り出すことがとても上手になった。
ふたつ分かったことがある。ひとつは魔法を使うとお腹が減る。運動しながら魔法を使うと消耗が激しい。運動だけ魔法だけと明らかに違う。これはメグも同意してるからそうに違いない。
もうひとつは魔法の使用できる範囲も明確な境界線が在ることが分かった。それは身長の2倍、僕が自分を中心に半径2.5メートル、メグが半径2メートル。この範囲を超えると風の方向も強さも制御できない。
魔法の進展の無さに幻滅した僕は魔法を使わない空を飛ぶ方法を模索し始めた。魔法を使わなくても飛ぶ方法はある。元の世界の僕はハンググライダーを趣味にしていた。
ハンググライダーは大きな三角形の凧にぶら下がって飛ぶスカイスポーツだ。元の世界の材料は、カーボン、グラスファイバー、アルミ等のパイプと風を受ける丈夫なポリエステルかナイロンの布。
この世界で入手できそうな物は骨組みが竹かアルミパイプ、布は帆布か絹。帆布以外はどれも入手が難しそうだ。それに帆布は布自体が重すぎて飛ばせるかどうか……。魔法を使わないにしても道のりは遠そうだ。
ついに待ち焦がれた古代文字の教師がやって来る。指折り数えて待っていた。そして当日、対面した教師の第一印象は最悪で傲慢な偏屈教師だった。
「私が古代文字の教師、ネクサス・ロイだ。君が古代文字を習いたいのかね? まだ学院にも入学前のお子様じゃないか。わざわざこんな田舎に来てこんな仕打ちに合うなんて思ってもいなかったよ」
「申し訳ありません。なるべくお手数をお掛けしないよう努力いたします。早速授業を始めていただけないでしょうか?」王子に対してなんて言い草だと思ったが我慢した。爺からも他に古代文字の教師のあてがないから少々の事は我慢しなさいと言われてる。
「今日は、何も用意してないぞ!」
こいつ舐めてんのかと思ったが我慢して一冊の古代文字の本を差し出した。
「この本を教材にして進めてください」
人を馬鹿にした態度の割に授業は淡々と要領よくこなすタイプだ。まあ、長年教師をやっていただけの事はあるな。
数日授業を受けてわかったことがる。今僕等が使ってる言語と全く違う言語の文字だと思う。僕の考えはこうだ。古代文字とこことは違う言語を使う人間が他の大陸か島からやって来て、言葉はこの大陸に合わせ文字は元の大陸か島の文字を使った。
それなら古王国の人々は、この大陸以外の人間の可能性が高い。ここ以外にもっと魔法の進んだ処があると考えると俄然やる気が出た。
五日程経ち、ほんの少し古代文字が読めるようになった僕は図書室で一冊の本の表題を凝視している。
その本の表題は古代語で『魔法の書』、著者はマッシモ・アイラフィートと書かれていた。
自室に持ち帰り速攻で読み始めた。しかし語彙の少ない僕はすぐに行き詰まった。とりあえず分からない単語を書き写した。
一月後、
古代語の『魔法の書』を読んだ。要約すると魔法で任意の物質を作り出せる。時間は10数える間、作れる量は両手で掬える量。作り出せる物質は特性、性質、構造の深く理解してる物質。
結局時間と魔法で作れる量の限界が解っただけで足踏みをしている。
庭で空を眺めながらマッシモ・アイラフィートについて思いを馳せてると、後ろからメグに飛び付かれた。
「にいちゃま、あそぼ!」
「リーリアはどうした? 今日はリーリア(メグの付き人)と遊ぶ日だろ」
「リーリアはかあさまに呼ばれた。メグはにいちゃまと遊びなさいと言われた」
「そうか……」体よく身代わりか!
「メグは何して遊びたい?」
「あたらしいあそび!」
「新しい遊びか! すぐには思いつかないな。そうだ新しい遊びを考えるためにお散歩しよう。メグ、兄ちゃんとお散歩に行くかい?」
「いく!」
「フランク(レオンの付き人)、護衛4、5人と侍女ふたりとついて来てくれ」
「王子、どこに行く気ですか?」
「街に出てぶらぶらする気だけど?」
「王子おひとりでも問題ですのに、マーガレット姫様をお連れするなどダメに決まってます」
「固いこと言わずに行こう行こう、さあ皆行くぞ!」と、僕はメグと手をつないで歩きだした。
皆、顔を見合わせながらもぞろぞろと付いてきた。
メグは、見るものみんな珍しいのか、「あれなに、これなに、なにしてるの?」と質問の嵐だ。
メグは手を振りほどいて走ろうとするので、僕は気が気でなかった。僕と侍女でメグを挟んで手をつなぎ、捕獲した宇宙人状態で散歩を続行した。メグも喜んでくれたし、新しい遊びのネタも拾えたのでルンルン気分で城に帰った。
翌日、フランクとまた街にいた。
「王子、今日はどこに行かれるのですか?」
「昨日の市場。珍しい水筒が売られていたのを見たから」
「あった、あった、あの店だ! フランク、あの水筒を3個ほど買って代金は後で爺に請求だ」
「わかりました。一体何に使うのですか?」
「いいから、いいから、次は職人街に向かうぞ!」
「わからん。看板か表札みたいな物はないのか? フランク、革職人の家を探すにはどうすれば良いと思う?」
「少し戻った所にある大店に紹介させましょう」
「うん、……それが良いな」
少し戻り、適当な大店に入り革製品を扱う店を紹介してもらい。次にその店に行き薄手の革を扱う職人を呼び出させた。
「王子、初めから城に呼べば済んだ話ですよね!」
「職人街に行けばすぐに見つかると思ったんだ。……すまない。次からはそうする」
職人に猫の目型の紙を1枚と4枚を糊で付けた物を渡し、革で同様に作って、中には水筒の中身の動物の胃袋を膨らませた状態で入れてと指示した。そう最も簡単なボール、ラグビーボールを作らせようとしている。
できあがったら城に届けるように言い付けてから城に戻った。
「王子、あれが次の玩具ですか?」
「そうだ、なかなか面白いと思うよ」
王子の所望ということで僅か3日で仕上げて持って来た。手間賃を弾んで次があることを伝え帰らせた。(もちろん、支払いは爺に振った。教育費の一環、一環)
「メグ、新しい遊びだ。どうだ変なボールだろう」
「どうするの?」
「もちろん、投げて遊ぶんだよ!」
「なげて、なげて」
真っ直ぐ転がらないボールをふたりで転がし投げて遊んだ。この世界にももちろんボールはある。丈夫な革で周りを作り中に革の切れ端を詰めている固くて重たいボールだ。護衛騎士に話を聞くと騎士の遊び(訓練?)に使われ高額なため我が国では作られず輸入オンリー。もちろんボール職人も我が国にはいない。中に革の切れ端の代わりに軽い鳥の羽根や布切れを詰めないのはなぜかと聞くと、一言で濡れると乾く前に腐ると言われた。納得した。
メグの反応はイマイチだった。どうも僕に気を使って遊んでくれる風が見えて悲しかった。次は球状のボールを作ろう。なんとか喜んで貰いたいもんだ。
古代語の授業の終わり間近、
「教師のロイがこの城の図書室には碌な本がないな」と、愚痴をこぼしてる。
「なにかお探しの本でもありますか?」
「魔法関係の本だ!」
「魔法の本なら沢山ありますよ」
「私が探してるのは、マッシモ・アイラフィートの本だ」
僕はびっくりした。マッシモ・アイラフィート、始まりの王達のひとり。とっさに「誰ですか?」と、知らないふりをしてしまった。
「知らないのか、やはりここは田舎だな。彼は偉大な魔法使いだ」
「あ、そろそろ終了の時間ですね」と話を打ち切り逃げにかかった。
「そうだな、今日はこれで終わりにしよう」
部屋に戻った僕は机の上の二冊の本を長いこと見ていた。現代語と古代語の二冊の魔法の書、マッシモ・アイラフィートの著した本だ。図書室を探しても在るわけがない、ここに在るのだから。
「爺、入るぞ」
「部屋に入る前に声をかけてください王子」と、グチグチと言ってる。
「爺、ロイに図書室の本の閲覧許可をだしたの?」
「ええ、古代語の本が見たいと言ったので許可しました。もちろん見られて困る本もありますから部下に同行させましたが」
「閲覧が報酬の一部なの?」
「いいえ、雇用契約は報酬と待遇だけでその他はありません」
「ははは、爺ありがとう。助かったよ。ロイから本について聞かれたり頼まれても何も答えないで。彼と大事な話をしたいから」と、爺に口止めし翌日の授業に備えた。
「今日は、この言い回しについて説明する」
「先生、少し宜しいでしょうか?」
「何かね、私の授業より大切なことかね?」
「マッシモ・アイラフィートの著した本を読まれたことがおありですか? どちらで読まれました?」
「もちろんあるさ。どこでも良いだろ」
「ダルモフィート王国には有りませんよね。マッシモが旧首都のダルモフィート王国に著書を贈ったりしませんよね」
「君は何を知ってる?」
「ここグレンフィート国王は反乱に加わった有力諸侯のひとり、ここならマッシモの本が存在してもおかしくないですよね」
「……」
僕は現代語の『魔法の書』を取り出し机の上に置いた。
「図書室になかったのに……」
「その本は私の自室に在りました。どこかでご覧になったことがおありですか?」
「ああ、ストラスフィート王国で読ませてもらった」
「あなたはこの本以外の著書が在ると確信してる? なぜそう思うのですか?」
「答える必要はない」
「あれ、そうですか? ここグレンフィートには古代語のマッシモの本が在ると考えたのでしょう?」
「在るのか? ここに古代語で書かれた著書が」ロイが食い付いてくる。
「さあどうですか? 質問しているのは私です。なぜマッシモの本が在ると考えたのですか?」
「マッシモは友人に三冊の魔法の書を著わす予定と伝えてたんだ。彼のもとに二冊は届いた。最後の一冊は執筆中に亡くなり、原稿を見た者はない」
「反乱の原因を知っていますか?」
「……」
僕は、古代語で書かれた魔法の書を机の上に置いた。
「君は、三代国王アイジャンの息子が亡くなったことを知っているか?」
「チャーリー・キャンベルフィートですね。反乱の3年前に亡くなってますね。しかし孫のラミーズがいたはずです」
「孫のためだった。孫のために神ノ山に至る道を壊したんだ」
「??? 神ノ山とはダルモフィート王国の西のアードモア山地にある山の事ですか?」
「知らないのか? 神ノ山の頂には魔法使いに為るための祠がある事を」
「何ですか、それは?」
「文字通り魔法使いに為れる。魔法を習得できる祠だ。始まりの王達、古王国の諸侯の皆がそこで魔法の力を得たのだ。それをアイジャン・キャンベルフィートが神ノ山に至る道を壊したんだ」
「それじゃ、アイジャンの子孫も神ノ山の祠に行けないでしょう」
「アイジャンは空を飛べた。ひとりだけ飛べたんだ。アイジャンの直系だけが空を飛び神ノ山で魔法を習得でき、アイジャンの直系以外の王族や諸侯の次代の者達は魔法の力を得ることができなくなる」
「それは反乱起こしたくなりますね」
「それでアイジャンの弟、エイデン・ローゼフィートが諸侯と共に反乱を起こしたわけだ。神ノ山に至る道の破壊は止められなかったが、数に物を言わせてアイジャンを討ち取った。しかしこの戦いでエイデンも討ち死にした。これで始まりの王達、空を駆ける者全てがいなくなってしまった」
「マッシモがいますよね? あと孫のラミーズも。マッシモは初代王ジョージ・キャンベルフィートの次男でしょ」
「彼は、不具者だよ。若い頃の事故で歩けず、左腕も失った。だから魔法を使えても空を駆けることは無い。彼は戦いに参加したことも無い。孫のラミーズも城が焼け落ちた時一緒に亡くなっている」
「……マッシモだけが神ノ山に頼らず、自力で魔法を習得する方法を知っていた。そう言われてる」
なるほど反乱の原因も理解した。神ノ山に頼らず魔法使いになれた者がいないことも。魔法の書を差し出し、
「古代語の魔法の書です。読み終えたら返してください」僕は魔法の書を渡してその場を後にした。
寒い冬の庭でどんよりと曇った空を見上げながら「まだ可能性はある。まだ可能性はある」と心の中で唱えながら涙が流れた。
古代語の教師ロイはあの後すぐに辞めてしまった。僕も図書室の古代語の本は全て読めるくらい上達したので、何も言わず受け入れた。爺にだけは簡単に事の顛末を話した。
魔法からは少し離れようと思う。今回はキツかった。僕は始まりの王達の歩んだ道を辿っていると思っていたのに、その道から突き落とされた。