二話 魔法の可能性
『魔法の書』やその他の魔法の本に書かれてない魔法がどこかにあると思う。どうやって探そうか? 本に書かれてないのなら、人に聞くしかない。と言うことで先ず爺から。
爺の執務室のに乗り込んで「魔法の威力を増す方法を知らない?」と直球で聞く。
「練習すれば少しは威力が増すそうです。しかし魔法の威力は団扇でゆっくり扇ぐのが強く扇ぐ程度にしか増えませんよ」 *団扇はクジャクの羽根を束ねた物を想像してください
「じゃあ、誰か魔法の威力を増す方法を知っていそうな人を知らない?」
「王子はどの程度使えるのですか?」と聞いてきたので少し実演して見せた。
「王子、十分以上に使えてるではありませんか」
「だけど、始まりの王達は空を飛びドラゴンを倒したでしょ?」
「それは、おとぎ話です」
「だけど、『始まりの王達』は実在したんでしょ」
「それは、そうですが……」
ここで、王国の歴史を簡単に説明しよう。
始まりの王達と呼ばれる魔法使い達がこの大陸を統一し王国を建国した。今から385年前のことだ。なぜハッキリ分かるかというと建国した年が元年で、今が385年だから。その王国は『今は古王国と呼ばれている』三代70年で滅亡した。
古王国滅亡時に反乱軍に加わった近衛将軍と各地域を治めていた10の公爵家が王を名乗り11の王国に分裂しこの大陸を統べている。
因みに古王国の存在を証明する物は沢山ある。始まりの王達の肖像画や書物が城の至るところに。始まりの王から連なる家系図もある。
僕は爺からの情報収集を断念し他の者にターゲットを変えた。メイド、侍女、護衛騎士、付き人、兵士、家庭教師に聞き取り調査を実施。聞いた質問は魔法が使えるか? 使えたらどの程度か? 魔法をどう思うか? 凄い魔法の使い手知っているか? その魔法使いはどの程度使える?
興味深い結果だった。
1人を除き全員何らかの魔法が使えた。
平民と騎士階級は魔法が使えない事を特に気にしないとみんなが答えた。
貴族に連なる者は、使えないもの1人を除いてみんな数種類の魔法が使えた。また魔法は古王国に連なる者として使えて当然と考えてる。だけど魔法は貴族の嗜みで社交ダンス以下、竪琴や横笛と同等。貴族も魔法は嗜み以上とは考えてない。
彼ら貴族の考え方にまたひとつ妄想が砕かれた。僕はラノベと現実の違いを思い知った。
貴族の幾人かは炎を維持できる火魔法の使い手を知っていた。どこの誰かを尋ねると学院生の時に見たことがあるが名前は知らない、今は国境騎士団にいる、領地勤務で王都にいない等、王都にいる者は見つからなかった。
爺なら他にあてがあるかもと思い爺の許に向かった。
「爺、いる?」と、爺の執務室のドアを開けながら尋ねた。
「レオン王子、ドアを開ける前に声をおかけなさい」と、お小言を言いながら椅子を勧めてくれる。
「魔法の上手な者の魔法が見たい」
「王子は十分上手ですが?」
「いや、他人の上手な魔法を見てみたい」
「9月の王立学院の入学試験の魔法の試験官を頼まれてます。そこに助手として同行しますか?」
「嬉しい。僕が行ってだいじょうぶ?」
「王子の勉強の進み具合に皆がほめています。そのご褒美です。その代わり私語厳禁、受験生への質問は試験の合格発表以降に別途呼び出すか自ら赴いて聞きなさい。よろしいですね」
「分かった。五月蠅くしない」
「あ、それから古王国の文字の勉強をしたい。古代文字の先生を探して」
「分かりました。探しましょう」
「よろしくお願い」
三か月後、
王立学院入学試験2日目、
爺と連れ立って学院に徒歩で向う。なぜ歩きかって、試験当日に受験に関係ない王族が目立っては受験生に迷惑でしょう。それに学院は王宮の隣にあり通用門のひとつからすぐだ。
爺が「今日が魔法の試験日で、明日は騎士コースが実技、文官コースが地理と歴史の筆記試験が控えています。受験生に要らぬ負担を掛けぬためくれぐれも騒ぎを起こさないでください」と、しつこい。
「分かっている、静かに見学し話を聞きたい受験生は名前を控え後日に合う。これで良いのだろう」
試験会場に入ると爺が私と護衛に、
「レオン王子、今日は王族として扱えませんので私の斜め後ろに立っていただきます。それからフランクは王子の傍に護衛の者は部屋の隅に立っているように」と言いながら試験官席のひとつに腰を下ろした。
鐘が鳴りドアに最も近い試験官が彼の助手に「始めます。受験生をひとりずつ入室させて」と告げる。
ひとり目の受験生が入室し席に着くと先ほどの試験官が告げた。
「得意な魔法をふたつ、ここで行使してください。ひとつの場合はその旨申し出てください。では始めて」
ひとり目の受験生は、試験官席にそよ風(扇風機の弱程度の風)を吹かせ、次に試験官席の前のテーブルにお猪口程度の水を滴らせた。
20人程試験を行った後、入り口にいた助手が午前の試験が終了したと告げた。
「王子、食堂に参りましょう」
「僕が食堂に行っても良いの?」
「今日は一般の学生がいませんので大丈夫です。試験官助手をしてる学生はレオン様のお顔を知りませんし、他の試験官は見てみぬふりをするでしょう」
食堂は試験会場の近くにあった。食堂に入り席に着き護衛が周りに立てば他の者は寄って来ない。食事を終え紅茶を飲みながら。
「王子、気になる者はおりましたか?」
「うん、火の魔法を行使した少年がいたろ」
「ワイゼンホフ伯爵の息子ですね。ワイゼンホフ家の者は皆使い手ですから」
「後は普通」
「我々がいた試験会場は今年の上位合格者候補を集めました。魔法試験に関しては皆高得点ですよ」
「えっ、そうなの……」思わずレベルの低さに驚愕していると。
「そろそろ試験会場に戻りましょう」と促され食堂を後にする。
午後の試験の2番目の受験生、今日一番気になる存在を見つけた。その少女は小さな真っ白いハンカチを取り出し少しわざと汚し。
「このハンカチを水魔法で洗浄します」と宣言し。その言葉通り手のひらの上のハンカチに水を出現させ洗浄した。そのハンカチは新品のように真っ白になった。
心の中で笑いが止まらなかった。爺との約束がなければ笑い転げていたであろう。魔法に未来があった。しょぼい、弱い、威力がないと感じていた魔法の未来が変わった。
僕の頭の中は魔法の原理と法則の新たな仮定と仮説が駆け巡り、体は自然と前に乗り出していた。思わず彼女に話しかけようとした時、両腕を掴まれ後ろへと引き戻された。振り返り腕を掴んでいた護衛をにらむと彼らは目を逸らし爺の方を見た。爺に目をやると僕を睨むではないか。一瞬で冷静になり一歩下がりその場を取り繕った。
試験が終わり爺と王宮に戻る途中、
「爺、ごめん」
「大丈夫です。あの少女は何も気づいてないでしょう。彼女らは明日も試験があります。お声をかけたりお会いするのは合格発表の後にしてください」
「分かってる。それまではおとなしく待ってるよ」
今日の入学試験見学は素晴らしかった。新たな可能性を僕に与えてくれた。いろいろと考える事が増えた。
フランク(付き人)を呼び火魔法の少年ケビンと水魔法の少女シエラにいつなら会えるか調べさせた。
少年は、ケビン・ワイゼンホフ。伯爵家の三男で学院騎士コースを受験。普段は王都にある邸宅に住んでいる。彼はいつでも呼び出せそうだ。
少女は、シエラ・グリーン。西へ5日ほどの国境の町に家族で住んでいる。父親は国境騎士の騎士。試験期間は王都の叔母の子爵家に滞在してる。合格したら一度帰省するみたいだ。合格発表後直ぐに面会できるように指示した。王宮に呼んで緊張させるより、子爵邸で会う方が気安いから私が子爵を訪問することにした。
ケビンの火魔法、
火魔法は燃焼反応を含む化学反応を制御する魔法と考えている。しかし彼の魔法は燃焼物質の出現を予感させる。
彼ほど顕著ではないが同様の魔法を行使する者が5名いた。
シエラの水魔法、
水魔法は液体の制御する魔法と考えてる。
彼女の洗浄の液体は特別だ。試験会場の彼女の周りにその様な物質は存在していなかった。明らかに彼女は洗浄の液体を出現させた。
『魔法の書』によるとケビンの燃焼物質、シエラの洗浄の液体は呼び寄せられた事になる。しかしどう考えても魔法で生み出してる。これが正解なら魔法は素晴らしい可能性を秘めている。きっと始まりの王達の魔法も本当の話なんだ。
先ずはシエラと会い実験に協力してもらおう。呼び出し用の鈴を鳴らす。
「はい、いかがいたしました?」とメイド。
「実験に使うから無地の白いシーツと白いハンカチを待ってきて」
「それと土産にあのおいしいドライフルーツを用意して」
*レオン王子はドライフルーツがお気に入り。
受け取ったハンカチの右半分に泥水で大きな丸を左半分に油で同じくらいの大きさの丸を描いた。乾かして実験の準備が完了だ。
子爵邸訪問日、
馬車に乗るとなぜだか爺が乗り込んできた。
「爺は何でいるの?」
「お目付け役です。それと王子が何をなさるのか見たい」
シエラが滞在している子爵邸へ着き。
「今日はお茶会を開いていただきありがとう」
「こちらこそ、今日はシエラの魔法をご覧になりたいと云うことでよろしいのですね」と、子爵が確認する。
「はい、ちょっとした実験です」
「王子の我が儘に付き合わせすまない」と爺が付け足す。
部屋に通され、子爵、子爵夫人、シエラと各々挨拶をすませお茶を飲んで軽く談笑した後に実験の事を切り出した。
「シエラ、先日の入学試験会場であなたの魔法を見ました。あなたの魔法はすごく興味深い。それで色々確認するために実験を行いたい。よろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとう、緊張しないで」と、シエラに言い。
「それでは簡単な実験を始めます」と、皆に宣言する。
メイドにテーブルの上から茶器など全てを下げてもらい。持参したシーツをテーブルに広げた。
「シエラ、シーツの上でこの汚れたハンカチを魔法で洗浄して欲しい。先日の入学試験で行ったように」
シエラは頷いた後に魔法を行使した。同じように水が現れ洗浄する。
「終わりました。こちらが洗浄したハンカチです」とシエラがハンカチを差し出してくれる。
ハンカチを受け取り一瞥した。「ありがとう。ハンカチは奇麗になってたよ。でも大事なのはこのシーツなんだ」
立ち上がり彼女の許に行きシーツを手に取って丹念に細かく見始めた。シーツは僕が予測した通りの痕跡が残っていた。私がニマニマと眺めていると爺が焦れたように聞いてくる。
「王子、それがどうしたのですか?」
「みんなは洗浄した後の汚れはどこに在ると思う?」「シエラ、あなたはどう考えます? 水と共に消えて無くなると思ってた?」
「はい、消えて無くなると思っていました」
「でも実験結果から汚れは無くならず真下に落ちていた。ほらシーツのここに泥の粉末が付いている。油汚れはここに歪な丸い油のシミがある」と、僕が指摘する。
シエラはうなずきながら感心してた。爺、子爵、子爵夫人は、ポカーンとしてる。
私は笑いながら爺に問いかけた。「爺、水と油は混ざる?」
爺の代わりに子爵夫人が答えてくれた。「油は水と混ざりませんわ。油汚れは水だけでは落とせませんから」
「そう、油は水に溶けない。故にシエラの洗浄魔法は普通の水とは違う」
「子爵夫人、シエラ、水の代わりに石鹸水なら油が落とせる?」
子爵夫人「ええ、石鹸水なら落とせますよ」
「石鹸水と油は略均一に混ざります。紅茶に蜂蜜を入れた時のように均一に混ざります。一口めが甘く2口めが甘くなく3口めが甘いということは起こりません。そうですね」
皆がうなずいた。
「洗浄水が石鹸水であればシーツの油の跡は土埃と同じ範囲に均一に薄っすらと残らなくてはおかしい。しかしシーツの油の跡は一か所に集まりとても石鹸水に因るものとは思えない」
「みなさん、どう思いますか」
「……」
「私は、シエラの魔法の水が普通の水と全く違うと考えます。シエラの魔法の水は汚れや油を一瞬で布から分離する液体を作りだす魔法。この魔法が魔法の素晴らしい可能性を証明してくれました」
「子爵、子爵夫人、今日は、急な訪問に応じて頂きありがとう。シエラもありがとう。そして、帰省を伸ばさせてすみません。これは私の好物のドライフルーツです、シエラの家族への土産にしてください」と僕が礼を言い。お付きの者がドライフルーツの包みを渡した。
王宮に戻る馬車の中で爺が聞いてきた、
「王子、シエラの魔法は本当に特別だとお考えで?」
「うん、そう思っているよ。ケビンも同じだと思う」
「ケビンをすぐに呼び出しますか?」
「まだ駄目なんだ。実験に使うガラス器具が出来上がらない。それができたら呼びます」
爺の執務室、
爺の部屋に入り「爺、入るぞ」と声をかけた。
「王子、お声は入る前にかけてください」と爺にまたお小言を言われた。
「ガラス器具が出来上がった。ケビンを呼び出して。呼び出すのは爺の部屋にして、ここの方が僕の部屋より気安いでしょう」
「そうですね。その方が良いでしょう」
ケビンを呼び出したた当日、
「王子、早くありませんか。まだ30分もありますよ」
「もう待ちきれなくて。私の考え通りならシエラよりケビンの魔法の方が習得しやすい」
「ハーゼン様、ケビン・ワイゼンホフ様がお見えです」と案内の者が伝えてきた。
「どうぞ」と、爺が声をかけ。爺がケビンに正面の椅子を勧める。
「ケビン、呼び出しに応じてくれありがとう。私がハーゼン、隣がレオン王子。王子がケビンの魔法に興味があって。魔法の実験に協力してほしいそうだ」
「ケビン、レオンです。実験に協力してください」
「はい、喜んで協力します」
「ありがとう、まず質問から。火の魔法の持続時間を教えてほしい」
「ゆっくり数えて10位です」
「何回か繰り返す事は可能ですか?」
「20回以上可能です」
「では、火の魔法を見せてください」
彼は手のひらの上に10㎝ほどの炎を灯してくれた。
「ありがとう少し質問をします。まずは爺答えて、蝋燭の炎は何が燃えている?」
「蝋燭でしょう」
「違います。ケビン、君は分かるかな?」
「いえ、それは、その……」
「えっ、もしかして理解して魔法を使ってるの? 人に話してはいけないの? ワイゼンホフ家の門外不出?」
「はい……」
「魔法の秘密を暴くかもしれないけど、実験に協力してほしい。できる?」
「はい、言われる通りに動くだけなら」
「ありがとう、実験を続けるね」
「ケビンは理解してるみたいだから爺のために説明するよ」
僕は、蠟燭に火を灯し、ガラス管の片方を炎の中の芯に近づけた。
「爺、この炎と反対側の管の先から出ている煙が見えてる? この煙に火を近づけるよ」
ガラス管の煙に火が灯った。煙が燃えている。
「……」
「爺、蠟燭を吹き消すときに、たなびく白い煙がでるね。白い煙は蠟燭が蒸発したもの。この煙が燃えていることがこの実験から解った」
「次にケビンの魔法にもこの実験を行いたい。ケビン、魔法の火を」
ケビンの魔法の炎の中にガラス管を差し込み火を点けた。ガラス管の先に火が灯った。
「この実験からケビンの火の魔法は燃える煙を作りだすことが証明された」僕は小さくガッツポーズをした。
「ケビン、ありがとう。実験は終了です。なにか質問がありますか?」
「王子、なぜ燃える煙の事を知ってるのですか?」
「大半の者の火魔法は火打ち石同様の火花が精々です。もちろん僕も同様です。この火魔法は『魔法の書』の内容とも一致しています」
「しかし君ほど顕著じゃありませんが同様の魔法を使う人は何人もいる。僕の火魔法と君の火魔法は明らかに違います。また、水魔法でも『魔法は何かを作りだせる』事が証明されています。蝋燭の炎と君の炎を比べれば蠟燭の煙を作りだしてる事を容易に推測できます。そして今日、君の協力でその推測も証明できました」
「ケビン、ありがとう感謝しています。そして、すみませんでした。今日の呼び出しでワイゼンホフ家の秘密を暴いてしまいました。爺、ワイゼンホフ家への謝罪が必要だと思います。面会の段取りを取り付けてほしい」
数日後、爺の執務室、
私と爺はワイゼンホフ伯爵を呼び出しケビンと行った実験の内容とワイゼンホフ家の火魔法の秘密の一端を暴いてしまった事を説明し謝罪した。
「分かりました。謝罪をお受けいたします」
「ありがとうございます。そんなに簡単に受けていただいて大丈夫ですか?」
「息子には他言無用と言ってますが、分家や次男三男の養子先、娘の嫁ぎ先に漏れています。只の建前です、お気に為されないでください」
「王子、実験の内容は分かりました。まだ何かあるのですか?」
「ええもちろんあります。実験結果を基に改良した魔法をお見せします」
「火魔法のひとつ目、ワイゼンホフ家の火魔法です」
3㎝くらいの炎を手のひらに出現させた。
「ふたつ目、蠟燭の代わりに菜種油のランプを再現しました」
5㎝くらいの蝋燭よりずっと明るい炎を出現させた。
「次は三つ目、ラグ酒(アルコール度数の高い蒸留酒)のランプを再現しました。どうですか」
5㎝くらいの青白いちょっと暗い炎を出現させた。
「何で炎の大きさや色が変わるんだ? 王子、何をしたんですか?」ワイゼンホフ伯爵は立ち上がり身を乗り出してきた。
「王子は、いつの間にこの魔法を覚えたのですか?」爺も驚いてる。
「この魔法の習得するコツを見つけたのさ。知りたいかい?」
「ええ、知りたいです」
「条件があります。この魔法のコツを用いて何人か実際に試して欲しい。年齢、性別、習得前の使える魔法の詳しい状態、習得に要した時間、習得後の魔法の威力等詳しい情報を出してください。希望は、10人くらい、まだ魔法を覚えていない子供も何人か入れて」
「それは実験を手伝えと言う事ですか?」
「そういう事。実験を手伝ってください。実験方法の説明をします」
紙に書いた実験の説目書を渡し、注意点を細かく指示した。
「これで、予想だと先程の魔法を覚えられると思います。協力をお願いします」
「うーん、やってみましょう」
「爺も、良さそうな人で試してみて」
ワイゼンホフ伯爵も爺も先程魔法を見た時と打って変わって胡散臭げな表情で、
「承りました。十日ほどでご報告できると思います」と、言って帰っていった。
伯爵の退出したドアを眺めながら「爺も全然信用していないみたいだね」
「そんなことはございません」
「まあいいや、そんな事より古代文字の家庭教師はまだ見つからないの?」
「もう少し時間がかかりそうです」
「なるべく急いでほしい。爺も魔法のコツをだれかで試したら結果を教えて」