24話
「『これが我が知る真実だ』」
シルフィの躰を借りて口にした精霊王ウォルスの話を聞き終え、しばしの静寂が訪れ、カイト達が精霊王ウォルスが語った話に殆どの者は涙を流していた。
「うっぐ! ひっぐ! 悲しいだぁ~!」
だが、その静寂を破ったのはフォルティスであった。
「……………ルティス貴女、今の内容分かったの?」
「分かっただよ姐御ぉ。親を亡くした子供が居る話だろぉ?」
フォルティスがあまり理解していなかった事にエルスは深いため息をついた。
「まあ、貴女が理解していなかったのは想定内よ。後で分かりやすく私がお話ししてあげますから、今はそれで悲しんであげなさい」
「うん、分かっただぁ」
フォルティスはエルスの言った意味が分からなかったが、泣いていいと言うことだけは理解して泣き続けた。
「それでウォルス様。何点かお聞きしたいのですが構いませんか?」
「『我に応えられる事は応えよう、御子よ』」
エルスはウォルスが口にした言葉に、また一つ聞く事が増えたと内心で思った。
「子供の…………記憶を消し、改竄した両親は今も生きているのですか?」
エルスは今から五十年前程であるならばまだ生きていると思い口にした。ただ女性は人間である為、寿命で亡くなっているかもしれないが、男性はエルフと同じ長命種でもあるならば、存命であるはずと…………。
「『ああ、両方共まだ生きている。青年は新たな家庭を築いている。女性は今は歳老いてしまっているが、孤児達と共に過ごしている。こちらの女性は其方らが知っている人物だ。名をカサドラ・ミストルチェと言う』」
精霊王ウォルスの口から思いがけない人物の名を聞き、カサドラの事を知っている一同は驚愕した。
ギルドの運営をしているミントは名前だけ知っていたが直接の面識はなく、フリッド達、知らないメンバーの為にエルスは簡単に説明をした。
カサドラ・ミストルチェ。前職はギルドマスターであり、ギルド統括者であった。現在の彼女は本人の希望で、友好都市グラティウルにあるリーナが経営する孤児院の先生をして楽しく子供達と過ごしている。
「それでなんですけどウォルス様。カサドラ様の事でおかしな事がありますわ」
「『なにか?』」
「カサドラ様は今は65歳です。それは彼女自身が言っていましたし、その年齢に見合わぬ若々しい容姿もしていますわ。いくら何でもウォルス様が話して頂いた女性とそぐわないのでは? 青年と出会った時に最低でも15としても、今は100歳は軽く超えているでしょうし」
エルスの問いで他のみんな〔未だに泣いているフォルティス以外〕が気付き始める。
「『それは簡単な事だ。創造神様の───神の力で直接手を下したのだ。その影響を受けて年相応に見えなくなるだろう。記憶の改竄もされているから、実年齢も定かではないのだからな』」
殆どの者はその応えに納得する。
「……………そうですわね」
エルスも神の力の影響と言われると納得するしかなくなる。実際、カイトが創造神の力を受け継いだ影響で、自身達にも神の力の一部を使う事が出来、一部とは言えその力の影響力を知っている───より、その力を使ってリーナと商売絡みで色々とやらかしているのだから。
「それで次なのですが、どうしてその代行者の身動きを封じる事が出来たのです? そして代行者の者は今はどうして居るのですか?」
エルスは代行者は雫の両親だと内心では確定しているのだが、敢えて名前ではなく代行者と述べた。その人達なら喜べるが1%でも人違いだと思っての判断で。
「『まず、代行者の動きを封じる事が出来たのは、魔神信仰教団の者が戦力の増強に召喚魔法を使用し、その召喚に応じたのが魔族の者だからだ。そしてその魔族から魔力封じの島の事を聞き、瞬時にその島に渡れる様、罠を仕掛けたのだ』」
「………………それはおかしいですわね。その罠、瞬時に渡れるなら魔道具または魔法を使用した筈ですから、魔力封じと言われているのなら、その島に渡れる罠は作動しないのでは無いのですか?」
「『何の対策もしていなければそうであろう。だが、その罠───魔道具には魔力封じを無効化する魔法印が刻まれていた。これには召喚された魔族の者が、召喚魔法の制約で強制的に書かされていた』」
「……………でしたら、その魔道具を破壊してしまえば、二度とその島に跳ばされる事はないと言うことでしょうか?」
「『そう言うことになる。だが、我ら精霊も微量ながらも魔力を糧にしている為、その島に近づく事は叶わぬ。我ら精霊もその島に近付けば消滅してしまうからな』」
エルスも召喚魔法の制約を知っている為、その制約が召喚された側が理不尽な命令でも行わなければいけない為、エルスを含めたカイト達は契約時に、召喚された側〔紅鬼達〕にも契約破棄が出来る様にしていた。
信頼される為には信用される様な誠意を示す事が必要と。
「『そしてその代行者達は現在、グラキアス聖王国に居る』」
一同はその言葉に驚愕した。
「ど、どうして聖王国に居るんです!?」
カイトが驚きつつウォルスに訊ねた。
「『貴方様が創造神様の力を継承され、覚醒されたからですよ、カイト様。カイト様の覚醒に伴い、紲が強いカイト様の家族に力の一部が流れ、その力を使い、自力で戻って来たようだ』」
「……………って事は、その人達は俺達の知っている人達……………?」
「『名をガリアーノ・ニグルニス。アイリーン・ニグルニスの両名だ』」
殆どの者はやっぱり、と思っていた。
「『その両名と共に、セリカと剣聖も一緒に戻っている様だ』」
またしても一同は驚愕する。
「はっ!? えっ!? セリカ姉さんとジェイド兄さんも一緒っ!?」
「『どうやら、両名共に子供もいる様だ』」
「えっ!?」
またしても一同───ではなく、カイトだけが驚愕する。
「……………もうウォルス様。イタズラが過ぎますよ。私達の子供達で遊ぶのは程々にして下さい」
「『……………すまぬ』」
エルスの膝の上に座り抱き締められているミントが窘める。しかも、口調は穏やかだが魔力を溢れ出し威圧して。
「ウォルス様。私達で遊ぶのは結構ですけど、疑問がありますわ」
「『う、うむ、何か?』」
エルスがミントの事が無かった様に平然としていた。
「ガリアーノ様達が魔力封じの島から出てくるには力を──神の力を使ったに違いない筈ですが、私達は遠く離れていてもその力を感知する事が出来ますわ。ですが、その力を全く感じ無かったのですが?」
それはエルスが帝都からリーナと共に、このラムル国に来るほんの僅かの差のすれ違い。
「『それは我の張った結界のせいだ』」
「一体何をしたのですか?」
「『今この国を禍々しい魔力を持った者達──魔神の手の者が近付いている為、外界と遮断出来るほどの強い結界を張らせて貰った』」
「と、言うことは、私達に対応しろって事ですね?」
「『そうだ。フリッドとミントを除けば、この国で魔神の手の者と戦える者が居ないのだ。現段階で生半可な実力の者では少しの足止めにしかならんからな』」
エルスはウォルスの意味する事を理解する。ウォルスの言葉を深い意味でとると、時間があれば対抗する事の出来る者達が育つと言うこと。
フリッドとミントの体格の問題が無ければ、この国の戦士達は対抗する事が出来る程に育っていたと言うことも。
エルスはフリッドとミントから軽くではあるが、鍛練を施していた事を聞いて居たのだが、エルスから見てこの国の戦士達は、自国の聖王国と騎士王国の兵士、騎士達に比べると練度が低かった。
そう言うことも理解してエルスは応えた。
「分かりましたわ。私達で迎え撃ちます。それで、その者達の動向はどうなっているか分かりますか」
「『ああ。偵察に向かわせている眷属が居る───のだが、あまり近付いた為に吸収や消滅されてしまっている次第だ』」
「と、言うことは現在の動向が分からない?」
「『………………』」
「ウォルス様?」
突如ウォルスが黙ってしまい、エルス達が困惑する。
そして精霊王ウォルスが語る為に依り代にしていた、巫女のシルフィの躰から発光が消える。
「………み…………皆様……………大変……………です…………」
次に聞こえたのはシルフィ本人の声であった。
「シルフィ! 一体どうしたの!?」
エルスの膝の上に座っていたミントがシルフィに駆け寄る。同時にフリッドも駆け寄り、シルフィの躰を支える。
神降ろしならぬ精霊降ろしをした代償で、シルフィは一時的に衰弱していた。
「………今しがた……………ウォルス様が…………………慌てて………………私の躰から……………出て行ったのです…………………それと同時に…………………邪悪な魔力を………………感知しました………………」
その言葉を残してシルフィは気を失った。
「どういう事なの母さん?」
エルスの質問にミントがシルフィが精霊を介して異変を感知する事が出来る事を説明する。
「それなら早速私達の出番ね。アンナ、ユノ姉様、ミカの3人はシルフィさんの看病をしつつ、この社で待機をして下さい」
エルスの指示に3人は返事を返す。
「そして紅鬼、織姫、カルマはこの社を守りつつ、周辺の警戒をしてちょうだい」
3名もエルスの指示に従い返事を返し、小型から本来の大きさに戻っていく。
「リーナは母さんとティアと一緒に、集落の人達の避難と護衛に廻ってちょうだい。母さんが居れば、国の戦士達にも指示が通りやすくなるはずですから、一緒に護衛に付かせてちょうだい」
3人もまた返事を返していく。
「残りは私と一緒に。勿論、ルティス貴女もよ」
「良いのけ?」
「私の目の届く所に置いておかないと何するか分かったものじゃないからね。だから貴女は私かカルトちゃんの傍から離れてはダメよ」
「分かっただぁ!」
カイトは、何故カルトを? カルトは、何故私も? と、疑問に思いながら返事を返した。
そしてそれぞれがその場所に向かう。
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