22話
俺が目覚めてから三日が経った。
父さん達から直ぐに話し合いがあるかと思ったら、集落を案内された。
ここにもギルドが置かれており、ギルドマスターも別に居るのだけど、そのエルフの人は名ばかりで、母さんが実質のギルドマスターとして運営管理をしていた。
ギルドを通じてでの紹介があれば、エルフの国にすんなりと入る手配も母さんが提案していったそうだ。
魔神の事を知る精霊王からの話もする事もなく、翌日の朝に、帝都に行っていたリーナが、エルス、アンナ、ユノ、ミカを引き連れて戻って来た。
その時にルティスに自己紹介をそれぞれしていったのだが、エルフの人は訛りが強く、特にルティスの場合、性格も相まってエルスの事を“エロス”と発言してしまった。
カルトちゃんの事は“カロト”と発言していたし、徐々に直していけばいいとその時は仕方ないと思っていたのだが、どうやらエルスにとってはそうでは無かったらしい。
何度か言い方を教えたエルスの対応に、ルティスは不満を爆発させてしまい、エルスと闘う羽目にまで発展した。
まぁ、結果は言うまでもなくエルスの勝利。
エルスはルティスを、試合中にも関わらず色んな意味で弄んでから、圧倒的な力を見せ付けて、エルスと呼べないなら姐御と呼ぶ様に言ったら、姐御ぉと呼んだ為、姐御呼びが決まった。
ルティスの中では、自身より強者には従順になる決まりがある様だ。
そんないざこざもあり、エルス達にも俺達(父さん母さんを除いた)が集落を案内する事になった為に、その日も話し合いをする事無く、エルス達が帝都でしていた事を聞いた。
俺達がここ───エルフ国に来た後、エルスは聖王国と帝国の間で友好条約を結ぶ協定をして、国境の砦に居るユークリッド義兄さん(身重のゼシカ義姉さんの事も心配だろうからと一緒に)を【ゲート】で強引に連れて来て、聖王国代表として話を進め任せる事にしたらしい。
その為に、エルス親衛隊の面々を補佐役として、ユークリッド義兄さんの下に預けているとの事。
カルトちゃんに告白したレイの件も解決したそうだ。
何でもレイにも、同い年の侯爵家の令嬢と婚約しており、その娘とエルスが話をした結果、その娘は好きな相手に素直になれず、ついつい本音とは反対の事を言ってしまう───所謂、ツンデレだったそうだ。ただエルス曰く、デレるまで掛かるそうだから、ツン属性だけらしい。
その事をレイの両親──皇帝と皇后にも話し、婚約破棄をする事はせず、次期皇帝になるレイの支えをしてくれる器量好しの人物になる事間違いないと、エルスが太鼓判を押してきたと、本人談。何か問題があれば、私が教育しますからとも念押しして言ってきたらしい。
で、後になってノエル達から聞いた話だと、帝都のギルドマスターであるシュミットさんと、シュミットさんの補佐をして、シュミットさんに恋心を抱いていたマリーさんの話になった。
リーナが帝都の建て直しの為にエルスに任せる際に、ストレス発散するモノが必要と言う事で、2人にはエルスのストレス発散の捌け口として生け贄──もとい、2人を結ぶ役割を任せたと、リーナは言っていた。
その話になった途端、女子達はかなり盛り上がっていた。それはもう、食い入るようにエルスの話を聞いていた。
ただルティスだけはどんな人達なのかも分からないので、小型サイズの紅鬼や織姫、暫くぶりで呼び出したティアの使い魔のカルマ達と戯れていた。
そこでもエルスの話を俺はただ黙って聞いていた。
エルスの話を要約すると、シュミットさんとマリーさんはエルスの補佐役をしながら、活動制限を敷かれていたギルドは制限を解き、他の職員や冒険者を呼び戻して再興を目指し始めていた。
エルスは政務を携わりながらも、ギルドの事まで取りまとめていたそうだ。流石にそこまでの事をしてくれていたエルスに、俺が出来ることをして挙げようかと思った。図々しいかもしれないが、俺からの褒美なら喜ぶだろうからな。
そしてエルスは、シュミットさんとマリーさんを何かと理由を付けて一緒に行動させて、マリーさんからの好意をシュミットさんに自覚させる為に、エルス親衛隊を駆使して、ちょっとした不遇の事故を発生させていたそうだ。
ちょっとした不遇の事故の内容は、2人が一緒に歩いている時に、マリーさんと、分からない様にワザとぶつかり、シュミットさんに抱かせる、手を掴むなど、ホントにケガをするかしないかの具合でぶつかったり指示していたそうだ。
その地道な工作の結果、シュミットさんもマリーさんの事を、1人の女性として意識し始めたらしい。
毎回、赤面して言い淀む姿のマリーさんを相手にしていた結果だそうだ。
2人の恋の行方はまだ決着しておらず、隠密に長けたエルス親衛隊の1人を見張らせて、録画させている。
エルスのその言葉に俺は思わずツッコミを入れてしまった。
俺のツッコミを受けてリーナが『ああ、カイは知らなかったわね』と言って、異空間収納からそれが出て来た。
それは、転生前の世界で度々見掛けた事のある、手の平サイズで録画に特化したカメラ。
それはこの世界では決して無い代物。それがリーナが異空間収納から取り出した物。
ついでにどうやって機能させているのか聞いてみた。
すると、電池の代用は自分達で雷魔法を超超超圧縮して超高純度の極小魔石を造り、記録媒体の方はこちらも同じやり方でリーナとエルス──2人が無魔法を超超超圧縮して造った透明の超高純度の極小魔石。
超高純度の雷の魔石のバッテリー時間は24時間30日も保つ、ふざけた性能。魔石内の魔力が無くなったら、雷属性の魔力を込めるだけで充電する事も可能。だから、エルス親衛隊のメンバーは全属性の魔法を使う事が出来るため問題ないとの事。しかも最高レベル7だと言う。
記録媒体の方は7日間保つと言う話。しかも、その無の魔石を何十個も造り、隠密をしている人に渡している始末。用意周到だ。
念を押してそれを販売するつもりなのかを聞いたら、今すぐとかでは無く、十数年後に販売するつもりらしい。ゆっくりとこの世界を改革していく方針の様だ。
その手のことは俺には分からないから、やり過ぎだけはしないように言い聞かせた。
リーナは帝都にも商会を開く段取りの為に向かっていた様だ。
リーナの話だと、拷も───んん! じゃなかった。捕らえた人達を更生させて、リーナがその人達を部下にして準備を任せているらしい。一体どんな仕打ちをしたんだ?
そんなこんなの話をして、その日は終わった。ただエルスが全員で寝ましょう、と提案して、全員で寝ることに決まった。
勿論、異空間部屋の、人数によって大きさが変わる不思議なベッドで。
翌日。
俺達は朝の支度を終え、巫女のシルフィさんが居る社に向かった。
父さん母さんが社の前で、俺達を待っていた。
俺達は朝の挨拶を交わした。
「2人共、昨日家に戻って来なかったけど、何かあったの?」
「ああ。色々と準備があったんだ」
俺の疑問に父さんが応じた。
そしてここでエルス達、後から来た組が自己紹介をし始める。
だが案の定、父さん母さんは抱き抱えられ、エルス達に可愛がられていた。
父さん母さんは可愛がられながら、エルスが正真正銘の草薙家の長男の優斗であった事を確認して、ユノに抱き抱えられていた父さんは最後俺に『長男はお前だ』とだけ言ってきた。
うん、まあ、色々複雑な気持ちにはなるよね、父さん……………。
そんな締まらない雰囲気で社に入り、俺達が最初に来て通された部屋に向かった。
「お待たせしました、皆様」
中に居たのは巫女服を着た、この国の統治者代理であるシルフィさん。
シルフィさんは座布団の上で正座をして座っていた。そのままシルフィさんは、人数分用意されていた座布団に座るように促して来る。
俺達はそれを受けて、各自座り始める。その際にエルスが正座で座った上に、何故か母さんはちょこんと座り、エルスはイヤな顔せずに母さんを受け入れた。
父さんは母さんの行動に驚きもせず、座布団の上に座ろうとしたが、強制的にリーナが連れていき、リーナの膝の上に座っていた。
父さんが騒ぐかと思ったが、大人しくしていた。なんか、それはそれで不気味な感じがした。
「さて。まずはカイト様、フォルティスを救って頂きありがとう御座います」
シルフィさんは両手を前に出し、恭しくお辞儀をしてきた。
「気にしないで下さい。俺に出来る事をしたまでですから」
俺の言葉を受け、シルフィさんはお辞儀を辞め、背筋を伸ばした体勢に戻った。
「それでもです。カイト様に無理をさせすぎて、ご迷惑を掛けたのですから」
「気にすることねぇだよ、シルフィ。ダンナさんはそんなちっぽけなこと気にする程、器が小さくねぇだぁ」
俺達の一歩後ろで座って、小型の紅鬼や織姫、カルマと戯れているルティスが話してきた。
ここ6日間でノエル達と会話していたおかげで、ルティスの訛りの強さは大分緩和されていた。
「もし貴女が言った通りカイト様は気にする事なくても、元々の原因である貴女は気にしなさい、フォルティス!」
「す、すまなかっただぁ」
素直に謝る事が出来るのがルティスの良いところだよな。
「まあまあ、シルフィさん。ルティスもこう言ってますから、もう良いじゃないですか」
「……………カイト様がそう仰るなら……………」
「それで、聞かせて下さいませんか。精霊王が知っている魔神の事を…………」
シルフィさんは先程より一層真剣な表情を浮かべていた。
「はい。ですが、予め言いますと、精霊王が知っているのは、どうして魔神が誕生したか、です」
「魔神の……………誕生…………ですか?」
「はい。私も詳しくは知りません。なので、直接本人から聞いて下さい」
「それはどう言う意味ですか?」
まるで、精霊王自ら語る口調だったぞ?
「今からその意味が分かりますよ」
シルフィさんは笑みを浮かべた後、目を瞑った。
そして次の瞬間、シルフィさんの躰が眩く光り出す。
その光は目を開けていられないほど輝きだし、暫くすると、光が収まってきたのが分かった。
目を開き、先程まで発光していたシルフィさんを見ると、何処か雰囲気が違っていた。
それは、目が虚ろで躰が淡く発光した状態。
「『我は、原初の精霊にして、精霊達を統べる精霊。名をウォルス』」
ウォルスと名乗った精霊はシルフィさんの口から発せられた。
そして精霊ウォルスは語り始めた───
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