間話5
店の中をひとまず存分に楽しんだ、ジアン、ルセ、ガリアーノ一家は、クサナギ商会店長エルシャとの約束の場所に来ていた。
クサナギ商会5階レストラン。
平民から貴族まで、あらゆる者達が気軽に入ることを目的として、庶民的だか気品漂う内装をしているレストラン。
レストランはバイキングからコース料理など、あらゆる形式で食べられる様にしている。勿論、個室や団体での利用も出来る部屋も設けられている。
ジアン達はレストランに着き、ウエイトレスに話すと、エルシャから話は通っており、少し大きめの個室に案内をされていた。
ルセが念話でエルシャに連絡を取ると、もう少し掛かると言うことで、料理を食べる様に言われ、出された料理に舌鼓を打ちながらエルシャを待っていた。
「お待たせ~♡」
その声と共に個室のドアが開けられ、エルシャ1人が入って来る。その手には荷物などを持っておらずに。
エルシャはガリアーノ以外の家族と挨拶を交わし、ガリアーノにポケットからシンプルな加工を施してあるだけの指輪一個を取り出し渡した。
「はい、ガリアーノ様♡。ご所望の品物は全てこの指輪の中に入れてあります♡」
「すまんな。ありがとよ」
ガリアーノは素直に感謝を述べた。ガリアーノはこれから必要な生活用品などを注文して、それを揃えてくれたのだから。
エルシャが渡した指輪は、リーナが収納の付与を施した物で、その収納量大小に関わらず100種類で個数は無制限。
例えば鳥肉。胸やモモなどの部位であっても鳥肉〔胸〕鳥肉〔モモ〕として分類されて、2種類の扱いにされるのだが、リーナが施した物は、それらも含めて1種類扱いになる選別を無視した代物。
リーナが付与できる事を初めて知って、最初におふざけで創った物がこの指輪。他にも似たような性能がある代物を大量に試作しており、ガリアーノに渡した指輪もその一つに過ぎない。
「それでガリアーノ様。午後からは何をなさるんです♡?」
エルシャは空いている席に座ると、食事を終えて寛いでいるガリアーノに質問していた。
「午後もそうだが、何日かはアイツらが作り出した環境を楽しむつもりだ。色々と様変わりしているし、ここでしか出来ない事もあるからな」
ガリアーノ自身、リーナとエルスがもたらした異世界の技術で発展したこの街並みを子供達以上に楽しみたいと本気で思っていた。だけどそれ以前に、これからのことを考えて、やることが色々とあったりしていた。
「それならアタシが暫く付き添いましょうか♡? ジアンちゃん達はカイトちゃん達の後を引き継いで色々と忙しいですし、アタシが居れば殆どの店の品物を融通出来ますし♡」
「それはこちらとしては願ってもない提案だが、そんなことして経営が苦しくならないのか?」
「大丈夫ですわ♡ リーナちゃんが人員削減が出来て、大量生産出来る装置を創ってくれたので、むしろ余分に余っているくらいですから♡」
生活に必要な物は一つ買えば不良品で無い限り、頻繁に買い換える必要がない程。なので、リーナは毎年、その年の売上金は少し潤う程度に設定していた。
カイトに次いで【万物創造】を使えるリーナが本気を出せば、赤字になろうが直ぐに取り返せる事を本人から説明を受けており、その事も踏まえてエルシャに不在の間の一切を任せられているのだから。
「それならよろしく頼むぜ」
「はい♡」
ガリアーノはエルシャの提案に載ることにして、流石に品物を本気で融通して貰うつもりはないとしていた。
そしてジアンとルセはガリアーノ達の事をエルシャに頼んで、せっかくの休日を2人で過ごす事にした。
それから数日間、ガリアーノ達は聖王国、騎士王国、友好都市をジェイド達家族を伴って、リーナとエルスがもたらした変化を堪能した。
更に数日後、聖王国の王城の一室にてガリアーノは、カイゼル聖王陛下と騎士王オルドネス陛下とこれからの事を話し合っていた───。
「それで本当に良いのか、ガリアーノよ? お主達の子供達を残していくことにして」
「ああ。アイツらに魔法も憶えさせたし、もしもの事態にも対応出来る実力もあるしな。騎士や兵士、魔法師の練度が高くなっているからって安心は出来ないだろ? 俺も油断はしたつもりは無かったが、俺の二の舞になる可能性があるからな。現にジェイド達も跳ばされて着たんだからな」
「うむ、確かにそうだが……………」
ガリアーノの尤もな提案に、カイゼルは渋々納得せざるを得なかった。
「私達はそれは喜ばしい限りだが…………下の姉弟は未だ幼いのであろう? 親と離れることに納得するのか、ガリアーノよ?」
「……………ああ、そう言うことか」
オルドネスの言葉にやっと納得したガリアーノ。この2人は何を心配していたのかがやっと分かったのだ。
「アイツらなら、問題ねぇよ。むしろジェイドより強い相手が見付かって喜んでいる」
「そ、そうなのか?」
「ああ。ジアンとルセから『毎日挑まれて大変なんですけど』って言われるくらい懐いているからな」
「………ガリアーノよ。お主達がいなくなる前に子供達になるべく控えるよう言っておいてくれよ。じゃないと後でワシがエルスに怒られるのじゃからな」
「確かにな。エルス姫を怒らせたら国が無くなるかと思った位だわ。その時は、我が国でエルス姫推薦のセシリア嬢を宰相にする際、貴族共の反対意見もあったのだが、どんな手を使ったのかたった2日で、国営に欠かせない主要人物達を説得してしまったのだから。終いには『私が認めた大切な家族を罵倒する人達には、永遠に退場してもらいましたわ』って、平然と言ってのけたんだぞ。そしてその言葉の意味を確認したら、前々から問題があった貴族は家ごと取り潰してあったのだぞ」
オルドネスの初告白にカイゼルは、それ本当か!?、とした表情を浮かべオルドネスを見ていた。
「何故、今になって言うのじゃオルドネスよ!? 流石に他国の王族が他国の内政干渉に大いに口出ししているのじゃぞ!?」
「確かにお前の言うとおりだ。金銭や人員の問題も出てくるのだから、国際問題に発展する事案だ。普通ならな。だけど、それはエルス姫が即座に金銭と人員の補充を充分にしてくれたから、問題にする事もなくっていたのさ」
カイゼルは後処理までしっかりやっていた事にもそうだが、まず、そんなことしていたのに頭に手を充てて、頭を抱えていた。済んだ事とは言え、またしても国の存続の話を勝手にやっていたのだから。しかも他国の。
「まあ、話を聞いている限り、家族以外のヤツらには徹底的に懲らしめているみたいだけど、家族にはソイツら以上の事はされてないんだろ?」
「まぁの。本気で怒ったエルスは、7日間は全く口も聞いてもらえなかった位だの」
カイゼルは外の景色に目を向けて、何処か遠くを見て、昔にやらかしたことを思い出し懐かしんでいた。
「その程度で済むなら良いじゃないか」
「良くないわい! 娘から無視される痛みはお主には分かるまい!」
「………………そんなことも無いけどな…………」
ガリアーノは言ってみたものの、実際、転生前での家族関係は良好であったし、一人娘の雫とはケンカと言う程の事にはなっていない。むしろ良好。
それに雫には、親友の息子である晴斗が居たし他の悪い虫も着きそうに無かったから、晴斗と結ばれると思って、男女関係にも口出しはしてこなかった。
なので、カイゼルが言った事はあながち間違ってはいなかった。
「まあ、アイツらには言い聞かせておくよ。それに、お前がエルスに怒られないように俺からも会えたら言ってやるから」
とは、言いつつ、転生前のあの双子の兄妹には結構、晴斗絡みでは容赦しないから何処まで機嫌を損ねないで済むか、内心考えていた。
「なら、なるべく早くエルスに会ってくれ」
「ああ、気が向いたらその内にな」
「っぬぬぬぬぬ!」
カイゼルは上げて落としたガリアーノを恨めしそうに睨みつけた。
「して、ガリアーノ」
「ん?」
恨めしく睨め付けているカイゼルは暫くダメだと思い、オルドネスが素知らぬ顔をしているガリアーノに声をかける。
「我ら人族にとっては、本当にあるか分からし、有ったとして何処にあるかも分からぬ未開の地、魔族領にはどうやって行くのだ?」
「それなら、俺達と一緒に居たメイドが居たろ?」
「あぁ確かに、見掛けたな」
数日前、騎士王国にてガリアーノ達に会った時、確かに1人だけメイドが居たのを思い出していた。
「その子に連れて行って貰うのさ」
「………なぜ、そのメイドが魔族領の場所を知っている?」
「そりゃあ、あの子──ミランダは魔族だからな」
「っ何!?」「……………なぬ!?」
オルドネスは当たり前だが、カイゼルは睨みつけてたとは言え話は聞いていたのだが、突然の告白に遅れて反応した。
それからガリアーノは、ミランダが自分達の所に来る経緯を軽く二人に話した。
「───はあ~」
「どうしたカイゼル? 深いため息なんかして」
「深いため息なんかも出るわい。全く、お主達一族はなんでこう厄介事ばかり運んでくるのじゃ?」
カイゼルは、カイト達転生者が仲良い家族関係と言うことで一族と一纏めにした。
「そんなの俺の所為じゃねぇよ。元神様の所為じゃねぇの?」
「そんな後ろ向きな事ばかり気にしたって仕方ないだろ、カイゼル? むしろ前向きに捉えろよ」
「お前はろくに振り回され無いからそんなことが言えるんだ、オルドネス」
カイゼルはまたしても深いため息をついた。
「して、何をどう前向きに捉えろと言うんじゃ?」
「ガリアーノ達もそうだが、カイト達がこの世界に来てからと言うもの、技術の発達や発展で一気に国が活気に満ちて来ているでわないか」
「……………確かにな。確かにそうなのだが、一気に心労が重なる事ばかりもあったぞ」
と、またしても後ろ向きな考えに戻るカイゼルに、オルドネスとガリアーノは共に苦笑して見せた。
「でもエルスが後始末は自分でしているんだろ?」
「確かにそうじゃな。あの子がホントの統治者で良いんじゃないかと思うくらいじゃよ」
「でもエルスはなる気ないんだろ? 次期国王である王太子アレクサンダーにあれこれと引き継ぎをしていたんだろ?」
ガリアーノは王族の剣術指南役もやっていた事もあり、アレクサンダーとも面識もあった。その為、再会したアレクサンダーは少しばかり愚痴を溢していた。エルスの成した政務の引き継ぎは大変だ、と。
「そうじゃ。アレクは産まれた時から聡明な子じゃったが、流石にエルスに比べると劣るが、それでも自分がやるべき事が分かっておったから、早い段階でエルスの成すことを手伝っておった様じゃ」
「なら、問題ねぇじゃねぇか。それにこれから先、これと言って大きな問題も起こらねぇだろ?」
「……………確かにそうなのじゃが………………」
カイゼルは何処か暗く影を落とした表情を浮かべていた。
「なんかこう……………また勝手にとんでもないことをしている様な感じがしてならんのじゃ……………」
カイゼルの予感は見事に的中していた。
まだカイゼルの下に報告が上がっていないだけで、エルスが帝国と協定を結んでいる事は既に、アレクサンダーに報告は届いていた。カイゼルには細かく報告するより、纏めて最後に報告する事で良いと、政務に携わる者達皆が共通している事。何せ、エルスのやることは全て上手くいっているのだから。
そういうこともあり、カイゼルが報告書で知る時には、カイゼルが驚くばかりが多い。
国内の内情は流石に慣れてくるのだが、国家間の話になると流石のカイゼルは驚くばかり。しかも事態は片付いているのだから。ぶっちゃけるとお飾りの王様なのだ。
「そんなに心配するなって。心配しすぎるとハゲるぞ?」
「クッ! 元あと言えばお主達と関わるようになってから、ワシの心労が増えたんじゃ!」
「はは。別に好き好んで心労が出る事をしている訳じゃねぇんだけどな。それに俺がいなくなっても問題ねぇ様に、俺が造っていた武器や防具を置いていくし、クララも置いていくんだから問題ねぇだろ? ジェイドとジアンには言っておくがしっかり守ってくれよ、あの子を」
ガリアーノは真剣な眼差しでカイゼル、それにオルドネスを見据える。
「───分かった。ワシらの命よりあの子の命を優先する様にする」
「ああ、そうだな。この世界唯一のドワーフだからな。非常事態になったら、あの子を全力で守ってみせるさ」
「(………まあ、そうならないのが1番だけどな………)」
ガリアーノは2人の決意に水を差さないよう、内心で思っていた。
そして三日後、ガリアーノ、アイリーン、ミランダの3人は、ミランダの【ゲート】で魔族領に跳んだ。
お読み頂きありがとう御座います。