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家族で異世界転生~そして、少年は~  作者: 長谷川
第3章 動き出す者達、そして~
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間話4

 ガリアーノ達が王都に戻って来た翌日。


 聖王国と騎士王国の友好の証として造られた都市グラティウルにある、カイトの屋敷で寝泊まりしていたガリアーノ達家族(+ミランダ)は、ジアンとルセの案内で街を歩き廻っていた。


 ジアンとルセは王城にて兵士や騎士、魔法師達の訓練をするかたわら、聖王陛下達王家の護衛も兼ねていたのだが、ガリアーノが今はジェイドが王都に居るから大丈夫だろ、とそんな事を言い出し、聖王陛下はガリアーノの行動、決断力に呆れながら、ジアンとルセにガリアーノ達の案内をするようにと休暇を与えた。


 ジアンとルセも了承し、その代わりにバロンとフールを王都に置いて…………と言うより残して来るしかなかった。


 ガリアーノ達家族と離れると理解したアイカがぐずってしまった為。そこでガリアーノはバロン【小型】とフール【小型】を差し出し、アイカは喜んで二体を抱き締めた。


 ガリアーノはバロン【小型】とフール【小型】が、ジェイドより強いのを鑑定スキルを通して知っていた。非常事態が起これば対処してくれると、そこまで読んで。


「それにしても、カイトの周りの人達は随分と有能揃いで固めているんだな。あんな美人な姉ちゃんと可愛らしい姉ちゃんまで婚約者とは、いったい何人と婚約しているんだっけか?」


 街を案内しているとガリアーノがジアンに、昨晩の出来事を思い返した。


 昨晩はこの都市にあるギルド本部でギルドマスターをしているナリアと、同ギルドでナリアの秘書をしているロールを紹介していたのだ。


「8人ですね。今の所は」

「……………まだ増えるのか?」

「多分。エルスが言ってました。目指せ属性持ちハーレム、と」

「なんだそりゃあ?」

「自分も説明は受けましたが、イマイチ分からないのです」


 ジアンはエルス、リーナの2人から、カイトの婚約者達の事で聞いた時があった。どうしてこんなに婚約させるのか、と。


 『コスチュームなどで擬似的にはなれるけど、どうせなら重婚が認められているのだから本物を揃えてみたいじゃない』と。


「意味分かります?」

「………………ああ、うん。まぁな」「流石ねエルスちゃん」


 ジアンがエルスに聞いた事をそのまま話、ガリアーノとアイリーンはその意味を理解する。


 何故理解出来たか。何せエルスがその様にするきっかけとなった元凶なのだから………………。特にアイリーンが……………。


「それにしてもアイツら、あんなにはしゃぐなよな」


 ガリアーノは話を逸らす様に、自分達から離れているナツメ、ソウジ、クララが初めて見る街並みに目を輝かせ動き回っている様を見ていた。その3人の付き添い…………と言うより振り回されて、ルセが同伴していた。


「ミランダも人族の国は初めて見るでしょ? それに王城と屋敷での使用人体験はどうだった?」


 ジアン、ガリアーノ、アイリーンの3人の一歩後ろを歩く、アイリーン特製のメイド服より、露出がそこそこに押さえられたクサナギ家のメイド服を着たミランダにアイリーンが話し掛ける。


「はい。やはり私の祖国とは多少ですが異なる点が多いですね。特に王城より、屋敷に居る使用人達の方の練度が高いのがおかしいくらいに」

「ああ、それは同感だな。執事長をしているミゲルっつったか? ソイツだけじゃなく、あの屋敷で働いている使用人ども、隙が無いほどの練度の高さは異常だぞ?」

「あはははっ。全てエルスとリーナの差し金ですよ。『当主が不在中、屋敷を守る事も出来ないと使用人としてダメだと思うの』と言って、みんなを喜んで鍛えていましたね」


 その言葉にガリアーノとアイリーンは呆れ顔をしていた。そんな中ミランダは街並みに目移りしながら楽しんでいた。


「それにこの街は未知のモノもあり賑わっていますし、何より活気が溢れています」

「確かにそうだな。しかも見覚えのあるモノでガキ共が遊んでいるのは、俺の見間違いじゃないだろ?」


 ガリアーノが歩きながら注視したのは、道脇で遊んでいるこの街の子供達。


「確かにそうね。しかも古い遊び───べい独楽ごまやけん玉、メンコとかをしているわ。中々に渋いわね」


 そう。子供達が嬉々として遊んでいるのは、ガリアーノとアイリーンが知っている一昔の遊戯道具。


「アレもエルスとリーナ、それにノエルが考えたモノですね。もう少し先に行くと、それらを販売している店がありますよ」


 と、ジアンが言ったそばから、それらを販売している店の前に着いていた。


 その建物の外観と店の雰囲気は、ガリアーノとアイリーンが知っているモノであった。


「………………まるっきり駄菓子屋だろ、コレ…………?」

「ええ、そうね。私もそれにしか見えないわ…………」


 そう。黒茶色みたいな色合いをした古臭そうな木造の建物。その店の入り口の真上辺りに『駄菓子屋 クサナギ』と看板が掲げられていた。


「……………アイツら、やりたい放題やってるな…………」


 ガリアーノは自分以上に、この世界を好き放題生きているな、と呆れていた。


「あっ! 父ちゃん、母ちゃん!」「あっ! パパ、ママ!」


 ガリアーノが呆れていたら、店の中からソウジとナツメが出て来る。その後に、ルセとクララも出て来た。


「父ちゃん、母ちゃん聞いてくれよ! この店の中の商品全部安いし、食べ物とかも美味いんだ!」

「そうそう! しかも面白そうなオモチャまであるし!」


 興奮を隠しきれない2人の手には、両手で抱える程大きさの紙袋を抱いていた。その様子に年相応だな、とガリアーノは内心で思っていた。


「分かった分かった。慌てなくてもちゃんと聞いてやるから」

「ふふふ。でも、ナツメとソウジがこんなにはしゃぐのも分かります」


 クララも2人程ではないが、少量の大きさの紙袋を片手に抱いていた。


「それで何ですけどお父さん。私達お金を持っていないのについつい欲しくなってしまって、ルセちゃんに出して貰ったんです…………」


 クララは申し訳ない気持ちと表情でガリアーノ達を見ていた。クララは、昨晩の内に仲良くなったルセに迷惑を掛けてしまった事を気にして。


「さっきも言ったじゃない、クララちゃん。そんなに大した金額じゃないって」


 ルセは両手を左右に振り、気にするなと示した。


「クララ達にお金を渡していなかった私達のミスね。ごめんなさいね、ルセちゃん」


 アイリーンが代わりにルセに謝り、異空間収納から革袋を取り出した。中身は勿論お金。


「で、いったい幾らしたの?」


 アイリーンは代金を支払ってくれたルセに返す為に聞いた。


「いや、ホントに大した金額じゃないですよ。たったの銀貨2枚ですから」

「…………へっ…………?」


 流石のアイリーンもおかしな声を出さずにはいられなかった。ガリアーノも表情でアイリーンと同様な心境をしていた。


 それもそのはず。2人の目測では、ソウジが抱えている紙袋の中身は自分達が見知っているし、食べたこともあるお菓子の山。ナツメの方はオモチャの山。2人は中身まで見せてきたし、それにクララも少量だが買って貰っているのだから、自分達が知っている値段だとしたら、おおよその金額は五千円相当=銀貨5枚するはずだったのだから。


「幾ら何でも、そんなに安くないでしょ? お菓子は安いままとしても、オモチャの方は子供が買うには、そこそこ良い値段にしているんじゃ無いの?」

「確かにそうですね。でも私とジアン、屋敷で働く人達には安く買えるんですよ。エルスちゃんやリーナちゃんのお陰で」


 その言葉を聞いて2人は納得する。確かに家族や身内に当たり前の値段で売るわけないな、と。ましてや自分達の生活の為に商売をしているのだから。


「それでも返すわね」


 そう言ってアイリーンはルセに銀貨2枚を渡し、ルセは受け取った。その後、アイリーンはそのまま革袋をクララに手渡した。クララもその意味を理解して受け取る。


 クララ達3人の荷物をアイリーンが異空間収納を開き、荷物を仕舞わせ、その後も街の雰囲気を楽しみながら、目的の建物に向かった。


※※※


「遠くから見えていたから薄々分かっていたが、明らかにアレだな……………」

「そうね………………明らかにアレよね……………」


 ガリアーノとアイリーンは呆れ顔で()()()()()()()


「スッゲぇー! 何だよ兄ちゃん、この建物は!」

「そうそう! お城とはまた違っているし、この建物はいったい何なのルセ姉!」


 見るモノ目新しい事ばかりの2人は興奮を隠しきれない。当然、クララとミランダもそうなのだが、そこは2人より年長者と言うこともあり口には出さないが、興奮はしていた。


「この建物は衣類や食材、生活用品などを一つの建物内で販売を目的とした複合商業施設だよ」


 ジアンの説明に、ああ、やっぱりか、と納得したガリアーノとアイリーン。


「だから、さっきの駄菓子屋の品物もあるし、さらに品数豊富になっているよ」


 その言葉にナツメとソウジはテンションが上がった。


「それにしても良くこの建物を建てる土地があったものだな。ここら辺は住宅も密集する場所だろ?」


 ガリアーノの指摘はもっともであった。この建物が建っているのは商業地区の中心地。


「ガリアーノ様の言うとおりです。元々ここら一帯は住宅や店がありました。この建物を造る時、リーナがここら一帯に住んでいた人達を説得したみたいですよ」


 ジアンも詳しくは聞かされていないためそこまでしか知らなかった。


 リーナがこの一帯の住人を好条件で買収していた事を。


 リーナが出した条件は、その住民が望む住宅を他の土地に移して提供する事。勿論、内装や生活に必要なキッチンなどの家具家電〔電気はないので魔石による代替品〕の提供付き。


 商売していた人達には、複合商業施設内での販売とクサナギ商会で取り扱う商品の販売及び売り上げ金の一部〔応相談〕。


 そしてダメ出しに、クサナギ商会が出している会員制カード──ゴールドカード〔クサナギ商会系列店舗の商品3割引〕を付けた。


 このカードは金、銀、銅の3種類があり、金が最高のカードで銀が2割引となっており、銅が1割引となっている。そして全カード共通してポイントが貯まり、そのポイントがお金の代わりに使えるという仕組みまでとなっている。


 つまり、それ程の破格の好条件をリーナから提示されれば反対する者は居らず、喜んでの一言でその土地を明け渡していく始末。


 因みに、初回からゴールドカード、シルバーカードを入手するには、ゴールドカードは金貨10枚=大金貨1枚、シルバーカードは大銀貨10枚=金貨1枚支払えば入手可能となっている。


 そうしてリーナが手にした土地には、カイトの屋敷の3倍はある大きさの5階建てのコンクリート造の複合商業施設を完成させた。


「さあ、ここでこうしていてもしょうがないですから、中に入りましょう」


 建物前の入り口で談話しており、結構な人が出入りしていて、それなりに邪魔になっていた。そんな事もあり、ジアンはさっさと中に入りたかった。


「それもそうだな」


 ガリアーノも賛成でありジアンの後をみんなが続く。


 そして建物の中に入ると、中はかなりの人達が行き交い、賑わっていた。


 ガリアーノ達家族はあまりの人の多さに驚いていた。


「この世界の奴らにとっては珍しい事だろうけど、よくもまぁ、こんだけの人集りになったものだな」

「それもこれも、リーナ達が物珍しい商品を販売した為ですね」


 ジアンは目まぐるしく行き交う人達を避けながら、ガリアーノ達を目的のフロアに、建物内の説明をしながら案内する。


 1階のフロアは食品、食材、生活用品。2階は家具家電。3階は衣服。4階は遊戯場。5階はレストラン。屋上は様々なイベント行事に。と、言う具合に主に敷きっている。


 更に各フロアに行くにも、神族──大地と商業の女神と成ったリーナは無から有のあらゆる物を創る事が出来る【万物創造】のスキルが使えたのだが、創造神でもあるカイトに無理を言って【万物創造】のスキルを使い、エスカレーターとエレベーターを設置したのだ。〔カイトがいつ自分達も神族になったのに気付くか黙っていた為、この世界では無い物はカイトに頼んでいた〕



 勿論、電気の代替は雷の魔石を用いて、配線関係も【万物創造】で造り、この世界で無い物はそうして必要な物をカイトが()()()目にする物は頼んで揃えていった。〔基本、燃料関係は魔石を用いている〕



 そういう珍しい物見たさもあり、5年という瞬く間にクサナギ商会は商業でトップの不動の地位に就いた。

 ───というより、個人や中小はもとより、老舗の商売をしている店は、クサナギ商会に客を取られ、まともな勝負にもならない為、事実上、クサナギ商会系列での営業を余儀なくされ、クサナギ商会の一店舗、一商会となっている。


『新鮮、安心、最安値をモットーにお客様の要望に応え、更に値引きも致します!!』を掲げている。


 そんな感じの説明をしていたジアンは呆れ果てているガリアーノとアイリーンを余所に、エスカレーターで目的のフロアに着く。


 そこは3階の様々な衣服を取り扱うフロア。


 アイリーンが、子供達やミランダに着せる衣服の参考に目新しい店はないのかと言った為。それで連れて来たのがこの場所。


「わあ~。結構可愛いのとか種類があるわね」


 アイリーンはその衣服の量に興奮していた。勿論、ルセ以外の女性陣も同様に。




「アラ~♡? そこに居るのはもしかして、ジアンちゃんとルセちゃんじゃない♡?」


 そこに、少し野太い声で甘ったるい口調で話して来る人物が居た。


 ジアンとルセは声のする方を見るとそこには、フリルが所々に付いたピンク色の可愛らしい服装で、細身で成人男性並みの長身痩躯で、可愛らしい顔立ちに、胸元まである艶やかな金髪を顔の両わきから前に流しているおさげの髪型をした女性。


「エルシャさん」「エルシャオネェサマ」


 そこには2人が見知っている人物が居た。


「もう~♡。ジアンちゃんったら、いつになったらアタシの事、ルセちゃんみたく呼んでくれるのよ♡」


 エルシャは右手小指をピンッと立て、右手を頬にあてて少し困り顔をしていた。


「…………その内に…………」


 ジアンは苦笑いをして誤魔化していた。


「それにしてもどうしたの♡? いつもなら、カイトちゃんの後継ぎで騎士達の訓練をしている日じゃなかった♡? ルセちゃんも♡」


 エルシャは、エルスとリーナから自分達の正体を明かして貰い、諸々の事情を聞いていた。


「今日は陛下から休みを貰い、こちらの方々を案内していたのですよ」


 ジアンは、後ろの方で衣類を見ていたガリアーノ達を紹介しようとして後ろを向くとそこには、ガリアーノしか居なかった。


「アイツらなら、我慢仕切れなくて服を見に行ったぞ」

「そうでしたか。それではガリアーノ様だけでも──」

「…………ガリアーノ様♡……………?」


 改めて紹介しようとしたジアンを余所に、ルセはエルシャの呟きを聞き逃さなかった。


「エルシャオネェサマ、もしかしてガリアーノ様の事知っているの?」


 本来ならガリアーノの事を知らない者はいないと思われ、ルセの質問はおかしいと言わざる負えないのだが、そこはガリアーノの性格と時間が関係している。


 ガリアーノは初代剣聖と呼ばれた人物なのだが、目立つのが嫌と言う理由で、聖王陛下を脅迫してまで箝口令を敷かせた程。その為、必要最低限の情報しか出回っておらず、そこに長期に渡る行方不明。そう言うのが重なり、ガリアーノの存在が眉唾ものとなり、ガリアーノの事を知る者は少なかった。


「……………ええ、勿論よ♡。何てったって、今のアタシにした張本人ですもの♡」

「「………………えっ!」」「……………あん?」


 ジアンとルセは驚き、ガリアーノは知らないと言った表情を浮かべていた。


「いや、知らんぞ、お前なんか」

「まあ、そうでしょうね♡。この容姿になってからアタシ、女に磨きを欠かさなかったですから♡」

「いやいや、それ以前に俺と会ったことあるのか? 全く身に覚えがないんだが?」

「ヒドいわ、ガリアーノ様♡。アタシをこんなステキな姿にしたのを憶えていないなんて♡」


 エルシャは自身の躰を両腕で抱き、クネクネと動かして照れていた。ガリアーノはその様子に困惑するしかなかった。ジアンとルセも同様に。


「……………え~…………ガリアーノ様、ホントに身に覚えはないんですか?」

「そ、そうですよ! さ、流石にこんなにインパクトのある方、そうそう居ませんよ!?」

「ル、ルセ!? 何気にヒドい事言ってるよ!?」

「あ~~そう言われてもな。憶えてねぇもんは憶えて……………………ねぇ、え?」


 ガリアーノは突如、エルシャを見ながら考え込み始めた。


「仕方ないわ♡。ガリアーノ様との出会いは強烈だったけど、あっという間だったのだから♡」


 そして何故かエルシャは何処か懐かしむ様に、何処とも言えない遠くを見ていた。


「そう、アレは、アタシが冒険者をしていて1番に調子が良かった時だわ♡」


 そしてエルシャは目をつぶり語り出す。


 

 エルシャ──本名ダイディス・グレバニー 現在40歳 男。どうして女性に変わってしまったか………………。


 まだ彼と呼ぶのが相応しく、冒険者Aランクで活躍していた時、彼は息抜きがてら、この友好都市グラディウルをぶらぶらと歩いていた時だった。


 その当時の彼は、パーティーを組んで数々の厳しい依頼を(こな)して活ける程の実力者であった。その当時は既にガリアーノはSSランクになっていたのだが、その姿形を真面に見たものはほんの一部の者だけであったが為、存在自体が噂の類いとされていた。

 アイリーンもSランクとなっていたのだが、ガリアーノに常に付き添っていた為、アイリーンの存在もあやふやとなっていた。


 そんな事もあり、二人の事を知ることも無い、一介の冒険者に過ぎなかったダイディスは、同じくグラディウルを息抜きで歩いていた二人に出会った。――――――――いや、絡んだのだ、身の程知らずにも。


 少しの間ガリアーノと離れて、一人で散策していたアイリーン。そこにダイディスがすれ違う。


 滅多にお目にかかれない程の美人を目にしたダイディスは、一人で歩いていたアイリーンに声を掛けた。そう、ナンパである。


 アイリーンは声を掛けてきたダイディスに、軽く適当に返事を返してやり過ごそうとしていた。だが、アイリーンの裏腹とは別に、ぞんざいにされているダイディスは諦めずに声を掛け続けた。


 アイリーンは流石に鬱陶しく思い、尚もしつこく付きまとうダイディスを連れて、ガリアーノの下に向かう。


 ガリアーノとは念話で話してあった為、アイリーンの後を付きまとっていたダイディスの姿を見るや否や、ガリアーノは試作魔法【変幻】をダイディスに試した。そう、実験の生け贄にしたのだ。


 試作魔法であった【変幻】の効果は、掛けた対象の望む姿形にする事が出来る魔法。つまり、本来自分が成りたかった者に成れると言った魔法。例を挙げるなら、男から女に、男から馬や犬、猫と言った者にまで成れると言うこと。

 ただ試作魔法であるため、対象がそのままの姿形でいいと望んでいるのなら変化をする事も無い、心の底から反省や後悔、又は数時間経てば元の姿に戻る事が出来る、害が在るようで無い様な試作魔法。その魔法をガリアーノは嬉々として、見ず知らずの者に掛けたのだ。


 そして掛けられたダイディスは、少し大柄の筋肉質でワイルド系と言った体型から、長身のスタイルが良い女性の身体付きに変貌していった。


 ガリアーノは変化を見届けてから、もと男に向けて


「今後、女性に無理矢理付きまとう事はするなよ」


 と、言い残し、ろくに説明する事なくアイリーンを連れて去って行く。


 その場に取り残されたダイディスは、訳が分からぬまま、混乱した頭でギルドに戻る事に。


 そしてパーティーを組んでいた者達を発見して事の顛末を説明するも、最初は信じてもらえず、ダイディス本人しか分からない話をしてようやく納得してもらった。


 その日は深く考えていなかったが、数日経っても女性の姿から、元に戻ることがなかった。それだけじゃなく、パーティーメンバーや他の冒険者達からの見る目が変わっていることに気が付く。

 それは自分も良くやっていた目………………異性として、性欲の捌け口として見る目を、周りの男性冒険者達が、ダイディスに向けていたのだ。


 それは仕方のないこと。何てったって、黙っていればスタイルの良い美人の女性にしか見えないのだから。


 ダイディスはいずれ身の危険があるとして、ギルドに冒険者の身分証を返納して、冒険者を辞めた。


 それに良い機会と思っていた。女性に変わってから、身体能力は著しく低下し、魔法や剣術などのスキルも半分もしくはレベルの低かったモノは消滅していたのだから。


 唯一満足に使えていたのは身体強化。ダイディスは魔法よりも身体強化を長く使っていた。そのお陰で、女性になっても身体強化の技術は存分に揮えていた。


 冒険者を辞めたダイディスは、誰にも知られることなく秘密にしていた裁縫を存分に揮える服屋を始めた。


 名前もエルシャと変え、服もフリルをふんだんに付けた服装にしたりと、男では決してやるつもりが無かった事を、好き放題やっていった。


 そして数年が経ち、友好都市グラディウルでの突然の被災。


 その復興をしている際に出会った、エルスとリーナ。その2人の出会いがあり、今に居たる───。



「───と、言うわけなのよ♡。だから、ガリアーノ様の事はアタシなりに情報を集めていたのよ♡。全く大変だったわ♡。ガリアーノ様とアイリーン様の情報は少なく、ごく一部の限られた人にしか分からないから、ガリアーノ様達の情報を集めるのわ♡」


「…………恐るべし執念、エルシャさん…………」「……………恐るべし執念、エルシャオネェサマ………」


 身の上話を聞いて、こんな姿をしてくれたからには恨みしかないと思っていたジアンとルセ。勿論ガリアーノも2人と同じ考えであった。


「…………………ろくに憶えていないが、なんかすまなかったな。俺の大事な女に手を出してきた輩が居たから、ついな」

「いいえ♡。むしろ感謝しています♡。ガリアーノ様達に出会ったからこそ、今のアタシが居るのですから♡。ありがとう御座います、ガリアーノ様♡」


 エルシャは深々とお辞儀をしていた。ジアンとルセ、ガリアーノも恨みではなかったと、安堵していた。


「ガリアーノ様に会ったら、お礼を言いたかったものですから♡」

「…………………そうかい…………………まあ、そう言うことなら受け取っておくよ」

「はい♡」


 ガリアーノは家族以外の人から真面に感謝されるのはこそばゆく、照れていた。


「それで、わざわざ2人が案内してこの店に来たからには、ご所望があるんでしょ♡?。店長のアタシが見繕ってあげるわよ♡?」


 ジアンとルセはこの店に来た本来の目的をエルシャに話す。


「そう言うことなら任せて頂戴♡。アタシがみんなにあったモノを見繕ってあげるわよ♡」


 そう言ってエルシャは、店で働く従業員〔メイド服、執事服を着た〕を集め、それぞれの従業員に指示を出していった。


「それじゃあ、集めてくるから後で会いましょう♡? せっかくガリアーノ様達が来て頂いたのですから、存分に楽しんで行って欲しいですからね♡」

「待ち合わせ場所は何処にします、エルシャオネェサマ?」

「そうね♡………………時間的に、お昼になるだろうから、レストランで良いかしら♡? オーナーには話しておくから、後でそこで会いましょう♡」

「分かりました」


 そしてジアン達はエルシャと別れ、好き放題に見て廻っているアイリーン達を見付けながら、店を廻り、レストランに向かった。

お読み頂きありがとう御座います。

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