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家族で異世界転生~そして、少年は~  作者: 長谷川
第3章 動き出す者達、そして~
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間話3

 訓練場から場所を移し、王家の者が伸び伸びと寛ぐ事を目的としたプライベートルーム。


 そこには、聖王陛下と王妃。ジェイドとセリカ、その2人の娘アイカ。ガリアーノとアイリーン、その2人の双子の姉弟ナツメとソウジ。それに義理の娘クララ。

 ジアンと魔法師団の演習に付き添いをして戻ってきたルセ。そのルセの護衛をしていたジアンの使い魔のバロン【小型サイズ】とルセ自身の使い魔のフール【小型サイズ】が居る。


 そして、肝心要である老執事のアルフは、みんなが畳の上で座っているのに対し、1人だけ給仕をしていた。

 ただバロン【小型】とフール【小型】はアイカの遊び相手をしていた。


「さあ、話してくれよじいさん」


 ガリアーノは全員に飲み物を配り終えたタイミングでアルフに話し掛けた。


「と、言われましても、何からお話しましょうか?」

「そうだな…………………どうせなら、じいさんが城に仕えることになった理由から話してくれよ」


 アルフは長話になると思い、紅茶が入ったカップを片手に立って語り出す。


※※※


 エルフの住まう国──ラムル国を長年統治していた王様が居た。

 自然を愛し自由奔放な精霊と共に暮らす事をしているエルフの中で、産まれた過程が違う者が──。


 エルフが大切で大事にしているラムル国のシンボルとして崇めている、この世界の始まりと共にあると言われている大木───神聖樹。


 その神聖樹がまばゆく輝いた時があった。


 その輝きが収まった時、神聖樹の根元に2人の赤ん坊が籠に入っており、スヤスヤと眠っていた。その傍らには一本の枝が添えて──。


 その赤ん坊の1人がのちの王様として崇められる。



 その赤ん坊達の名前───1人は男の子でアルフレッド。───アルフレッド・シルバニア・ラディアス・クリューネ。

 もう1人は女の子。その名前はシルフィ。───シルフィ・シルバニア・ナテラ・クリューネ。


 2人の姓が一カ所違うのは、エルフ特有の容姿の為。


 エルフは男女問わずみんな美しい容姿をしている。中には男か女か見分けが付けるのが難しいほどに。それに相まって、名前まで男か女か分かりづらい時がある。


 その為に、男の姓にはラディアス。女の姓にナテラ。それぞれ入れる事になっている。


 男の姓のラディアスは男性。女の姓のナテラには女性。と、エルフならではの意味がある。


 2人の赤ん坊は周りの大人達の世話もあり、すくすくと育っていった。


 やがて赤ん坊は成長し周りの大人達が2人の内、アルフレッドを王に据え始める。それに伴い、神聖樹から産まれたアルフレッドとシルフィを自分達より上位種の存在としてハイエルフとした。


 そしてアルフレッドは王になり、シルフィはその補佐役としてラムル国は栄える事も滅びることもなく、平穏な───むしろ、閉鎖的になっていった。


 何故そうなったか……………。


 むしろ、アルフレッドと言う自分達より上位種の存在を統治者にした為に、通常のエルフ達は自分達が統治しなくてもいいと考え始め、堕落していったからに違いない……………。


 アルフレッドも前統治者のエルフから簡単な話を聞かされて、治め始まったに過ぎず、殆どの事をやらずに居た。と、言うより知らなかった。


 唯一知ったことと言えば、自分達の傍らに居る存在の精霊達。その精霊達から聞かされる自分達の国の外の話。


 王になったアルフレッドは政務に勤しむよりも、精霊達から外の話を聞くことに熱中していた。政務は妹のシルフィが代わりにこなしていった事で、滅びる事にはならなかった。


 そんな外の世界に長年憧れ続けたアルフレッドは、意を決して国を出る。

 ただ旅と言うものを知らないアルフレッドは、少しの蓄えしか持ち出さなかった。


 自然の中で生活していたエルフ達に取っては、森や平原などに生えているキノコや薬草、山菜など食用が見分けられたので食べることには困らなかった。


 ただアルフレッドが旅をした時代が悪かった。


 その時代は、グラキアス聖王国とソティウル騎士王国が、戦争をするほど仲が悪い時であったのだ。


 両国は戦争もしている事もあり、少しの油断も許す事が出来ない程、ピリピリとした緊張状態が長く続いている。

 そこに身分も分からない、得体の知れない人物が現れたら些細なことでも大きく発展する程に。


 エルフは他種族より耳が長く、容姿が美しいだけではほぼ人族と変わらず、殆どの人が当たり前に使える魔法を披露するも、エルフ達以外には視えない精霊の協力で威力が格段に上がる精霊魔法に変わるだけで、むしろその高威力の魔法の使い手と言うことで間者と思われる始末。


 それ以外に身分をあかす物を持たないアルフレッドが、不審人物として捕まる事になりそうになった。


 そこに、長く膠着こうちゃく状態が続いていたために、少しの間王都に戻っていた当時の聖王陛下(エルスから見て祖父)が成り行きを観ていたのだ。


 事の顛末を知った聖王陛下は、アルフレッドを膠着状態の戦争を動かす鍵として、アルフレッドの身柄を自身の傍に置くことに決めた。


 アルフレッドは戦争に巻き込まれる事になるとは思いもせず、聖王陛下の恩情にただただその時は感謝をしていた。


 後から聖王陛下の真相を知ったアルフレッドは恩を仇で返す事はしなかった。精霊達と協力して自身がやったと分からない様に、両国に同等の被害を与え、戦争をしている場合ではない状態にしていく。


 両国の王は戦争をしている場合では無いと悟り、一斉に兵を引かせ、スッキリしない感じで戦争は終結した。


 被害が無くなり、また戦争をする雰囲気があったが、その時にはアルフレッドは聖王国の王城で使用人として仕えていたので、精霊を使い良い具合に被害を与えて、戦争をしている場合では無い状態にしていた。


 隣国のソティウル騎士王国にも同等に被害を与えていた。第三国の介入が噂される時もあったが、その度に姿を変え変装していたアルフレッドが現れ、精霊と共に情報撹乱をしていった。


 そんな感じでアルフレッドは長年にわたり、戦争を回避させていったのである。


※※※


「と、まぁ、なんの面白味も無い落ちですみませんね」


 アルフは話している間も給仕に勤しんでおり、アルフ自身も紅茶のお代わりをして話疲れた喉を潤していると、何故か誰1人話す声が聞こえなかった。


「おや? 皆様、どうなさいましたか?」


 そんな違和感を感じたアルフは訊ねていた。


「………………どうしたも何も……………じいさん、何だよその容姿は……………?」


 やっと口を開いたガリアーノは驚愕していた。よく見るとガリアーノだけで無く、アイカを除いた全員が驚きの表情を浮かべていた。


「はて? 私の容姿がどうなさりましたかな?」


 流石のアルフでも、ガリアーノの言った意味が分からなかった。


「あれ? じーじ、どこにいったの?」


 アイカまでおかしな事を言い出し始める始末。


「じーじはここに居ますよ」

「じーじちがう! しらないひと!」


 アイカのその言葉にアルフは精神的ダメージを負ってしまう。そしてアイカは母親であるセリカのもとに駆け寄った。


「あの、アルフ様」

「はい、何でしょうか?」


 精神的ダメージを負ったアルフに、アイカを優しく抱き締めたセリカが話し掛ける。


「アルフ様の容姿が若返っているのですが…………」

「…………はて?」


 そこで始めて皆の驚き様に気付き、アルフはこの部屋に備え付けられている鏡台に向かった。


 鏡台に向かいそこでアルフが目にしたのは、薄緑の頭髪、眉目秀麗の言葉が当て嵌まり、執事服を着た青年が映っていた。


 それは久しく見ていなかった本来の自分の姿だと言うのを、直ぐには思い出せなかった。


 だが今現在、自分の目に映っている眉目秀麗の青年と、部屋の雰囲気と状況がアルフ自身だと認識させる。


「これはこれは……………昔話をして、ついつい精霊達がイタズラで魔法を解いてしまったようですね」


 ようやく事態を飲み込んだアルフ。ついでに声も若返った影響でその容姿にあった声に戻っていた。声も久しく忘れていた為に、事態の把握が遅れた原因でもある。


「せっかくですから、この部屋に居る間だけでもこの姿で居ましょうかね」


 かなり前向きなアルフはみんなを余所に、また給仕に戻り始める。


「ね、ねぇ、アルフ?」

「どうしましたラヴィエス様」

「そ、その姿で居るのは、か、構わないのだけど、どうしても聞いておきたいことがあるの」

「はい、何でしょう?」

「あ、貴方の実年齢って何歳なの?」


 それは長く知ることの出来なかったアルフの秘密。王妃はせっかくの機会だと思いアルフに訪ねた。


「うーん…………………………………」


 みんなが応えてくれると期待してアルフに視線を向ける。


「忘れました」

「「「「「「「……………え…………?」」」」」」」

「いや~。長らく年寄りの格好で居ましたからね。正確な年齢は覚えてませんね。でも、この見た目から推測するに───二十代半ばでしょうから、五百年は生きて居ますね」


 アルフは何ともないように応えていた。


 ただそこには静寂が流れるばかりであったが……………。



───トントントン。


 と、そこに扉をノックして来る者が居た。


「陛下。マルティン伯爵様方が来られました」


 その声はメイド。


 その言葉を聞き、ジェイドとセリカは表情が強張っていた。その事に気付きながらも聖王陛下は入室の許可を与える。


「失礼します」「失礼します」


 白髪の壮年の男性と、水色の妙齢の女性が目線を伏し目がちに中に入って来た。


「待っておったぞ、マルティン伯爵。夫人も」

「お待たせして申し訳ありません、陛下。それで…………2人が見付かったと兵士が迎えに来てその時に聞いたのですが……………」

「うむそうじゃ。その為には、おもてを上げてよく見て見るのじゃ」


 陛下から言われ、そこで始めて部屋の中を見渡した2人は、陛下達が座っている場所を見始め、見馴れた人物と見知らぬ人物が居る事を知る。


 そして陛下の言葉通りよく見ていると、そこには──


「…………………セリカ……………………ジェイド………………?」


 2人が行方不明で居なくなってから、2人のことを気に掛け過ぎて、青髪から白髪になる程、2人の無事を願って心配して止まなかったマルティン伯爵が2人を凝視していた。2人が無事と信じていた夫人も伯爵程ではないにしろ、凝視する程に驚いていた。


 アイカを抱いたままセリカは立ち上がり、2人の下に歩み寄った。ジェイドもセリカに続くように後ろに付いて行く。


「お父様、お母様」


 セリカから言葉を聞き、マルティン伯爵はヨタヨタと歩き始める。そんな状態のマルティン伯爵を支えるように夫人も一緒に歩き始める。


「ほ、本当に…………セ、セリカ…………なのか…………?」

「はい。お父様、お母様、2人の娘のセリカです」

「う…………う…………うぅ……………」


 マルティン伯爵はセリカからの言葉に涙ぐみ始める。


「セリカ。貴女が抱いている子はもしかして……………」


 涙ぐみ話すことが出来ないマルティン伯爵の代わりに、嬉し涙を目元に浮かべている夫人が訪ねた。


「はい。娘のアイカです。勿論ジェイ君との」

「そう、こんなにも大きく…………」


 マルティン伯爵は更に泣き出し、夫人は慈愛を浮かべアイカを見つめた。


 そんなアイカは指を咥えて、キョトンとしていた。


「ママ、だれ?」

「アイカのばーばとじーじになるのよ」

「ばーばとじーじ?」


 孫娘になるアイカからそんな事を聞きより一層感極まってしまうマルティン伯爵。夫人は頬が緩んでしまう始末。


「初めまして、アイカちゃん。貴女のばーばですよ」

「ばーば!」


 夫人は優しい笑みを浮かべ、セリカに向けて両手を差し出しアイカを抱く仕草をし、セリカはその意味が分かりアイカを夫人に抱かせる。


 アイカを抱いた夫人は手慣れた手つきであった。アイカも嫌がってはいなかった。


「ほらアナタ。いつまでも泣いていないで、抱いてみないんですか?」

「じーじ?」

「す、すまん。だ、抱かせてくれ」


 マルティン伯爵は何とか少しだけ涙を流すのを止め、夫人からアイカを抱かせて貰う。


 アイカもマルティン伯爵に抱かれたのだが──


「じーじ、いや!」


 抱くのが下手だった為に、アイカに拒絶される。そしてアイカは夫人に小さな両手を差し伸べる。夫人もアイカの助けに、空かさずマルティン伯爵からアイカを取り上げた。


「残念でしたわねアナタ。セリカが小さい頃に構ってあげないのが裏目に出てしまいましたね」


 アイカに拒絶されて、精神的ダメージを負いその場に沈んでしまったマルティン伯爵に追い打ちをかける夫人。


「それよりもアナタ。セリカとジェイド君に言うことがあるのではなくて」


 蚊帳の外に居たジェイドにも触れる話があった。


 夫人から言われ、いつまでも落ち込んで居られない伯爵は立ち上がり2人を見据える。


「セリカ、ジェイド。こうして無事に戻って来てくれたこと、私は素直に嬉しいよ。そして孫まで居るのだ。尚更喜ばしい限りだ。それでな………………2人が無事に戻って来たら言いたい事があったんだ」

「「はい」」


 セリカとジェイドは真剣な表情をする伯爵に応えるように、2人も真剣な表情を浮かべる。


「私が頑固者であったがために、セリカは気付いていただろう。ジェイドが陛下に進言して2人の仲を認める事を言っても、ちゃんと認めて居なかった事を」


 2人は応える事はせずただ黙って聞いていた。セリカに至っては実家に帰っても父親に挨拶を交わす事もしない方が多かった。それ程までに伯爵は、2人の仲を陛下に言われて渋々認めていたに過ぎないのだ。


「だけどな…………この5年間……………お前が居なくなってから私は後悔した…………。私のちっぽけなプライドの為に、大切な娘を亡くしてしまったと…………。そしてもし、お前が…………お前達が無事に生きて帰ってきたら決めてた事があるんだ」

「………………それは何ですの?」


 セリカが問い返す。傍らにアイカを抱いている夫人は優しい笑みを浮かべている為、悪い話ではないとセリカとジェイドは思っていた。


「ジェイドに家督を譲る、と」


 その言葉だけでセリカとジェイドは意味を理解する。渋々認めていた伯爵が、正式に2人の仲を認め、伯爵の貴族位を任せると言うことに他ならなかった。


「引き継いでくれるな、ジェイドよ?」

「………………はい、セルシオ様」

「違うぞジェイドよ。今後私のことはお義父さんと呼びなさい」

「はい、お義父さん」


 それから、伯爵と夫人もそのまま聖王陛下達が座る畳に座り込み、これからのことの話し合いが設けられた。


 ガリアーノの提案でセリカはアイカの育児もあり、実家に帰ることになり、自ずとジェイドも伯爵邸に行くことに。


 そこでジェイドはマルティン伯爵から引き継ぎをしていく。その為ジェイドは王都に居ることになる。


 ガリアーノ達家族は寝泊まりや、自分達が居なかった間の情報を得るために、ジアンがカイトの代わりに当主代理をしているカイトの屋敷に行くことなった。


 大まかな事を決めそれぞれが動き出した。

お読みいただきありがとうございます。

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