19話
「息子だげでなぐ、娘まで居るなんでぇ!」
「因みに、後ろに居る私と似た格好の人達も、父さん達の義娘よ」
「そんなにっ!?」
リーナがとんでもない事を口走った。そんなに追い詰めてやるなよ。
「────息子よ」
ほら、小さな腕を組んでいる父さんが話し掛けてきたじゃないか。きっと、納得してないぞ。
「ちゃんと責任は取れるように育ててた筈だからな」
うわぁ。色々な意味に聞こえてくるよ。
「もちろん、みんなを蔑ろにするつもりはないよ」
「なら、問題ない」
「……………えっ? それだけ?」
「それだけだが何か?」
「いや、もっと何か言ってくるものだと思ってさ」
「うーん。そうなんだが、この世界って一夫多妻制って女神様も言っていただろ? 別に法に触れるとかではないんだし、問題ないだろ?」
………………何かがおかしい。結構厳格な性格をしていた筈の父さんが、どうしてこんなに寛容になっているんだ…………?
「ねぇ、父さん。何か隠してる?」
「…………………何の………事だ…………?」
えっ? 父さん震えてる………?
小さな腕を組んでいる父さんは、視線をリーナ達の方に向けて居ながら、その腕が小刻みに震えている。
「父さん、マジで何を隠しているのさ? 震えているじゃないか」
「……………息子よ。忠告しておく。精神がそのままで転生して来ても、身体が小さいと抵抗しても無駄な時がある。そんな時は、素直に要求を受け入れるのが最善だ」
「えっ!? いや、ホントに何があったの!?」
「…………………リーナからお前には複数人の婚約者が居ると聞かされて、少し意見したら、赤ちゃんが着るような服装を着せられて、あやされた」
父さんは視線を上に向けて、明後日の方を見ていた。よっぽど、キツかったんだな。中身がオッサンの人が身内にそんなことされれば、ちょっとしたトラウマにもなるか。
「因みに、母さんもされた」
そうか。未だに震えているから、この話はとりあえずお終いだな。
「ねぇ、一つ聞きたいのだけど?」
「なんだぁ、娘っこぉ」
「貴女より強い男性なら、エルフじゃなくても構わない?」
「出来れば同族が良いがぁ、ワダスより強ければぁ構わねぇ」
「分かったわ、ありがとう。さぁ、始めましょう」
リーナは長剣を手に、身構える。
フォルティスは両手を両脇に広げた。
「ワダスに力を貸してけろぉ。ダークフォレスター、シャドウウルフ」
フォルティスが呼んだのは、黒色の3m程の大木の魔物と黒色の狼の魔物が、フォルティスの拡がった影から次々に出て来た。
その数、二十数体。
「どうだぁ、ちびったかぁ娘っこぉ?」
「スゴいわね。でもどうして、禍々しさを帯びた魔物を召喚したの?」
「そんなのわがんねぇ。ただ、ヂカラをくれるっつうからぁ、そのヂカラを使っているだけだぁ」
「あら? それは誰から貰ったの?」
「ん? 誰だっだかなぁ? なんかぁ、ニタニタしたヤヅだっだ筈だぁ。そんな事より、行くぞ、娘っこぉ!」
フォルティスは両手をリーナに向けて振り抜き、自ら召喚した魔物達をけしかける。
一番速く来たシャドウウルフが、リーナに飛びかかる様に襲い掛かって行くが、リーナは難なく躱し、シャドウウルフの胴体を一刀両断で斬り捨てる。
次々に襲い掛かってくるシャドウウルフを一刀両断で斬り捨てるリーナに、今度はダークフォレスターが襲う。
樹の形をしているため、枝の部分を撓らせ鞭の様にしてリーナに襲い掛かる。
ダークフォレスターは数体で鞭の様に撓らせて攻撃しているのだが、リーナはその攻撃をダンスを踊っているかの如く躱し続ける。
ただリーナも躱すだけでなく、ダークフォレスターの枝を容赦なく斬り落としていく。
「やるでねぇが、娘っこぉ!」
「ありがとう。でもこの程度なんて全く問題ないわよ」
「それならぁ、もっと増やしてやるぅ!」
フォルティスはまた影を拡げ、ダークフォレスターとシャドウウルフを生み出していく。
リーナはそんな事も歯牙にも掛けず、バッサバッサと斬り捨てていく。
「娘っこぉ! どうしてそんなに強ぇんだぁ? オメェもワダスと同じ様にヂカラを持っているんだろぉ?」
「バカ仰い。そんな禍々しい力な訳ないでしょ」
「ならぁ、どうしてそんなに強ぇんだぁ? 何処で手に入れたんだぁ?」
フォルティスは片手を挙げて、ダークフォレスターとシャドウウルフの攻撃を止めさせた。
リーナはまだまだ余裕なのだが、深い溜め息をして呼吸を整える。
「そんなの決まっているじゃない。愛の力よ!」
リーナは長剣をフォルティスに向けて、自信満々に宣言した。
「っ!? そ、そしたらぁ、フリッドォとミントォの愛の結晶体って事かぁ!? オメェの正体わ!?」
「…………………違うわよ?」
流石のリーナも予想外の反応をしてくるフォルティスに、戸惑いを隠しきれない。
「ならぁ、どうやってヂカラを手にしたんだぁ! 教えてけろぉ!」
根が真面目の性格が、こういう時は素直に聞けるのが利点であった。
「えっ………う………うん。い、いいわよ…………?」
リーナも初めて体験する相手であるために、意表を突かされていた。
「ホントけぇ! 娘っこぉは良い奴だなぁ!」
「……………………」
リーナはフォルティスと対峙をしていると、毒気を抜かれまくって、自分が邪な考えを持って挑んでいるのが申し訳なくなっていた。
「で、どうすればその愛のヂカラを手に入れられるんだぁ?」
「…………………まず先に。さっぱり相手にしてくれない父さんの事は諦めなさい。父さんより強い男は居ますから」
「分かっただぁ。フリッドォの事は諦めるだぁ。したらば、誰を相手にすればいいだぁ?」
「父さんの隣に居る銀髪の男性です」
リーナは長剣をカイトに向けていた。
「フリッドォの息子がかぁ?」
「えぇ、そうです。私より、父さんよりも遥かに強いわよ」
「そうなのけぇ? あんまり強そうに見えねぇけどぉ。でも、娘っこぉが言った事だぁ、信じるだぁ」
「えぇ、信じてちょうだい。でも、どうしてそんなに強い男性を求めるの? 何か理由があるのでしょう?」
リーナは抜剣した状態の長剣を持つだけで構えを解き、フォルティスは魔物達を影に戻していた。
「ワダス、母親に言われたんだぁ。ワダス達ダークエルフは、のんびり屋のエルフ達に比べて、好戦的な種族だからぁ、より強ぇ子孫を残してかねぇと、滅びる種族だってぇ。ただでさえ、少ない種族だからだってぇ」
「そう言った事情があって、エルフの中で強い父さんに求婚していたのね?」
「んだぁ」
「でも、父さんはあの見た目通り小さいわよ?」
リーナとフォルティスがフリッドの方を向き確認した時、フリッドはビクッと反応してしまった。それ程までにリーナにされた事が深く精神的ダメージになったらしい…………。
「構わねぇだぁ。ダークエルフもエルフ同様長生きする種族だけぇ、フリッドォが大きくなるのは待てるだぁ」
「そうだったのね。まぁいいわ。でもその前に、その禍々しい力を排除しないといけないわ。じゃないと、愛の力は手に入らないから」
「そうなのけぇ? なら、このヂカラはいらねぇだぁ。…………………でも、どぉすればぁいいだぁ?」
リーナは長剣を鞘に仕舞い込み、手を顎に当てて考え込んだ。
「………………………そうね………………多分だけど、私達で何とか出来るわ。後は私に任せてちょうだい」
「分かっただぁ。娘っこぉに任せるだぁ」
「ああ、それとその娘っこって呼び方は辞めてね。私の名前はリーナ、よ」
「分かっただぁ、リーナァ」
どうしても訛って発音してしまうフォルティスと共に、離れた位置にいたカイト達の下にリーナは戻り、事情説明をして、フォルティスの禍々しい力を取り除く為に、森の外でやる事に。
再度、森に入るのにエルフであるフリッドとミントだけ同行して貰い、残りの治安部隊の兵士達は集落に戻った。
「さて、カイ。ここはサクッと貴方の力で取り除いてちょうだい」
「何で俺? ここは副作用も無いリーナがやった方が良いと思うけど?」
「決まっているじゃないの。ルティスに貴方の力を見せるためよ」
リーナは自分に従順になったフォルティスに愛称を付けて呼び始めた。フォルティスもその愛称を受け入れていたが………。
「カイトォ。ワダスにカイトォのヂカラを見せてけろぉ」
フォルティスはカイトの目線より下から、上目遣いと両腕を使い、その豊満な胸を挟み谷間を見せ付けていた。
「───と、こんな感じでぇ、いいのけぇリーナァ?」
「………………えぇ、その報告がなければ完璧だったわね」
リーナが教える事を素直に受け入れて実行する姿勢は良いことなのだが、逐一報告をするものだから、リーナもこの子をモノにするのは失敗だったかなと思っていた。
「………………リーナ。引き返すならまだ間に合うんじゃないか?」
流石にカイトも、フォルティスを婚約者にするつもりだと理解はしていたから、その事を指摘していた。
「………………大丈夫よ。いざとなったらエルスに丸投げするから」
「流石のエルスでも怒るんじゃないか?」
「いや、むしろ面白がるわよ。カルトちゃんとはまた違って素直な子で、お馬鹿さんなだけだから」
「…………そうかい…………」
カイトは辟易しながら、神格化になった。
「ほう。コレがカイトの神格化か」
「そうなのけぇ? ワダスにはイヤな感じがしてぇ、痛ぇだけだぁ」
フリッドの言葉で神格化になったのが分かったフォルティスが、自身が身に付けた力の所為で、対照的な反応をしていた。
「それじゃあフォルティス。そっちに立っていてくれ」
「分かっただぁ」
フォルティスは返事をして、1人で指定の場所に向かった。
「フォルティス」
「? どうしたぁ?」
「これからやる事は確実に苦痛を伴う。だけど決してその場から離れないでくれ。それ程までに、お前が宿した力は俺と正反対の力だから」
「…………………分かっただぁ。だけどぉ、ワダス、痛ぇのは好ぎでねぇから動いてしまうだぁ。だからぁ、拘束してぇ動きを止めてけろぉ」
「分かった」
カイトは返事をし手をかざして、フォルティスを中心に魔法陣を幾重にも展開した。
次にしたのはフォルティスの拘束。
魔法陣から光の鎖を数十本生み出し、フォルティスの身体に巻き付けていく。
「カイトォ。この魔法ぉ、痛くてぇ熱いだぁ!」
「我慢してくれ。その元凶を取り除いたら、痛みも熱さも感じないから」
「分かっただぁ。けどぉ、段々と苦しくもなってきただぁ」
「なら、さっさと終わらせるよ」
カイトは魔法陣の大きさの強固な結界を張り、次にフォルティスを囲うように、聖なる光の柱を発動する。
「がぁぁぁァァァァっ!! アヅイっ!アヅイっ!アヅイっ!アヅイっ! イダイっ!イダイっ!イダイっ!イダイっ!」
フォルティスの声とは思えない叫びを放って、もがき苦しんでいた。
身体が光の鎖で拘束されているため、その光の鎖を引きちぎる勢いで、もがき続ける。
カイトが創り出した光の柱の中に居るフォルティスから、黒くどんよりとした禍々しい魔力が噴き出し始める。
「ぐるじぃぃぃっ!ぐるじぃぃぃっ!ぐるじぃぃぃっ!ぐるじぃぃぃっ!」
フォルティスは叫びと共に身体も動かしていたが、光の鎖は千切れる事はなく、ガッシリとフォルティスを拘束していた。
「もう少しだ!」
「アヅイっ! イダイっ! ぐるじぃぃぃっ! アヅイっ! イダイっ! ぐるじぃぃぃっ!」
カイトの呼び掛けにも気付かず、フォルティスはただただ叫んでいた。
と、あまりの苦痛にフォルティスは意識をなくし、がくっとして動かなくなっていた。
カイトはそれでも拘束を解かず、フォルティスから禍々しい魔力を取り出していく。
程なくして、フォルティスから禍々しい魔力を取り出す事が終わる。
フォルティスから取り出した禍々しい魔力は、大人を軽々包み込める程の大きさの球状にした量。
禍々しい魔力を取り出し終え、カイトはフォルティスの拘束と、魔法陣の展開を解き、すかさずカルトとティアがフォルティスに近寄り、倒れそうになっていたフォルティスを支える。
「それで、その魔力の塊をどうするのカイ?」
「どうするも、このまま消滅させるしかないだろ?」
「カイト」
「どうしたのさ、父さん?」
今までの成り行きを見守っていたフリッドは、カイトに近付き声を掛けた。
「その魔力、浄化してお前の力に出来ないのか?」
「…………浄化………? 分かんないな。この魔力を手にしたのは今回が初めてだから」
カイトは、その球状にした禍々しい魔力を見て、出来るのか確認した。
「なら、試したら良いじゃないか。ダメなら消滅させれば良いだけだろ?」
「いや、まぁ、そうなんだけど……………」
カイトは素直に返事を返せなかった。
それでもカイトは確認しなければいけない事があった。
それは、帝国の皇城上空で対峙した、黒髪の女性に奪われた神の力。
カイトは、帝国でリーナの生存確認の為に神格化になった時、違和感を感じていた。神の力をモノにしたからこそ分かる、ほんの少しの力の欠如。
その時は些細な事と気にしなかった。
でも、神の力を回復出来るかもしれない可能性の塊が、今、目の前にある。
神の力じゃなく、ただ魔力を回復するだけかもしれない。それはそれで、面白い可能性であることに代わりないと、考え込んでいた。
「分かった、やってみるよ」
カイトは球状を手の平の上で漂わせ、みんなから離れた。
カイトはみんなから離れた位置に着き、自身を中心に魔法陣を展開し始める。
魔法陣の1番外側に結界を張り、その中に聖なる魔力を放ち満たしていく。
そして、意識を禍々しい魔力に向け集中する。
(………………これは、とんでもないな。……………負の感情と言って良い位、憎しみ、恨み、妬み、怒り、恐怖、不安と言った憎悪しか無い)
カイトは初めて、その魔力の根底を知る。
この魔力を浄化するのは簡単ではなく、思っていた以上に相当の時間を有すると。
それでもカイトは、この魔力を消滅ではなく、浄化する事を選ぶ。
そしてカイトは、禍々しい魔力に意識を、神格化での魔力を向けていく───
お読みいただきありがとう御座います。