18話
「それを持っていると言う事は、我が兄であり、この国を統べる王であるアルフレッド・シルバニア・ラディアス・クリューネであると言う証拠です!」
アルフさんのちゃんとした名前か…………。けど、一部違うけど何でだろう?
「それなら、シルフィさんにお返ししますよ。エルフに取って大事なモノですからね」
俺が紋章を差し出すと、シルフィさんが手を出して静止を掛けてきた。
「───申し訳ないのですがその証は、カイト様に継承されます」
「…………………はぁっ!? 一体どういう事ですか!?」
「─────貴方様が持つに相応しいと判断した次第です」
「イヤイヤイヤイヤ!? 俺はエルフじゃありませんよ!? なのに継承されますっておかしいですって!?」
俺がエルフ達の王になったとしても、エルフ達は不満などを抱くだろって。
「まず、その証は王から、次に相応しい王へ渡されます。即ち、精霊王の声が聞こえる事です」
「なら、俺は精霊の声が聞こえませんから、当てはまりませんよ?」
「本来はそうですね。でも、貴方様は違うではありませんか。─────創造神様?」
………………確かに、アルフさんから少しばかり享受して貰ってから、神格化になると精霊達の声は聞こえていた。
「……………何で俺が創造神と知っているんだ?」
神格化とか神とは言っていたが、創造神とはここに来てから一言も言っていない。なのに何故………?
「簡単で御座いますよ。教えてもらっているからですよ」
シルフィさんは右手を肩の位置に持ってきて、こちらですの様な仕草をしていた。
「…………………もしかしてそこに精霊王が居るのか?」
「はい。貴方様方がこの国に来たと報せてくれてから、ずっと傍に居ましたよ」
だから、人数分の座布団が用意出来ていたのか。
「………………どうして………………そこに居る精霊王が、魔神に関する事を教えてくれる───いや、知っていると言った方が適切か?」
「ええ、そうですね。精霊は世界中の何処にでも居て、国が滅んだり栄えたりと、成り代わりを知っていますからね」
その情報が精霊王に伝わるって事か………。
「なら、教えてくれ。魔神とは何か。俺達は確かな事は分からないからな」
「分かりました。ですがその前に………………フリッド、ミント。また来ましたよ」
突如、シルフィさんは2人を呼んだ。
「分かりました」「はい」
父さん、母さんは返事をしながら立ち上がった。
「一体どうしたんだ?」
「幻惑の森には結界が張ってあります。本来は私達エルフと一緒か、証を持っていれば問題ないのですが、許可なくその結界に触れれば、普通は侵入も出来ず、森の入り口に戻される様にしております。ですがその結界を掻い潜り侵入してくる者が居て、入ったのを感知したのです」
結界を張って感知も出来るって事は、シルフィさんが施したって事になるのか。
「それで父さん達が行くのか?」
「そう言うわけだ。頻繁に来る奴が居るからな」
えっ? 頻繁に来る奴って、それはそれでおかし過ぎるだろ?
「父さん、私達も同行していいかしら?」
リーナが突如申し出ていた。
「別に構わないが。ただお前達、普通の魔法は使えないぞ?」
「…………えっ? 俺、初耳なんだけど?」
「幻惑の森に施している結界は、エルフ以外の種族の魔力を阻害して、魔法を使えなくしております」
シルフィさんが説明してくれた。
「あぁ。だからリーナ達の魔力を感じとる事が出来なかったのか」
と、言う事は、神格化で魔力を感じとれたから、神格化になれば使えるって事か。
「魔法が使えなくたって大丈夫よ。どうせ戦闘に参加するつもりはないから」
リーナのこの言葉、本当に参加する気がないらしいな。
「なら、それはそれで構わない。それじゃあ、行くぞ」
その後、父さん達の後を追い掛けて、治安部隊10名の兵士達と森の中を歩いて行く。
森の中を歩いて暫くすると、少し拓けた場所に出た。
そこには、腕を組んで仁王立ちをしている、黒紫の長髪、整った顔立ち、豊満な胸でメリハリの付いた長身の身体。何より褐色肌で最低限の服装と、木製の装飾品を身に付けた見た目が二十歳位の人物。
「遅かったでねぇかぁ、フリッドォ!」
そして見た目から驚く程の訛りの強い口調。
「なんだぁ? 見馴れねぇヤヅが居るなぁ?」
「父さん。知り合い?」
「ああ。アイツが頻繁に来る奴だよ」
「それにしてもスッゴく訛りが強くない?」
「…………あぁ、うん。そう言う事も含めて後で話すよ」
なんか、歯切れが悪いな?
「フリッドォ! ソイツらはぁ、一体なんだぁ! 人間の様に見えるどぉ!」
「………………気にするな」
「気になるだろぉ。ワダスとフリッドォの仲でねぇが」
「………………それよりお前はいい加減にしろよ」
あれ? 父さん、アイツの言葉を無視してる?
「ねぇ、母さん」
「ん? どうしたの?」
リーナは母さんを抱きかかえて話し掛けていた。父さんとアイツは話しているけど。
「あの人は一体何なの?」
「あぁ。あの子はフォルティス。元々一緒に暮らしていたダークエルフよ」
「それがどうして侵入者扱いになっているの?」
「あの子、根は良い子なのだけど、思い込みが激しいのよ。ほら、貴女達も聞いたことがあるでしょ? 魔神信仰教団」
「えぇ、あるわ。それとあの人とどう言った関係が?」
そうだよな。一体何があるんだ?
父さん達はまだ話している最中だしな。
「まずあの子自体、優れた精霊魔導師で実力は申し分ない程なのよ。それであの子、自分より強い人と結婚する、と言っていたの」
「ああ! そこに父さん母さんが現れて無双したものだから、父さんに求婚したのね。でも相手にされてない、と」
「そう言う事。それでもあの子は諦めずに、父さんにアプローチを掛けていったの」
いや、それでも精神年齢はオッサンだから大丈夫でも、身体的に子供だから無理があるだろって? そこはスルーするのか?
「それで3年前に、この森に突如として、魔神信仰教団と名乗る者達が強引に侵入して来て、撃退したのだけど、運良く生き残った者が居て、その者にトドメを刺そうとして、あの子が捕まり連れ去られたのよ。そして少ししてあの子が単身で戻って来たと想ったら、魔物をけしかけて来て、ヤバくなったら撤退をするって事を続けているのよ」
「そう……………それよりどうしてトドメを刺そうとして、逆に捕まるのよ?」
うん。リーナの疑問はもっともだ。
「……………あの子、わざわざ近付いてトドメを刺そうとして、何もない所で躓き転んだのよ」
あぁ~。そうか。そう言う感じの人か………。
「所謂、お馬鹿でドジっ娘なのね?」
「そう言う事よ…………」
「────カイト。すまないが、お前の力を見せてやってくれないか?」
と、何故か父さんが俺に話しを振ってきた。
「え? ごめん、父さん。母さんの話を聞いてて、話がまったく分からないけど?」
「父さん!? やっぱりぃ、フリッドォの言っだごとは、ほんどぅだったんだなぁ!」
えっ? 父さん、何を言ってたのさ!?
「どう言う事?」
「アイツがあまりにもしつこくてな、お前がオレの息子だ!と言った」
父さんよ。姿は変わっても息子だと言ってくれるのは嬉しいけど、今、その言葉は厄介事を招く結果にしかならないよ?
「お前ぇ! フリッドォとミントォとの子供って事は、強いんだろぉ!」
「ねぇ父さん。俺達って普通に魔法が使えないはずだよね?俺、神格化になってまで、魔法は使わないけど?」
「心配ないよ。魔力を外に出す魔法は使えないが、体内で使う魔力までは阻害してない筈だからな」
父さんの言葉通りなら、身体強化は出来るのか。
「それにしてもぉワダスが居ない間にぃ、そんな大きな子供が居るとはぁ、やっぱりぃフリッドォはぁ、ワダスが見込んだ男だべぇ!」
「それで俺はどうすればいいんだ?」
「アイツと戦い、捕獲してくれ」
「了か──」「ねぇ、父さん」
突如リーナがやって来て、父さんを抱きかかえた。
「何だぁ、その娘っこはぁ?」
「どうしたんだ?」
父さん、抱っこされるのはスルーするのか…………。
「あの子の処遇って、決めてるの?」
「いや、まだだよ。それがどうしたんだ?」
「フリッドォ、その娘っこはなんなんだぁ?」
「もし、あの子が父さん達の手に余るなら、私に任せて欲しいのだけど良いかしら?」
「それは構わない」
「ありがとう父さん」
と、言ってリーナは、父さんの頬にキスをして、降ろした。
「ああっ! 娘っこぉ、フリッドォに何するんだぁ!!」
「そう言うわけで、私がカイの代わりにあの子と戦うわね」
「それは良いが、身体強化しか出来ないんだぞ?」
「まったく持って問題ないわね」
リーナ達は神格化になっても、俺と違って副作用もないからな。
「父さん、出来れば何か武器を貸して欲しいのだけど?」
「分かった。オレの武器を貸そう」
後方にいた兵士の1人に声を掛けて、それらしい武器を渡され、リーナはそれを受け取った。
その武器は、少し反っている長剣。
リーナは受け取った長剣を鞘から抜いた。
「結構な業物ね」
刀身は淡い緑をしている。
「この国で一番の実力者に代々受け継がれてきた代物だ。精霊の力を取り込む事で、その剣本来の力を発揮する」
「そうなの? まぁ、私は使えないから、そこまで気にする必要もないけど」
「娘っこぉ、アンタはフリッドォの何なんだぁ!」
「娘ですけど、何か問題ある?」
「っ!? ま、まさが、娘までいだなんでぇ!」
スッゴいショックを受けているみたいだな。
「う、う、羨まじずぎるぅ!」
違かった。この人、ホントにお馬鹿さんだ………。
お読みいただきありがとう御座います。