17話
ノエルが神格化して発動した【ゲート】を潜って次に見た景色は、辺り一面木々──つまり、森であった。
その木々の間から太陽の光が差し込み、自然本来の豊かさを保ったままで、木の上や地面に至る所に家が建ててあった。
そして俺達が居る場所は、その集落と言うのが当てはまり、広場と呼ぶのが相応しい場所。
「やっと来たわね、カイ」
「あぁ。───って、リーナ。リーナが抱きかかえてる幼女は?」
俺の目の前には、リーナとティア、3、4歳程度の身なりにしか見えない幼い子供───男の子とリーナが抱きかかえてる女の子が居る。容姿は耳が尖っているだけで人間と変わらず、可愛らしくも美しい幼い子供のエルフ達だ。
「この子誰か分からない?」
「いや、分からないも何も…………ん?」
目の前の子供二人から、眷族の気配を感じた。
「もしかして、残り家族の誰かか………?」
「久しぶりね、晴斗」
色が濃い緑色の髪を三つ編みおさげにした、薄緑を基調の服装をした幼女から発せられた。
「えっ!? ……………もしかしなくても、母さん?」
「えぇ、そうよ。この世界での名は、ミントって呼ばれているわ」
「するとコッチに居る幼児は………?」
「まぁ、驚くのも無理ないわな、晴斗よ。因みに俺はフリッドだ」
こちらも濃い緑色の髪をして、薄緑を基調とした服装を着て、幼い手を掲げて挨拶をしてきた。
それにしても、まさかのまさかだって!? 流石に驚くって!? はぁぁっ!? 15年ぶりに再会したのに幼いってどういう事だよ!? 幼い子供の姿の相手に父さん、母さんって呼ぶの、端から見たらおかしすぎるだろ!?
「それでカイ。母さん達からお話しがあるそうなのよ」
って、リーナは普通に呼んでいるし!?
「…………オーケー。事態をのみ込むのにまだ掛かるけど、話って?」
「巫女様に会って欲しいのよ」
「巫女様………?」
「そう巫女様。このエルフの国──ラムル国を代理で治めるお方よ」
……………母さん? 真剣に言っているつもりだろうけど、リーナやノエルにほっぺをプニプニされたり、頭をナデナデされながら言っても真剣味がないよ?
父さんは途中から、ティアとカルトちゃんに、母さんがされているようにいいように同じ事されているしさ。
それにしても、どうしてそんな容姿なのかを説明して欲しいんだけど………?
※※※
俺達が連れて来たシュナイダー達────馬車で父さんの事を隊長と呼ぶエルフの男性が御者を務めて、集落から出発して目的の場所に案内されている間、異空間部屋にて、リーナが母さんを、ノエルが父さんを膝の上に乗せて、情報交換を話し合った。
父さん、母さんは完全に子供扱いされて、4人からお菓子を食べさせて貰いながら話してくれた。いや、もう、完全に大人の威厳は何処にも感じないほどに…………。
と、まぁ、脱線してしまったが、父さん母さんの話を聞いたら、ここは自然と精霊と共に過ごす種族、耳が尖っているのとキレイな髪が特徴的以外、人と変わらない外見をしている、エルフ族の国。
国と言っても、人口は2000人程度らしい。
エルフは不老長寿の種族だから、他の種族みたく多く居る必要を感じない為、その程度の人口で間に合うらしい。
それで父さん母さんは外見が3、4歳児だが、実年齢は俺と同じ15歳だと言っていた。
それはそれで色々と複雑だ。父さん母さんと同い年って……………。
で、その中で纏め役的な存在が居て、精霊の長とも言える精霊王と呼ばれるモノと会話が出来る者───ハイエルフがこの国を治めている王様らしい。
そのハイエルフの王様が200年前に突如居なくなり、代わりにその王様の妹となるハイエルフが巫女として、200年前から代理で治めているとの事。
『なぜ王様ではなく、代理?』と聞いたら、エルフ国に伝わるしきたりがあり、その紋章?みたいなものがないと、継げないかららしい。
『新たに作ったら?』と言ったら、それが出来ないらしい。
何でも、その紋章?は、ここエルフの国で称えている神聖樹なる樹から作ったモノで、500年に1度───その時に唯一落ちる枝があり、その枝を加工して作ったモノが、この国の王様としての証になっているからと言っていた。
「隊長、もうそろそろです」
「分かった」
ノエルとカルトちゃんにされるがままの父さんは、可愛らしく返事を返している。
因みに、父さんが何故隊長と呼ばれるか聞いたら、この国で腕自慢を決める祭りの時に、父さんが飛び入り参加をして実力をしめしたら全てに勝ってしまい、この国の治安部隊の隊長に任命されたとの事。
イヤイヤ、父さんはっちゃけすぎだろ!?
父さんが全勝ちした直後に、母さんが父さんと真剣勝負したらしく、決着は付けなかったのだが、母さんも実力者と分かり副隊長に任命されたと言っていた。それが8年前の出来事。
母さんもはっちゃけてたよ…………。
それでつい先日、魔の森───エルフでの呼び方だと幻惑の森に不審な反応があって、治安部隊の出番となり向かった際、あっという間に不審な輩達を引っ捕らえ終わった時に、リーナとティアが来て事情説明をしている最中、眷族の気配を感じて、父さんが隊長命令として他の隊員エルフ達を納得させたとの事。
こういう時は便利だよな。隊長命令とかって。
その不審な輩達は、リーナが別の異空間部屋に閉じ込めていると言っていた。多分、以前聞いたあの拷も──ゴホンっ。お楽しみ部屋だろう…………。
それで帝国で奴隷扱いをされて、俺が落札したお金をリーナが回収した、と言う事で、俺にそのお金を渡してきた。そこまでして寄越したからには素直に受け取った。
「みんな、外を見てみろ」
ノエルに抱っこされた父さんが窓から見る事を勧めて、みんなして窓際から外を見るとそこには、途轍もなく大きな大きな樹がそびえ立っていた。
正直、樹の先端部分が見えない程に葉が覆い茂っているのもあるが、それでも先端が見えると言う大きさをしていなかった。
「今、みんなが見ている樹こそが神聖樹だ」
「これが………………あれ? 父さん。その樹の根元にある建物は?」
そう。その立派な樹の根元には、一軒家程の大きさの社が建っている。
「あそこに巫女様が住んでいるんだ」
そうか、あそこにか……………厄介事がないと良いけれどな……………。それにしても父さん母さん、リーナ達に好き放題イジられてるな。
そんな事を思いつつも馬車は社の前に停まった。
「隊長、着きました」
御者をしたエルフの男性が外から扉を開けて、俺達は馬車の外に出る。
案の定、父さん母さんはリーナとノエルに抱っこされたままという絵面だが。
カルトちゃんは小型状態の紅鬼と織姫を抱きかかえている。
スッゴく締まらねぇ…………。端から見たらおかしなメンバーだよ……………。
「ご苦労様。しばらく待機していてくれ」
「分かりました」
男性は笑う事もなく、父さんの命令を素直に受けていた。
「それじゃあ、中に入ろうか」
父さんが指を指し示して、父さんを抱っこしているノエルが先に歩き、俺達はその後を付いていく。
階段を上り、中に入ると襖や障子、畳───和室と言った内装をしていた。しかも、装飾が立派過ぎるほどに…………。
入り口でブーツなどを脱いで入るスタイルになっている。
ブーツなどを脱いで、流石に自分で歩くと言って解放された父さんの後を付いていく。
少し歩き、今まで通り過ぎた襖よりかなり豪華な造りの襖を開けた部屋に、赤と白を基調とした服装である巫女服を着ている1人の、薄緑のキレイな姫様カットの長髪、整った顔立ち、背が高そうでスタイルが良い二十歳になったか、ならないか位に見える女性エルフが、座布団の上で背筋をピンッと伸ばし正座をしていた。
「待っていました。まずは腰を落ち着かせて下さい」
巫女エルフが手を差し伸べて、対面に用意していた人数分用意されている座布団に腰掛ける様、促して来たので俺達はお言葉に甘えて座った。
父さん母さんはちゃんと座布団に座り、紅鬼と織姫はカルトちゃんの膝の上に座っていた。
「まずは自己紹介を。私は統治者代理をしております、巫女のシルフィ・シルバニア・ナテラ・クリューネと申します。フリッドとミントからも、貴方方が転生者と言う事等の話は聞いております」
うぅん? 何か引っ掛かる言い方をしたぞ?
疑問に感じつつも、俺から順に自己紹介をし始めた。
「それで話って何なんですか?」
俺達も自己紹介を終えて、呼ばれた意味を聞いた。
「話と言うのは、魔神に関わる話です」
「何か知っているんですか!?」
まさか、ここで魔神の事に触れるとは思いもしなかったぞ。
「そうですね。知っているのは私ではありませんが……………」
「どういう意味です? シルフィさんが知らないとなると一体誰が…………?」
「────精霊王です」
精霊王って、ハイエルフにしか声が聞こえないって言っていた存在だろ?
「どうして精霊王が魔神に関わるんです?」
「…………………そもそも、精霊がどんな存在か、ご存知ですか?」
「…………精霊は俺達の傍に常に居るが、自然と共に過ごすエルフ達以外では、ほんの一握り程度の者にしか、その存在に気付けない。そして、気付けても精霊の声を聞くことがかなわない。エルフから教えを受けなければ」
シルフィさんは少しばかり驚愕の表情を浮かべている。
「カイト。貴方、そこまでの情報を何処で知ったの?」
驚いているシルフィさんの代わりに、母さんが聞いてきた。
「たまたま知ったんだけど、それらしい人がエルフだったんだ」
「あれ? そしたら、急にルセちゃんが精霊の力を存分に使える様になったのは、その人に会ったからなの?」
「そう言うことだよ、ノエル」
一緒に修業をしていたからな、やっぱり精霊の力により、魔法の威力が上がったのが分かっていたか。
「…………………カイ。もしかしなくても、その人物ってアルフ様かしら?」
「まぁ、リーナには分かるか。あの人との出会いはリーナが早いし、噂を聞いているだろうからな」
「でも、どうしてカイは分かったのかしら?」
「俺が王城に騎士や兵士達の訓練を付けに行ったとき、神格化でアルフさんを鑑定してみたら、正体が見破れるかな?と感じて、やって視てみたら案の定、エルフだったってわけ」
ただ、その事をアルフさんに話したら、最初はスッゴい形相で睨まれたけど、直ぐに嬉し泣きしていたっけな……………。
「────その方の名前は………………アルフ、と言うのかしら?」
「え、えぇ、そうですけど………?」
「他に…………他に名前を口にしませんでしたか?」
ようやく話してきたシルフィさんは、俺達と初対面の時より真剣な面持ちをしていた。
「いや、知りません。リーナは?」
「私も知らないわ」
「その方の容姿とかは?」
「容姿と言われても………………シワや髭など、まるっきり老人と呼ぶのが相応しい顔立ちでしたよ?」
一体どうしたと言うのだろうか?
「そうですか……………」
と、急にしおらしくなってしまった。
「あっ!? そういえば!」
聖王国から離れる、別れの挨拶をしている時にアルフさんが寄越した物があった!
俺は異空間収納に手を突っ込んであるモノを探した。
「魔の──幻惑の森に入る時に必要だからって言われて、貰った物があったんですけど、コレ、何か知ってます?」
「そっ、それはっ!?」
シルフィさんが、またしても驚愕の表情を浮かべてしまった。
俺が取り出したのは、手のひらサイズの大きさの丸型で、1本の樹と五芒星が彫られた樹の紋章。
「それはまさしく、王の証!?」
……………………どうやらアルフさんに、とんでもない物を渡されてしまった様だ………………。
お読みいただきありがとう御座います。