間話2
「それでは、ガリアーノ様とジアン様の試合を始めます」
ガリアーノがカイトの実力を見るには、師匠から離れて暮らすことを許された弟子の実力を見るのが手っ取り早いと言った為、老執事のアルフが審判で始まる。
試合は、ジアンが兵士達に訓練をしていた場所で、訓練場を破壊しない様、聖王陛下が口酸っぱく言い始まって、アイリーンが幾重にも結界を張っての試合が行われる。
「両者、準備は宜しいですかな?」
「はい!」
「あぁ、何時でもいいぜ」
ジアンは蒼剣と盾を。
ガリアーノは刀身の波紋すら見えない完全な黒色の刀を。
ジアンが左手に装備した盾を前に出しての構え。
ガリアーノは右手に持った黒刀を肩に乗せる様なスタイルで、一定の間合いを開けた位置に付いていた。
アルフは右手を掲げあげていたのを
「では、始め!」
振り落とした。
試合開始の合図があったが1拍開けてもガリアーノは動かず、ジアンはガリアーノが動いて来ないと分かり、盾を前面に出すスタイルを辞め、その場から蒼剣を横に薙いだ。
すると蒼剣から、水の槍【ウォーターランス】を10本出て、そのままガリアーノ目掛けて放った。
ガリアーノは避ける素振りをせず、肩に乗せていた黒刀で【ウォーターランス】を斬り捨てた。
ジアンは【ウォーターランス】を放った後、直ぐに駆け出していた。
ガリアーノはジアンが来ていることが視えているため、11閃目はジアンが蒼剣を振ってきていたのとぶつけ合った。
「様子見は終わりか?」
「はい! 威力を高めた魔法をあっさりと斬っただけで、アナタが強いと言うことが分かりましたから」
ジアンは、魔剣である蒼剣ブルーセイバーの特性として、水魔法が使える為、鉄を容易く貫ける程の威力まで魔力を流して高めた魔法で、ガリアーノの黒刀の性能を確かめていた。
「なら、次は本気で来な」
ガリアーノは鍔迫り合いの状態を解く様に、ジアンを押し出した。
ジアンは、大雑把に魔力を流した通常の強化状態の蒼剣に、正確に魔力を流さないと、決して顕れることのない蒼剣本来の姿を出して見せた。
蒼皇剣ウォルシーライド。
鉄製に似た蒼い刀身がなくなり、代わりに色鮮やかな蒼色をした刀身に成り変わっていた。
「ほぅ。緻密な魔力操作も出来るのか」
ガリアーノは形状が変わっただけで、その事が分かった。
ジアンは、ガリアーノが構えすらしていない、自然体で居るのに全く隙がないのを、最初に会った時に分かっていたから、最初の攻撃の対処の有無に関わらず、全力で闘うと決めていた。
「今から、攻撃の手を緩めるつもりはないですから」
「わざわざ忠告ありがとよ。受けきってやるから、出し惜しみするなよ」
「分かりました」
と、同時にジアンはガリアーノとの間合いを、訓練を受けていた兵士達では見切る事が適わない恐るべき速さで詰め、蒼皇剣を振るい、ガリアーノは平然と黒刀で受け止める。
ジアンは止められても直ぐに連撃をして、ガリアーノは連撃すらも対処していく。
ジアンはフェイントを入れつつ仕掛けるのだが、それすらもガリアーノは問題なく受けきり、防御に徹することなく、攻撃も幾つか仕掛けていく。
右手だけで黒刀を振るっていたガリアーノは、空いている左手で魔法を放つ───筈だった。
だが、ガリアーノの魔法攻撃は放たれる事はなかった。寧ろ、魔法が生まれなかった。
ジアンが真の形態にした蒼皇剣の特性に寄って──。
「チッ! 流石に空気が薄くなってきたな」
ガリアーノは少しばかりヤバイと感じ、黒刀を力強く振るい、ジアンを吹き飛ばして間合いを取った。
「幾ら強かろうが、流石のオレも呼吸が出来なかったら、死んじまうぜ。ちぃとばかし厄介だな、その魔剣」
「出し惜しみするなと言われたので」
蒼皇剣には気圧制御の特性がある。
廻りの空気を濃くしたり薄くしたりとした事が可能。その範囲は使用者の力量次第で、何処までも拡がる。
現在の使用者ジアンは、最大で2㎞までの範囲。だが今は、100mの範囲に留めている。
「ははっ! そうだ、お前が師から教えてもらった事をぶつけてこい! そうすればカイトの実力が分かるからな!」
「はい!」
ジアンは離れたその場から蒼皇剣をただ振るっただけで、振るった後に水魔法が出ることもなかった。
ジアンは振るった後、空かさず左手をガリアーノにかざし、高出力で爆発を起こす上級火魔法【フレアボム】を放つ。
水魔法を出すのかと思っていたガリアーノは、ほんの一瞬だけ反応が遅れてしまった。
その為に、ガリアーノは自身の周囲の空気が濃くなったのを感じて、斬る動作では間に合わないと思い、咄嗟に水の結界を発動する。
ジアンが放った【フレアボム】はガリアーノの周囲を球状の範囲で爆発を起こす。空気を濃くしていた為に、かなりの威力を発揮し、ガリアーノの姿を隠す程に燃える。
ジアンは魔法を放った後も警戒を緩めることなく、盾を装備している左手を前に出し、構えていた。
激しい音を立てて爆発していた魔法は、収まりつつあった。
「アブねぇーアブねぇー。危うく火傷するかと思ったぜ」
ガリアーノは爆煙を払うかのように黒刀を縦横無尽に振り回して、視界を確保し、上空に向いていた。。
「って、ありゃ、読まれていたか」
ガリアーノが向けた先にジアンが居る筈で、縦横無尽に振り回していたのは攻撃の為。
ジアンは、ガリアーノの一撃目で既に空に飛んで躱していた。
「流石だ。よく読んでいたな」
ガリアーノが放ったのは、空間を斬り裂く程の視えない斬撃。斬られた空間は時間差で、斬られた空間を復元するかのように収縮為始める。
「ありがとう御座います。カイト、エルス、リーナからイヤという程教えられましたから」
「ほぅ。どんなだ?」
「自分が出来ることは相手も出来ると思え。そして攻撃や行動、仕草は考え得る限り想定しろ。と」
「そうだ。所詮、戦闘は相手をどう化かし、勝つかだからな」
ガリアーノは話している間に、自身の身体を宙に浮かせて、ジアンと同じ目線に対面していた。
「久しぶりにやると結構怠いな」
「ガリアーノ様は破天荒な方ですね」
「そうか?」
「そうです、よ!」
ジアンはガリアーノに斬り込んで行く。
その戦闘は残像が残るだけの高速戦闘になり、二人が鍔迫り合いをして居たと思われる後には、火花が散っているだけ。
二人は魔法も駆使しながら、激しい剣戟を繰り広げる。
1時間程だろうか、やがて、残像しか残さず姿が捉えきれない程の高速戦闘をして居た二人は地上に降り立ち、間合いを保ったまま対峙していた。
「ふぅー。こんだけの戦闘が出来る位には強いのか」
ガリアーノが悠然に立っているのに対し、ジアンは身構えた状態でいる。
「爺さん、試合は終了だ」
「かしこまりました。それでは、これにて試合を終了とします」
審判をしていたアルフの宣言を聞き、ジアンは構えを解いた。
「あんがとよ、ジアン。おかげでカイトの強さが、だいたいだが分かったぜ」
「いえ、こちらこそありがとう御座います。自分も良い経験を得ましたから」
「殊勝なこって何よりだ」
「それにしてもアルフ爺ちゃん。こんな激しく戦闘をして、訓練場がめちゃくちゃになっていたのに、よく無事だったね」
ジアンとガリアーノの激しい高速戦闘の爪痕は、アイリーンが張った結界を壊すほどで、外に被害が出ぬ様結界を張り直す程、訓練場は陥没や地面が裂けて激しい戦闘痕を残していた。
その結界の中で一緒に居たアルフは汚れひとつない、格好をしていた。
「ホッホッホッ。私は避ける事だけで済みますからな。それに専念すれば、造作もありませんよ」
「それはそうだろうよ。此処に居るメンバーの中で、精霊魔法に長けているのだからな」
ガリアーノは驚きの言葉を口にした。
「えっ!? それってどう言う意味ですか!?」
「ん? どう言う意味も何も、爺さんはエルフだから」
続けて衝撃の真実を聞かされたジアンは口と目を見開き、アルフとガリアーノを交互に指差していた。
お読みいただきありがとう御座います。